かぐや姫
むかし、むかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。
おじいさんの名は、アガメムノン。おばあさんの名はメネラオスといいました。
この2人は、竹を取って生活をたてておりました。
ある日のことです。
2人がいつものように、竹を取りに山に入ると、一本の光る竹があるではありませんか。
正直でも、無欲でもない2人は、すぐさま竹を叩き割りました。
先を争うようにして、竹の中を覗き込みます。
するとなかから、巻き毛のなんともかわいらしい赤ん坊が出てきました。
赤ん坊は、後光が差すような美しい顔立ちをして、実際、ぴかぴかと光る金貨の上に座っていました。
アガメムノンと、メネラオスは大喜びです。
金貨も勿論でしたが、賢そうな緑の目をしたかわいらしい赤ん坊に、一目で心を奪われてしまったのです。
赤ん坊をうちへと連れて帰った二人は、大事に、大事にその子、オデッセウスを育てました。
にこりと笑う顔が大変かわいらしい赤子です。
2人は貧乏でしたが、幸い、オデッセウスと一緒に手に入れた金貨がありましたので、お金に困るということがありませんでした。
すくすくと育つオデッセウスは、人の子にしては、早く大きくなり、直ぐに話すようになり、歩くようになりました。
遊びのついでに、近くの野山を見て回り、ここにブドウ畑を作るといいとか、この水路は、水の動きが悪いから、引きなおしたほうがいいなどと言って、アガメムノンと、メネラオスを驚かせました。
どこに罠をかけると効率的に獲物が取れるかということも教えます。
オデッセウスにはどんな風に世界が見えているのか、言う事の全てが、とても正確で無駄がありません。
そんなオデッセウスは、2人が生業としていた竹で地域産業を起こし、竹取の翁印の竹製品を作り上げました。
一大ブームです。
その製品は、多岐にわたります。
うちわ。箸。竹垣。花器。
この花器は、独特のセンスが受けて、大変好評でした。
勿論、炭も作りました。
オデッセウスは、ついでに、安眠竹炭枕や、竹酢酸を売り出し、健康ブームに火をつけました。
青竹踏みも作っています。
それが、ことごとく当たるのです。
アガメムノンと、メネラオスの2人は、すっかり金持ちになりました。
そして、生活の苦しさから、出しようのなかったがめつさが、表面に押し出されるようになりました。
新しく建てられた竹取の翁の家は、どこのお大臣様の家かというようなすばらしい豪邸です。
今の2人は、この世の春とか、左団扇というやつでした。
その頃には、すっかりオデッセウスも年頃になっておりました。
もともと美しかった顔が、年を経て、色気が増し、周り中の男が放っておかないほどのすばらしい美貌になりました。
求婚者が引きをきりません。
竹取の翁の屋敷には、オデッセウスを嫁に欲しがる男たちの長い列ができました。
それを、また、オデッセウスと、アガメムノン・メネラオスの2人組は金儲けのチャンスと受け取りました。
オデッセウスは、全ての求婚者に対して、嫁取りにエントリーするだけで、参加料を求め、手紙を渡すにも、贈り物を贈るにも金をとりました。
それも小額ではありません。
この厳しい条件に、大抵のものは脱落していきました。
とうとう、相当の金持ちである3名の男を残すだけとなり、オデッセウスを求める男たちの戦いは最終ステージとなりました。
オデッセウスの前に、容姿はどうあれ、金だけはたっぷりと持った男が並びます。
いえ、ありがたいことに、一人だけ、男前の美丈夫が混じっていました。
トロイという村の大地主の長子、ヘクトルです。
オデッセウスは金にもうるさかったのですが、面食いでもありましたので、御簾越しに並んだ男たちの中に、ヘクトルをみつけ、ほっとしました。
けれども、まだ、嫁に行く気もありません。
オデッセウスは、男たちに、3つの望みを伝えました。
