裏切りの対価
夜もふけた暗闇の中、押し問答を繰り返す二つの影があった。
一つは、大きな身体に抱きこまれまいと、腕を突っ張っていた。
もう一つは、逃げる身体を捕まえようと腕を伸ばしていた。
星明りが、2人の顔を照らしていた。
緑の目の持ち主は、困ったように顔を顰めていた。
黒い瞳の持ち主は、怒ったように目を光らせていた。
2人とも、低い声でもみ合っていた。
「どうして、来たんだ!」
オデッセウスは、ギリシャ軍の陣地へとまたもや姿を現したヘクトルの存在に大いに困惑していた。
ここは、トロイの領地であるが、ギリシャ軍が占領していた。
王子であるヘクトルが、庭のように過ごした浜辺だとは言え、豪胆にもほどがあった。
おまけに、今、いる場所は、この間のような人気がない火葬場ではない。
兵士も、大将もごったがえす、テントの群れのなかだ。
夜半を過ぎて、皆、寝静まっているとは言え、正気の沙汰とは言えなかった。
暗闇の中、オデッセウスは、ヘクトルの胸を突いて、体の間に隙間を空けようとした。
ヘクトルの胸は力強い筋肉で盛り上がり、砂を踏みしめた足は、一歩も後ろに引かなかった。
反対に、長い腕が、オデッセウスを引き寄せた。
「…欲しいものができたんだ。いくら考えても、欲しかった。だから取りに来た」
低い声でささやいたヘクトルは、腕の中の巻き毛に唇を寄せて、口付けをした。
緑の目の智将は、眉を顰めた。
「それは、トロイの血筋なのか?欲しければ、なんでも手に入れろという家風なのか?」
大きな腕は、力強くオデッセウスを抱きしめていた。
身動きの取れないオデッセウスは、仕方なくヘクトルを見上げ、じっと顔を見つめた。
「血筋?ああ、ヘレンを攫ったパリスのことか。そういえば、そうだな。だが、王家の人間なんて、誰だろうがそんなもんだろう?」
この戦いを引き起こすことになったパリスと同列に並べられることを、もっと嫌がるかと思ったのに、案外ヘクトルは、あっさりと認めた。
オデッセウスは呆れた。
「やはり、後先を考えないというのは、トロイの気質なのだな。まぁ、確かに強欲でなければ、国王などやっていられないが…だが、俺は、自分の命をかけるほど、いや、あんたの所の弟がしたように、国をかけるほど、そこまで、俺は何かに執着できない。…なるほど、だから、いつまでたっても、イタケは小国のままなのだな」
オデッセウスは、勇者というよりは、命知らずなヘクトルをからかった。
ヘクトルは笑わなかった。
「…本当に?」
ヘクトルの目が、じっとオデッセウスの目を見つめた。
「本当に、何にも執着しないか?」
ヘクトルに、じっと見下ろされて、オデッセウスは、動揺した。
ひとつだけ、心当たりがあった。
だが、勿論、顔には出さなかった。
「執着するものがないというのなら、オデッセウス、あなたをトロイに迎え入れたい。今は、劣勢かもしれないが、あなたがいれば、トロイはギリシャを破ることもできるだろう。この強大なギリシャの軍を破ることを考えてみるがいい。心が浮き立つだろう?あなたは、そういったことに魅力を感じる人間のはずだ」
ヘクトルは、じっとオデッセウスの目の中を見つめた。
オデッセウスは、視線を外さなかった。
「ヘクトル。あんたは、頭がいいな。俺の擽り方をよく知っている。だが、そういう誘惑の仕方は止めてもらおうか。確かに、俺は、策を弄することが好きな人間だが、自分の国の人間を守るという義務も負っている」
オデッセウスは、緑の目でヘクトルを見た。
ヘクトルは、片手で、オデッセウスを抱き寄せた。
片腕になろうとも、その力は、オデッセウスには敵わない。
ヘクトルは、オデッセウスの頬に触れ、柔らかく髭を撫でた。
ヘクトルは、明晰な頭脳と、強大な肉体を手に入れた稀有な人間だった。
その上、豪胆さと、優しさを持ち合わせていた。
王として、これほど民に愛されるだろう男はいないだろう。
オデッセウスは、黒い瞳で自分を見下ろすヘクトルを見た。
とてもいい顔をしていた。
意思の強さが顔に現れていた。
さらに、ヘクトルは貴人として血筋を重ねた、整った美しい顔立ちをしていた。
オデッセウスは、頬を撫でるヘクトルの手に頬を緩めた。
ヘクトルの目が驚きに見開かれた。
軽く撫でていた手が、オデッセウスの頬を包むように、添えられた。
オデッセウスは笑みを深めた。
だが、こういう男は、早く死んだ。
自分よりも優先させるものを多く持つことは、王として、致命傷だった。
強大な国を守る王は、愛されなくてもいい。
狡賢く、ひたすら自分を愛する者にこそ相応しい。
そうでなければ、国は守れない。大きくはならない。
優しい男は乱世には向かない。
優しい男など、オデッセウスを惹きつけない。
「ヘクトル、あんたがいれば、トロイは安泰だろう?俺が入り込む隙など無い」
