秘密戦隊Xメン
ウルヴァリン変身する。
ウルヴァリンはコーヒーを飲むのにも、苦労していた。
葉巻を咥えようとしても、手が震えてしまって火をつけることが出来ない。
「おい!」
談話室のソファーに座っていたウルヴァリンは、ちょうど通りかかったパイロの声を掛けた。
廊下を歩いていたパイロは、にやりと笑うと、手に握っていたライターを着火させ、その火をウルヴァリンへと送って寄越した。
真横に走る火の柱が、ウルヴァリンの葉巻の先を焼く。
「もっと繊細にやれ」
「膝をついて、火をつけてやろうか?」
部屋に入ってきたパイロは、にやりと笑うとわざとらしく床に膝をついた。
ウルヴァリンは、眉を寄せた。
パイロを追いやろうと手を振りたかったが、その手を振り上げることができなかった。
昨日のサイクロップスの特訓のせいだ。
執拗に変身ポーズを練習させられたウルヴァリンは、体中が痛くなっていた。
仕方なくウルヴァリンは、顎をしゃくって、パイロを追いやろうとした。
そのウルヴァリンにパイロはにじり寄った。
「なぁ、おい、あんたもXメンのメンバーになったのか?」
昨日までのウルヴァリンだったら、その質問に、多少の誇りを持って頷いた。
エクゼビアの思想、全てを理解することはウルヴァリンには不可能だったが、その考えに憧れを持って受け入れることはできた。
ウルヴァリンは、当てもなく過去を求め、さ迷うのに疲れていた。
穏やかで高潔なエグゼビアは、いい指導者だと思っていた。
ウルヴァリンは、意地の悪い表情を載せようしていても、やはり底の浅い子供の顔を見下ろした。
「お前・・・Xメンについて知ってるのか?」
パイロは、床についた膝を上げると、ウルヴァリンの隣へと腰を下ろした。
「なに?あんた、そんなことも知らないの?」
パイロは、廊下を通り過ぎようとしていたアイスマンに声を掛けた。
ひょこりと顔を出した優等生を招き寄せ、ウルヴァリンの隣に座るよう促す。
だが、あいにくと、ウルヴァリンの隣には、スペースはなく、アイスマンは、ソファーの肘掛に尻を置いた。
「何?」
アイスマンは、きれいなブルーの目で聞いた。
「ローガンは、俺とお前が、Xメンの次期メンバー筆頭だったこと知らなかったんだってさ」
パイロが髪をかき上げながら言うのに、アイスマンはすこし驚いた顔をした。
「ああ、そうなんだ。でも、だからって、ローガンは、なにも関係ないだろう?」
「でも、ローガンが、ローグを連れてこの学園に来たせいで、俺とお前の両方が、メンバー入りを見送られた」
「俺達の力が不足してるからだよ」
ウルヴァリンは、自分を挟んで行われる会話に、きつく眉の間に皺を寄せた。
一緒に来たローグがXメンのメンバーになっていることなど、少しもウルヴァリンは聞かされていなかった。
ローグも人体改造されてしまったのか。
「・・・ローグもXメンのメンバーになったのか?」
ウルヴァリンは、強い自戒の念にとらわれながら、強く葉巻を噛み、うつむいたまま聞いた。
「そうだよ。彼女すごく喜んでた。俺達も、突然現れた彼女にいきなりメンバーの地位を奪われて驚いたけど、彼女の実力なら、仕方が無いって諦めたんだ。実際彼女は最強だし」
「それに、可愛いし?」
パイロが、アイスマンを冷やかす。
真実を知ってか、知らずか、Xメンになったというローグの未来をウルヴァリンは儚んだ。
ウルヴァリンには、この筋肉痛の元となった変身ポーズを決めさすコスプレ集団に憧れる子供二人の気持ちがわからなかった。
「聞いていいか?・・・お前達、本当に、Xメンのメンバーになりたいのか?」
