ウルちゃんお昼寝をする。
うららかな秋の一日だった。
ウルヴァリンは、窓ガラス越しに差し込む暖かな日差しに抵抗できず、窓ガラスの側に寄って、ひなたぼっこをしていた。
Xメンのメンバーは、女性陣が冬物の洋服を買いに行くと出かけ、そこにいたのは、サイクロップスと、ウルヴァリンだけだった。
サイクロップスは本を読んでいた。
ウルヴァリンは、あまりの暖かさにうとうとしかけていた。
サイクロップスが、固いフローリングに横になろうとしていたウルヴァリンのために、ひざ掛け用の毛布を床へとひいてくれた。
ウルヴァリンは、やっと本から目を上げたサイクロップスに側にいるように言い、この機会に、すこし親交を深めようとした。
「ちょっとここに座れ」
「いいけど」
サイクロップスは、偉そうなコウサギの言葉に、うなずいた。
日差しは、コウサギの物言いなど、まるで気にならないほど、優しかった。
「なぁ、お前、近頃、ジーンとの仲はどうなんだ」
コウサギに恋人との仲を心配され、サイクロップスは、苦笑した。
ウルヴァリンは、眠そうな目をしていた。
サイクロップスは、コウサギの背中を撫でた。
「おかげさまで、上手くいってる。それより、寝たらどうだ?ウルヴァリン。目がくっつきそうだ。目が覚めたら、また、話をすればいいから、ひとまず、眠れ」
「うるさい・・・・」
ウルヴァリンは、サイクロップスに文句を言った。
しかし、暖かな日差しの中、毛皮を撫でられる快感に耐えられるものではなかった。
「だったら、サイクロップス。俺が寝るまで、ちゃんと撫でていろ」
ウルヴァリンが、プライドを保っていたのは言葉だけだ。
口調は、もはや眠りに支配されていた。
ウルヴァリンは、耳も、足もすっかり体を伸ばして、弛緩した状態で、眠ってしまった。
夢の中で、ウルヴァリンは、酷い目にあっていた。
敵に追いかけられ、追い詰められた。
体を拘束する手術台のようなものの上に載せられ、足元では、高熱の液体が、ぼこぼこと音を立てていた。
苦しかった。
なにか、昔の記憶に関係のある恐怖が、ウルヴァリンを苦しめていた。
ウルヴァリンは、必死に爪を出した。
肉を突き破り、鋼の爪が、ウルヴァリンに生えた。
ウルヴァリンは、その痛みに、目を覚ました。
「・・・・苦しい」
ウルヴァリンは、目が覚めてもなお、苦しい自分の現状に、顔を顰めた。
サイクロップスの手が、ウルヴァリンを包み込んでいた。
サイクロップスは、ウルヴァリンを撫でているうちに、自分も眠ってしまったものらしい。
力の抜けた人間の掌は、ウルヴァリンには、重すぎた。
そして、毛皮の生えたウルヴァリンにとって、人間の体温は熱すぎた。
ウルヴァリンの毛皮はすっかり汗で濡れていた。
必死でサイクロップスの手の下から抜け出したウルヴァリンは、眠っているサイクロップスの顔をしげしげと眺めた。
やはり、好みの顔だった。
みすみす、ジーンにとられてしまうのは、もったいなかった。
ウルヴァリンは、誰もいないこの隙に、サイクロップスの唇を奪うことにした。
濡れた体をぷるぷるっと震わせ、汗を跳ね飛ばし、サイクロップスに近づいた。
期待でひくひくする髭が、サイクロップスの顔を擽らないよう注意しながら、ウルヴァリンは顔を寄せた。
焦りを抑えながら、ゆっくりと接近し、あと少しで、唇が触れるというところだった。
ウルヴァリンの鼻がむずむずとした。
ぐっしょりと濡れながら寝ていたのだ。
キスまでの距離は、あと少しだった。
ウルヴァリンは我慢しようとした。
だが、生理的欲求は、コウサギの望みを打ち砕いた。
ハックション!!
ウルヴァリンに唾をかけられたサイクロップスが、顔を顰めながら、目をあけた。
しかし、ウルヴァリンの現状に、びっくりしたように目を見開いた。
「どうした?ウルヴァリン。水浸しじゃないか!」
早とちりなところのあるサイクロップスは、心配する言葉の後には、一気に目を輝かせた。
「ウルヴァリン。水を操る能力まで、身につけたのか?すごいじゃないか!」
コウサギが、全身水浸しになる程度の能力で、一体何が出来るのか、サイクロップスは考えてもいないに違いなかった。
ウルヴァリンは、サイクロップスのこういう間の抜けたとこも、愛していた。
歓喜に満ちたサイクロップスの声が、いないはずのジーンを呼んだ。
「ジーン!!ウルヴァリンが!」
ウルヴァリンは、軽蔑したような目で、サイクロップスをみた。
しかし、恋人同士は、心が通じ合っているのか、いきなりドアが開いて、買い物袋を肩から提げたジーンが顔を出した。
ジーンは、ウルヴァリンを掌に掬い上げた。
「ウルちゃん。どうしたの?お昼寝してたの?こんなに寝汗をかいちゃって」
ウルヴァリンは、ジーンの掌でくしゃみを繰り返した。
「サイクロップス。タオルを持ってきて頂戴。あなたもお昼寝してたでしょう?顔に、跡が付いてるわ」
ジーンは、驚いた顔のサイクロップスの唇にチュッとキスをした。
サイクロップスの唇が濡れていたのは、ウルヴァリンのくしゃみのせいだったが、ウルヴァリンは、黙っておいた。
END
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