オデッセウスは笑った顔のまま、ヘクトルに言った。
「オデッセウス…どうして、俺では物足りないのだと言わない?」
オデッセウスは、何故?と、ヘクトルを見た。
「ヘクトル、あんたは、とても頭がいい。おかげで、ギリシャはトロイを攻めあぐねている。俺は、アガメムノンに自分の国の安泰を請い願うだけのちっぽけな存在だ。たかだが、自分の楽しみのためにトロイに寝返るような真似をしたら、我が国の善良な人々がどうなると思う?俺のために、夫や父親を差し出した妻や、娘はどうなる?俺が、そんなことが許される立場でないことなど、あんたはとっくにわかっているんだろう?」
オデッセウスは、穏やかに微笑んだ目で、ヘクトルを見上げた。
ヘクトルは、力強い意思の漲る目で、オデッセウスを見下ろした。
「本当に?オデッセウス。本当に、それだけが理由か?」
ヘクトルの目は、オデッセウスの嘘を見破ってやるといわんばかりに、オデッセウスの顔中を這いまわった。
勿論、オデッセウスは、ヘクトルに何かをわからせてやる気など無かった。
オデッセウスは、この男は何をしに、こんな場所まで来たのだと、笑いたくなった。
砂は、太陽の熱を残して、まだ、ほのかに熱い。
満天を彩る星々は、明日も、兵士たちをこんがりと焼け焦げにする太陽の出現を約束していた。
やっと、静かな夜が訪れたのだ。
この安寧の時間を、どうしてこんなことに費やしているのだ。
「理由?」
オデッセウスは、平然とヘクトルに聞き返した。
オデッセウスが、トロイに寝返ることなどありえなかった。
トロイは、イタケの国を守るだけの力を持たない。
そんな危険な状態で、ギリシャ軍の智将は、決してトロイにはつかない。
そんなことは、頭の良いヘクトルが思いつかないはずがなかった。
では、ヘクトルは、トロイの次期王としての立場ではなく、ただ、オデッセウス個人を欲して?
ますますオデッセウスは笑いたくなった。
「…そうだな。ヘクトル。俺は、強い者を倒すことにたまらない魅力を感じる男だ。だから、お前を倒してみたいよ。お前のように強い男があのアキレスが噛み合う事になったら、さぞ、見ものだろう。だから、俺は、ギリシャにつく。お前は俺を楽しませてくれるだろう?」
オデッセウスは、あくまでギリシャ軍の軍師としての立場にたった。
あの夜の邂逅など、アクシデントにすぎない。
ヘクトルは面白い男だったが、オデッセウスには物足りなかった。
今晩の登場は驚かされたが、だが、こんな悠長に話していられるということが、この男の限界だ。
欲しいのなら、有無を言わせず、攫えばいい。
考える前に手を伸ばせ。
そういう男ならば、オデッセウスにも再考の余地があった。
だが、ヘクトルは、そんなことはしない。
ヘクトルは、顔を顰めた。
「何を言っているんだ。オデッセウス」
ヘクトルは、オデッセウスの頬を撫でる手を止めた。
「分かっていて、そういうことを言うのだな」
恐い目が、オデッセウスを見下ろした。
「ここから、お前一人くらい攫ってしまうことなど、俺にとっては大したことではない。奴隷としての扱いで、トロイに来るか?」
オデッセウスは、慈悲深いほどの目で優しくヘクトルに微笑んだ。
「私の体が気に入った?その為だけに、このギリシャの領地へ?トロイの男は、恋のために命をかけることが上等なことだと思っているのか?」
ヘクトルは、オデッセウスの身体を持ち上げた。
オデッセウスの足が砂を踏まなくなった。
荷物をかつぎ上げるように、ヘクトルは、肩へとオデッセウスをかつぎ上げた。
ヘクトルの腕は、強い筋力で盛り上がり、肩は、オデッセウス一人にびくりともしなかった。
オデッセウスは、無駄な抵抗をしなかった。
恐ろしい筋力を秘めた肉体の威力をよく知っていた。
そして、ヘクトルという男のやり方も。
「…ヘクトル、俺には、奴隷になっている暇はないんだ。俺のテントに招待してやる。ただし、静かにしてくれよ。俺の兵隊はよそ者に吠え付くよう、しっかりと仕込んであるんだ」
オデッセウスは、ヘクトルの首に腕を回して、辛うじて獲物のように連れ去られるのだけは防ぐと、トロイの男の腕のなかで悠然と笑った。
耳元で囁かれるオデッセウスの小さな声に誘導されて、ヘクトルは、食えない男のテントまで来ていた。
あの日、彼を覆っていた、ただの兵士だという仮面を脱ぎ去ってしまったオデッセウスは、ヘクトルには手も足も出ないほど、狡賢い顔をしていた。
緑の目は、悪戯に笑った。
唇は、機嫌よくカーブを描いた。
挑発し、翻弄し、そして、まったく、ヘクトルを相手にしなかった。
あの晩の衝撃的な関係を、ヘクトルは、重く取り扱っていたが、オデッセウスは、忘れ去られてしまったかのような振る舞いだった。
ヘクトルは、そこまで軽んじられたことがなかった。
