愚者の祈り

 

その日は良く晴れていた。

ヘクトルは、部下を一人引き連れて、各小隊の状況を確かめるべく、ゆっくりと馬を進ませていた。

ヘクトルを見上げる民の目が暗い。

皆、長く続く戦いに倦み疲れている。

城壁を閉ざし、トロイは、ギリシャ軍の進入を防いでいたが、戦況ははかばかしくなく、両軍は膠着状態に陥っていた。

海岸線を押さえられ、漁にでることができないのもつらい。

潮風は、ギリシャ軍に遮られることなく、トロイの城内へも吹き込んでくるというのに、新鮮な魚は、全く食卓へとあがらない。

それでも、民は、ヘクトルを認め、挨拶を送ってきた。

深々と頭を垂れて礼儀を示す。

ヘクトルは、民に返事を返しながら、自分の内部に溜まりつつある暗い塊を飲み込み、次の陣地へと馬の鼻先を向けさせた。

先ほどから、ヘクトルを追う者がいた。

軒先に隠れ、人に紛れ何気無い風を装っているが、ヘクトルが道を変える度、慌てたように後をつけていた。

裸足だ。

垢じみたフードを目深に被り、汚い乞食の身なりをしていた。

ヘクトルは、連れと話をする素振りで、彼をじっと観察した。

長身を隠すためか、身をかがめ、足を引きづっていたが、男の立派な体が隠し切れているわけではなかった。

なにより、遠目にも分かるグリーンの目が、世を捨て、道端に座り込む者にしては、聡明すぎる輝きをしていた。

ヘクトルは、これ以上、彼に自分をつけさせるつもりはなかった。

敵のスパイに違いない。

動かない戦況に、トロイとしても、喉から手が出るほど情報が欲しかった。

ギリシャ軍とて同じだろう。

ヘクトルは、くるりと馬を返すと、乞食の側まで馬を寄せた。

逃げ出す間を与えぬうちに、直ぐ脇へと、ひらりと馬から下りた。

乞食は、顔を隠すように、道端に蹲り平伏した。

薄汚れた麻のフードしかヘクトルの目に入らなかった。

「本当にいた」

ヘクトルは大きな声で乞食へと話し掛けた。

髭の中の口を大きく開けて、乞食の背を軽くたたきながら、快活に笑った。

周りの目を集め、乞食を逃がさないつもりだった。

「神殿のご神託とはいえ、本当にいるとは思わなかった」

ヘクトルの後を追ってきた部下と、乞食は、同じように不審な目をしてヘクトルを見た。

周りの視線も集まっていた。

あまりに嬉しそうなヘクトルの声に、乞食は、伏していた顔を僅かに上げ、ヘクトルをじっと見上げた。

顔の大半は泥で汚れていた。

だが、ただの乞食にしては、秀でた顔をしていた。

「乞食、悪いが俺と一緒に城まで来てくれ。アポロン神に勝利の祈願をするために、お前の力が必要なのだ」

ヘクトルは平気な顔で嘘をついた。

祈りなどで、ギリシャ軍に勝てぬことはヘクトルが一番知っていた。

だが、民にとって信じるものは必要だ。

トロイの指揮をとるヘクトルが、勝利のために祈願するということは、民に活力を与えた。

逃げ出す隙を伺うように、ちらちらと視線を動かす乞食ひとりを、皆で取り囲んで取り押さえるくらいのことは簡単だろう。

「西の方角に、緑の目をした乞食がいるから連れて来いと神官に言われたのだ。まさか、本当にいるとは思わなかった」

ヘクトルは大袈裟に驚いて、アポロン神の力を誇示してみせた。

ヘクトルが乞食の脇に膝をつき、手を握ろうとすると、乞食は、慌てたように後ろへと後退った。

見えた手は、泥に汚れていたが、剣を握るものの手だった。