「当たり前」
「この学園で学ぶ、最終目標はそれですから」
ウルヴァリンは、痛くて上がらない腕を挙げ、もっと言い募ろうとする二人を押しとどめた。
寄った眉の間に人差し指を押し当て、しばらく難しい顔のままでうつむいた。
「お前ら、Xメンのメンバーになるってことがどういうことか知ってるか?」
ウルヴァリンは、二人が、Xメンが、おかしな変身ポーズを決めるためなら、人を無断で改造することまで辞さない集団だと知らないのかもしれないと思い、精一杯気遣った質問をした。
「ミュータントの権利を主張するための集団だろ?」
「権利を主張するためには、こっちの努力も必要だから、道を外れようとしているミュータントを更生させるための戦闘だって、仕方ないですよね?」
ウルヴァリンは、この二人は、自分と同じように情報操作を施されているのだと思った。
ウルヴァリンだって、コスチュームのことをサイクロップスに口にされるまでは、ずっとXメンを正義の組織だと思っていた。
人間は、ミュータントを迫害していた。
しかし、Xメンは、その迫害する人間を悪心に目覚めてしまったミュータントから守ろうとする善意の集団なのだと信じていた。
それが、実は、人体改造込みのコスプレ集団だ。
リーダーのサイクロップスは、変身ポーズマニアかと思うほど、ウルヴァリンにポーズの完成度を求めた。
ウルヴァリンの声は枯れ、現在腕は上がらない。
ウルヴァリンは、未来ある少年二人に、どう、Xメンのことを説明しようかと思った。
「・・・お前らの夢を壊すようで悪いんだが・・・」
ウルヴァリンは、懸命に言葉を捜しながら口を開いた。
あまりに動揺したせいで、口に咥えていた葉巻が灰を落としたのに、はじめて気付いた。
慌てたウルヴァリンは、葉巻を消そうとした。
だが、近くに灰皿がなかった。
仕方が無い。
ここは学校施設の中にある談話室だ。
ウルヴァリンは、掌で葉巻の火を消した。
それは、ウルヴァリンにとっても、眉を顰めるような痛みを伴う行為だったが、火が消える頃には、ウルヴァリンの掌は、元通りだった。
パイロが口笛を吹いた。
クールだと、筋肉痛で悩むウルヴァリンの背中を叩いた。
ウルヴァリンは、痛みに思い切り顔を顰めた。
しかし、大人への気遣いをしらない少年二人は、ウルヴァリンの杞憂をも吹き飛ばした。
「でも、そんな小難しいことより、なんと言っても、あの変身ポーズが格好いいよな。あれだけで、チームに入る価値あり。って感じだよ。サイクロップスは、堂々と正統派で決めてくるし、ジーンは、どことなく色っぽいし」
「俺は、ストームのも結構好き。ローグだって、キュートだし」
「お前ら、あいつらが変身することを知ってたのか!?」
ウルヴァリンは、口を大きく開けたまま、二人の顔を見比べた。
二人は、ウルヴァリンが大きな声を出したことに不思議そうな表情をした。
「ローガン、知らなかったのか?」
「・・・Xメンのメンバーになったんでしたよね?」
「だって、お前ら、あいつら、人に無断で改造を・・・」
「その技術がすごいんじゃん。俺、そのオペの技術力だけで、ジーンに憧れるね」
「憧れるって、パイロ・・・あいつら、俺になんの断りもなく変身装置を体に埋め込んで・・・」
「気付かないほど、小型化して、人体に影響を及ぼさないってのが、すごいですよね」
にっこりと笑うアイスマンに、ウルヴァリンは、言葉をなくし、口をぱくぱくとさせた。
確かに、技術力はすごいと認めても良かった。
しかし、それは、倫理から外れる行為なのではないか?
