ウルちゃん、重大な責務を務める。
教授が、セレブロへの扉の前で止まった。
角膜を照合し、教授だと認めた電子頭脳が、音声で案内をする。
「エグゼビア、承認」
それで、セレブロへの扉が開くと思っていたXメンのメンバーは、車椅子を押しながら、前に進もうとした。
しかし、教授は、車椅子を押すサイクロップスを止めた。
確かに、扉は開いていない。
だが、セレブロへの扉は、教授という生体が鍵となっているはずだった。
ジーンが、怪訝そうな顔で、扉を見つめた。
「教授、どうしてですか?」
「おいで」
教授は、ジーンに優しい顔で笑いかけ、しかし、ジーンにではなく、後ろに向かって手を伸ばした。
ストームに抱きかかえられていたウルヴァリンが、身をよじって逃げ出し、教授の下へと走っていく。
「ちょっと、どうしたの?ウルちゃん」
ウルヴァリンは、教授の掌に乗り、そのまま、膝の上へと持ち上げられた。
電子頭脳が、ウルヴァリンの角膜を照合し始める。
「ウルヴァリン、承認。ようこそ、セレブロへ」
ウルヴァリンは、教授の膝の上で、ストームに向かってにやりと笑った。
愕然としたメンバーの前で、音もなくセレブロの扉が開いて行く。
「教授、もしかして前ウルちゃんがごねたから・・・。もう!どうして、そう、ウルちゃんのことを甘やかすんですか!」
前回、抜け毛が酷いという理由から、ウルヴァリンは、精密機械であるセレブロの中への立ち入りを禁じられた。
開かない扉の前で、散々怒っていたウルヴァリンに、セレブロから出た教授が、何か耳打ちしていたのは、ストームも知っていた。
学園一、コウサギに甘いのが、この教授だ。
教授は、目元に深い皺を寄せた柔らかな笑いを浮かべて、車椅子を前へと動かした。
「そのせいばかりと言うわけじゃないよ。私一人が、鍵になっているより、この方が、安全だろう?」
慌てたようにサイクロップスが車椅子の後ろを押す。
「でも、教授、ウルヴァリンになにかあったら・・・」
「そんなことを言うのなら、私だって同じことだ。そうじゃないか?サイクロップス」
ウルヴァリンは、教授の膝の上で、しきりにうなずいた。
もう、自分を、絶対に仲間はずれにできないということに、髭がひくひくと自慢そうに揺れていた。
「まぁ、俺も、Xメンのメンバーとして、この重大な責務を果たすべく・・・」
「なにが、重大な責務よ。もう、教授ったら、ウルちゃんに甘すぎ。教授がそうやって甘やかすから、ウルちゃん、どんどんわがままになるんですからね!」
「俺が、いつ、わがままに!」
言葉は強気だったが、コウサギは、目の色が変わりはじめたストームに、教授へと擦り寄っていた。
「・・・わがままじゃないとでも言う気なの?」
今日だって、ウルヴァリンは、昼食後のアイスクリームを2つ寄越せとごねていた。
ストームの白銀の髪がふわりと浮き上がる。
不穏に押し寄せるぴりぴりとした空気が、コウサギを包み込んだ。
コウサギの毛が、ぱちぱちと音を立てている。
浮き上がった空気の玉の中で、ウルヴァリンは、ばちんと大きな音を立て、静電気が稲妻を作ったのを見た。
「ひっ!!」
あれほどふんぞり返っていたはずの、コウサギの目に、一気に涙が盛り上がった。
手から短い爪が伸びている。
「ストーム。今日は、そのくらいで、やめてやっておくれ。これは、私が勝手にやったことなんだから」
ウルヴァリンを含む空気の玉に手を入れた教授は、コウサギの伸びかけている爪を優しく撫でた。
「ウルヴァリン、ストームの稲妻が狙っている時は、爪は出さないほうがいい。避雷針になってしまうからね」
教授の優しい目が、セレブロの赤い光に光っていた。
セレブロ内は、教授とウルヴァリンという生体鍵に反応し、全ての機能を起動させていた。
「・・・教授、セレブロを使おうとした時、ウルちゃんが、どこかへ行っちゃってたらどうする気なんですか・・・」
ジーンは、呆れ顔で、教授を見つめた。
実際、その日は、すぐやってきた。
出現したミュータントの位置を探るべく、教授は、セレブロを使おうとしたが、ウルヴァリンがいなかったのだ。
Xメンのメンバーは、中庭で昼寝をしているコウサギを探し、学園内を走り回った。
そして、これはコウサギを探し、疲れ果てているメンバーには秘密だったが、あの時、へそを曲げてしまっていたウルヴァリンの機嫌を取るため、教授は、セレブロをコウサギ単独の角膜だけでも動くよう、設定を変更していた。
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