ウルちゃん、かかる。

 

ウルヴァリンは、自室の、勿論、小さい方のドアを開け、辺りを隙なくうかがった。

辺りは、暗い。

そして、人影がない。

コウサギは、夜の廊下へと、そうっと体を出した。

つい、昨日まで、ウルヴァリンの部屋のドアには、外からかかる鍵がかけられ、夜間外出は強制的に禁止されていた。

ウルヴァリンが、内緒で飲酒していることが発覚したための強制措置だった。

見つけたサイクロップスが、コウサギ相手に唇を奪われるという不覚をとったこともあり、ウルヴァリンは、誰が飲ましているのかと、随分と尋問された。

だが、コウサギは、それこそ、逆さにされても共犯者の名前を吐かなかった。

そのため、ウルヴァリン専用の小さなドアには、夜になると外から鍵がかけられたのだ。

ウルヴァリンは、随分と怒っていたが、コウサギが度を越えた飲酒に走らないためのメンバーによる愛情だった。

だが、そんな愛情など全く理解していないコウサギは、やっと拘束の緩んだ今日、早速暗くなった廊下に出た。

あまり夜目の利かないウルヴァリンだったが、辺りをきょろきょろと見回し、柱に向かって走っていった。

柱の影で、また、辺りを見回す。

「楽勝だ。どうせこんなことだろうと思ったのさ」

自慢げに髭をひくひくさせているコウサギは、柱伝いに、高校生が居住しているエリアを目指す。

勿論、Xメンのメンバーは、そんなことをお見通しだった。

 

