ウルちゃん、悪戯電話される。
Xメンのメンバーは、ミーティングルームに集まって、生徒の学習スケジュールについて打ち合わせをしていた。
講師として、役に立っているとは思えなかったが、ウルヴァリンもミーティングには参加していた。
ストームが組んだカリキュラムに修正を加えていた。
電話が鳴った。
ジーンが気を利かせて、話の輪から抜けた。
受話器をとり、少し小首をかしげた。
「わかったわ。ちょっと待ってて、くれるかしら?」
受話器を押さえたジーンが、メンバーへと振り返った。
「誰?」
サイクロップスがジーンに聞いた。
「ウルちゃんになんだけど・・・」
ひょいっとウルヴァリンを掬い上げたサイクロップスは、電話へと近づいた。
コウサギを電話台の上へと置いた。
ジーンは、不思議そうな顔で、ウルヴァリンを振り返った。
しかし、サイクロップスは、用事は済んだとばかりに、話の輪に戻った。
ウルヴァリンは、受話器に向かって話しかけた。
「ウルヴァリンだ」
いくら、ウルヴァリンが、受話器に向かって話しかけても、返答はなかった。
声を大きくしても、受話器の向こうは無言だ。
「おい、誰だ。返事をしろ。俺はウルヴァリンだ。何の用なんだ」
メンバーは、カリキュラムの話に夢中だった。
電話に向かって怒鳴っているウルヴァリンを振り返る者はいなかった。
ウルヴァリンは、普段から、声がでかかった。
ウルヴァリンは、何度も、何度も受話器に向かって声をかけた。
「おい、誰だ。俺は、ウルヴァリンだ。用があるなら、さっさとしゃべれ!」
いきなり電話が切れた。
いい加減、ウルヴァリンが腹立たしく思った頃だった。
ウルヴァリンは、しばらく、不通を知らせる電話の音を聞いていた。
「おい!ジーン、本当に俺宛だったのか!」
ウルヴァリンは大きな声を出した。
ジーンが振り返った。
「ええ、ミスター・ウルヴァリンはいらっしゃいますか?って」
ウルヴァリンは、大きな舌打ちの音をさせた。
コウサギの眉間に皺が寄っていた。
「畜生!敵が、俺の居場所を確認するためにかけてきたんだ。失敗だ。電話で名乗っちまった!」
「え?どうしたの?ウルちゃん?」
ジーンは、心配そうな顔で、ウルヴァリンを見た。
ストームも、怪訝な顔だ。
「俺が出たというのに、何もしゃべらなかったんだ。敵が、俺の位置を確かめるために、電話をかけてきたのさ。何度も俺にばかり、名を名乗らせて、確認しやがった!」
コウサギは、電話台の上で、小ぜわしく動き回った。
いらいらとしたように、足音を立て、短い爪が、出たり、入ったりした。
かなり焦っているようだった。
耳が、ひくひくと何度も動いた。
不意に近づいたストームが、ウルヴァリンを抱き上げた。
「ウ〜ルちゃん。そういうのは、無言電話って言うの。悪戯電話よ。何も心配することないわ」
ストームは、コウサギの耳の間を宥めるように撫でた。
ストームの豊満な胸の中で、ウルヴァリンは、思い切り暴れた。
「何を言っているんだ!ストーム!敵だ!敵!敵に間違いない!!」
悪戯電話という選択肢は、ウルヴァリンの中には存在しなかった。
ウルヴァリンの爪は、ストームの胸を引っかいた。
ストームは、暴れるコウサギの両耳を掴んで、ぶら下げた。
「ウルちゃん、よ〜く現実を知ろうね。敵は、私達が、この学園にいることなんて、もうとっくに知ってるの。いまさら、どうして、電話なんかかけてくる必要があるっていうの」
ストームは、きついことを言っていたが、それでも、ウルヴァリンに対して、気を使っていた。
本音を言えば、コウサギ一匹のために、敵が動くはずが無いと、ストームは思っていた。
ウルヴァリンの目は、きつくストームをにらんだ。
ストームは、ウルヴァリンに顔を近づけ、ふっくらとした唇を開いた。
「信じられないの?ウルちゃん。じゃぁ、ここの電話は交換台が、管理してるから、どこからかかったか、調べてあげましょうか?そうしたら、敵からか、悪戯電話なのか、すぐわかるわよ」
ストームは、意地悪そうな笑いを唇に浮かべた。
ウルヴァリンは、その笑顔にすこし顔が引きつった。
「悪戯電話って、結構、身近な人間がかけてくるのよね。ウルちゃん、誰かの恨みを買ってるんじゃない?」
ウルヴァリンは、次第に心配そうな顔になった。
敵でないとしたら、たしかにアレは、ただの無言電話でしかなかった。
コウサギの髭が、垂れ下がった。
ストームは、まだ、ウルヴァリンに脅しを続けた。
「私の予想では、この時間、ミーティングルームにウルちゃんがいることを知ってるなんて、多分、この学園の内部の人間だと思うのよ。つまり、ウルちゃんに、無言電話をした奴は、ウルちゃんのすっごく身近にいると思うの。ウルちゃん、やっぱり、誰かに恨まれてるのよ」
ストームは、白銀の髪で覆われた豪華な顔に笑顔を浮かべた。
「それでもやっぱり、どこから、電話がかかったか、ちゃんと調べて、誰がやったのか、知りたい?ウルちゃん」
ウルヴァリンの目には、涙が盛り上がっていた。
爪は、戦闘体制だ。
しかし、ウルヴァリンは、口を開かなかった。
ストームは、屈辱に唇を噛むコウサギを胸に抱いた。
「しょうがないわ。ウルちゃん。学園1、2を争う美女にいつも抱っこされてるんだもん。誰だって、やっかみたくなるわ」
ストームは、敵だ。敵だと、わめき散らす、かわいらしいコウサギをやり込めたことに、にっこりした。
コウサギは、大変かわいらしかったが、時に、うるさかった。
ストームは、ウルヴァリンを抱いたまま、学習カリキュラムの調整に戻った。
END
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