ハルメーンの笛吹き

 

昔々の話です。

ある村を2人の領主が治めていました。

勿論、二つの家は激しく対立しています。

一つは、ギリシャ家。

ここの主は、アガメムノンといいまして、大変エネルギッシュなオヤジでした。

もう一つは、トロイ家。

こちらの主は、たいへんかわいらしいおじいちゃんでしたが、ちょっと天然ボケが入った、とても熱心な宗教家でした。

さて、この両家には、それぞれ、子供たちがいましたが、今回の場合、トロイ家の下の息子が問題を引き起こしました。

大変容姿が美しく、頭にお花の咲いたトロイ家の下の息子、パリスは、長兄でないのをいいことに、随分甘やかされて育ちました。

我慢するということを知りません。

パリスは、女性であれば、誰でも好きでしたし、好みのタイプとなると、もう、どんな障害を乗り越えようとも愛を囁かずにはいられないというかわいそうな病に取り付かれていました。

 

「ねぇ、ヘレン。君以上に綺麗な人はいないよ。こんなところで、くすぶってないで、僕と一緒に行こう。その方が楽しいに決まっている」

パリスは、借金の形に、アガメムノンのところへと後妻に入った美しい人妻、ヘレンを口説いています。

ヘレンの金髪をかき上げ、項にキスをします。

黒い瞳をしっとりと濡らし、情熱的です。

アガメムノン家の寝室です。

アガメムノンは、会議のために、隣の村まで出かけていました。

ヘレンは、鏡越しに美しい愛人を見つめてうっとりとしていました。

パリスほど美しい青年はなかなかいませんでした。

その彼が猛烈に求愛してきた時には、ヘレンは、借金の形にジジイの元へと嫁がねばならなかった可愛そうな私に、神様がすてきなプレゼントを下さったのだと思ったものです。

しかし、ヘレンは、パリスの頭の悪い発言に興ざめしてしました。

ヘレンにとってパリスとのことは、ちょっとつまみ食いという程度のことでした。

が、それは、ヘレンだけの思い込みだったようです。

パリスの目が夢見るように、きらきらと輝いています。

「ヘレン…」

ヘレンは、とても淋しげな顔をして笑いました。

パリスが、夫と仲の悪いトロイ家の人間であることも、今までは、スリリングでした。

けれども、人生設計はもとより、明日のことさえ覚束なさそうなパリスに、一緒に行こうなどと誘われる事態となった今では、困りものでした。

下手に別れ話が拗れて、夫にばれたなどということになったら、大変です。

「だめよ。パリス。私には夫がいるの」

ヘレンは、髪に触れるパリスの手に頬擦りをしました。

頬に触る感触が、自分の肌より滑らかなのが気になります。

「だけれどもヘレン。僕は君を愛している。君だって、僕を愛してくれている。そうだろう?ヘレン」

明日食べるパンのことすら心配したことのなさそうなパリスが、甘い声で囁きます。

パリスは、ヘレンを背後から抱きしめ、髪へと頬を擦り付けました。

鏡にアップになったパリスの顔が、ヘレンと並びます。

ヘレンは、すこし、視線を反らしました。

わずかにですが、負けたという気がしなくもなかったのです。

「無理だわ。パリス。そんなこと、夫が許してくれない。私、行くところがなくなってしまうわ」

ヘレンは、上手いこと言ってパリスを丸め込むつもりでした。

パリスを振り返り、柔らかな頬にキスをします。

「…じゃぁ、僕の家に行こう。君をきっと幸せにする。僕以上に、君を愛している奴なんていやしないんだ」

ヘレンは、情熱的に口説くパリスに、すこしだけほだされていました。

トロイ家に行くのなんて御免こうむりたかったのですが、後、一回くらいなら、エッチをしてもいいかなぁ…なんて考えています。

2人は、キスをして、もつれ合うようにベッドへと移動しました。

なんと言っても、ヘレンは若い身空です。そして、アガメムノンは、脂ぎってはいましたが、やはりジジイには違いありませんでした。

パリスが、ヘレンのリードを嫌がらないのも良かったのです。

じっくりと、ねっとりと愛されるのに慣れているヘレンは、パリスのやり方では、満足できませんでした。

パリスは、ヘレンのリードを嫌がりません。

ヘレンは、パリスの腹の上に乗り上げました。

そして、そこに、夫、アガメムノンが帰ってきました。

 