それをかなえてくれたもののところに、嫁ぐという全くうそっぱちな約束をしました。
望みは、こうです。
1、 自動で動く戦車がほしい。
2、 一粒で、100人の戦士を生み出す豆のタネがほしい。
3、 いくら食べても次の日には、もう一度、元通りになる豚の骨がほしい。
オデッセウスは、竹取の翁を中心とした、この村の独立を考えていました。
福祉制度などなきに等しいにもかかわらず、この国は、税金が高かったからです。
その足がかりとして、兵士の訓練を密かに進めていましたが、もともとはただの農民ですから、なかなか上手くはすすみません。
おまけに農耕期になると、忙しくて訓練どころではないのです。
オデッセウスは、にっこりと微笑み、チャレンジャーたちに望みの成就を願いました。
嫁になど行く気の無いオデッセウスの望みは殆ど実現不可能です。
けれども、叶えば儲けのもというものです。
チャレンジャーたちは、誘うように笑うオデッセウスの笑顔に釣り込まれるように頷きました。
チャレンジャーの一人であるヘクトルは、市場に来ていました。
いえ、ヘクトルだって、他のチャレンジャーと同じように冒険の旅に出るつもりでした。
一人が、幻のカリブの島へ向かって、嵐に飲まれたという話を聞いておりました。
もう一人が、砂漠を渡ろうと、いなごの大群に襲われたことだって知っていました。
ヘクトルだって、オデッセウスの望みを叶えてやる為に、命を掛けて冒険の旅に出ようと決心していたのです。
けれども、ヘクトルには、一つ問題がありました。
小うるさい弟がいたのです。
今もいます。
この弟が何を思ったのか、ヘクトルについて行くと言ったため、ヘクトルの冒険は、最初から頓挫しました。
家の者だけでなく、村のものからも恐ろしく愛されているパリスを皆が引きとめました。
けれども、パリスは絶対にヘクトルについて行くと言うのです。
一度言い出したらきかないパリスに、皆は、ヘクトルの方を説得しようとします。
「兄上、足が痛い」
それでもなんとか、村からでて、1時間も歩かないうちに、パリスが泣き言を言いました。
「じゃぁ、もう、家に帰れ。父上もお前が一緒に出かけることを酷く心配しておられた」
この弟を説き伏せようと、ヘクトルは出発の前にもう、2週間も時間を使っていました。
結局、言う事をきかすことができず、付いてきています。
「そんなのズルイよ。俺は、兄上と一緒に行きたいんだもん。どこまで行くのさ。ねぇ、もう、冒険に行くのは止めようよ。それより、市場に行こう。きっと、あそこに行けば、なんでも買える」
とんでもないことを言い出したパリスは、どんなに引っ張ろうとも地べたに座り込み、動こうとしませんでした。
ヘクトルの眉間には深い皺が寄ります。
「いいじゃん。いいじゃん。買ったって言わなきゃ、わかんない。わかんない。市場に行けば、大抵のものはそろうんだから、近場で買って行こうよ。それが正しい頭の使い方っていうもんだって。兄上は、知らないかもしれないけど、俺、ちょっと、市場じゃ顔だから、変わったものでも手に入るよ」
パリスが、市場で顔なのは、そこに集う女たちに人気があるせいです。
幅広く女を愛することのできるパリスは、昨日花売りを始めた少女から、すっかり市場の顔役となっている古女房まで、うまく転がして、楽しい毎日を送っているのです。
ヘクトルは、どんどん深くなっていく眉間の皺を気にしながら、とりあえず市場へと行くことを決めました。
市場へさえ行ってしまえば、どこかの女にふらふらと付いて行くに決まっているパリスを置いて、一人で旅に出ようと決めたのです。
市場に行くことを告げると、パリスはすっと、立ち上がりました。
痛かったはずの足が、すたすたと歩を進めます。
ヘクトルは、更に眉間の皺が深くなりました。
そのうち、ヘクトルは世界1、苦悩の似合う男として、銅像になるかもしれません。
「兄上!ほら、ほら、これ!やっぱり、ここに売ってるじゃん!!」
