贖罪
「入ってくればいい」
アキレスは、戸口に立ち、顔を覗かせたまま、様子を伺うオデッセウスに声をかけた。
アキレスの隣りには、甲斐甲斐しく世話を焼く、ブリセイスがいた。
「いいのか?」
オデッセウスは、まだ、顔に遠慮を貼り付けて、緑の目さえ、その色が判別できないような薄暗がりに立ったままだった。
「入ればいい。オデッセウス。この間のように、いきなり、剣を投げつけたりはしない」
「……傷の調子はどうだ?まだ、痛むか?」
オデッセウスは、まだ、戸口をくぐろうとしなかった。
アキレスは、汗を拭っていたブリセイスを退けると、テントから出て行くよう、外を指差した。
ブリセイスは、気紛れなアキレスの行動になれていた。
頷くと、盥を持ち上げ、オデッセウスとすれ違う。
オデッセウスは、ブリセイスの後姿を見送った。
アレキレスが顎をしゃくる。
「来いよ。俺が起き上がれるようになっているという位、もう知っているんだろうが、ここへ膝を付く程度の礼儀は示せ」
力強いアキレスの目に促され、オデッセウスは、テントの中へと足を踏み入れた。
アキレスが横になる毛皮近くの、砂へと膝を突く。
「…アキレス。その、まだ、傷は痛むのか?」
「どうせ、今日の昼間、俺が剣を振るっていたという報告を聞いたんだろう?だから、ここへ、来た。違うのか?オデッセウス」
アキレスは、強い視線で、オデッセウスを見上げた。
いつも快活な表情を浮かべているオデッセウスは、珍しくアキレスの顔から視線をそらした。
「……あの…な」
「いいわけはいい。まずは、謝れ。お前は、あの日、遊びが過ぎていた。いくら、へクトルが打ち出した戦術を面白く感じようとも、そして、いくら、俺の力を過信してくれようとお前の自由だが、俺の兵隊は、お前のおもちゃではない。8割の確立で死ぬようなおとりに使っていいような兵士を、俺は、一人たりとも、抱えてはいない」
「だが、あの場で、おとりになり、生き残れそうな兵と言えば…」
「いいか。オデッセウス。お前はわかっていただろう?あの場で、おとりを出す必要はなかった。俺がお前に戦術について語る必要などあるとは思えないが、あえて言わせてもらう。あの場で、おとりを出す必要などなかった。おとりを出されて感心するのは、へクトルだけだ。あそこには、お前の考え出した奇策を評価できるだけの頭がある奴など、へクトルしかいなかった」
伏せ身の顔のまま、アキレスの足ばかりを見つめているオデッセウスを、アキレスは強く睨んだ。
「そんなことをしなくとも、あの日の戦いは、ギリシャ軍の優勢のままで終った。そんなことは、オデッセウス、お前は百も承知だっただろう?」
アキレスは、オデッセウスの腕を引いた。
オデッセウスは、抵抗もせず、アキレスの上に倒れ込んだ。
「謝れ。オデッセウス。俺は、お前の命令に従ったばか者を助け出すために、傷を負った。剣を投げつけられただけで、許されるとは思っていないだろう?」
アキレスの力は強かった。
オデッセウスの掴まれた腕は、痛みを訴えた。
オデッセウスは、アキレスの体の上で何度か身じろぎした。
しかし、本気で逃げ出したそうではない。
アキレスは、オデッセウスが、気まずいはずの訪問を、こんな夜更けに、しかも、供も連れず、行ったわけに気付いていた。
「今日のお前は、俺にどうしても、許してもらわないといけないんだろう?」
アキレスは、体の位置をどうにかして変えようとするオデッセウスのキトンの下を探った。
にやり、と、アキレスは、笑った。
オデッセウスは、キトンの下に、何も身に付けていなかった。
滑らかな太腿を撫で上げれば、下腹部を覆う縮れ毛に指が触り、この状況にも関わらず、興奮しているペニスをそのままアキレスは手の中に納めることが出来た。
オデッセウスは、アキレスの愛人だ。
「許してくださいと、謝るか?オデッセウス」
硬くなり、アキレスの手を待ちわびていたオデッセウスのペニスは、アキレスに扱かれ、益々、その硬度を増す。
はっ、と息を吸い込んだオデッセウスは、しかし、アキレスに腰を突き出すようにして、何の邪魔もしなかった。
アキレスは、短い縮れ毛を撫で、うっすらと盛り上がったオデッセウスの腹の感触を楽しむ。