ほうほうの体で逃げ出したヘレンとパリスに、やはり行く先などなく、2人はトロイ家に逃げ込みました。

ギリシャ家の後妻を攫ってきたパリスに、パリスの兄、ヘクトルは、顔面を蒼白にして、怒りました。

「何を考えているんだ!お前は!!」

パリスは、目をうるうるとさせ、怒りに震える兄に縋りつきます。

「ごめんなさい。兄上、でも、僕、ヘレンを愛してるんだ!」

愛していれば何をしても許されるというわけではありません。

しかし、パリスの父、プリアモスは、にっこりと笑いました。

「今朝、夢の中に鷲が飛んだ。ヘレンは我が家に幸福をもたらしてくれるだろう」

よく分からない理由で、ヘレンを温かく迎え入れてくれます。

実質、トロイ家を取り仕切っているのはヘクトルでした。

けれども、まだ、家の者は、プリアモスの言に重きを置いていました。

ヘレンは、トロイ家に迎え入れられました。

勿論、ギリシャ家のアガメムノンが黙ってはいません。

 

ギリシャ家と、トロイ家はお互いの領地の境目で、何度か話し合いを持ちました。

つまり野っ原でです。

変にオープンな気質のため、領民たちの前でお互いの家の恥を晒しています。

「うちの嫁を返してもらおう!!」

アガメムノンは、青筋を立てて、怒鳴りました。

「いや、彼女は美しい。お前のようなブ男より、うちのパリスにこそ相応しい」

プリアモスは、夢見るような青い瞳をぱっちりと開いたまま、理屈にもならない理由で、アガメムノンに返事を返します。

「何を言う!この耄碌ジジイ!」

アガメムノンもジジイには違いありません。

「鷲が飛んだのだ。ヘレンはトロイ家に嫁ぐのが正しい」

周りにいる領民は、プリアモスがボケたのではないかと心配そうに見ています。

アガメムノンは、鼻息も荒く、青い衣を着たプリアモスを睨みつけました。

プリアモスも、さすがはトロイ家の主です。たたり神のようなアガメムノンの剣呑な目で睨みつけられても、つんと、済ました顔を止めようとはしませんでした。

領民は、乱闘になるのではと、固唾を飲んで見守りました。

楽しみの少ない時代です。

すこしばかり、期待もしています。

「プリアモス、どうしてもヘレンを返さない気だというのだな?」

アガメムノンが、最終カードをきりました。

「ヘレンは、うちの可愛い嫁だ。お前になど返さなければならない理由がない」

プリアモスは、ヘクトルの嫁と、パリスの嫁、両方から「お父様」と呼ばれる今の生活が、ちょっぴり気に入っていました。

2人ともとても、優しいのです。

「そうか、そちらの態度はよくわかった」

とうとう交渉は決裂しました。

「しかし、これで済むと思うなよ」

アガメムノンは、自分の顔に泥を塗られて、大人しく引き下がるような男ではありませんでした。

 

アガメムノンは、密かにトロイの領地へとねずみを放ちました。

ねずみは、トロイの領地の作物を食い荒らします。

どんなに追い払っても、倉庫に入り込み、蓄えてあった穀物を荒らし、それでも足りず、畑まで荒らしました。

トロイ領は大打撃です。

しかし、ねずみは、やはりねずみなだけに、ねずみ算式に増えていきました。

トロイの食料を食い荒らし、ドンドン数を増やしていきます。

そして、ついにはトロイの領地だけでは、食料が足りなくなってきました。

ギリシャ家の領地に入り込みます。

更に、数が増え始めました。

アガメムノンは慌てました。

しかし、ねずみは容赦なく増えていきます。

 