ヘクトルは、軍師を彼の毛皮の上に下ろした。
ヘクトルが、オデッセウスの名誉に爪あとをつけようとしているというのに、軍師は平然とした顔をしていた。
オデッセウスは、乱暴に振舞う男の扱いに慣れていた。
無茶をしたヘクトルを優しい目をしてみた。
「どうした?つまらなさそうな顔をしているな」
荷物のように運ばれたというのに、オデッセウスは、笑って毛皮に腰を下ろした。
テントの中には、何枚もの羊皮紙。
戦場によくある宝を納めた箱がない。
だが、かわりにテントの中には多くの毛皮が敷き詰められていた。
この男は、ただ目で楽しむものよりも、身体で味わえるものを好むのか。
必要なものだけあれば、満足ができるというのか。
ヘクトルは、砂を踏みしめながら、軍師を見下ろした。
「オデッセウスこそ、俺が相手では、つまらないのだろう?」
ヘクトルは、笑う軍師の顔を両手の中に納めてしまいたかった。
この男の、頭の中身。
そして、すばらしい体。
どちらも、ヘクトルを魅了してやまない。
「そんなことはない。トロイの王子。ようこそ。私の慎ましい居城へ。なんのもてなしもできないが……いや、そんなもてなしなど、必要のない用事でおいでくださったんだったな」
からかいと紙一重の誘い文句をオデッセウスは口にした。
あの晩、はっきりと見ることが出来なかった魅力的な緑の目が、ヘクトルを映して、機嫌よく細められた。
オデッセウスは、自分のサンダルの紐を解きに掛かった。
躊躇うことなく、口元を綻ばせたまま、足を引き寄せた。
ヘクトルは、恐ろしく皮肉な気分になった。
「トロイは、お前を魅惑しないというわけか…オデッセウス」
ヘクトルは、つま先で、サンダルを脱ぐオデッセウスの足を割った。
「それで、かわいそうなトロイの番犬に、餌をくれてやろうという気持ちになったというわけか?」
オデッセウスは、顔をあげると人が悪く笑った。
緑の目が、ヘクトルを映した。
そうだとも、違うとも言わなかった。
ヘクトルは、オデッセウスを腕の中に抱きしめた。
年上の男は、腕を広げて、ヘクトルを迎え入れた。
目が合うと、にこりと笑った。
オデッセウスの柔らかく笑う顔は、誰よりも信頼できる人間にしか見えなかった。
だが、この男の何を信じればいいのか。
ヘクトルは、強くオデッセウスを抱きしめた。
オデッセウスが、笑う。
そんな顔で、耳元に口を寄せ、オデッセウスは、優しげな声で囁いた。
「トロイのヘクトルをつまらない男だなどと思うはずがないだろう?勇猛果敢にして、慈悲深い戦士として、誰よりも名をとどろかしているのは、お前じゃないか」
オデッセウスは甘く囁いた。
ヘクトルは、オデッセウスと同じだけ親しみ深く笑ってみせた。
オデッセウスの目が一瞬たじろいだ。
「だが、あなたがそう思っているのかどうかは、別問題だろう」
ヘクトルは、口先だけは自分を褒め称えるオデッセウスの薄い唇を口付けで覆った。
聞きたくなかった。
オデッセウスは、顔を振って、口付けを嫌がった。
「面倒なことはするな。俺は、優しくしてもらいたい女じゃないんだ。そういうのが欲しくて、こんなところまで来たわけじゃないんだろう?」
ヘクトルは、オデッセウスが口付けを嫌がるわけを誤解した。
オデッセウスの巻き毛に指を差し込み、わざとのように唇を優しく貪った。
オデッセウスは、首を振って逃げようとした。
だが、大きなヘクトルの手で頭を押さえつけられて、逃げることは敵わなかった。
終いには、オデッセウスは諦めた。
ねっとりと舌の音を立てて唇を吸っていくヘクトルにあわせて、口を開いた。
「…オデッセウス」
ヘクトルは、軍師の頬を両手で挟んで、口の奥まで舌を伸ばした。
上顎を舌先で擽ると、オデッセウスが目を細めた。
うっとりと心地よさ気に、緑の目に笑みが浮かぶ。
ヘクトルは、軍師の簡単な衣装に手をかけた。
肩紐を緩めてしまえば、オデッセウスは、すぐにも肌を晒した。
口付けを頬へ、首へと滑らせていくと、オデッセウスが、ヘクトルの頭を抱きこんだ。
意外なほど力を入れて、オデッセウスは、ヘクトルの髪を掴んだ。
「…この間のことを覚えているか?」
恥かしげなオデッセウスの声を、ヘクトルは、今日始めて聞いた。
余裕ばかり見せていた軍師の顔をヘクトルは、上から眺めた。
軍師の柔らかな巻き毛が毛皮に落ちていた。
頬がうっすらと色づいていた。
「…この間?…オデッセウスが、覚えていてくれているとは思わなかった」
嫌味を言うヘクトルを、オデッセウスは軽く睨んだ。
「ヘクトルも楽しみたいんだったら、絶対に胸には触るな。そこはどうしてもダメなんだ」
頬を染めた軍師は、早口で、言い訳をした。
「そこを、触られると、お前に楽しませてやることもできなくなってしまう。わかったな。絶対に触るな」
