ウルちゃん穴に落ちる。

 

「ローグ。どこに落としたんだ」

「ええっと、この辺りだと思ったんだけど・・・」

ローグと、ウルヴァリンは、学園の庭をうつむき加減に歩いていた。

二人が、探しているものは、ローグのピアスだ。

ローグの顔は、地面をみるためにずっと下を向いた。

ウルヴァリンの顔は、努力しなくとも、地面に近かった。

ローグは、落としたピアスを探すことに夢中だった。

ウルヴァリンは、ピアスを探す努力のほかに、ローグに踏まれないよう気を付ける必要があった。

 

「おい、俺のこともちゃんと見て歩け!」

またもや、ローグに踏まれそうになり、ウルヴァリンは、大きく跳んだ。

ローグは、髪を掻きあげながら唇を尖らせた。

「うるさいなぁ。ウルちゃんは。ウルちゃんが、ちょろちょろするからでしょ」

ローグは、コウサギの動きに気を使っていた。

しかし、歩幅が違いすぎた。

「お前まで、ウルちゃんって呼ぶな!ちゃんとウルヴァリンと呼べ!」

ウルヴァリンは、ローグを斜めに掬い上げるように、にらみつけた。

しかし、ローグは、大きなため息をついた。

「あ〜あ、ウルちゃんが、犬だったら、匂いでピアスの場所がわかるのに」

ローグはとても残念そうな顔だった。

ウルヴァリンは、鼻の上に皺を寄せた。

「お前、俺のことをウサギだと思って、馬鹿にしてないか?」

「全然?」

ローグは、ウルヴァリンのことを、なんでそんなにいつもテンションが高いのかと、馬鹿にしたことはあったが、ウサギだという理由では馬鹿にしたことは無かったので、即答した。

顔には、全く嘘がなかった。

その様子に満足したのか、ウルヴァリンは、がさごそと鼻先で枯葉をどかしながら、つぶさにピアスを探し始めた。

コウサギは、枯れ葉に埋もれそうになりながら、ごそごそと前進している。

 

たった一人で、悲しそうにうつむいているように見えるローグに、アイスマンと、パイロが、声をかけた。

「どうしたんだい?ローグ」

「ええ、ちょっと」

ローグは、長い髪を耳にかけながら、顔を上げた。

「二人こそ、どうしたの?」

「チビどもが、庭に落とし穴を掘ったって自慢してのをプロフェッサーが聞きつけて、埋めて来いって言われた」

アイスマンと、パイロは、顔を見合わせ、肩をすくめた。

ローグも同じように肩をすくめた。

「大変ね」

アイスマンと、パイロは、ローグの側へとかがみこんだ。

「ローグ、何かを探しているのかい?」

「ええ、ちょっと」

「一緒に探したほうがいい?」

彼らは、恋をするのに、とても適した年齢だった。

青年へとなりかかっている二人は、スマートだと言い切るには難しい、すこしシャイな笑顔を浮かべて、ローグに聞いた。

ローグもはにかんだ笑みで、二人にうなずいた。

 

そんな恋の鞘当が行われている最中も、ウルヴァリンは、一生懸命になってローグのピアスを捜していた。

ウルヴァリンは、夢中になると、他のことがおろそかになってしまった。

その理由が、コウサギの脳みそが小さいからなのか、ウルヴァリンの性格のせいなのかは、判断に難しいところだ。

「あっ!」

残念なことに、こんな時ばかり、小さな悲鳴を上げ、ウルヴァリンが、穴に落ちた。

穴の表面を覆っていたふかふかの枯れ葉が一緒だったせいで、怪我はどこにも無かったが、穴の入り口は、コウサギには、たいそう遠かった。

精一杯手を伸ばしたところで、コウサギの身では穴の半分にしか手が届かない。

おまけに、穴の表面はやたら滑らかだった。

念力によって土をえぐったのかもしれなかった。

ウルヴァリンの爪が立たなかった。

「おい!ローグ!!」

ウルヴァリンは声を張り上げた。

しかし、ローグからは反応が無かった。

上に積もる枯れ葉がウルヴァリンの声を吸収していたせいもあったが、ローグは、男の子二人の相手をするのに忙しかった。

「おい!ローグ!!ローグ!」

ウルヴァリンは何度も呼んだ。

「おい!ローグ!俺は、ここだ!おい!さっさとこの穴から出せ!おい!」

 

ウルヴァリンは、穴の中で、散々暴れまくった。

何度も、何度もジャンプした。

爪も、精一杯伸ばして、土の表面をえぐってみた。

ウルヴァリンは、爪を、土の表面に突き立てることに成功した。

だが、いくら鋼鉄製でも、ウルヴァリンの短い爪では、自重を支えておくことは出来なかった。

ずるずると体は落ちていく。

ウルヴァリンは、穴の中でもがいた。

穴の中にいっぱい詰まった枯葉のせいで、ウルヴァリンも枯れ葉まみれだ。

コウサギの目に、涙が盛り上がった。

「おい!ローグ!ここから、出せ!何をしているんだ。俺がここにいるんだぞ。畜生!おい!ローグ、今度敵が来ても、お前のことを守ってやらないぞ!!」

うるうるの黒目で、ウルヴァリンは、必死に、落とし穴の壁をかりかりと掻いた。

「ああ!そうか!畜生!敵の奴らが、俺を陥れるために、この穴を掘ったんだな!」

ウルヴァリンは、涙目の癖に、きっと顔を引き締めた。

全身の毛が逆立った。

「ローグ!敵がすぐ側にいるぞ!!お前も、穴に落ちないよう、気をつけろ!!」

 

やっとウルヴァリンの姿が見えないことに気付いたローグが、穴の中で、叫んでいるウルヴァリンを発見した。

ローグは、屈んでウルヴァリンへと手を伸ばしながら、後ろの二人に声をかけた。

「二人とも、いたずらっ子たちが掘った落とし穴は、ここだったみたいよ。良かったわね。簡単に見つかって」

ローグは、枯れ葉まみれになっているウルヴァリンを優しく掌に載せた。

ウルヴァリンは、ローグの言葉に、出していた爪をしまった。

敵だと叫んでいた口もつぐんだ。

上手い具合に、ローグは、ウルヴァリンの叫んでいた内容など聞いていなかったようだった。

ローグは、ちらちらと後ろの二人のことばかり気にかけていた。

 

ウルヴァリンは、ちょうど手に掴んでいた硬いものを、ローグに向かって差し出した。

「なに?ウルちゃん。どんぐり?」

ローグは、にっこり笑いながら、ウルヴァリンの掌から、それを受け取った。

ウルヴァリンは、運だけはよかった。

コウサギは胸を張った。

ウルヴァリンが穴の中で手に掴んできたのは、ローグのピアスだった。

ウルヴァリンは、ローグの後ろに立つアイスマンと、パイロが、ローグの気を惹こうとしていることなどわかっていた。

涙目のコウサギは、つんと顎をそらした。

心配そうな顔で自分を見つめる二人組に勝ち誇った顔をした。

 

END

 

 

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