ウルちゃん轢かれる。
プロフェッサーの周りをうろちょろとしていたウルヴァリンは、大きな叫び声をあげた。
「痛い!!」
プロフェッサーの車椅子が、ウルヴァリンの短い尻尾を踏んずけていた。
慌ててプロフェッサーは車椅子を動かした。
だが、ウルヴァリンの目はすっかり涙目になっていた。
「悪かった。大丈夫かね?」
尻尾を抱え込むように体をねじったウルヴァリンは、ふうふうっと、一生懸命尻尾に息を吹きかけた。
「・・・大丈夫だ。俺の治癒能力が高いのは知っているだろう?」
ウルヴァリンは、涙目のまま、気遣うプロフェッサーを見上げ胸を張った。
「だが、ウルヴァリン、いくら治癒能力が高くとも、痛いことには、変わりがないじゃないか」
プロフェッサーの目はあくまで優しかった。
手を伸ばし、コウサギの鼻の上を撫でた。
「ウルヴァリン、痛かっただろう?すまなかったね」
プロフェッサーは、足元でうろちょろとしていたコウサギを決して責めなかった。
ウルヴァリンは、もう、痛みの引いてきた尻尾を離し、プロフェッサーに笑った。
「そんなことを言うのは、プロフェッサーだけだ」
コウサギは照れくさそうだった。
プロフェッサーの部屋を後にしたウルヴァリンは、授業の済んだ学園の中を歩いていた。
生徒たちは、自然とウルヴァリンのことを避けながら、歩いていた。
コウサギがいることに慣れていた。
だから、ウルヴァリンのいる場所になると、仲間と話していても上手く分かれてウルヴァリンを踏まないようにした。
ウルヴァリンは、そういった状態に慣れていたので、油断していた。
この学園には、色々な経験を積んだもののわかった少年少女たちが多かった。
だが、まだ、小さな子供もたくさんいた。
「退け〜!!止まらなんだ!!」
ローラーブレードを履いた少年が突っ込んできた。
仲間が、念動力を使っているのか、まったく自分の動きをコントロールできていなかった。
少年はウルヴァリンを避けることなど勿論できなかった。
コウサギも、逃げることが出来なかった。
避ける暇もなく、今日、二度目、ウルヴァリンの尻尾が、轢かれた。
「痛い!!」
ウルヴァリンは、ローラーブレードで轢かれた尻尾を抱きかかえて、廊下にしゃがみこんだ。
さすがに、二度目ともなると、痛みも強かった。
コウサギの黒目は、すっかり涙で潤んでいた。
教室から飛び出してきたジーンによって、少年のローラーブレードは止まっていた。
恐る恐る少年は、ウルヴァリンを見つめた。
「だ、大丈夫ですか?」
「気をつけろ!馬鹿野郎!」
コウサギは涙目で怒鳴った。
そのコウサギを、ジーンと同じように教室から出てきたストームが抱き上げた。
「平気よ。ウルちゃん、体だけは丈夫なの」
ストームは、ウルヴァリンの様子を確かめるため床に座り込んでいた少年に手を貸した。
少年の周りには、仲間が集まっていた。
皆、一様にコウサギの様子を心配していた。
だが、ストームだけが、ウルヴァリンを心配しなかった。
「大丈夫よね。ウルちゃん?」
ストームは、ウルヴァリンににっこりと笑った。
ウルヴァリンは、ストームの態度に、怒りのあまり、全身の毛を逆立てた。
「なんだと!?ストーム!」
確かに体は丈夫だったが、ウルヴァリンだって、踏まれれば痛かった。
小さな爪が、ウルヴァリンの手に生えた。
コウサギは、もう涙目になっていたので、爪を生やすことを遠慮しなかった。
ウルヴァリンの尻尾の毛も逆立った。
ストームはそんなウルヴァリンを少年たちに見せた。
「ほら、ぺしゃんこだった尻尾が、もう治ったでしょ?ウルちゃんは、頑丈だから大丈夫。でも、こうやって治るのはこのウルちゃんだけよ。あなたたちは、力を無駄に使っちゃダメ」
ウルヴァリンの爪は、ストームの手に刺さっていた。
しかし、ストームはコウサギの与える痛みを気にしなかった。
それよりも、悪戯坊主たちの頭上に、小さな雷を落とした。
少年たちは、あまりのことにびっくりして廊下にしゃがみこんだ。
ジーンがくすくすと笑った。
ストームは、ウルヴァリンの尻尾を撫でながら言った。
「でも、踏まれたらウルちゃんだって、痛いんですからね。今度、超能力を使って悪戯している最中にウルちゃんを踏んずけたら、もっときついお仕置きをするわよ」
魅力的な教師は、怖い顔をして少年たちをしかった。
突如発生した雨雲に濡れている少年たちは、泣きそうな顔でストームとその胸に抱かれるウルヴァリンを見上げた。
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