ウルちゃんの花咲かじいさん。

 

あるところに、貧乏ではないんですが、心の優しいおじいさんが住んでいました。

おじいさんは、恵まれし子らの学園という名前からして福々しい学園を経営していました。

この学園、超能力を持った子供達を育成していたのですが、今回、そのことはあまり関係がないので、割愛します。

今日は、その学園に住んでいるコウサギの話しです。

このコウサギ、夜遊びが酷く、おじいさんが秘密に作り上げている超能力組織Xメンのメンバーを大変悩ませていました。

今晩も、コウサギを追って、サイクロップスが走っています。

 

「こらっ!!待て!ウルヴァリン!!お前、毎晩どこに行ってるんだ!!」

「いくらお前のことが好きでも、それは言えない!嫉妬か?男の嫉妬はみっともないぞ!!」

コウサギは、サイクロップスの前を駆け続けています。

まるで余裕の発言をかましていますが、実際のところ、ウルヴァリンは、額に汗をにじませながら必死になって逃げています。

「ウルヴァリン!お前、もう酒は飲まないって、俺に誓ったはずだぞ!!」

「うるさい!管理主義だと、お前のことなんて嫌いになるぞ!」

「誰が、好かれたいと言った!!!待て!!」

ウルヴァリンも、さすがはウサギ、なかなかの跳躍力を見せ、足の速いサイクロップスにも簡単には掴まりません。

 

しかし、今日は、サイクロップスに軍配が上がりました。

誰かが、出しっぱなしにしておいたダンボールを飛び越えきれず、コウサギは廊下に転がってしまったのです。

こういう時、体の小ささに、ウルヴァリンは歯噛みします。

3回半前転したコウサギの掴み上げたサイクロップスは、悔しそうに目を潤ませているコウサギを見つめ、にやりと笑いました。

「さて、今日こそ、じっくりと共犯者を聞かせてもらおうか」

「あっ!サイクロップス、あそこ!あそこを見ろ!!」

突然、ウルヴァリンは、サイクロップスの肩越しに校庭を指差しました。

しかし、サイクロップスは相手にしません。

「往生際が悪いな。ウルヴァリン」

「おい、本当だ。校庭に明かりが見える。敵が侵入したんだ!!」

コウサギは、爪をシャキーンと出し、あまり役に立つとも思えないのですが、戦闘モードに入りました。

ウルヴァリンの様子があまりに真剣なので、振り返ったサイクロップスは、本当に校庭で動いている光を発見しました。

この学園の誰からも愛されているおじいさん、エグゼピアは、マグニートーという敵と遣り合っています。サイクロップスは、コウサギを掴んだまま、校庭に向かって駆け出しました。

まだ、相手が誰かもわからないうちから、殺人光線を目から発射します。

「うわっ!!!」

校庭を掘っていたのは、マグニートーの手下ではなく、ただの泥棒でした。

サイクロップスの情け容赦ないオプチカルブラストに、ひっくり返って腰を抜かしています。

泥棒は、あまりに広大な学園の敷地に方向を失い、ただの森の中だと思って、銀行強盗をして得た金を隠している最中でした。

ひっくり返った泥棒の顔をウルヴァリンも引っかきました。

泥棒の顔に、Xの文字が付きました。

 

翌日、新聞には、でかでかと、ウルヴァリンの名前が載りました。

第一発見者は自分だと言い張ったウルヴァリンの主張を、エグゼビアが目を細めて受け入れ、「この仔が教えてくれたので」と、インタヴューに応じたためでした。

新聞の記事は、「お手柄、コウサギ。侵入者を知らせる!」「幸運のコウサギ!盗まれた1千万ドルを発見!!」自慢げに笑うコウサギは、不機嫌な顔のサイクロップス、そして、幸せそうに笑うエグゼビアと一緒に写真入りです。

 

この新聞を見たエグゼビアの宿敵、マグニートーは、コウサギを盗み出すことにしました。

なぜかというと、マグニートーは、エグゼビアにちょこっとラブだったからです。

マグニートーは、エグゼビアにちょっかいをかけたくて仕方がなかったのでした。

またもや、夜の廊下をふらふらとしていたウルヴァリンは、簡単に、マグニートーに盗み出されてしまいました。

 

悪のアジトに帰ったマグニートーは、コウサギに言いました。

「エグゼビアの話によると、宝のありかを教えてくれる幸運のコウサギという話しじゃないかね。わたしにも少しばかり、幸運を分けてくれないかい?」

マグニートーは別に宝が欲しかったわけではありませんでしたが、あまりに可愛らしいコウサギの様子に、意地悪を言いました。

コウサギは、思い切り爪を出し、黒目を涙でうるうるとさせながら、怒鳴りました。

「誰がお前なんかのために、幸運なんて分けてやるか!!お前なんか、あの木の根っこでも掘ればいいんだ!!」

余裕のマグニートーは、部下に命じて、ウルヴァリンが言った木の下を掘らせました。

勿論、そんなところから、宝など出てきません。

「君は、わたしの役には立たないようだね。仕方が無い。そういう悪いコウサギは、殺してしまうしかないね」

マグニートーは、エグゼビアの笑いにも似た、とても優しい笑みを浮かべると、部下に、コウサギの抹殺を命じました。

 