なにより、爪が一本足りともひび割れている様子がなかった。

そんな乞食などいるはずもない。

「酷い目にあわせようというのではない。ただ、一晩俺と一緒に祈りを捧げてほしいだけだ。それで、望むだけの褒美を与えよう」

ヘクトルは、あくまで勝利のために乞食の助力を得ようとする態度を崩さず、膝を折ったまま、後ろへと逃げる乞食の後を追った。

乞食の足の裏は、薄い皮しか張っていなかった。

普段、裸足でなど歩いていない証拠だ。

乞食の被ったフードから除く髪は、栗色の巻き毛だった。

乞食は、逃げ場を探すように、右へ、左へと視線を慌ただしく動かした。

印象的な緑の目が、ヘクトルの顔を避け、忙しく動いた。

ヘクトルには、乞食の正体が分かってきた。

ヘクトルの顔には笑みが浮かんだ。

神殿のお告げどおりの人物をみつけたからではない。

手中に落ちてきた敵方の智将のためだ。

ヘクトルに追い詰められ、乞食はとうとう、民家の入り口に背中をつけることになった。

もう、逃げ場が無い。

「お前もトロイの民のひとりだろう!」

「ヘクトルさまが、お願いしていらっしゃるんだ!お前のような奴が、神殿に上がることが出来るなんて、ありがたいと思わないのか!」

民衆から、逃げる乞食へと厳しい声が飛んだ。

屈みこんだヘクトルと、二頭の馬、一人の兵士。そして、沢山の野次馬に囲まれ、乞食は、おどおどと下を向いたまま、身体を小さく丸めた。

ヘクトルは、あくまで、下手に出た。

ありもしないアポロン神への祈願の成功を事のついでに民衆へと印象付けるつもりだった。

「申し訳ないが、城までご足労を願いたい。父上からも夕刻までに必ずお前のことを連れてくるよう言いつかっているんだ。悪いようにはしない。必ず、褒美を取らせる」

取り囲む民衆の力も借りて、乞食を追い詰めたヘクトルは、無理やり乞食を立たせると、自分の馬の前に座らせ、城へと急いだ。

 

城に戻ったヘクトルは、馬を部下に預け、ここから先は、神殿の秘密に関わることだから、と、口止めをすると、乞食を城内へと引き入れた。

乞食は、落ち着かない様子で、城のあちこちへと視線をさ迷わせていた。

ヘクトルから、軽く3歩は遅れ、城内の様子を隈なく伺い、ヘクトルが1部屋過ぎるたび、そちらに目をやった。

ヘクトルは、乞食不審さには気づかぬ振りで、どれほど、この祈願が重要なのかを朗らかに語りながら、回廊を進んだ。

トロイの劣勢をこっそり打ち明けるように乞食に教え、そのためにもアポロン神の力がどうしても重要なのだと語って聞かせた。

汚く汚れた乞食の顔が、まるでわからぬ話を聞かされたように、口をあけたまま、緩く頷いた。

内心の小躍りせんばかりに違いない心情を表情では分からせなかった。

ヘクトルも頷く。

どこまでこの茶番に付き合わせてやるか、ヘクトルこそ、内心小躍りせんばかりだったのだが、生真面目な顔をして、乞食に部屋へ入るよう促した。

 

賓客を迎え入れるための豪勢な部屋へと乞食、いや、ギリシャ軍の智将を迎え入れたヘクトルは、この面白いたくらみを楽しむために、全て秘密裏に事を進めた。

そのために、ヘクトル自身が、体を清めるための水桶の用意までした。

オデッセウスは、ヘクトルが部屋を外した僅かの隙にも、部屋の中をうかがっていたに違いないのに、ヘクトルが扉を開けると、ずっとそこに立っていたかのように所作なげに部屋の中央に立ち尽くしていた。