「ウルちゃん、どっからくると思う?」

「あいつは怖がりだから、明かりのついた廊下を選んでやってくるな」

高校生用のエリアにあるキッチンで待ち受けているジーンと、サイクロップスは、ウルヴァリンが通るであろう廊下に目を凝らしていた。

「ねぇ、私達、本当にこんなことする必要があるのかしら?」

「ジーン、君も、ストームと同じ意見?」

「だって、ウルちゃんもちゃんと反省したって言ってたし、結局のところ、ウルちゃん、結構お酒が強いみたいだし」

ジーンは、少し呆れ顔だった。

サイクロップスは、廊下にコウサギ用の甘い餌まで仕掛けていた。

ストームは、お仕置きはお終いと、この提案に乗らなかった。

彼女の判断の方が、正しい気がした。

結局のところ、ジーン自身は、ウルヴァリンに禁酒中だと書いた洋服を着せた時点で、すっかり気は済んでいる。

「スコット、あなた、ウルちゃんに対して、過保護すぎるんじゃないかしら?」

「君は、酔っ払ったウルヴァリンを直接見てないから」

サイクロップスは、渋い顔をした。

散々、愛の言葉をまくし立てたコウサギは、サイクロップスにちゅうちゅうと吸い付き、気が済むと、いきなりパタンと寝てしまった。

サイクロップスは、顔中に酒臭いキスをされた挙句、高いびきのコウサギ様をふかふかベッドまでお連れした。

もう、あんなことは御免だと、いつかも愛車のシートを張替えさせられたことのある男は、考えていた。

そのためには、こうやって、コウサギの夜遊びを取り締まらないことには、どうにもならない。

「ジーン、一人でも大丈夫だから、君は部屋に戻っていてくれてもいいよ?」

サイクロップスは、優しい顔でジーンに囁いた。

サイクロップスに微苦笑を返していたジーンが、目を見開いた。

「あっ、ウルちゃん!」

「やはり来たな」

サイクロップスは、ウルヴァリンを取り押さえるため、体に力を入れた。

しかし、流石のウルヴァリンもサイクロップスが罠として用意した、廊下にいきなり置いてあるケーキには警戒して近づかなかった。

「・・・なんだ?」

コウサギは、遠巻きにケーキの皿を眺めながら、胡散臭そうに鼻をひくひくとさせている。

「あれは、ちょっと無理よ」

ジーンは、不審そうにケーキには近づこうともしないウルヴァリンを眺め、サイクロップスを笑った。

「でも、好きだろう?」

「確かに、ウルちゃん、甘いものが好きだけど、ちょっとアレは突拍子もなさ過ぎるわ」

しかし、見ているうちに、ウルヴァリンは、ケーキに近づき始めた。

ひくひくしている鼻で、ケーキの匂いを嗅ぎ、小さな舌をペロリと出す。

サイクロップスが出て行く前に、ジーンが廊下へと躍り出た。

「ウルちゃん!そんな廊下にいきなり落ちてるものなんて、食べないで!!そんなことしたら、危ないでしょう!!」

驚いたコウサギは、シャキーンと爪を出し、体中の毛を逆立てた。

ジーンを涙目で睨みつける。

「ジーン!?」

相手が、ジーンだとわかったコウサギは、へたへたと体の力を抜いた。

「びっくりするだろう・・・これは、お前が?」

「違う。俺だ」

姿を現したサイクロップスに、コウサギは、いきなり尻尾を巻いて逃げ出した。

脱兎のごとくと言う言葉のままだった。

すばらしい速さと、飛距離で、コウサギは逃げる。

「待て、ウルヴァリン!酒は飲むなと、あれほど言っただろう!一体、誰なんだ。お前に酒を飲ませている奴は!」

追いかけるサイクロップスの前を、必死でコウサギは駆けていく。

角を曲がれば、パイロの部屋があった。

ウルヴァリンは、そのドアが開いていることを祈っていた。

だが、あいにく、ドアは開いていない。

「畜生!」

だが、仕方が無かった。

もう、一週間もウルヴァリンは、外出禁止になっていた。

来ないはずのコウサギを待って、部屋のドアを開けておく馬鹿はいない。

それでもなんとかならないものかとドアの前まで走ったコウサギは、パイロの部屋のドアが、改造されているのに気が付いた。

よく見なければわからないが、コウサギ用の押し開きの小さなドアが、パイロのドア底部に取り付けられていた。

サイクロップスの姿が、角を曲がる直前に、コウサギは、パイロの部屋に転がり込んだ。

部屋の前を、駆けていくサイクロップスの足音が聞こえる。

しばらく、ドアに張り付くようにして、ウルヴァリン息を凝らしていた。

二人の足音は何度も廊下を歩き回り、消えたコウサギを探した。

二人は、パイロの部屋にウルヴァリンが逃げ込んだことに気付いていない。

小さな声で、コウサギの行方を相談しあっている。

だが、この遅い時間に、高校生にもなった少年少女のプライベートルームのドアを叩くような気配はなかった。

安心したウルヴァリンは、もう、いつもの態度で、パイロの部屋の中を奥へと進んだ。

ほんの小さなコウサギ用のドアが開いただけなので、パイロは、ウルヴァリンの進入に気付いていない。

薄暗い部屋のなか、ベッドに腰掛け、何かごそごそとしている。

ウルヴァリンは、久しぶりの酒にありつけると、足取りも軽く、ピョン、ピョン、パイロに近づいた。

 

「・・・ローガン」

パイロの声がした。

自分の侵入に気付いたのかと、ウルヴァリンは、ますます上機嫌になった。

電気をつけさせ、パイロをアイスマンの部屋に使いに出そうと心に決めた。

「ローガン・・・んんっ」

あまりにせっぱ詰まった声で、名前を呼ばれ、ウルヴァリンは首をかしげ、パイロの前に回った。

気付いているわりに、反応のないパイロの足を、ウルヴァリンは触った。

「えっ!?」

驚いたパイロの声と、ウルヴァリンにべったりとした液体がかかったのは、同じだった。

「何だ!?」

驚いたウルヴァリンは、顔にも体にもかかった生暖かい液体を必死になって前足で払い落とした。

ぴっつ、ぴっつと、液体が、飛ぶ。

「何なんだ!気持ち悪い!!」

「嘘!?えっ?本当に、ローガン??」

慌てて絞ってあった明かりをつけたパイロは、足元で、精液まみれになっているコウサギを発見した。

コウサギは、自分に何が起こったかわからず、思い切り顔を顰め、毛皮についた精液を拭っていた。

それが何かわからず、くんくんと匂いを嗅いでいる。

流石に、身の置き場もないパイロは、すぐさまコウサギを掬い上げ、シーツでごしごしと拭いた。

コウサギは、明かりのついた部屋の中、ジーンズの前を広げたままのパイロに、思い切り嫌な顔をした。

「もしかして・・・・」

「ごめん。ローガン。だって、来るなんて思わなかったし、部屋には鍵をかけてあるし。ああ!畜生!!プロフェッサーが、そういや、あんた用のドアをつけるとか何とか!!」

パイロは、おろおろとコウサギをいつまでもシーツで拭いた。

赤くなったり、青くなったり、ジーンズの前を上げることも忘れ、忙しい。

コウサギは、あまりのことに、パイロの行く末を心配した。

「・・・・お前・・・・俺の名前を呼んでたよな・・・」

コウサギの声はうつろだ。

「お前・・・・絶対に、どっか変だからな。一回、カウンセリングでも受けて来い・・・」

怒るのも忘れ、ウルヴァリンは、哀れむような黒目で、パイロを見上げた。

しかし、パイロは、ウルヴァリンと目が合うと、とても恥ずかしそうな顔をした。

出しっぱなしになっているパイロのペニスが、ドクンと、若者らしい主張をした。

ウルヴァリンは、身の危険を感じてシーツの上を後退した。

「・・・・畜生。こんなことならサイクロップスに掴まっておけば良かった・・・」

じわりと目に涙を溜めながら、コウサギは短い爪を出す。

涙目のままウルヴァリンはシーツの上を逃げた。

パイロは、ごそごそとジーンズを上げながら、ごめん。ごめん。と、しきりに謝る。

「いいや、許さん」

ウルヴァリンは、爪で威嚇のポーズをとった。

「お前のことを庇ってやったのに!変質者!!お前なんか、一生俺の奴隷だ!」

「ローガン・・・」

パイロの声は、感激しているようだった。

パイロは、ウルヴァリンに洗ってあげるから。と、優しい猫なで声を出した。

しかし、コウサギは、伸ばしたパイロの掌を、思い切り引っかいた。

涙目のコウサギは、一目散に逃げ出した。

 

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