しかし、ここで、問題が起こりました。

マグニートーの部下である、セイバートゥースや、ミスティークに追われ、血みどろの戦いをしていたウルヴァリンは、あまりにいじらしかったのです。

二人は、最初、からかい半分にウルヴァリンを弄んでいたのですが、ウルヴァリンは全く体格の違うセイバートゥースや、ミスティーク相手に、ちょこまかと逃げ回りました。

「掛かって来い!じじいの敵は俺の敵だ!」

威勢よく怒鳴りながら、けれども逃げ回るしかないウルヴァリンのその姿はあまりに愛らしく、二人の心を射止めてしまいました。

二人は、壁際に追い詰められ、肩で息をしながらも、必死に威嚇ポーズをやめようとしないコウサギ相手に、もう、手出しが出来なくなっています。

「無理です。こんな小さい仔を殺すなんて出来ません!」

「大事に飼いますから、俺に下さい!」

コウサギの涙目に参ってしまっている部下は、もう、冷酷なマグニートーの部下ではありませんでした。

けれども、マグニートーも攫ってきた当初から、コウサギをかわいいと思っていたので、自分で手を下すことは出来ませんでした。

 

そんな時でした。

「こんばんは。お邪魔するよ。マグニートー」

エグゼビアが、マグニートーの家を訪ねました。

車椅子の膝には大きな花束を乗せています。

Xメンのメンバーも連れず、あまりに正々堂々と玄関から訪ねたエグゼビアに、マグニートーは呆れ果てました。

「エグゼビア、君は・・・」

「マグニートー。ウルヴァリンを返しておくれ。君が連れて行ったコウサギは、宝の在り処を教えるから、幸運のコウサギなんかじゃないんだ。私達の心をいつでも春のように暖めてくれるんだ。その仔がいないと、私の心は凍えてしまう」

マグニートーの真正面まで進んだエグゼビアに、駆け寄る小さな影がありました。

壁際に追い詰められていたウルヴァリンが、セイバートゥースと、ミスティークの足元を駆け抜けたのでした。

コウサギは、ぼろぼろの体で、エグゼビアの膝に駆け上がり、マグニートーを睨みつけました。

「なんで来たんだ教授!!

畜生!マグニートー!教授に絶対に手を出すな!!俺が許さない!!」

コウサギの体は、セイバートゥースや、ミスティークとの戦いで、幾度も血を流したらしく、毛皮がべったりと濡れていました。

足元もおぼつかなく、体がふらふらと揺れています。

「教授に指一本でも触れてみろ!お前なんか八つ裂きにしてやる!!」

けれども、コウサギは、毛を逆立てて叫びました。

「大丈夫。ウルヴァリン。マグニートーは、紳士だ。話し合いにやってきた私をいきなり攻撃するなんてことはしない」

エグゼビアは、必死に自分を守ってくれようとするコウサギをしきりに撫でました。

驚異的な肉体治癒能力により、ウルヴァリンの体は、殆どの傷が治りかけていました。

だからといって、コウサギが重度の病人に間違いありません。

「マグニートー。私が憎いのはわかる。だが、この仔はやめてくれ。私がこの仔によって慰められているように、君の心にも少しばかりの春が来ればいいと思って、君の好きな花を持ってきた。これで、今日のところはこの仔を返してくれないか?」

エグゼビアは、両手で持ち上げるほどの花束をマグニートーに差し出しました。

ウルヴァリンは、今にも倒れそうに教授の膝の上でふらついていました。

しかし、視線だけは強く、マグニートーを睨み、いつでも引っかいてやると、爪を伸ばしていました。

マグニートーは、小さく笑いました。

「エグゼビア、君が、私の好きな花を覚えていてくれたとは・・・」

「忘れはしない。かつては仲間だったじゃないか」

マグニートーは背中を向けました。

「コウサギは、お返しする。うちの部下も、そんな小さい生き物を殺す趣味はないそうだ」

悪の巨人マグニートーは、セイバートゥースにエグゼビアの車椅子を押すように命じました。

目を開けたまま気絶してしまうのではないかと言うほど、緊張しているコウサギを愛しげな目をして見つめるセイバートゥースは、そろそろとエグゼビアの車椅子を押しました。

「ああ、セイバートゥース。花は頂いておいてくれ。幸運のコウサギがもたらしてくれた花だからな。私にもいいことがあるかもしれない」

 

こうして、ウルヴァリンは、生きたまま恵まれし子らの学園に戻ることができました。

しかし、戻った途端、ふらふらと夜、遊び歩く罰だと、サイクロップスに一つ頭を叩かれました。

 

 

終わり

 

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