しかし、アキレスは、立ち上がり、刺激を待ちわびているオデッセウスのペニスには、最初の、二、三回を扱き上げただけで、まるで触れようとしなかった。
オデッセウスは、腰をアキレスの手に擦り付けようとする。
その柔らかな肌をアキレスの手が叩く。
「もう少し、恥らって見せたらどうだ?オデッセウス」
オデッセウスは、顔をそらした。
アキレスは、オデッセウスの腹を撫でた。
柔らかな腹は、早い呼吸に何度も動く。
「・・・オデッセウス。お前、あの時、本気で俺を殺す気だっただろう?」
アキレスの声は強かった。
仲間を助け出そうと、その身を投げ出したアキレスは、不名誉にも背中へとトロイの兵士から一撃を受けた。
オデッセウスは、一度出した命令を変更しようとはしなかった。
背中に大きな切り傷を受けながら、アキレスは、自軍へと味方を庇い、引きずっていった。
そうしなければ、おとりに出された兵は、決して故郷の妻の顔を見ることが出来なかっただろう。
その晩は、アキレスは、高熱を出し、うなされることとなった。
エウドロスに肩を借りるようにして陣地に戻ったアキレスの報告を受け、軍儀を終らせたオデッセウスは、慌てたようにアキレスのテントを訪ねた。
しかし、オデッセウスは、テントをくぐったのと同時に、アキレスから、剣を投げつけられた。
鞘に入ったものではない。
アキレスが戦場で用い、毎晩、切れ味を確かめながら、研ぐ、オデッセウスも、威力を知る太刀であった。
オデッセウスは、横に首を振った。
「じゃぁ、聞くが、オデッセウス、お前は、戦場において、俺が生きて戻ってくることを、考えながら作戦を決めているか?」
「・・・俺は、時々、お前が不死身だと勘違いしそうになるんだ」
アキレスは、オデッセウスの剥き出しになっている尻を撫でた。
尻は、アキレスの気紛れに備え、緊張感を残しているが、その感触を待ちわびていたように、アキレスの手に吸い付いた。
柔らかく揉むアキレスの手の動きに、オデッセウスが力を抜いていく。
手に中の肉の柔らかさに、アキレスは、呆れたようなため息を落とした。
「幾らでも、お前を構ってくれる奴なんかいるだろう?オデッセウス」
アキレスの目が、オデッセウスを見た。
オデッセウスは、このやり取りに対する答え方を知っていた。
「俺は、必要なもの以外は欲しくない」
「必要だと思っているものでも、時として、捨てようとする奴がよく言うものだ」
アキレスは、体の上に乗せていたオデッセウスを、乱暴に毛皮の上へと転がした。
「オデッセウス。いつも、いつも、俺が甘い顔ばかりすると思うな」
アキレスは、毛皮に埋もれるオデッセウスの首へと手を伸ばした。
キトンから伸びるすんなりした首を片手で、掴む。
オデッセウスの顔が、苦痛に歪んだ。
アキレスの力強さが、まず、オデッセウスに痛みを与えた。
次に、呼吸のできない辛さが、オデッセウスを襲う。
無意識にだったが、オデッセウスは、アキレスの腕へと爪を立てていた。
その程度の抵抗など、痛みすら感じないアキレスは、冷たい目をして、じっとオデッセウスを見下ろした。
オデッセウスは、大きく口を開けた。
幾ら口を開けようとも入ってこない空気に、肺が、痛みを訴える。
「お前は、自分の兵に何をさせていたんだ?俺が、お前の相手が出来るようになったならば、報告しろとでも、言っておいたのか?」
アキレスの力は緩まなかった。
オデッセウスの口がぱくぱくと苦しげに動く。
だが、アキレスは、オデッセウスが、どこまでも恥知らずな男であることを知っていた。
オデッセウスの顔は苦しそうだったが、目が、うっとりと潤んでいた。
オデッセウスは、アキレスにこうされることが好きなのだ。
オデッセウスに乗り上げているアキレスの腰へと、足が絡んだ。
捲れ上がってしまっているキトンの裾は、オデッセウスのペニスが、先ほどよりずっと濡れ、立ち上がっていることを隠すことも出来ずにいた。
「一度、本当に、死んでみるか?」
アキレスは、オデッセウスの顔色を確かめ、締め上げる力を僅かに抜きながら、緑の目を見つめた。
