秘密戦隊Xメン

 ウルヴァリンメンバーに加わる

 

学園の中を所在無く歩き回っていたウルヴァリンの背後から声がした。

「ウルヴァリン、ちょっといいか?」

サイクロップスは、ウルヴァリンより5メートルは離れた位置に立っていた。

教材を片手に、ウルヴァリンに顎をしゃくるような不遜な題度だ。

ウルヴァリンは、眉をひそめた。

「なんだ?」

サイクロップスは、もう背を向けようとした。

「どうせ、暇にしているんだろう?すこし、説明したいことがある。ウルヴァリン、着いてきてくれ」

恵まれし子らの学園へと拉致され、最初は獣のごとく警戒していたウルヴァリンも、ここが、安全な場所であると理解するようになっていた。

ウルヴァリンは、肩を竦め、サイクロップスの後に従った。

 

その部屋はとても明るかった。

この学園を創立したエクゼビアの一面を覗かせるように、清潔で、品よく、無機質な空間だった。

ウルヴァリンは、居心地が悪そうに、床からも発せられるほのかな光に、眉を寄せた。

「何をするんだ?サイクロップス」

「俺に命令されるのは嫌か?」

サイクロップスは、部屋の中央に進みながら、ウルヴァリンを振り返った。

部屋は、円を形成していた。

今、ウルヴァリンが入ってきたものと同じ金属のドアが、対角線上にもう一つあった。

そのほかにも、無数のドアがある。

サイクロップスは、高度な処理を施されたサングラス越しにウルヴァリンをじっと見た。

「俺は、チームのリーダーだ。ウルヴァリン、命令に従えるか?」

「言ってみたらどうだ?」

ウルヴァリンは、サイクロップスより前に進んで、彼を見上げた。

サイクロップスは、口元に、皮肉な笑いを浮かべながら、ウルヴァリンを見返した。

「じゃぁ、言うが、チームのコスチュームのことなんだが・・・」

サイクロップスは、ウルヴァリンの前にあったドアの一つをあけた。

中には、もう、入らないと言わんばかりの色とりどりのドレスがみっしりとかけられていた。

サイクロップスは、その中から、桜色の背中が大きく開いた一枚と、黒いタイトなドレスを取り出した。

両手に持ち、見比べている。

ウルヴァリンの頬が引きつった。

目を逸らしがちにしながら、震える唇で、サイクロップスに声をかけた。

「・・・なぁ、おい・・・もしかして、それ・・・っていうんじゃ・・・」

取り出した二枚では気に入らなかったのか、ワインレッドのワンショルダーを出していたサイクロップスは、驚いた顔で振り返った。

「なんだ?ウルヴァリン、お前、そんな趣味があるのか?」

サイクロップスは、真顔でドレスの大きさとウルヴァリンの体型を見比べた。

暗に、入らないだろうと、視線がウルヴァリンの発達した腰にとどまった。

ウルヴァリンは、大慌てで、顔を振った。

「違う!」

ウルヴァリンは、何とか平静を保とうとした。

「・・・お前・・・じゃぁ、なんで、それを出してるんだ?」

「これは、ジーンに頼まれて今晩のデートためのドレスを選びに来ただけだ。ああ、それでコスチュームの話なんだが」

そこで、言葉を止めたサイクロップスは、もう一度、黒のドレスを取り出し、ワインレッドを見比べた。

「どっちも捨てがたいな」

サイクロップスは、じっと動きを止め、難しい顔をした。

ウルヴァリンは、紛らわしいことをするなと、怒鳴りたい気持ちを抑え、年下の男を睨みつけた。

ここで怒鳴ることは、自分の威厳を貶めると必死で気持ちを落ち着かせた。

怒りのあまり、腹の辺りがぷるぷると震えたが、ウルヴァリンはそれを一生懸命、我慢した。

 