「いいなぁ。俺も早く、Xメンのメンバーになって、変身したいぜ」
そんなウルヴァリンの気持ちを知らないパイロは、手の中に握っていたライターの火を掌に移して弄んだ。
「そういうことしてるうちは、無理なんじゃないか?」
アイスマンは、天井を焦がしそうなパイロの炎を小さな花の氷に変えた。
アイスマンの顔にも、ジーンが施した人体改造に対する疑念は見出せない。
冷たい氷の花に顔を顰め、パイロは、ひょいと、ウルヴァリンへとそれを渡した。
「ローガン、あんたも変身できるようになった?」
「ぜひ、見せてください。ローガンだけ、お披露目がなくて、寂しかったんです」
「・・・いや・・・あの・・・」
手の中に氷の花を抱くウルヴァリンは、眉の間に皺を寄せたまま、視線泳がせた。
サイクロップスに散々扱かれたせいで、ウルヴァリンは変身ポーズを完璧にマスターしていた。
だが、あんな恥ずかしい真似をこんな場所でしたくなかった。
できれば、一生したくなかった。
「・・・体が痛むんだ」
苦渋に満ちた言い訳を口にしたウルヴァリンに二人は肩をすくめた。
「本当だ。肩がまるで上がらないんだ」
ウルヴァリンが、情けない言い訳を口にしていると、談話室の中に、どやどやとXメンのメンバーが入ってきた。
「ウルヴァリン、お前の痛みは、思い込みという奴だ」
サイクロップスは、説教くさい顔で、ウルヴァリンを見下ろした。
溶け始めている氷の花をウルヴァリンの手から掬い上げたストームは、魅力的に笑った。
「どうして、ウルヴァリンの体に、筋肉痛なんて痛みが残るの?」
「そんなにXメンのメンバーに加わるのは、嫌だったかしら?精神的なストレスが、あなたに架空の痛みを感じさせてるのかしら?」
心配そうなジーンの隣には、ローグもにっこり笑って立っていた。
「ローガン。もう、一緒に出動できるんでしょ?嬉しいわ」
ウルヴァリンは、ソファーから立ち上がり、思い切りローグを抱きしめた。
「すまない。お前をこんな目に合わせて・・・・」
涙ぐみそうなウルヴァリンに、ローグは驚いた顔をして、その髪を撫でた。
「どうしたの?ローガン。何があなたを悲しませているの?」
「お前も、・・・改造されてしまったんだろう?」
ウルヴァリンは、父親のような目をして、ローグを見つめた。
しかし、ローグは、さらに慈愛に満ちた母親のような目で、ウルヴァリンを優しく見つめ返した。
「何を心配しているの?そんなこと全然平気よ。私達、正義を守るチームじゃない。チームのメンバーに選ばれて光栄だわ」
「・・・ローグ」
ウルヴァリンは、優しい娘をぎゅっと抱きしめた。
ローグは、子供の背をあやすように優しくウルヴァリンの背中を撫でる。
「それに、ローガン。変身ポーズだって、素敵じゃない」
「・・・はっ?」
「一生懸命練習したって、サイクロップスから、聞いたわよ。ねぇ、見せてよ。こんなに力強く私のことを抱きしめられるんだから、腕が痛いなんて、やっぱり思い込みなんでしょ?」
上げた顔で、じっとローグを見つめるウルヴァリンの視界のなかに、ジーンが割り込んだ。
「ウルヴァリン。あなたは、昨日あんなに練習させられたから、体が痛くなるはずだっていう思い込みをしているだけよ。あなたの筋肉は、疲労を翌日まで残すはずがないわ」
「錯覚って、奴なのかしら?繊細ね。ウルヴァリン」
ストームの笑顔は、きれいなだけに、迫力があった。
ウルヴァリンは、その場にいる全員に追い詰められ、変身せざるを得ない立場に追い詰められていた。
言われたとおり、体は、全く痛くなかった。
さっきまで、全く上がらなかった腕は、振り回しても平気だった。
サイクロップスは嫌味な顔をして笑った。
「あれほど練習したのに、自信がないのか?ウルヴァリン」
嫌味の度合いでは、まだまだ、かわいいパイロも、サイクロップスの笑いを真似てウルヴァリンを見つめていた。
「私、ローガンのコスチューム姿を見たいわ」
ローグはかわいらしくおねだりした。
アイスマンは、隣で優しい顔をしてうなずいていた。
スチームは、挑発するような顔をしていた。
ジーンだけが、心配そうに、ウルヴァリンを見ていた。