そんな時、あの男が現れました。

笛を片手に、とても朗らかに笑います。

 

「御領主殿。ねずみに困っておられるご様子。私が、この笛でねずみを退治して見せましょう。それで、金額の相談なのですが…」

現れたオデッセウスは、アガメムノンがうさんくさそうな目で見ているというのに、もう、値段の相談に入っています。

「…その笛で?ねずみを?本当か?お前は、他のものを吹いているほうが似合いなんじゃないのか?」

アガメムノンは、好色な目でむっちりとしたオデッセウスの体を眺め回し、なぁっと、息子のアキレスを振り返りました。

父親に負けず劣らず偉そうな態度のアキレスは、腕を組んだまま、膝を折っているオデッセウスを見下ろし、全身を隈なく検分すると、珍しく父親に同意しました。

「…本当にあんたが吹くのは、笛だけなのか?」

にやりと口元を歪めたアキレスの笑いに、オデッセウスの顔が引きつります。

「御領主殿。私を信じてください。お値段の方は、先に5割。成功したら、残りの5割。このままでは、ねずみに全て食い荒らされてしまいます。このお値段なら、良心的かと」

オデッセウスは、アキレスを無視して、強引に話を進めました。

しかし、アガメムノンは、まだ、オデッセウスの太腿の辺りをじろじろと見ています。

もう、ねずみの事など忘れているかもしれません。

「御領主さま。このままでは、ギリシャ領は滅びてしまうかもしれません」

オデッセウスは大袈裟に煽りました。

「…お前がその金を持って逃げ出さないという保証があるのか?」

やっと、アガメムノンの目に、領主としての強欲さが戻ってきました。

「私が信じられませんか?では、先に頂くのは、4割にさせていただきましょう。私とて、残り6割、みすみす貰い損ねる真似をして、逃げ出したりはいたしません」

オデッセウスは、親の代からの付き合いかのように、アガメムノンに向かって、親しみ深く笑いました。

さり気に、足を動かし、アガメムノンの意識を誘導します。

アガメムノンの喉がごくりと鳴りました。

アガメムノンだけでなく、アキレスの喉も鳴っています。

「…わかった。成功したらが、残り8割を払おう。正し、失敗した時には、全額を返してもらうからな」

「勿論です。おやさしい御領主様」

オデッセウスは、全額後払いにさせようとしていたアガメムノンをまんまと丸め込みました。

 