かわいらしい様子だった。
髪の生え際にうっすらと汗をかいていた。
「願い事は、それだけか?」
ヘクトルは、閨において、あまり無理をしない性質だった。
本当に嫌がることを無理強いしたりはしない。
「……あまり優しく俺に触るな」
オデッセウスは、真面目な顔をして、ヘクトルに言った。
ヘクトルにとっては、意外な願いを軍師は口にした。
ヘクトルは、オデッセウスの足をかつぎ上げ、もう柔らかく準備されていた穴の中へ固いものを突き刺した。
何故、ここがこんな状態なのか、聞くのが野暮なことはヘクトルにもわかった。
オデッセウスには、相手がいるのだ。
この間、そうだったように、今晩もオデッセウスはその相手の所へ忍んでいくつもりだったのだろう。
その前に、ヘクトルと会ってしまった。
ヘクトルが強引だったという感は拭えないが、その相手はいいのか。
オデッセウスは、簡単に人に肌を許すタイプなのか。
軍師の柔らかな肉に包まれ、ヘクトルは、小さくうめいた。
軍師の注文どおり、指の一本も入れないままに、突き入れた肛内は、準備にどれ程の時間をかけたのか知らないが、いきなり入れるにはきつかった。
いくら、すべりのいい油に助けられているとはいえ、酷い圧迫感がヘクトルを襲った。
「…くうっ」
オデッセウスが、食いしばった歯の間から声をもらした。
ヘクトルに伸し掛かられているオデッセウスは、自分から願ったくせに、体から力が抜けずにいた。
きつく眉に間に皺を寄せ、懸命に唇を開き、息を吐き出そうとしていた。
ヘクトルは、腰を止めて、オデッセウスの顔を見下ろした。
「大丈夫か?オデッセウス」
うっすらとオデッセウスが目を開けた。
ゆっくりと首を傾げる。
「止めなくてもいいのか?」
ヘクトルは、聞いた。
「止められるのであれば、止めてくれ」
オデッセウスは、うっすらと笑った。
額に汗が浮かんでいた。
そんなことはあり得ないと知っている顔だった。
ヘクトルは、オデッセウスを自由にする存在を呪った。
この類まれな人物が、こんな酷い目に合うのを当然と思っているのはおかしい。
もっと、優しく、心地よさだけを与えて抱くことだって、可能だというのに、どんな獣とまぐわっているというのだ。
ヘクトルは、突き入れた腰をゆっくりと引き抜き、オデッセウスの尻を優しく撫でた。
嫌がる胸を避けて、口付けを落としながら、指を穴の中へとゆるゆると入れた。
一旦、ヘクトルのものを受け入れかけた口は、いくら剣士の指だとはいえ、先ほどよりは細いそれを、なんなく飲み込んだ。
熱く湿った感触が、ヘクトルの指に絡みついた。
ヘクトルは、固くささくれた自分の指先が、オデッセウスの内部を傷付けないように、注意して指を動かした。
中は滑らかだ。
だが、気持ちよく、ヘクトルの指を締め付ける。
「…ヘクトル…止めてくれないか?」
オデッセウスがヘクトルを睨んだ。
「触るなと、言っただろう?」
オデッセウスの声が尖っていた。
「…何故?」
「そうやって、されるのは嫌なんだ。この間は我慢したが、そういう焦れったいのは好きじゃない」
オデッセウスは肘でずり上がろうとしていた。
「…だが、苦しそうだった」
ヘクトルは、抜けていく指を見た。
「そりゃぁ苦しいさ。お前、自分のものを知っているだろう?それを入れるんだ。苦しくて当然だろう?」
ヘクトルは、オデッセウスの言いなりになることに不安を覚えた。
「…それなりに準備をすれば…」
オデッセウスは、にやりと笑った。
「誰に教えてもらった?でも止めろ。慣らしたいのなら、2本でも、3本でもまとめて指を押し込めばいい。そういうのは嫌いだ。…落ち着かない」
オデッセウスは、膝を閉じようとしていた。
気持ちのいい穴を足で隠し、ヘクトルの優しい愛撫を拒んだ。
ヘクトルは、オデッセウスの言いなりになるしかなかった。
強引に指を突き入れ、そこを緩めた。
白い尻には、力が入っていた。
そこを手で割り、指を奥まで突っ込んだ。
軍師の目は、きつく閉じられていた。
開いた唇からは、食いしばった歯が見えた。
だが、安堵のため息を付くのだ。
オデッセウスは、強引な愛撫にしか受け入れない。
何を考え、オデッセウスがヘクトルに許そうとするのか、まるで理解できなかった。
オデッセウスが目を開けた。
ヘクトルを急かす。
足を絡みつかせて、耐えられないような誘惑をする。
「オデッセウス…」
ヘクトルは、オデッセウスの太腿を抱き上げた。
今度こそ、奥まで腰を叩きつけた。
ヘクトルのものをくわえ込んだオデッセウスの穴は、きついほどの締め付けで、ヘクトルを迎え入れた。
肉が、ヘクトルのものに押され、ずぶずぶと開いていった。
オデッセウスの下腹が、ひくひくと蠢いていた。
「……ヘクトル…」
小さく、オデッセウスがヘクトルの名を呼んだ。