「俺は、あんたに、何度も殺されかけている。あんただって、俺に死ぬような目に合わされてみたいだろう?」
引き伸ばされる極限の苦痛に、オデッセウスは、恥じもなく、アキレスへとペニスを擦り付けた。
固くなったものは、ねっとりと先走りをアキレスの腿へと塗りつけていく。
「…こうされるのが、気持ちがいいんだろう?」
アキレスの問いかけに、オデッセウスは、小さく何度も頷いた。
オデッセウスのペニスの先から零れ出す粘ったものが、アキレスを濡らす。
オデッセウスの性癖は明らかにおかしかった。
確かに、アキレスは、もともと、乱暴なやり方をした。
しかし、それを更に誘導したオデッセウスは、己の満足を得るために、アキレスですら、好まない方向へと、2人のやり方を捻じ曲げていった。
この楽しみを、アキレスは、オデッセウスと共有できなかった。
アキレスは、命のやり取りは、戦場で嫌というほど体験してきた。
わざわざ、命を弄ぶ遊びに興じる趣味はない。
オデッセウスは、アキレスの腕に爪を立てながら、しきりに顔を振った。
涙が、目じりを伝っていく。
盛り上がった涙は、オデッセウスの喜びだった。
アキレスには、この頭のいい男が、真っ白になりつつあるはずの脳裏で何を考えているのかわからなかった。
オデッセウスは、擬似的にアキレスに殺されることを、何度でも望んだ。
やがて、オデッセウスの唇が色をなくし始め、瞳が、力を失い始めた。
アキレスは、首にかけた手を離した。
オデッセウスを毛皮の上で転がし、背中を強く叩いた。
「ゴホッ!」
ヒュウッっと、苦しげに空気を吸い込んだオデッセウスは、息を吹き返した。
ゴボゴボと咳き込み、毛皮をかきむしるようにして、辛そうに瞳からは涙を流した。
オデッセウスの股の間は濡れている。
オデッセウスは、あの苦しさの中で、射精していた。
その様は恍惚としており、アキレスにとって理解しがたいものだった。
べっとりと濡れた足の間を、アキレスは撫でた。
「気が済んだか?」
オデッセウスは、喉に、アキレスの指の跡を残したまま、うっすらと笑った。
まだ、苦しそうに胸で息をしていた。
「死に掛けた・・・」
声は、すっかりかすれていた。
耳に心地いい低音が、毛羽立っていた。
「いっそ、一思いに殺してやろうか?」
アキレスは、オデッセウスの顔を上から見下ろした。
うつぶせのまま、首をひねるようにして、アキレスを見上げていたオデッセウスは、唇をゆがめ意地の悪い顔をして笑った。
「お前に、俺が殺せるものか」
楽しげに笑うオデッセウスの短いキトンをめくり上げ、アキレスは、盛り上がった尻を叩いた。
ぱんっと、いい音がテントのなかで弾ける。
「このテントに入ってきた時の殊勝な態度はどこへいった」
アキレスは、逃げようとする尻を捕まえ、2つ、3つと、続けざまに打った。
白い尻は、すぐ赤くなった。
オデッセウスの口からは、苦痛の呻きが漏れた。
「やめろ!痛い!アキレス!!」
首を絞められるという苦痛以外には、まるで興味のないオデッセウスは、アキレスの手から、必死に逃げようとした。
「オデッセウス。お前は、俺を殺そうとした負い目があるはずだろう?」
「・・・それは、さっき、謝ったはずだ」
「いや、お前は、一度だって、謝りはしなかった」
アキレスは、オデッセウス尻をつかんで、その山を分けた。
「兵士は、俺のものが、もう役に立ちそうだと、お前に報告したんだろう?」
アキレスは、引っ張られることで横に広がったオデッセウスの尻穴に親指をねじ込んだ。
「ううっ!」
強引なアキレスに、オデッセウスは唇を噛んだ。
「こっちの楽しみも味わいたくて、お前はここに来たんだろう?」
アキレスは、オデッセウスの尻が強張っているのも無視して、強引に指を動かした。
ずぶりと押し込まれた瞬間の違和感をやり過ごせば、オデッセウスにとって、アキレスの親指では短すぎた。
揺すられる大きな尻は、物欲しげだった。
オデッセウスの視線が、アキレスの表情を読もうと、顔の上を検分していく。
アキレスは、どこまでも、貪欲な軍師を睨んだ。
「オデッセウス。お前は、いかれている」
アキレスは、オデッセウスの頭を押さえつけ、毛皮に押し付けた。