オデッセウスは、トロイ家にもやってきました。

「ねずみに困っておられますな」

戸口に立って、声をかけました。

しかし、トロイ家の主、プリアモスは神像に向かって、一心不乱に祈っています。

その迫力には、さすがのオデッセウスも驚きました。

長兄のヘクトルは、ネズミ捕りを持って、家の中を走り回っており、弟のパリスは、ヘレンとともに、机の上に座り込んで、兄に向かって指示を出しています。

赤ん坊を抱いたヘクトルの妻、アンドロマケは、苦々しい顔をして若い二人を見ていました。

けれども、大事な子供をねずみから守るためには、夫に頑張ってもらわなければなりません。

「御領主。プリアモス様。ねずみのことでちょっと、ご相談があるのですが…」

オデッセウスは、すこしばかりトロイ家を訪ねた自分を後悔しました。

ですが、儲け話にリスクはつきものです。

オデッセウスは、気合を入れて、もう一度声をかけました。

「あの…」

まだ、誰もオデッセウスに気付きません。

突然、かっと目を開いたプリアモスが、オデッセウスを振り返りました。

「お主か。今日の夢に、救世主が現れるというお告げがあったのだ。今日の漁では、沢山の蛸があがった。間違いない。お主が、この危機を救ってくれる人物だ」

ぎゅっと手を握られて、オデッセウスは背筋に冷たい汗が流れるのを感じました。

かなり、やばそうなじいさんだと、オデッセウスは、プリアモスの瞳孔が開いていないかどうか、思わず確かめました。

プリアモスの瞳は、聡明に清んでいます。

「御領主。確かに私は、ねずみを退治する方法を知っています。けれども、無料でというわけにはいきません。それでもよろしいですか?」

「はやり、お主が救いの神か。おお、頼む。直ぐにもこの危機から、我ら、トロイの者を救ってくれ」

値段も聞かずに、話を進めるプリアモスに、オデッセウスは、すこし不安を覚えましたが、とりあえず、3割の手間賃を先貰いして、トロイ家を辞しました。

 

 

オデッセウスは、笛を吹き、ねずみを村から連れ出しました。

殆ど誰も注目していませんでしたが、笛はマジックアイテムでした。

嘘です。

ねずみを連れて行く本当の方法は、オデッセウスが特別に用意した餌だったのですが、まるで魔法のように笛で連れて行くということで、オデッセウスは高額の料金を取ろうとしていました。

普通に餌でつったのでは、餌代を請求するのが精々です。

それが、魔法だとすると料金は、時価という奴です。

しかし、ねずみの害がなくなった途端、アガメムノンは残金を払うのを渋り出しました。

露骨に、オデッセウス自身をサービスにつけろと言ってきます。

一方トロイ家の方は、プリアモスが、ねずみ被害のせいで払う金がないと言い出しました。

金ぴかの神像など、幾らでも家の中には金に替えるものがあるというのに、それは、絶対に渡せないと言うのです。

オデッセウスは、村中の子供たちを笛の音で連れ去りました。

実は、後払いを渋られることまで、オデッセウスの計算には入っていました。

だがら、子供たちを連れ去り、後払いの金額を二倍にして、二つの家に請求することが、最初から決まっていたのです。

 

勿論、ただの笛で子供を連れ出せるわけがありません。

この方法にも仕掛けがありますので、ご紹介したいと思います。

 

オデッセウスは、自分に興味を持っていたアキレスの部屋をそっと訪ねました。

無作法な訪問者に、アキレスは、寝台から、だるそうに身体を起こします。

「なぁ、貰った前金のうち、半分をお前にやる。だから、お前のオヤジが残金を踏み倒した時に、領地の子供たちを連れ出してくれないか?どうせ、全員お前の手下のようなものだろう?」

切れ上がった目で、ちろりとアキレスを眺め、オデッセウスは思わせぶりに、唇を舐めました。

浮かぶ笑いも、昼間に見せた健やかなものとは違います。

アキレスは、寝台に座り、にやりと唇を曲げました。

「金はいい。それよりも、こっちに来い。お前に興味がある」

これほど、はっきりと誘う人間に、オデッセウスは初めて会いました。

たしかに、金色の髪をかき上げたアキレスは、魅力的な男でした。

こういう誘いに慣れているのでしょう。

けれども、オデッセウスは、そこまで払うつもりはありませんでした。

「どうして、そんな場所へ?」

オデッセウスはアキレスを見つめたまま、焦らすようにゆっくりと近づきました。

「私たちは、まだ、会ってから時間がたってない。それは、早すぎるというものだろう?」

オデッセウスは、あくまで嫌なわけではないという雰囲気を作りました。

アキレスが好色に笑います。

「では、お得意の笛でも吹いてもらおうか。何も聞かずに、子供は連れ出してやる。オヤジに泡を吹かせてやるのもいいさ。だが、その料金はただというわけにはいかない。その口で上手く笛を吹いてくれ」

オデッセウスは、懐に入り込む金額と、これからの作業を秤にかけ、アキレスの足もとに蹲りました。

アキレスの唇が笑いの形のままになりました。

 