市場には、本当に何でも売っていました。
ヘクトルの思ってもいなかったものが、沢山並んでいます。
蓬莱の枝も売っていました。
火ねずみの皮も売っていました。
でも、多分、偽者です。モロ偽者くさいです。
…そして、やっぱり、一粒で100人の戦士が飛び出す豆も売っていました。
しかも5粒入りです。
パリスが、胸を張って威張っています。
「お姉ェさん。ほかにも、いくら食べても次の日には、元通りになる豚の骨って置いてない?」
パリスは、どう見ても、おばさんでしかない女性に向かって微笑みました。
おばさんは、机の下から、すぐさま骨を取り出します。
笑顔です。
そうとう胡散臭いです。
「じゃぁ、一人で動く戦車ってのは、ないかなぁ?」
さすがに、これは、置いてないのか、おばさんは、店の中を見回して、関係の無いものを勧めだしました。
パリスが要らないと言うと、今度は、店の紹介をして紹介料を取っています。
ヘクトルは、どう考えても偽者に、お金を払いました。
もう、この店から立ち去りたかったのです。
パリスは、好みの女がいないのか、まだ、ヘクトルについてきていました。
ヘクトルは、仕方なく、紹介された店に向かいます。
途中、東洋の不思議な細工ものを扱う店がありました。
精巧なからくりは、自動で走る戦車を模したおもちゃもあります。
ヘクトルは、慰みに一つ買いました。
値段は、先ほどの店の買い物の10倍以上しました。
しかし、面白いつくりです。
ヘクトルは、オデッセウスへの土産として、大事に懐へとしまいました。
やはり、パリスの紹介された店は、どう考えても胡散臭かったです。
市場で買い物を済ませたヘクトルとパリスは、その後、父であるプリアモスが倒れたというニュースを手に走りこんできた家のものに、拉致られ、家へと連れ戻されました。
かわいいパリスを旅に出すことに耐えられなくなったプリアモスの嘘です。
パリスは、自分が行けないのなら、絶対に兄上も旅に出るなと言い張りました。
そうこうして、揉めているうちに、オデッセウスとの約束の日がきてしまいました。
ヘクトルは、どうにも胡散臭い5粒入りの豆と、豚の骨を手に、竹取の翁の屋敷へと参上することになってしまいました。
もう、オデッセウスを嫁に取ることは諦めています。
せめて、土産の戦車だけは、渡そうと懐にいれたまま屋敷にあがりました。
それが、ヘクトルに一発逆転のチャンスを与えました。
カリブの島を求め、海に沈んだものの家の者には、悔やみの言葉を。
砂漠でいなごに襲われ、命からがら戻ったものには、侮蔑の言葉を。
オデッセウスは、それぞれに、見合った評価を与え、ヘクトルの前で、にこりと笑顔を見せました。
「で、お前は?」
ヘクトルは、5粒入りの豆と、豚の骨を差し出しました。
オデッセウスが、にやりと目を細めます。
「ヘクトル、この骨は、お前の家で、豚に変わったか?」
ヘクトルは、笑いながら首を振りました。
「変わるわけがない。オデッセウス。変わるのならば、今日ここに持ってきているのは、豚のはずじゃないか?」
オデッセウスは、反応のいいヘクトルに嬉しそうな顔をしました。
「では、この豆は、どう使うんだ?どうしたら、100人の戦士になる?」
「さぁ?庭に埋めたら、天まで伸びるかもしれないが、100人の戦士にはならないだろうさ」
ヘクトルは、正直に市場で買ったことを打ち明けました。
ついでに、懐から、戦車のオモチャを取り出します。
「これだけは、オデッセウスを楽しますことができるだろう。ぜんまいもなにも無いんだ。東洋のからくりというものが使われているそうだ」
オデッセウスは、床を走る戦車のオモチャに目を輝かせました。
精巧で美しい戦車は、床に置くと、正確に動き、止まります。
「ヘクトル、あんたは、なかなか面白い。約束をかなえてくれたわけではないから、嫁に行くことはできないが、しばらくここで遊んでいくがいい」