結局、黒のドレスを選んだサイクロップスは、それをドアノブにかけると振り返った。

「ウルヴァリン、こういうポーズが取れるか?」

サイクロップスは、胸の前で、腕をバッテンに重ねた。

ウルヴァリンは、よくわからないままに、サイクロップスのポーズを真似た。

「そう。脇の締め方が甘いが・・・まぁ、それでいい、それを、勢いよくやるんだ。ちょっと見ていてくれ」

サイクロップスは、腰の辺りで遊ばせていた手を、いきなりえぐるように勢いよく胸の前で、×の形にしした。

「出来るか?ウルヴァリン」

胸の前で、力強く×を作ったままのサイクロップスがウルヴァリンに聞く。

「・・・・できると思うが・・・」

あまりにきびきびと、メリハリをつけて動くサイクロップスの動きに、ウルヴァリンは、眉の間に深い皺を寄せて、小さくうなずいた。

ウルヴァリンは、その簡単な動きが間違いなく出来ると思った。

だが、したくなかった。

とても恥ずかしかった。

「このポーズを決めながら、台詞は、チーム、エックス!!だ。チームの部分は、すこし伸ばし気味に発音して、エックスは、力強く、胸の前で×の形を作った時に上手くあわせて叫ぶように言う」

「・・・言う?言うとどうなるんだ?」

「こうなるのさ。ウルヴァリン・・・・チーム、エックス!!」

ウルヴァリンの前で、サイクロップスは、力強くポーズを決めた。

ポーズを決めたサイクロップスは、それまでジャケットに綿パンの姿だったはずなのに、皮のジャンプスーツに、変わっていた。

胸の部分には、Xの文字がデザインされていた。

サングラスだったはずなのに、バイザーまで着用している。

その姿は格好良かった。

だが、ポーズは、やはり恥ずかしかった。

ウルヴァリンは、目を見開いた。

「・・・お、お前・・・」

「さぁ、ウルヴァリンもやってみろ。お前は、気付かなかっただろうが、この学園に来た、最初の検査の最中に、変身できるよう改造手術が施してある。このポーズさえ決められるようになれば、お前もいつでも俺達と一緒に出動できる」

「・・・何!?」

ウルヴァリンは、後ろへと後ずさった。

この学園が安全な場所だと信じていただけに、ウルヴァリンは、強いショックを受けた。

「・・・改造しただと?・・・・」

改造は、ウルヴァリンにとって恐ろしい過去の象徴だった。

「なに、たいしたことはない。昔から、ヒーローは、変身するものじゃないか。俺は、こうなってから、ずいぶんたつが、困ったことなんて一度もないぞ」

「てめえ・・・」

掴みかかろうとしたウルヴァリンの手首をサイクロップスは強く握った。

片手は、バイザーを弄り、ウルヴァリンを見下ろす。

「俺の破壊光線は、山一つえぐることが出来ると、ジーンが説明していたはずだ」

サイクロップスが発するオプチカルブラストの赤い光点が、ウルヴァリンの顔を舐めていった。

ウルヴァリンの爪が、肉を割った。

みしりと伸びた爪が、サイクロップスの頬を狙った。

 

しかし、仲間に対してそれ以上のことがウルヴァリンには出来なかった。

サイクロップスは、ウルヴァリンの手を離し、足を開いて立つように命じた。

「さぁ、ウルヴァリン、チーム、エックス!!」

「・・・チーム、・・・エックス・・・」

ウルヴァリンは、弱々しくポーズを真似た。

変身はしない。

「ダメだ。そんなやり方じゃ、ミュータントが現れても変身できない。もっと、勢いよく、俺はXメンのメンバーだという誇りを持って、ポーズを決めるんだ。この変身装置は、使用者の強い願いに反応するように作られている。そんな風じゃ、いつまでたっても、お前は、Xメンのメンバーとして、正式に認められない」

サイクロップスは、ウルヴァリンの前を行ったりきたりしながら、くどくどと説明した。

ウルヴァリンは、バリバリと頭をかいた。

「チーム!エックス!!」

ウルヴァリンは、やけくそになって大きな声で叫んだ。

ポーズだってした。

だが、まだ、ウルヴァリンは変身しない。

「ダメだ。ダメ。手の位置が逆だ。声がでかけりゃいいってもんじゃないんだ。ポーズだって、正確に決めなくては、変身装置は作動しない」

 

 

その日、ウルヴァリンは、声が枯れるまで、変身ポーズを練習させられた。

サイクロップスの趣味により、ウルヴァリンのポーズには、爪を出して、Xを決めるというアレンジまで加えられた。

 

 

                  END

 

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