ウルちゃん、見つかる。
ウルヴァリンは、風邪気味ということで、夜回りを免除されていた。
仕事を早く済ますことが出来る。と、いう意味においてなら、一人で回ったほうが早かったが、サイクロップスは、なんとなく、物足りなさを感じながら、一人、夜回りをしていた。
カーテンが揺れただの、敵が来ただの、騒いでいるコウサギが一匹いるとうるさいが、張り合いはある。
つい、サイクロップスは、どうしているのかと、ウルヴァリンの部屋へと寄った。
ウルヴァリン用の、ドアの下についた小さな入り口からでは入ることが出来ないので、人間用のドアを開け、中を見回す。
サイクロップスの視界の中、コウサギが小さいから見落としたという理由でなく、部屋の中には誰もいなかった。
どうしてここまでしてやる必要があるのか、と、常々思う天蓋付きのふかふかのベッドも、使われた形跡がない。
確かに昼間見かけた時は、ウルヴァリンは、咳も、くしゃみも治まっていたようだだったが、サイクロップスは、眉をひそめた。
怖がりのウルヴァリンが、一人で、こんな夜中に動き回る理由がわからない。
サイクロップスは、ウルヴァリンの部屋を出て、夜回りの続きに戻った。
気になるコウサギについては、高校生用のエリアを見回るついでにキッチンで発見するつもりだった。
高校生にもなれば、十分自分の生活に責任が持てるはずだと、エグゼビアは、何かのついでに見回るだけで結構と、あのエリアを夜回りの範疇に入れなかった。
それが、高校生ではなく、コウサギの生活を乱した。
ウルヴァリンは、幸せそうな千鳥足で、廊下をひょこひょこ歩いていた。
冬毛に生え変わった今、パイロのくしゃみも止まり、ウルヴァリンの飲酒を妨げるものは、最早なにもなかった。
自分の好みが、ワインより、ビールだと判明した現在、ウルヴァリンは、パイロをアイスマンの部屋へ使いに出すことにもためらいがなかった。
どう言い訳しているのかしらないが、パイロが冷えたビールを持って帰ってくるのを、コウサギは、部屋でふんぞり返って待っていた。
「んんっー」
ウルヴァリンも、もう慣れたもので、パイロがプルトップを空けるのを、今か今かと唇を突き出したまま待ち受ける。
「もう、風邪は平気?」
「全然平気だ」
「そう言って、昨日、人の顔に鼻水つけたのは誰だよ」
パイロは、何だかんだといいながらも、嬉しそうにウルヴァリンに顔を寄せた。
ウルヴァリンは、パイロの顔を柔らかな手できゅっと挟む。
「うまい!」
コウサギは、ぷくぷくするビールを上手にパイロの口から吸い出した。
顎の下を嬉しげに擦りながら、ウルヴァリンは、うまそうに、ごくごくとビールを飲む。
ぷはーと息を吐き出したコウサギは、もう一口、パイロにビールを口に含むよう命じた。
「ビールは、入れ物に入れてもらうと、ほとんど泡ばっかりだからな」
人形用の哺乳瓶は、パイロの机の上に転がったままになっていた。
「アル中にならない?」
パイロは、笑いながら、またコウサギに顔を寄せた。
すこしだけ、強く唇を押し付け、キスの感触を味わおうとすると、コウサギが、頬へと爪を突き立てた。
涙目になってまで出したウルヴァリンの爪は、昨日研がれたばかりだ。
「やめろ」
「・・・はい」
ウルヴァリンは、すっかり酔っ払うまでパイロに繰り返しキスすることを求めた。
サイクロップスは、キッチンで、夜食を漁っているのだろうと見当をつけていたウルヴァリンを発見することが出来ず、すこしばかり困惑しながら、廊下を歩いていた。
すると、小さな生き物が、ふらふらと自分に近づいてくる。
「おい、ウルヴァリン」
調子が悪くなったのかと、サイクロップスが、慌ててコウサギを拾い上げた。
すると、コウサギからは、ビールの匂いがした。
耳がぺたりとたれ、へらへらと楽しげなウルヴァリンの様子を見れば、口元に鼻を近づける必要もなく、すぐさま、酔っ払いだとわかる。
「・・・お前・・・」
サイクロップスは、コウサギの首の後ろを掴んで、つるし上げた。
「飲んで・・・大丈夫だってのは見てわかるが、飲むなって、言われてただろうが!」
サイクロップスは、ウルヴァリンをしかりつけた。
しかし、飲んで気が大きくなっているウルヴァリンは、サイクロップスの顔へと手を伸ばし、高い鼻にチュ、チュ、と、キスをした。
「好きだぞ。サイクロップス」
すっかり酔っ払っているコウサギは、サイクロップスが摘んでいる首の後ろの皮が引っ張られるのも、ものともせず、サイクロップスの頬へとキスを続けた。
「大好きだぞ。俺は、お前のこと、大好きだからな」
コウサギの耳が、サイクロップスのパイザーにひっかかり、廊下には、小さな穴があいた。
しかし、酔っ払いのコウサギは、まだ、告白の最中だ。
「んー。俺は世界で一番、サイクロップスのことを愛してるぞ!」
コウサギは、絶好調で告白し、サイクロップスの唇まで奪った。
次の日、ウルヴァリンは、ジーンお手製のお洋服を着せられた。
洋服には、「禁酒中。絶対に飲ませないでください」と、書かれていた。
BACK NEXT