ヘクトルはオデッセウスの作為には気付かぬ振りで微笑んだ。

柔らかい目でオデッセウスを見つめ、水桶を床へと置いた。

自室ならともかく、客室に、手がかりを残すほど、トロイは間抜けではない。

オデッセウスは、自分の汚い身なりを恥じるかのように、やたらとマントの裾を指先で触った。

なかなか上手い仕草だった。

部屋の中央に立ったまま、落ち着かない様子のオデッセウスに向かって、ヘクトルは椅子の座るよう進めた。

オデッセウスは、ボロ布のようなマントの中で、身を小さくして床に伏せた。

「いや、椅子に座ってくれないか?儀式のしきたりとして、お前の身体をすべて清めなければならないのだ」

ヘクトルの言葉に、乞食の体が、緊張した。

床の上で、後ろへと後退った。

ヘクトルは、怯えあがった乞食の身体を抱きかかえるようにして無理やりに椅子へと座らせた。

王子相手に乞食の身分で、激しい抵抗を見せるわけにはいかない。

オデッセウスは、嫌々ながらも椅子に座った。

「まず、手を」

ヘクトルは、体の後ろへと隠す乞食の手を引っ張り、水に濡らした布でぬぐった。

泥は直ぐに落ちた。長いこと道端に座り込む垢じみた様子は、見せかけだ。

しかし、ヘクトルは、気付かぬ振りをした。

王宮に住む王子が、乞食の様子など知らぬでも問題にはならない。

「お前、足が悪くなる前は、戦士だったのか?」

今、初めて気付いたように、ヘクトルは、オデッセウスの固い掌に目を留めた。

乞食は、言葉を返さない。

「体つきも立派だし、足を痛めさえしなければ、大した戦士だったろう。かわいそうだにな。家族はいるのか?お前ほどの男ぶりなら、妻の一人もいただろう?」

ヘクトルは、手を拭うついでのように、泥にまみれたオデッセウスの顔を布で拭いた。

オデッセウスは、顔を捩って逃げようとした。

布がかすって、滑らかな頬の一部から泥がはがれた。

「逃げないでくれ。お前を綺麗にすることも、私の願掛けの一部なんだ」

ヘクトルは、まるで乞うように乞食に向かって頭を下げた。

オデッセウスの目が、ヘクトルを疑わしげに見た。

「…口が利けないか?」

ヘクトルは、顔を上げ、乞食の目をじっと見つめた。

「…利ける」

オデッセウスの口から、わざと作ったとしか思えないひび割れたざらついた声が出た。

ヘクトルは、安心したように笑って見せた。

「ああ、良かった。すこしだけだが、祈りを唱えてもらわなければならなかったんだ。神殿のお告げに間違いなどあるはずはないが、少しも口を利いてくれないから、心配していたんだ」

あくまで、ヘクトルは、神殿のご神託に従う王子の振りを続けた。

ヘクトルは、陽気に言うと、強引にオデッセウスの頭を引き寄せ、顔についた汚れを落した。

 

「綺麗にすれば、見違えるようじゃないか」

オデッセウスの顔を拭ったヘクトルは、オデッセウスの足元にかがみこんだ。

泥を落した顔を見て、ヘクトルの思いは確信に変わったが、表情には出さなかった。

オデッセウスは、顔を晒しても気付く様子の無いヘクトルに安心したのか、従順に足を差し出した。

ヘクトルは、裸足の足裏を丁寧に拭いていった。

オデッセウスの足は、少し甲が高く、爪が大きかった。

「今度は右足を出してくれ。すんなりとしたいい足をしているな。これで動かないとはかわいそうなことだ。触ると痛いか?」

ヘクトルは、引きづっていた足を気遣う振りまでした。

緑の目をした軍師の噂は、まだ、トロイでは広まってはいない。

意識的に情報を集めているヘクトルだから知り得ていることだ。

これを利用しない手はない。

「…痛くはない」

出来るだけ早く足を取り返そうとしているのがすぐわかる素振りで、オデッセウスが、足を引こうとした。

動かない足にしては、力が入りすぎていた。

ヘクトルは、優しく笑った。

「それは、よかった。では、申し訳ないのだが、服を脱いでくれるか?」

ヘクトルは、何気無い風を装って、軍師を辱める申し出をした。

オデッセウスは、ぎょとしたように目を見開いてヘクトルを見た。

「悪いな。全てを清めないことには、神殿には上がれない」

ヘクトルは、生真面目に返した。

オデッセウスは椅子から立ち上がって逃げようとした。

ヘクトルは、最早笑いを見せなかった。

「トロイ軍の勝利が掛かっているんだ。褒美は思うように与える。…いや、申し訳ないが、言う事をきいてくれないと、ここでお前を殺さなければならない」

脅しを含んで、腰に下げた短刀へと手をかけたヘクトルに、オデッセウスは無意識のうちに防御しようとした。

足を引き、いつでも逃げ出せるよう、身体に力を入れた。

軸足として利かないはずの足に力が入った。

「…なぜ?」

オデッセウスの声が本当にかすれた。

「神託が果たされないうちは、新たな神託が下されない。お前が俺と一緒に祈願をしてくれないというのなら、お前の存在を無として、新たな祈願の方法を神にお尋ねしなければならない」

