ウルちゃん待ち合わせをする。
サイクロップスが、ジーンの部屋でくつろいでいると、携帯がなった。
「はい」
静かな声で応えたサイクロップスの鼓膜を、緊迫したウルヴァリンの声が震わせた。
「俺だ。どうも付けられているみたいなんだ。迎えに来てくれないか」
ウルヴァリンは、緊張気味に声を潜めていた。
サイクロップスは、耳の後ろの辺りの毛を逆立てているコウサギの姿が目に浮かぶようだった。
ウルヴァリンは、プロフェッサーに特別に作ってもらった小型の携帯を両手で囲い込む様にして、小さい体を更に、小さくしながら、しゃべっているに違いなかった。
「いいけど。どこにいるんだ?今日は、プロフェッサーに頼まれて買い物に行ったんじゃなかったか?」
「駅からは、もう、だいぶ歩いた。教会が近くにある。そこで待つ」
ウルヴァリンの言葉は短かった。
学園から、駅までの間には、3つの教会があったが、サイクロップスは、駅に一番近い教会に違いないと思った。
なんと言っても、コウサギの行動できる範囲は狭い。
「わかった」
サイクロップスは、携帯の通話を切ると、ジーンに向き直った。
ジーンは、優しい目をして、サイクロップスを見つめていた。
「ジーン。ウルヴァリンが、迎えに来いって言ってるから、行ってくる」
「あら、あら。ウルちゃんったら、バスに乗り損ねちゃったのかしら?」
「いや、本人は、付けられていると、言っている。多分、違うと思うけれど、あの足で、歩いているらしいから、ちょっと拾いに行ってくるよ」
ジーンは、サイクロップスに近づいた。
優しい恋人を褒めるように、頬へとキスをした。
サイクロップスは、キィを取り上げ、部屋を出た。
小さなコウサギを走っている車から、発見できるかどうか、すこし心配していた。
案の定、サイクロップスは、教会の周りを一周したのに、ウルヴァリンを発見することが出来なかった。
車から降りたサイクロップスは、携帯を取り出した。
ウルヴァリンへとかける。
「ウルヴァリン?いったいどこにいるだ」
電話に出たウルヴァリンは、怒鳴り声をだした。
「お前!携帯を使うなんて、いったい何を考えているんだ。敵に発見されたらどうするつもりなんだ!」
「わるかった。で、どこにいる?」
「ごめんですむか!携帯の電波を敵に傍受されたら、どうするつもりなんだ!」
「でも、ウルヴァリンの位置がわからな・・・」
「大きな声を出すな!!」
声の大きさなら、よほど、ウルヴァリンのほうが、大きかった。
ウルヴァリンは、コウサギの癖に、声の大きさだけは、人間と変わらないのだ。
サイクロップスは、携帯とは、別の方角から、聞こえてくるウルヴァリンの生声を聞き取ることが出来た。
携帯を片手に、毛を逆立てているコウサギが怒鳴っていた。
「ウルヴァリン。場所は、わかった。そこを動かないでくれ。すぐ行くから」
サイクロップスは、携帯を切ると、教会の側に立つ木の側へと移動した。
ウルヴァリンは、サイクロップスが近づくと、飛び出してきて、けりを入れた。
車の中で、ウルヴァリンは、怒り続けていた。
「俺がつけられていると言っているのに、お前ときたら、全く警戒心ってものをものがないのか!」
「一応、教会の周りを一周してみたけど、それらしい人影は見当たらなかった」
サイクロップスは、そういう理由で教会を一回りしたのではなかったが、ウルヴァリンに言ってみた。
ウルヴァリンは、一瞬ひるんだが、にやりと笑い、小さな爪をシャキーンと出した。
爪を出したのが痛かったのか、ウルヴァリンの黒目に、涙が盛り上がった。
「俺に、恐れをなしたんだな」
強がるウルヴァリンに、サイクロップスは、うなずいておいた。
ウルヴァリンは、爪を出したまま、ポーズを決めた。
サイクロップスは、シートで爪とぎをし始めないかだけが、気がかりだった。
一通り、ウルヴァリンのポーズが決まり、短い爪がしまわれたので、サイクロップスは口を開いた。
「なぁ、ウルヴァリン。教会で待ち合わせっていうからには、もっと教会の側にいてくれないと困る。あんたは、小さいんだから、見つけにくいだろう?」
「サイクロップス、だから、お前は、無能だって言うんだ!そんな目立つところに立っていたら、敵から攻撃されるだろう!!」
ウルヴァリンは、声を大きくして怒鳴った。
サイクロップスは、世界の平和を両肩に背負う、コウサギの説教を聴きながら、今日もまた、一人でのお使いを成功することの出来なかったウルヴァリンを助手席に乗せ、夕暮れの町に車を走らせた。
END
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