「上手いもんだな」

ぺろりと先端を舐め上げ、思わせぶりに口を開いてから、オデッセウスは、ペニスの先へと何度かキスを繰り返しました。

オデッセウスの髪を掴んで、自分のペニスへと押し付けているアキレスは、唇の柔らかな感触に、思わず手に力が入ります。

「そんなに焦るな、アキレス。今晩、別の用事が入っているというわけでもないんだろう?」

オデッセウスは、長い指でペニスを包み、ゆっくりと扱きながら、緑の目でアキレスを見上げます。

その目が笑います。

アキレスは、オデッセウスの巻き毛に絡めた指に力を入れ、しっかりと顔を上に向かせると、かぶりつくように口付けました。

口の奥へと逃げ込む舌を追いかけ、ねっとりと絡めます。

「…いつも、こんな詐欺ばかりを働いているのか?」

アキレスの目が強い力で、オデッセウスを見つめました。

「…それは、脅しか?」

オデッセウスは、にこりと笑ってその重さを交わしてしまいます。

アキレスは、股間へと顔を伏せようとしたオデッセウスの髪をきつく掴みなおしました。

「…いつも、こんなことをするのか?」

痛みにオデッセウスが嫌な顔をします。

「いや、こうなったのは、初めてだ。大抵金で形がつくからな。お前ほど、はっきり欲しがった人間もいなかったし」

アキレスの目が緩みました。

自分の固くなったペニスへとオデッセウスの顔を引き寄せます。

オデッセウスは唇を開いて、口一杯にペニスを飲み込みました。

アキレスのものが大きく、思い切り口を開かないことには、全てを含むことも出来ません。

喉の奥へと押し付けられ、オデッセウスは咳き込みました。

慌てたようにアキレスが、オデッセウスの頭を抱き上げます。

「…平気か?」

「お前は、自分のでかさをよく考えろ。今度やったら、噛み切ってやる」

涙目になったオデッセウスが、じろりとアキレスを睨みました。

アキレスが、その目をじっと見つめます。

オデッセウスのやり方は、初めてする自分の技術を確かめるように、酷くじれったいものでした。

稚拙な方法にも、的確に反応するアキレスを面白がるように、あちこちを舐め回し、すこしもアキレスの思い通りにはしません。

しかし、信じられないことに村一番の乱暴者アキレスは、じっとそれに付き合いました。

最後には、オデッセウスの髪を撫で、小さくうめいてオデッセウスの口の中へと精液を流し込んだのです。

 

アキレスで学習した方法にすこし自信を持ったオデッセウスは、トロイ家のヘクトルの部屋へもそっと忍び込みました。

この方法だと、一銭も払う必要はありませんでした。

その上、金を払うよりも、ずっと思い通りに相手を動かすことができました。

オデッセウスは満足していました。

静かな部屋にそっと忍び込み、オデッセウスは、疲れた顔をしたヘクトルの髪に触りました。

「ヘクトル。もし、ねずみを追い出したにも関わらず、私に報酬が払われない場合は、お前の領地にいる子供たちを連れ出して欲しい。皆、お前を慕っているのだろう?正当な金を受け取るまでの間でいいんだ。私に協力してくれないか?」

すぐには頷こうとしなかったヘクトルでしたが、オデッセウスは言いました。

「少しくらい、お前がいないと、どのくらいこの領地が大変なことになるのか、思い知らせてやるということも、いいかもしれないぞ?その間、ついでにほんの少し、私を助けて欲しいんだ。お前だけが頼りなんだ」

オデッセウスは、優しくヘクトルの肩を撫で、分厚い胸板に指先を走らせました。

ヘクトルは、そう言った優しい接触に餓えていました。

妻は、生まれたばかりの赤ん坊に掛かりきりでした。

その上、パリスは、見せつけるようにヘレンといちゃいちゃしているくせに、ヘクトルなどねずみを追い払うためにいるんだとばかりに、あっちに走れ、こっちに走れと号令をかけます。

