ウルちゃん、病気になる。

 

ウルヴァリンは、機嫌よく夕食の席についていた。

がっついて平らげているウルヴァリンだったが、小さな咳を、こほんとした。

ジーンが声をかけた。

「ウルちゃん、大丈夫?お風邪?」

ウルヴァリンは、首をかしげた。

「何故だ?」

「だって、今、咳をしたでしょ?」

コウサギは、フォークの先に、カリフラワーをさしたまま、固まった。

サイクロップスは、ウルヴァリンの顔を覗き込んだ。

コウサギは、普段と変わらないほど、旺盛な食欲だった。

「ジーン、ウルヴァリンのどこかおかしい?」

サイクロップスは、眉の寄ったウルヴァリンの顔を眺めると、ジーンを振り返った。

「なんだか、ウルちゃんの目、いつもより、目が潤んでない?」

「そうか?」

ウルヴァリンの目が潤んでいるのは、いつものことなので、サイクロップスの眉の間にも皺が寄った。

しかし、ジーンは、心配そうな顔をした。

「熱があるんじゃないかしら?」

サイクロップスは、最愛の恋人の言うことに、ウルヴァリンへと手を伸ばした。

コウサギの額を触り、首をかしげた。

「少しくらいは、高いかもしれないが・・・普段から、ウルヴァリンは、体温が高いし・・・」

サイクロップスの言葉に、ウルヴァリンは、はっとしたように、動き出した。

「俺、病気なのか?」

ウルヴァリンの顔は真剣だった。

あまりに悲壮な顔をしているウルヴァリンに、サイクロップスは、言いよどんだ。

「・・・いや、別に、大丈夫だと思うが・・・」

しかし、ウルヴァリンは、もっと悲壮な顔になった。

「そんな風に慰めてくれなくていい。やっぱり、そうなのか、そうじゃないかと思ってたんだ・・・」

コウサギは、無理やりしたようなくしゃみを始めた。

ごほごほと、空咳を繰り返した。

コウサギの耳は、ぺたんと垂れ、眉の間には、深い皺が寄った。

目は、涙が零れ落ちそうなほど、潤んでいる。

「俺は、病気だ」

「ウルヴァリン、お前の治癒能力なら、病気なんかしないだろう?」

サイクロップスは、さっきまで元気だったウルヴァリンに呆れた声を出した。

ジーンに向かって苦笑いを送った。

しかし、ウルヴァリンは、泣き出しそうな顔で、サイクロップスを見上げた。

「違う!違うぞ。サイクロップス。俺の治癒能力は、確かに、外傷をすばやく治す。それに、内臓だって、やられたら、すぐ反応するさ。だけど、風邪のように、複合し、原因のあいまいなものには、効かないんだ」

ウルヴァリンは、まるで重病の宣告でも受けた人のように、よろよろと椅子から立ち上がった。

よろめき、テーブルの上で転びそうになった。

「・・・やばい、頭も痛くなってきた」

空になった皿の山を背中に、ウルヴァリンは、深刻な顔をした。

「どうしよう。もっと悪い病気だったら・・・」

コウサギは、勝手に重病ドリームに突っ込んでいく。

「きっと、そうだ。この俺が病気になるなんて・・・。風邪は万病の元だというし・・・どうしたら、いいんだ。もう、命だって短いのかもしれない」

ウルヴァリンは、はかないため息をつき、テーブルに置かれたサイクロップスの手に寄りかかった。

「悪い・・・サイクロップス、俺を部屋まで連れて行ってくれないか・・・」

ウルヴァリンは、一人では歩けないと言いたげに、涙ぐんだ目でサイクロップスを見上げた。

サイクロップスは、困った顔で、ウルヴァリンを見下ろした。

「ジーン・・・君が甘やかすから」

ウルヴァリンは、勢いよく爪を出し、サイクロップスを睨んだ。

「・・・お前、俺が、病気だってのに、見捨てるのか!」

ウルヴァリンはサイクロップスに訴えた。

コウサギの潤んだ目は、ぽろぽろと涙をこぼした。

「病気の俺は、打ち捨てられ、仲間にも見捨てられるんだ・・・」

ウルヴァリンは、小さくつぶやいた。

その姿だけを見ていると、サイクロップスが悪人だった。

サイクロップスは、いろいろな言葉を飲み込んだ。

無言のままウルヴァリンを抱き上げ、席を立った。

部屋を出る間際に振り向いた。

「ジーン。俺は、ウルヴァリンをベッドに連れて行く。君は、医者の手配を。重病のコウサギがいますので、ぜひ、よく効く注射をもってきてくださいと伝えてくれ」

サイクロップスの掌の上で、ぐったりと横になっていた重病のコウサギが、いきなり飛び起きた。

「大丈夫だ!俺は、平気だ!頼む!俺を下ろしてくれ!!」

ウルヴァリンは、出してあった爪を振り回して、勢いよく暴れた。

だが、コウサギは、小さなくしゃみをした。

「頼む!!俺は、元気なんだ!」

サイクロップスは、どうやら風邪気味らしいコウサギを、強制的にベッドへと放り込んだ。

 

 

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