ウルヴァリンは、唇を噛み締め、皆の中央に立った。
あの恥ずかしいポーズを決めるのかと思うと、緊張で胸がどきどきとした。
しかも、見つめているほうは、決してあの変身ポーズを恥ずかしいと思っていない連中だ。
最悪の環境だと言えた。
誰も、ウルヴァリンの苦悩をわかってはくれない。
そして、もし、変身に失敗しようものなら、恥をかくのは間違いなかった。
プレッシャーの中、ウルヴァリンは、腕を上げた。
何度も何度も、それこそ、筋肉痛になるに違いないと思い込むまで練習したポーズは、自然にウルヴァリンの体を動かした。
「チェンジ!X!!」
極度の緊張が、ウルヴァリンにチームと、チェンジを叫び間違えさせた。
ポーズは決まったが、掛け声が違うため、変身はしないはずだった。
ウルヴァリンは、薄ら笑いを浮かべるサイクロップスを覚悟した。
しかし、サイクロップスは、ウルヴァリンを見ながら、悪戯が成功したかのように笑っていた。
「ジーン、君、試作段階のコスチュームのデーター、まだ持ってたのかい?アメコミチックで、やめたんじゃなかった?」
ウルヴァリンは、慌てて自分を見下ろした。
体には、黄色いタイツ素材が張り付いていた。
股間を覆うパンツは、ブルーで色違いだ。
「これは!!」
「いやぁ!ローガン、キュート!!猫耳!猫耳!」
黄色いローグの声に、ウルヴァリンは慌てて頭を触った。
顔を覆うマスクは、耳の上で、必要のない尖りを持っていた。
猫の耳にしてはずいぶんと大きいが、戦闘に必要だとは思えず、確かに猫耳と表現するしかない飾りだった。
「セクシー部門の担当ってわけ?」
ストームは、腕を組んで、長く魅惑的な足を前に出すと、ウルヴァリンを上から下まで舐めるように見た。
ウルヴァリンのタイツスーツは、腕の付け根部分で、青い鋼鉄の短い突き出しを最後に、腕そのものはむき出しだった。
脇は勿論、脇ぐりが大きくえぐられ、盛り上がった大胸筋の一部までもが、生のまま見えている。
「ウルヴァリンだけ、そのコスチュームにするか?」
サイクロップスは、好評を博しているウルヴァリンのコスチュームに口元を緩めた。
あれほど変身ポーズにうるさかった男が、決め台詞を間違えたことについて一言の注意もしない。
サイクロップスは、楽しげにウルバリンを見た。
「全員一緒でないといけないと、いうルールがあるわけじゃない」
「でも、スコット。あのコスチュームは、結構破れやすいって、実験段階やめたんでしょ?」
ジーンは、ウルヴァリンに同情的な瞳を見せた。
しかし、そのコスチュームを変身装置のデーターに紛れ込ませたのは、間違いなくジーンだった。
ウルヴァリンは、ジーンの真意がわからなかった。
一番謎なのが、この女かもしれないと思った。
「戦闘のたびに、セクシー部門を一手に引き受けてくれる素敵な新メンバー誕生って、わけね」
ストームは、笑顔で、新しいメンバーを抱きしめた。
「かわいいわ。ウルヴァリン。あなた、そっちのコスチュームにしなさい」
小さな声で、パイロと、アイスマンがしゃべっていた。
「俺、あのコスチュームだったら、メンバーに入りたくねぇ」
「・・・パイロ。ダメだよ。そんなこと言っちゃ。俺達にはわかんないけど、女性には好評みたいだし、きっとあのコスチュームには、あのコスチュームなりの魅力があるんだよ」
「でも、全身タイツだぜ?」
パイロの目が、ウルヴァリンの全身を舐めていった。
アイスマンは、わざとウルヴァリンから目を逸らしていた。
「ところどころ、鋼鉄だろ?」
「でも、股間のもっこりまで、はっきりわかるんだぞ?」
「・・・多分、そこが、大人の女性を惹きつけるんじゃないかな・・・」
その会話を良く聞こえる耳で拾ったウルヴァリンは、ストームを押しのけるようにして、もう一度変身ポーズを決めた。
「チーム!X!!」
もう、ウルヴァリンに変身ポーズの恥ずかしさはなかった。
掌から鋼鉄の爪を出し、胸の前でXの文字を作ったウルヴァリンは、睨むように皮のジャンプスーツでポーズを決めた。
END
BACK
原作ネタもごちゃ混ぜです・・・(笑)