ウルちゃん愛される。

 

「ミスター・ローガン」

珍しくその名で呼びかけられ、ウルヴァリンは、立ち止まった。

後ろを振り返ると、見慣れた顔が、ウルヴァリンを見下ろしていた。

「なんだ?パイロ」

ローグを囲み、いつもアイスマンと一緒にいるパイロが珍しく一人だった。

廊下に立ち止まるパイロは、落ち着かなさそうに、ライターを付ける動作を繰り返した。

コウサギは、その動作の連続性に、いらいらとした。

「用が無いなら、もう、行くぞ」

ウルヴァリンは、口を開かないパイロを置いて、前へと進もうとした。

「ちょっと、待ってください。ローガン」

慌てたように、パイロがウルヴァリンの後を追った。

ウルヴァリンは、歩きながらパイロに文句を言った。

「用があるんだったら、さっさと言え」

コウサギの足は、せっかちに前へと進んでいた。

パイロは、足元のコウサギを踏まない程度に、速度を速め、ウルヴァリンの後を追った。

「あの、ローガン・・・」

「ん?」

パイロの手からライターが離れることはなかった。

多分、無意識の行動なのだろう。

ファイヤーは、ライターのふたを開け、着火し、火を消すためにふたをするという動作をひたすら繰り返していた。

かちゃかちゃという金属の音が、絶えず聞こえ、ウルヴァリンの癇に障った。

「あの、ローガン」

なかなか、話し出すことのできないパイロは、病的なほど、ライターに着火するという動作を繰り返した。

ウルヴァリンは、足を止めた。

「なぁ、パイロ、俺を丸焼きにしても、大して食うところはないぞ」

コウサギは、軽蔑したような目で、パイロを見上げた。

パイロは、初めて、自分のとっていた行動に思い至ったようだった。

だが、無意識にまた一つライターの火をつけた。

「あっ・・・」

パイロは、コウサギの強い目に、困ったような顔で、ポケットへとライターをしまった。

 

「青少年、なんの悩みなんだ。聞いてやるから、話をしてみろ」

ウルヴァリンは、パイロにかがむように言い、目線の近くなった少年へと聞いた。

「悩み・・・あ・・うん。悩みとは、すこし違う・・・んだけど」

パイロの視線が、ウルヴァリンの毛皮を滑っていった。

「どうせ、ローグのことなんだろう?残念だが、俺は、あの子のことなど、特に知らないぞ」

「・・・あ・・・いや、そうじゃなくて」

パイロは、言いよどんだ。

ウルヴァリンは首をかしげた。

パイロは、アイスマンと一緒に、いつもローグの側にいた。

ウルヴァリンは、パイロが彼女の気を惹きたがっているとばかり思っていた。

「どうした?パイロ?」

パイロは、ポケットへと片付けたライターの代わりにか、しきりに髪をかきあげた。

ウルヴァリンは、何事かを打ち明けるために、とても困難な状況に陥っているらしいパイロを心配そうに黒い目で見上げた。

この小首を傾げて見上げる視線のコウサギは、たまらなく愛らしかった。

パイロは、まるで痛みに耐えるように顔を顰めた。

「・・・・うっ・・・やっぱ、かわいい」

それでも、痛みがやり過ごせなかったのか、パイロは、急にウルヴァリンに向かって、手を伸ばした。

「すみません。ローガン。抱っこさせてください!」

ウルヴァリンは、パイロの胸の中に抱き込まれた。

あまりに急なことに、ウルヴァリンは、ファイヤーの腕の中で暴れた。

コウサギの足が、パイロの胸を何度も蹴った。

「痛いですか?えっと、このくらいだったら、大丈夫?」

パイロは、慌てたように腕の力を緩めた。

緩くなった拘束の中で、ウルヴァリンは、パイロの顔を見上げた。

「・・・・お前、動物好きだったのか?」

「・・・そうでも、ないんですけど、ローガンさんだけは、なんか、めちゃくちゃ、かわいくて」

パイロは、ウルヴァリンの背中を撫でた。

それだけで気がすまなかったのか、コウサギを自分の顔の位置まで持ち上げると、頬ずりを始めた。

コウサギにとって、まだ、柔らかいパイロの髭が、痛いというわけではなかった。

だが、その動作から、ウルヴァリンには、パイロが動物のことをそれほど好きではないと、はっきりとわかった。

動物と暮らしたことがあれば、コウサギが人間に頬ずりされて喜ぶはずがないと、わかっても良さそうなものだ。

「・・・それは、結構、嫌だ」

ウルヴァリンは、率直に言った。

パイロは、名残惜しそうにそっと頬ずりを続けた。

「ふかふかで気持ち良いです。ローガンさん・・・」

「・・・そうかよ」

ウルヴァリンは、あきれた声で、パイロの行為が終わるのを待っていた。

いらいらとしているコウサギの髭が、ぴくぴくと動いた。

「・・・・本当に、かわいい!」

ずっとウルヴァリンを抱きしめてみたいと思っていたらしいパイロは、感極まったのか、ウルヴァリンにチュウっとキスをした。

ウルヴァリンは怒って、パイロの顔を蹴飛ばした。

「お前、俺がウサギだと思って、馬鹿にしているだろう!!」

コウサギは、パイロの手に抱かれたまま、短い爪をシャキーンと出した。

威嚇のポーズを堂々と決めた。

爪を出したせいで、ウルヴァリンの黒目が潤んだ。

それが、また、パイロの心を刺激した。

「ローガンさん!今晩、俺のベッドで一緒に寝ましょう!俺、一回でいいから、ローガンさんのこと、抱っこして寝たいんです!」

ウルヴァリンは、思い切り軽蔑した目で、パイロを見た。

しかし、コウサギを手の中に抱いているパイロは、夢中になって、またキスしようとした。

コウサギは、パイロの顔を思い切り蹴り飛ばし、廊下を走って逃げていった。

 

 

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