白い尻を、ヘクトルに向かって差し出した。
自分から腰を高く上げ、ヘクトルの腰へと足を絡みつかせたオデッセウスは、瞳をかすかにうるませていた。
「大丈夫か?」
ヘクトルは、オデッセウスの額にかかった髪を払った。
額は汗に濡れていた。
オデッッセウスは、顔を振った。
ヘクトルは、持ち上げられた尻を掬い上げ、その腰を抱いた。
「…触られたくないのだな」
ヘクトルは、軍師の望みどおり、ひたすら腰を突き上げた。
軍師の勃起は、擦り上げるヘクトルの動きによって、次第に力強く血を通わせた。
奥を突き上げる動きに、喜びの声をもらす。
腰を抱きこんだヘクトルの首へと腕を伸ばしたオデッセウスは、甘い声でヘクトルを呼んだ。
頬を摺り寄せ、ヘクトルを抱きしめるのに、ヘクトルが口付けようとすると、顔を反らした。
ヘクトルは、ただ、オデッセウスを突き上げた。
押さえ込まれた人の気配にオデッセウスは気付いた。
その気配は、恐ろしく訓練され、殆どそこに人がいることなど気取らせなかったが、隠し切れない怒りが、それを打ち破っていた。
ヘクトルに揺さぶられ、瞼を閉じていたオデッセウスは、一瞬にして近づいた恐ろしい気配に、慌てて、目を開けた。
暗闇に慣れた目が、くらりと眩んだ。
もう、遅かった。
自分の上に伸し掛かるヘクトルは、頭を掴まれ、その首には、よく研がれた短剣が押し付けられていた。
短剣の柄は、何度も目にしたことのある美しい金の細工だ。
テントの中の空気が凍りついた。
ぴんと糸を張ったような緊張が空間を支配し、激しい息遣いだけが、空気をかき乱した。
短剣が、一振りで命を奪う位置にぴたりと決まると、筋肉の浮き出た太い腕が、がっしりとヘクトルの胴を抱いた。
腹に食い込むほど、強く、ヘクトルを拘束した。
腕はよく日に焼けていた。
「…誰だ!」
低くうめいたヘクトルは、腕を振り払うことは、勿論、振り向くことも出来なかった。
恐ろしい怒りが、背後からヘクトルを拘束した。
どこにも隙が無い。
丸腰のヘクトルに、抵抗する方法は無い。
ヘクトルには相手が、誰なのかさえ、知ることができない。
オデッセウスは、反対に怒りに燃える青い目と対峙していた。
つり上がった眉と、噛み締められた歯。
アキレスの頬の筋肉が、怒りのあまりひくひくと震えていた。
大きく目を開いて、オデッセウスの裏切りに怒っていた。
「俺は、この男のつがいだ。お前は、知らなくて、こいつに手を出したとでも言う気なのか?」
アキレスは、オデッセウスに宣言するように、低くはっきりした声で、ヘクトルに教えた。
ひたりと据えられた目は、オデッセウスの顔から離れようとはしなかった。
ヘクトルは、オデッセウスの相手が、アキレスであることなど知らない。
だが、ここで、オデッセウスが、一言でも弁解をしたなら、ヘクトルの喉は掻っ切られることだろう。
オデッセウスは、ヘクトルのものを入れたままの間の抜けた格好だった。
その姿で、青く燃える怒りに焼き殺されそうになっていた。
アキレスが怒るのも無理は無い。
オデッセウスは、ヘクトルがむやみに暴れぬよう、彼の腰に絡めた足に力を込めた。
ヘクトルが目を剥いた。
だが、むやみに抵抗しては、ヘクトルの命が危ない。
オデッセウスは、ヘクトルを自分へと引き寄せるよう足を絡めた。
「お前こそ、誰だ。この匂い…覚えがあるぞ。まだ、オデッセウスの周りをうろちょろとしていたのか!」
アキレスは、躊躇う素振りもなく、短剣を引き寄せた。
アキレスは、戦士だ。
名誉を傷付けられ、黙って引き下がるような真似はしない。
他人の生き死に対して、鈍感だ。
自分の命に対しても、鈍い。
アキレスの短剣は、ヘクトルの喉に傷を負わせた。
だが、酷い傷になる前に、アキレスの手が止まった。
ヘクトルの顔を見て、アキレスは、息を飲んだ。
「……オデッセウス。お前は、一体誰を引き込んでいるんだ」
引き寄せられる短剣の切れ味に、後ろへと顔を反らしたヘクトルは、その端正な顔をアキレスに見せた。
黒髪に縁取られた意思の強い顔は、アキレスにとって見覚えがあった。
さすがのアキレスも、そのまま短剣を引き寄せることを躊躇った。
相手はトロイの要だといっても、間違いではない。
「…たしか、ヘクトルだったな。トロイの王子。だが、人のものに手を出すのは止めてもらうか。王族は盗人よりも意地汚いと常々思ってたが、それは、俺のものだ。まぬけなメネラオスのように、お前にくれてやるつもりなど毛頭ない!」
短剣を手放した変わりに、アキレスはヘクトルの頭髪を掴んだ。
地肌からごっそりと抜けるのではないかというほど、強く掴んで後ろへと反らせた。
「ヘクトル…オデッセウスが、お前を誘惑したのか?」
地の底から響くようなアキレスの声に、ヘクトルは、顔を振ろうとした。