オデッセウスの知るヘクトルにとって、乞食の命の価値はどれ程のものなのだろうか。

実際のヘクトルは、神殿のご神託のために、乞食の命を奪ったりしない。

それほど、神殿に価値を置かない。

しかし、ヘクトルは、短刀を引き抜く素振りを見せた。

短刀は、鋭く尖れていた。

オデッセウスの喉がごくりとなった。

「悪いな。お前の身体を清めさせてくれ」

ヘクトルは、脅すように、オデッセウスに向かって優しく笑った。

 

オデッセウスは、屈辱に唇を噛んでその場に立っていた。

ヘクトルが垢じみたフードを脱がせ、肩紐を簡単に外してしまうと、その下からは、惚れ惚れするような体が現れた。

思ったとおり、オデッセウスの身体にまるで汚れは無かった。

しかし、ヘクトルは、濡らした布を固く絞ると、オデッセウスの身体をゆっくりと綺麗にしていった。

緊張に固くなった筋肉を、布で撫でる。

「名のある戦士だったのだろう?この体、なかなか鍛え上げられているじゃないか」

ヘクトルは滑らかな肩を拭い、盛り上がった上腕筋に触れた。

そして、弄るようにオデッセウスの身体を褒め称えながら、滑らかな肌を布でぬぐっていった。

 