ヘクトルは、オデッセウスから、恋人の立場を授かることができました。
ヘクトルがオデッセウスの屋敷で暮らすようになって、1ヶ月。
オデッセウスの価値を下げたくないアガメムノンとメネラオスによって、外部には全くヘクトルの存在は漏れていませんでしたが、二人は結構仲良く暮らしていました。
もともと、2人とも、頭を使うことの好きなタイプです。
オデッセウスの考え出した事業を大きくすることを考えているのは、ヘクトルにとっても楽しい作業です。
改善できる箇所を探し、事業の効率を良くし、新しいことを考え、それを軌道にのせる。
似たもの同士の二人は、仲良く頭を突き合わせます。
「ヘクトル」
名を呼んで、オデッセウスがヘクトルの意見を聞くため追い回します。
ヘクトルは優しく微笑んで、オデッセウスの話を聞きます。
2人は、体の相性も合いました。
ヘクトルは優しく、初めてだったオデッセウスにとって、全く問題のない相手でした。
穏やかで、満たされたセックスに、オデッセウスは益々花開いていきます。
ヘクトルのセックスは、必ずキスから始まりました。
啄ばむような優しい口付けが、オデッセウスの柔らかな唇に何度も繰り返されます。
「オデッセウス」
ざらついた声が、オデッセウスの名を甘く呼びます。
オデッセウスは、擽ったそうな目をしてヘクトルを見つめながら、ヘクトルの腰に足を回しました。
積極的なオデッセウスの行為にヘクトルは、オデッセウスの髪を撫でます。
オデッセウスが頬をすり寄せます。
「なぁ、ヘクトル。あの谷を利用して、要塞を築くってのは、どうだろう?」
首筋に口付けられながら、オデッセウスは、ヘクトルに軍備の増強について相談しました。
ヘクトルは苦笑します。
大抵、いつもこんな調子です。
このオデッセウスを時間をかけ、蕩かしていくのがヘクトルの仕事です。
ヘクトルは、オデッセウスの胸にキスをし、腹を舌で辿り、すっかり舐められることが好きになった部分に舌を這わせます。
オデッセウスの口が余計なことを話さなくなります。
「…もっと…ヘクトル」
甘えられることに、ヘクトルは慣れています。
その要求を叶えることも、嫌いではありません。
ヘクトルは、穴の中に舌を差し入れて、オデッセウスがすっかりトロトロになるまで舐め溶かしました。
もっと、もっととねだるオデッセウスは、舌ではなく、別のものを欲しがっています。
濡れた緑の目にじっと見つめられ、ヘクトルは、優しく額へとキスをしました。
「オデッセウス」
本当にそうやって名を呼ばれるのがすきなのでしょう。
オデッセウスはうっとりとした顔をして、ヘクトルに向かって大きく足を開きました。
ずぶずぶと埋め込まれるものに、オデッセウスが歓喜の声を上げます。
ヘクトルとオデッセウスがすっかりねんごろになっているというのに、強欲なアガメムノンとメネラオスは、オデッセウスの求婚者を未だ受付けていました。
数々の求婚者が諦めた美女という噂は、都まで届いています。
貴族たちも、竹取のかぐや姫にのぼせ上がっています。
とうとう、帝がオデッセウスを献上するようにと言い出しました。
アガメムノンとメネラオスは、がっぽり、帝、アキレスから、嫁取りのエントリー料を毟り取りました。
何も知らずにヘクトルトと楽しく地場産業の育成やら、軍備の増強をはかっていたオデッセウスは、気付いたら崖ッ淵まで追い詰められていました。
金を取るだけで、文一つ返さないオデッセウスに、帝その人が出陣してきたのです。
帝であるアキレスが動くということは、大帝を守る兵も動きます。
竹取の里は、アキレスの軍に、ぐるりと取り囲まれました。
青くなるアガメムノンとメネラオスを他所に、しかし、オデッセウスは、にやりと笑いました。
策を弄したこの竹取の里が簡単に攻め入れるとは思えなかったのです。
オデッセウスの指示で、谷の橋は、すぐさま落とされました。
これでもう、川を渡ることはできません。