アキレスの怒りは、何もかも焼き尽くすほどの勢いだ。
最初の驚愕をやり過ごしたヘクトルは、怒りに燃え立つアキレスの目を強く睨みつけたまま、オデッセウスを庇おうとした。
「…アキレス」
ヘクトルは、掴み上げられた髪の痛みを堪えながら、拳を握った。
アキレスを一撃でしとめることなどできるはずもなかったが、現状をすこしでも有利にしたかった。
「どうした?ヘクトル?」
強く髪を握るアキレスは、弄るようにヘクトルに聞いた。
ヘクトルが反撃の隙を狙っていることなど、わかっているという顔だった。
ヘクトルは、奥歯を食いしばった。
アキレスの傲慢な顔を狙って、拳を突き出す気だった。
だが、ヘクトルが行動に出る前に、オデッセウスが、絡めていた足に力を込めて、身体を起こした。
するりとヘクトル首へと腕を回し、身体を寄せた。
ヘクトルが口を開こうとする前に身体を抱きしめ、ヘクトルを挟んで、アキレスと対峙した。
「アキレス、誰がここへ来ていいと言った?」
オデッセウスの声は毅然としていた。
2人の間に挟まれたヘクトルは、アキレスと対決する姿勢のオデッセウスを庇おうと、身体を捩ろうとした。
だが、力強いアキレスの手が、ヘクトルの髪を離さない。
ヘクトルを抱きしめたオデッセウスの腕も緩まない。
「誰が、ここへ来ていいと許可したんだ?アキレス」
「オデッセウス!!」
歯を剥いたアキレスは、低い唸り声を上げて、ヘクトルの背中を蹴った。
繋がったままの2人の体が、毛皮に突っ込んだ。
その僅かの間に、オデッセウスは、大きなヘクトルの身体を抱きしめたまま、耳元に唇を寄せた。
「どんな目にあっても、決して逆らうな。生きてトロイの地に帰りたかったら、アキレスに勝とうなどと思うな」
オデッセウスからの、素早い指令に、ヘクトルは目を見開いた。
緑の目が、ヘクトルの意思を捻じ伏せるように、じっと力強くヘクトルを見た。
「アキレスは、弱い相手まで殺したりしない。何をされても耐えろ。俺のことを庇おうとするな。弟の顔が見たかったら、言うとおりにするんだ」
オデッセウスの命令は、名誉を知るヘクトルにとって、簡単に従えるものではなかった。
怒るアキレスは、ヘクトルの背を蹴りつけた。
骨が痛むほど、強い蹴りつけだった。
力強い足が、何度もヘクトルの背を蹴った。
だが、その程度のことだったら、ヘクトルは平気だった。
もっと、耐えることが出来た。
砂をじっと見つめていれば、そのうち嵐は過ぎ去る。
しかし、オデッセウスは、ヘクトルの下から這い出し、アキレスの前でその背を庇った。
全裸のイタケ王にアキレスの足が止まった。
食い殺しそうな顔をしているのに、アキレスの太い足は、宙で震えていた。
オデッセウスはアキレスに手を伸ばした。
「アキレス、お前のことも相手にしてやる。こっちに来い」
この現場において、ヘクトルが驚くほど、オデッセウスの声は、平然としていた。
毅然と顔を上げ、オデッセウスはアキレスに命令した。
アキレスの唇が震えた。
強く歯を噛み締めたのが、ヘクトルにわかった。
屈辱に、アキレスは、目を吊り上げた。
だが、それを、オデッセウスは、平然と見た。
この関係は、つがいというほど、平等ではない。
ヘクトルは、アキレスの弱点を見た気がした。
アキレスは、オデッセウスの頬を叩いた。
オデッセウスの体が、倒れた。
頬が赤い。
ヘクトルは、腕の中に倒れこんできた身体を抱きしめた。
オデッセウスがヘクトルの腕を振り払った。
「相手にしてもらえなくて、怒っているのだろう?アキレス。前にも言ったじゃないか。お前じゃないと物足りないと」
オデッセウスは懲りもせず、アキレスに手を伸ばした。
アキレスは、苛立ちを隠さない目で、オデッセウスを睨みつけた。
今にも殺してしまいそうだ。
ヘクトルには、これがいい方法とは思えなかった。
ヘクトルは、オデッセウスの前に出ようとした。
オデッセウスは譲らない。
「どうした?したくて俺を探しにきたのだろう?」
オデッセウスは、アキレスの足に手をかけると、その太腿に頬を摺り寄せた。
アキレスの手が、オデッセウスの巻き毛を掴んだ。
体ごと、引きずり上げた。
「オデッセウス、何をしたのか。何をしようとしているのか、分かっているのか?」
軍師の体が宙に浮くことはなかった。
オデッセウスは、砂に膝をついたまま、顔を寄せたアキレスと対峙していた。
髪はただ、顔を上向かせるためにつかまれたに過ぎない。
アキレスが膝を折っていた。
だが、アキレスの目は、オデッセウスに食いつかんばかりに、ぎらぎらと光っていた。
「わかっている。アキレス。だが、お前としたいと言っているんだ。どうした?見物人がいては、その気になれないか?」
アキレスは、オデッセウスの顔を両手で掴んだ。
罰しようとするように、強い力だった。