「間違いなく、お前は、おかしい。オデッセウス」
「・・・外にいる誰でもいい。聞いてみろ。アキレス。100人全てが、お前の方がいかれていると言うだろうさ」
オデッセウスは、笑っていた。
しかし、首を絞める相手に犯して欲しがるオデッセウスの性癖は、異常としか言いようがない。
「・・・人の命が重いのか?」
アキレスは、いつかも聞いたことのある質問をオデッセウスにぶつけた。
アキレスに押し付けられたオデッセウスの首を絞めるという仕事が、まだ、強い違和感のあった頃だ。
アキレスは、どこまでも挑発してくる軍師を、自分の指揮一つで、息絶える兵士の命の重みが辛いから、嘘でもいいから死にたいのだ。と、そういう形で理解しようとした。
あの時と、同じように、オデッセウスは、笑った。
緑の目は、まるでアキレスに底を覗かせなかった。
「アキレスは、まだ、傷が痛むらしいな。やはり、不名誉な背中の傷なだけに、直りが悪いらしい」
オデッセウスは、自分から、尻を浮かすような真似をした。
背中を反り返らせ、アキレスの親指をもっと深くまで飲み込もうとした。
アキレスは、多少の呆れと、苛立たしさを感じながら、軍師の望みを叶えた。
親指を引き抜き、オデッセウスの背後に回る。
足を広げようとした軍師の腿を蹴り上げ、もっと大きく幅を取らせた。
この時ばかりは、従順に、オデッセウスも頭を下げたまま、アキレスを待っている。
アキレスは、取り出したペニスを、オデッセウスの尻へと擦り付けた。
オデッセウスが、太ももを振るわせる。
赤い跡を残したうなじが、衝撃を待ち構えていた。
アキレスは、オデッセウス肩に手をかけ、前に逃げられぬようにすると、ペニスの先を、窄まった穴の上にあてがった。
「ううっ・・・ああ・・・んんっ・・・・」
ずぶずぶとめり込んでいく長大なものに、オデッセウスの腰が逃げようとする。
アキレスは、自分のペニスに添えていた手を離し、オデッセウスの腰を掴んだ。
肉付きのいい腰は、アキレスの指をその身に埋める。
アキレスは、ずるずるとオデッセウスの湿った穴の中を擦り上げながら、その背中に覆いかぶさった。
うなじにある指の跡に、唇を寄せた。
「オデッセウス。俺は、お前の役に立つな。俺一人いれば、他がいらないくらい、重宝しているだろう」
アキレスは、うなじに歯を立てた。
オデッセウスは、体に力を入れた。
アキレスのものをくわえ込んでいる肉の輪が強く締まった。
「そんなに力を入れて締め上げるな。俺は、お前みたいに苦しくなるまで締め付けられて喜ぶ趣味はないんだ」
アキレスは、オデッセウスの背中から、体を起こし、強く腰を打ちつけた。
ぬめる肉壁が、アキレスのものに絡みつく。
湿った後腔は、待ちわびていたようにアキレスを締め付け、放そうとはしなかった。
「ひうっ・・・あっ・・・んっ・・」
オデッセウスは、一突きごとに、衝撃で揺れる頭を上げ、声を押し出す。
かくんと落ちる頭は、口を開けたまま、赤い舌をアキレスに見せた。
「お前の兵士が報告した程度には、俺は回復しているだろう?」
アキレスは、軍師の腰を捕らえたまま、激しく軍師を揺さぶった。
軍師の柔らかな体は、鍛え上げたというには、余分についた肉を震わせ、アキレスの動きに翻弄された。
「お前を満足させているか?」
アキレスは、使い慣れた道具のように自分を扱う軍師を、毛皮の上に押し付けた。
背中を手で押さえつけ、獣のように見下ろした。
「お前は、最初から、俺に謝ろうという気はなかっただろう。オデッセウス」
アキレスは、オデッセウスの口から、声を挙げさせ続けた。
しかし、オデッセウスは、意味のある言葉など、しゃべらない。
アキレスは、また、自分だけ、射精するオデッセウスの背中に、背中に爪を立てた。
自分が受けた傷と同じだけ、長く、爪は跡を残す。
アキレスは、自分が、とてもオデッセウスにとって役に立つ人間だということを理解していた。
なくなれば困る。程度のことはこの軍師でも思う。と、そう考え、口元に笑いを浮かべた。
END
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