オデッセウスは、灌漑農業を進めていました。
そのついでに、治岸工事もしたのです。
険しい谷は、簡単にはアキレスの兵を竹取の里へと入らせませんでした。
そこを越えても、まだ、竹林には様々な罠が仕掛けてあります。
何人もの兵が、竹を利用した罠に、天高く吊り上げられました。
結構、ヘクトルト仲良く過ごしていたオデッセウスは、全くアキレスの下へ、上がる気はありませんでした。
容赦のない攻撃が続きます。
「おい、お前ら、なにをもたもたとしてるんだ。こんな山里を攻め取れないなんて、天兵の名が泣くぞ!」
直ぐ側に、オデッセウスのいる竹取の里があるというのに、近づけないアキレスは苛立ちます。
この帝、幼少より気性が激しいので有名でした。
美しい母、テティスの前でだけは、帝然と振舞うのですが、普段は、荒くれ者の兵士とあまり違いがありません。
あまりに攻めあぐねる兵士たちにすっかり頭に血の上ったアキレスは、とうとう自分が先頭に立って兵士を指揮し始めました。
この男、戦いに対する恐ろしい才能をもっています。
数々の仕掛けさえ超えてしまえば、この里が人的軍備の弱いことを見抜いていました。
まず、馬を走らせ、罠の位置を確認すると、剣を片手に切り込んでいきます。
竹取の里の兵士は、すこしばかり剣と弓を習っただけの農民に過ぎません。
生まれた時から、鍛え上げてきたアキレスに適うはずなどないのです。
逃げ出す農民を、オデッセウスは許しました。
心の中で、小さく舌打ちくらいはしましたが、ヘクトルに別れを言って、アキレスの前に姿を現しました。
その美しさに、身体を血で汚したアキレスが息を飲みます。
「アキレス、私は、誰の下へも嫁ぐことはできないのだ。父上と、母上にも話してはいなかったが、明日の満月には、月よりの迎えが来て、帰らなければならない」
ヘクトルが、眉間に皺を寄せ悲しげにオデッセウスを見つめました。
金づるのいなくなるアガメムノンとメネラオスも涙を浮かべてオデッセウスを見ました。
アキレスだけが、オデッセウスを鼻で笑います。
「では、その迎えを返り討ちにしてやろう。本当に来るのならばな!」
アキレスは、様々なトラップを仕掛けた犯人が、オデッセウスであると見抜いていました。
この里には、オデッセウスや、ヘクトルを除くと、知略に長けた顔をした人間がいません。
アキレスは、兵で竹取の屋敷を囲むと、じっくりと腰を下ろしました。
オデッセウスの言った事など、欠片も信じていません。
翌晩。
空には満月が輝いていました。
ヘクトルとは今生の別れを交わし、親の情を思い出したアガメムノンとメネラオスとも別れを惜しんだオデッセウスは、アキレスの前に姿を現しました。
じっくりと見たオデッセウスの姿は、輝くばかりの美しさでした。
しかし、噂よりもすこしふっくらとしています。
それは、肌に張りを与え、思わず触ってみたくなるような艶やかさでした。
アキレスは舐めるようにオデッセウスを眺めます。
「アキレス、兵に弓引かせたところで無駄だぞ」
オデッセウスは、アキレスに向かって笑いました。
楽しそうなオデッセウスの笑顔は都の兵をも骨抜きにします。
あれほど、手ひどい目に合わされたというのにメロメロです。
「天に弓引いたところで、自分に降りかかるのがオチだ」
アキレスは、オデッセウスの言葉など聞いておらず、むっちりとした体ばかりを見つめていました。
滑らかな体のラインです。
オデッセウスが太ったのは、ヘクトルが甘やかしたせいでした。
もともと、甘えた性質の弟がいるヘクトルは、オデッセウスを甘やかさずにはいられませんでした。
つい、喜んで食べる甘い菓子を与えてしまいます。
2人の間では、オデッセウスの体重が増えていくことはなんの問題もありませんでした。
もともと、ヘクトルはオデッセウスを痩せすぎだと思っていました。
アキレスにとっても、問題ないようです。
目が、いやらしくオデッセウスの身体を這いまわっています。