近づいた顔に、オデッセウスが唇を寄せた。
舌が、アキレスの結ばれた唇を舐めた。
アキレスは、青い目を煌かせ、じっとオデッセウスの顔を睨んだ。
「あの犬は、どうするんだ」
アキレスは、ヘクトルへと視線を投げた。
オデッセウスは、つまらないものでもみるように、ヘクトルを見た。
「もう、飽きた」
オデッセウスの言葉に、アキレスはにやりと笑った。
オデッセウスは、その顔を見ていた。
アキレスの笑みは次第に恐くなった。
声を上げて笑った。
アキレスは、オデッセウスを抱き上げると、ヘクトルへと投げつけた。
「抱いてやれ。この嘘つきに免じて、命だけは助けてやる。だたし、名誉を捨てていけ。お前は、俺の道具になって、この身体を抱いてやるんだ」
ヘクトルは、オデッセウスに無理やり腰の上に乗られることとなった。
オデッセウスと繋がったヘクトルの背後にアキレスが立った。
アキレスは、ヘクトルの頭に手をかけ、無理やり身体を前に倒させた。
座ったヘクトルの腰を跨いでいたオデッセウスは、毛皮の上に滑り込んだ。
オデッセウスと、ヘクトルの身体は繋がったままだ。
恐ろしい目をしたアキレスが、オデッセウスに笑いかけた。
オデッセウスは、ヘクトルの肩越しに見えるアキレスの顔を見上げた。
「何を…する気だ?」
怯えた目をしたオデッセウスに、アキレスの笑みが深まった。
青い目が、濃い色になり、とろりと怒りを含んだまま笑った。
「お前を抱いてやるんだ。安心しろ。満足させてやる」
アキレスの声は、低く獣のように獰猛だった。
オデッセウスの後ろは、ヘクトルのもので一杯だった。
この状況で、完全だとはいえなかったが、ヘクトルのものは、もともと大きく、これ以上、何かを飲み込むことなど、オデッセウスにはできなかった。
アキレスのものは、大きい。
絶対に、2人分など受け入れることができない。
「…無理だ」
オデッセウスは、首を振った。
「お前にそんな無理はさせない」
アキレスは、怒りに燃えた目をしたまま、口元だけで大きく笑った。
「お前にそんなことができないことなど、知っている」
アキレスは、怯えるオデッセウスの顔に触れた。
「こいつに名誉を、捨てさせる。だが、命までは取らない。…それで、いいだろう?オデッセウス」
ヘクトルを間に挟んで、2人は、勝手にヘクトルの処遇を決めていた。
ヘクトルの口出しを許さない。
だが、そうさせるだけの力をアキレスは有していた。
この状況で、ヘクトルの命を終らせることなど、簡単だ。
それを宥めることができるのは、オデッセウスだけだった。
アキレスの手が、ヘクトルの尻にかかった。
驚きに振り返るヘクトルの頭を押さえつけ、オデッセウスの肩に顔をつけさせた。
油をつけたらしい滑った勃起が、ヘクトルの尻を切り裂いていく。
「……・ぐううぅぅ」
ヘクトルは、うめいた。
痛みは、頭の先まで突き抜けるようだった。
ヘクトルの肩をオデッセウスが撫でた。
耳元に唇を寄せ、小さな声で囁く。
「我慢しろ。ここで死ぬわけに、いかないだろう?」
柔らかな唇が、ヘクトルの頬へ額へと、口付けを落とした。
だが、そんな小さな刺激を心地よいと感じている余裕が、ヘクトルにはなかった。
痛みだけが、身体を支配した。
オデッセウスの手がヘクトルの涙を拭う。
「オデッセウス。ヘクトルのものが使い物になるように、しっかり締め付けてやれ。それは、俺のだ。俺のだと思って、奉仕しろ」
小さくなったヘクトルのものを、オデッセウスは、腰を動かし、刺激を繰り返した。
痛みと、ショックに、ヘクトルのものは、なかなか回復しない。
それでも、ヘクトルのものは、それなりにオデッセウスを刺激することができた。
もともとの大きさがあった。
それを、オデッセウスが絞めた。
多少なりとも固くなっていれば、ヘクトルのものは、役目を果たすことができた。
ヘクトルの腰ごと揺さぶり、オデッセウスを突き上げるアキレスは、血を流すヘクトルの状態には全く気を使うことなく、オデッセウスにのみ集中した。
オデッセウスの足を掬い上げ、大きく開かせると、強く奥を突き上げた。
ヘクトルは、歯を食いしばって耐えたが、苦痛のうめきを押さえることができなかった。
オデッセウスは、同じうめきでも、甘く、声を吐き出した。
「ヘクトル。オデッセウスの尻を抱えろ」
背後から、恐い声が、ヘクトルに命令した。
下からは、オデッセウスが、懸命に目で訴えかけた。
ヘクトルは、動くことができなかった。
自分の身体がばらばらにならないよう、力をいれているだけで精一杯だった。
腕は、オデッセウスの脇についている以外のほかの仕事などできそうにもなかった。
だが、アキレスは、ヘクトルにもう一度命令した。
オデッセウスが、口を開いた。
「ヘクトル…もっと奥をやって欲しいんだ」