「…オデッセウス」

ヘクトルの黒い瞳が揺れました。

オデッセウスは、習い覚えたばかりの技を遠慮なく披露します。

このところご無沙汰のヘクトルなど、たわいもありません。

「…ここの地方は、でかく生まれつくようになってるのか?…ったく、顎が疲れていけない」

オデッセウスが、小さな声で、毒づいていることにも気付かず、恍惚と目を瞑っています。

もう、いきそうだというところで、オデッセウスがペニスを口から吐き出して、ヘクトルに確認しました。

「約束を守ってくれるか?」

ヘクトルは、力強く頷きました。

「…いい奴だな。お前は」

オデッセウスは、にやりと笑うと、ヘクトルノのものへと顔を戻しました。

 

 

こうして、料金を踏み倒されそうになったオデッセウスは、ギリシャ領、トロイ領の子供たちを残らず笛の音とともに連れ去りました。

しかし、オデッセウスにも誤算がありました。

強欲な領主達から追加料金を受け取るまでの間、その集団をまとめていくのが物凄く大変だったのです。

アキレスは、オデッセウスへの独占欲を隠そうとしませんでした。

そして、ヘクトルは、なにやら本気の目をしてオデッセウスを見つめました。

しかも、どうしてついてきたのか、パリスが、きゃんきゃんと吼えたてます。

だれが、この悲劇を生み出したのか忘れたように、赤ん坊まで連れ出したヘクトルを誘惑した極悪人として、オデッセウスを責め立てます。

うるさいことこの上ありません。

オデッセウスに気の休まる間はありませんでした。

うかうかしていると、アキレスに押し倒されます。

そこから逃げると、ヘクトルが両腕を広げて、オデッセウスを抱きしめます。

赤ん坊が泣きます。

パリスが、子供しかいないこの集団に、ヒステリィーを起こしています。

オデッセウスは、倍額を諦め、1・5倍で子供を返す約束をしました。

領民たちに、やいのやいのと責めたてられていた両領主は、突然の値引きに、快く支払いを承諾しました。

オデッセウスはほっとしました。

やっと、身の危険から解放されると思ったのです。

 

しかし、油断した最後の晩。

オデッセウスは、両家の跡取り息子にしっかりと乗られてしまいました。

最初はヘクトルでした。

思いつめた顔をした男の出現に、オデッセウスは、覚悟しました。

ここで拒んだら、こういう顔の男は何をするかわかりません。

一緒に死んでくれ!と、叫ばれるよりは、犬に噛まれたほうがマシだとオデッセウスは諦めました。

なにはともあれ、妻帯者。なんとか、怪我もせずヘクトルとことを終えてオデッッセウスはほっとしました。

しかし、もう、さすがに身体を使う支払い方法は止めようと決めました。

けれども、悲劇はそれで終りません。

そこへ、アキレスがやってきました。

アキレスは、自分以外の人間と情を交わしたオデッセウスに激しく怒りました。

もう、そこにあったのは、レイプです。

 

オデッセウスは、アキレスと、ヘクトルに、「慰謝料」と、大きく書いた請求書をしっかりと握らせ、家へと追い返しました。

それも払わなければ、子供を返さないつもりです。

赤ん坊が泣こうが、パリスが喚こうが、酷い目にあったオデッセウスは、心と体の痛みを金で清算するつもりでした。

 

 

ハルメーンの笛吹きは、まんまと金貨をせしめました。

しかし、今回の場合、オデッセウスの支払いの方が多かったかもしれません。

 

 

END

 

 

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トロイで、ハルメーンの笛吹きをやる!と、言ったら、「ハルメーンの尺八吹き?」と、某Nに言われました。

はい、そうです。

あなたが正しいと、私も思います。(笑)