「帝!!」
月から、長い行列が降りてきました。
羽衣をつけた天女が空を舞います。
嘘だとばかり思っていたオデッセウスの言葉が本当になり、都の兵は慌てました。
アキレスが、弓を引くよう大きな声を出します。
しかし、月の光が辺りを強く照らし出し、誰一人、動くことが適いません。
一片の雲がオデッセウスの足もとで留まりました。
大きく目を見開いたアキレスの前で、オデッセウスが雲に乗ります。
優雅に頭を下げました。
しかし、口元には勝ち誇ったような笑いが張り付いています。
「さようなら、アキレス。残念だったな」
雲がふわりと浮き上がりました。
……大変なことです。
重量オーバーのため、オデッセウスは地上に残されてしまいました。
オデッセウスも、目を白黒させています。
迎えに来た月の使者達も困っています。
羽衣でも無理でした。
御車が用意されました。
きっと、これならば、オデッセウスを運べます。
しかし、その頃には、月の魔力を押し退けたアキレスが、ぎりぎりと弓を引いていました。
恐ろしい強弓です。
「失せろ!!」
アキレスの弓が、月の使者達を威嚇しました。
すざまじい轟音を立てた矢が、襲い掛かります。
月の使者達は、慌てて逃げ帰ってしまいました。
オデッセウスは取り残されてしまいます。
「残念だったな。オデセウス」
アキレスが、取り残されたオデッセウスに向かって意地悪く笑いました。
「その体、俺にはぴったりのようだが、月の生活には向かないみたいだな」
アキレスの目がにやにやとオデッセウスの体のラインを辿ります。
オデッセウスは節制を怠った自分を少し恨みました。
しかし、そうなってしまったものは仕方がありません。
気持ちの切り替えは早いオデッセウスでした。
そして、すこしだけ、オデッセウスは、アキレスに惹かれる部分がありました。
「アキレス。本当に、私に嫁に来て欲しいのか?」
オデッセウスはあくまで高い位置に立ってアキレスと話をしました。
傲慢に顎を上げています。
「ああ、来い。どうせ、俺の兵力が目当てなのだろう?」
アキレスは、自分のことを過信するような性格ではありませんでした。
オデッセウスの興味がある部分を見抜いています。
「オデッセウス、何事も、親になったほうが儲けが大きいと思わないか?」
アキレスは、こんなちっぽけな独立国を作るより、天帝の嫁として、国全体を操ることのほうが面白く、身入りも大きいということを笑ってオデッセウスに告げました。
オデッセウスは、そのとおりだと思いました。
国の頂点に上り詰めれば、税金など搾取されません。
それどころか、搾取する立場です。
ちらりとヘクトルのことが頭を掠めました。
オデッセウスは、遠慮という言葉を知りませんでした。
「一人一緒に連れて行きたい人物が…」
「わかった。まとめて面倒を見てやる。どうせ、そいつを連れて行かないと、ここが都に対する反対勢力の根城になることは間違いない」
こうして、愛人付きで、オデッセウスは都へと上がることになりました。
オデッセウスは、金儲けが好きでしたが、けちではありませんでしたので、善政に国のものは喜びました。
アキレスと、オデッセウス、そしてヘクトルの三角関係はまずまず良好です。
オデッセウスがアキレスと違い、優しいヘクトルを大事にしていましたし、なにより頭のいいヘクトルは、次々に新しい政策を切り出し、国にとって、無くてはならない人物としての地位を固めておりました。
アキレスだけが、すこしつまらなく思っています。
けれど、閨でオデッセウスに甘えかかられると、アキレスもすっかりメロメロになっており、それは殆ど問題のないことなのでした。
END
BACK
とうとう昔話…(苦笑)
すみません。オデが太ってるってことになってるのは、私が好きだからです。
映画のなかじゃ、周りが強屈な戦士ばかりのせいか、華奢にすら見えましたね(苦笑)
かわいこちゃんで困っちゃいます。