掠れた声が、ヘクトルに懇願した。
「尻を持ち上げてくれ。アキレスに向かって、もっと尻を高く上げたい」
アキレスの機嫌を損ねない方がいいことなど、分かっていた。
オデッセウスが自分から、足を抱きこみ、腰を高く上げた。
「持ち上げていてくれ、ヘクトル」
軍師が、ヘクトルに向かって、白い尻を開いた。
ヘクトルは、のろのろと尻の下に手を差し込んだ。
アキレスが、腰を叩き付ける。
ヘクトルごと、オデッセウスを揺さぶる。
酷い苦痛が、ヘクトルを襲った。
オデッセウスが、甘い声を上げた。
「…あまり、いい道具じゃないな」
散々、ヘクトルを揺さぶったアキレスが、履き捨てるように言った。
ヘクトルは、意識を失いそうになっていた。
酷い屈辱が、ヘクトルを襲っていた。
こんな不名誉な目にあったことはなかった。
「…お前が直接抱いてくれ。そうしてくれたら、俺は、もっと楽しめる」
掠れた声をしたオデッセウスは、アキレスに向かって、手を伸ばした。
懸命に、ヘクトルの足をさすってくれていたオデッセウスの手は、アキレスのものになった。
ヘクトルは、不名誉の海で溺れた。
辛うじて現実に繋ぎとめていたオデッセウスの手が、アキレスのものになり、ヘクトルには縋るものがなくなった。
とうとう、許す気になったのか、アキレスが、ヘクトルから抜いた。
内臓ごと引きずられるような気持ちの悪さと、切れた部分を擦られる痛みが、ヘクトルを襲う。
アキレスのものを抜かれたヘクトルは、壊れた人形のように、オデッセウスの上に倒れこんだ。
それを払いのけ、アキレスは、オデッセウスを胸に抱いた。
ヘクトルは、湿った毛皮の上に、転がった。
「…わかっているだろうな。お前の出方一つで、今からでもあいつを殺すぞ」
低いアキレスの声が、オデッセウスを脅した。
ちらりとヘクトルを見たアキレスの視線は、物理的な重さがあるのではないかと思うほど、強くヘクトルを圧迫した。
オデッセウスは、するりと腕を回して、アキレスを抱きしめた。
軍師は、ヘクトルのことなど忘れたかのように、ただ、アキレスを見つめていた。
「お前の好きに抱いてくれ。だが、ヘクトルは生かしておくんだ。あいつがトロイにいないと、この戦いが面白くなくなってしまう」
オデッセウスは、抱き寄せられるままに、足を大きく開いて、いままでヘクトルのものを咥えこんでいた部分へとアキレスを引き入れた。
「ああ…いい」
ため息と一緒に、オデッセウスは、アキレスの唇を貪った。
アキレスのものを奥まで咥えこんで、オデッセウスが、アキレスを抱いた。
満足そうに、瞳の色を緩めた。
「…なぁ、アキレス、殺すなよ。お前とあいつが噛み合うところは、さぞ、見物だろう?」
オデッセウスは、楽しそうな顔をして、アキレスに笑った。
最初から、危機などなかったという楽しげな笑いだった。
アキレスは、この軍師を抱き殺してやりたいと思った。
この男にこそ、名誉など相応しくない。
オデッセウスは、このこざかしい頭を使うことなしに、命の幕を下ろすことになれば、さぞ、くやしがり、アキレスを恨んだまま死ぬに違いない。
「お前こそ、一度、殺してやった方が良さそうだ」
アキレスは、オデッセウスの汗に濡れた髪を後ろへと撫でつけながら、激しく腰を打ちつけた。
声をオデッセウスが上げる。
恥かしげも無い声を、喉から絞り出す。
「アキレス!…アキレス!」
だが、アキレスには、この男を殺すことなど出来ない。
緑の目が、アキレスを捉えて離さない。
ヘクトルは、背中に触れる優しい手に気付いた。
オデッセウスは、アキレスに揺さぶられながら、放心したよう毛皮に転がったヘクトルの背に偶然のように触れた。
アキレスの目を盗み、優しく背中を撫でていった。
ヘクトルはもう動かすことなどできないと思っていた目を動かし、オデッセウスを見た。
喘ぎの合間に、オデッセウスの唇が動くのを見た。
「アキレスを殺せ」
「お前なら、きっとできる」
オデッセウスが、唇を引き上げ、ゆったりと笑った。
緑の目が、優しげにヘクトルを見た。
信じられなかった。
だが、これだから、この男が、ヘクトルは欲しいのだ。
ヘクトルは、身体に力が戻ってくるのを感じた。
「…何度も…お前に殺されている…」
オデッセウスのものが、アキレスの突き上げてに、とろとろと白い液を零した。
アキレスの腹に滑らかな先端が、ぬめりを擦り付けた。
「本当に、死ね。…いや、今度やったら、殺してやる!」
アキレスは、オデッセウスの尻を持ち上げ、ずぶずぶと犯した。
オデッセウスは、尻を振って喜んだ。
END
アキヘクオデの数珠繋ぎvvと、浮かれて書き始めたはずなのに、なんだか、陰惨なものになっちゃった気がしなくもなく…(苦笑)
もうちょっと、楽しげなものを書くようにしたいと思います。(笑)