下帯に手をかけたヘクトルにオデッセウスは逃げを打った。

ヘクトルは、神殿を盲信するプリアモス王の息子の顔を捨てなかった。

「待ってくれ。我慢してくれ」

腰を掴んでオデッセウスを止めたヘクトルは、大きな手でオデッセウスの腰骨を掴み離さなかった。

「嫌なのは分かる。だが、こうしなければアポロン神に願いが通じないのだ」

しかし、言葉だけは丁寧なものを使った。

オデッセウスの目が冷ややかにヘクトルを見た。

「神は、私を助けてはくれない」

オデッセウスの本心だろう。

あのひび割れた声はどこへいったのか、滑らかな声がヘクトルの鼓膜を打った。

冷たい目がヘクトルを見た。

オデッセウスは、あまりに神をあがめるヘクトルを馬鹿にした。

だが、ヘクトルは、気にしなかった。

「神の代わりに、俺が暮らすに困らないだけの褒美を取らすことを誓おう。だから、頼む。言う事をきいてくれ。お前を殺したくはない」

ヘクトルは、短剣をちらつかせながら、強引にオデッセウスの下帯に手をかけた。

どんな風に見下げられようが、構わなかった。

実際に、この場の主導権を握っているのはヘクトルだ。

ヘクトルは、オデッセウスの下帯に手をかけた。

力なら、ヘクトルに敵うものは少ない。

オデッセウスは、屈辱に顔を染めて、裸体を晒した。

繁ったちぢれ毛の中に、小さく縮こまったものが揺れていた。

それは、かわいらしく、両手で包み込んでやりたくなるようないたいけな感じだった。

ここまで、ギリシャの智将を辱めた者がいるだろうか。

ヘクトルは、緩みそうになる顔を引き締め、布を絞った。

これは、軽々しくトロイの王子を偵察の案内人に使おうとした罰だ。

「…触らないでくれ」

オデッセウスは、足を掴んで離さないヘクトルから逃げようともがいた。

「それは、できない」

ヘクトルは、オデッセウスの足を腕の中に抱きこむようにして、下から見上げる形で、性器に触れた。

布で拭くために持ち上げた振りで、手の中で揉み込んだ。

オデッセウスの柔らかな性器は、ヘクトルの手の中で、くにゅくにゅと動いた。

ヘクトルは、オデッセウスを見上げた。

オデッセウスは、切れ上がった目を吊り上げていた。

どこが、乞食の表情だ。

そんな厳しい目をして、王族を見る乞食がどこにいる。

「申し訳ないな」

ヘクトルは、殊更鷹揚に笑った。もっとこの場を支配するために、この辺りで、もう一度、オデッセウスに自分が乞食だと偽ったことを思い出してもらわなければならなかった。

「せっかく世を捨てているというのに、こんなことにつき合わせて申し訳ないと思っている」

オデッセウスが息をのんだ。

卑しい身分を偽った自分の立場を思い出したのだろう。

目を、ヘクトルから反らした。

体の脇に垂らした手で、強く太腿を握った。

ヘクトルは、布で、オデッセウスの性器を包んだ。

力を入れすぎないよう注意して、全体をまず拭くと、根元の部分のちぢれた毛を掻き分け、丁寧に拭った。

 

「後ろを向いてくれ」

丁寧で、執拗なヘクトルのやり方に、やんわりとオデッセウスの性器が勃起しかけてきているのを無視して、ヘクトルは、次の要求をした。

オデッセウスは、ゆっくりとではあったが、後ろを向いた。

乞食としてヘクトルの前に立っているのだと、改めて思い知らされたオデッセウスには、従うほかないのだ。

ヘクトルは、白い尻の盛り上がり具合に、笑いがこみ上げてくるのを感じながら、尻の肉をつかんだ。

柔らかなさわり心地だ。

オデッセウスの体が手の中でびくつくのもいい。

ヘクトルは、悪趣味だと思いながら、尻の肉を左右に開いた。

慎しかにだが、ちぢれた毛はここにも生えて、後ろの穴を隠そうとしていた。

「嫌だ!」

オデッセウスが声を上げた。

ヘクトルの手を振り切ろうとするかのように身体を捩った。

「何故?…もしかして、お前は、ギリシャ人か?ギリシャの軍にいたのか?」

ヘクトルは、大きな声を出した。

オデッセウスが慌てたように首を振った。

「ギリシャの兵でも、無事儀式さえ終らせてくれたなら、殺しはしない。そういう意味ではない。そうではなく…向こうの風習を聞いたことがあるから…だから、嫌だと言ったのかと…」

ヘクトルは、信じられないものをみるようにオデッセウスを見た。

オデッセウスの目が、落ち着きなくヘクトルの表情を伺った。

出方を考えていた。

その隙に、ヘクトルは、二重、三重に、オデッセウスを締め上げた。

「前を触った時にもかすかに反応してみせただろう?ただ単に、触れたせいかと思ったのだが、そのせいか?お前はそういうことの実践者だったのか?…お前ほどの容貌なら、さぞ好いてくる者がいただろう。…いや、乞食にしては、身奇麗にしていると思っていたが、戦士として食い詰めてからは、そういうことを生業としていたのか?そうなのだろう?この肌の艶は、食うや食わずの暮らしをしているとは思えない」

ヘクトルは、自問自答をし、オデッセウスに答える間を与えぬうちに判断を下した。

そうして、いきなり立ち上がった。

「そうであるなら、身体に触れることに遠慮する必要はないな。別に料金がいると言うのなら、言うだけを払ってやる。だから、うだうだと煩いことを言うのはやめろ」

ヘクトルは、上から、オデッセウスの頭を押さえつけると、身体を二つに曲げさせた。

オデッセウスの白い背が若木のようにしなった。

「身体は隅々まで、綺麗にしなければならない。そうしなければ、アポロン神の前に立つことができない」

オデッセウスに自分の足首を持たせるほど深く身体を曲げさせ、ヘクトルは、強引に尻の肉を掻き分けた。

まず、丸い尻を布で拭い、それから、深く裂けた尻のあわいに布を滑り込ませた。

オデッセウスは、歯を食いしばり、顔が歪むほど、強く目を閉じた。

「…売り物などではない」

「そうか。なら、今日から、売りに出してくれ。申し訳ないが、いつまでもお前に膝を折っていられるほど、トロイの教育は、甘いばかりでもなかったんだ」

ヘクトルも、王族の傲慢さを持ち合わせていた。

普段は押し込めているそれを懐から持ち出すことなど簡単なことだった。

ヘクトルは、短いちぢれ毛を布先でごしごしと擦った。

そのまま手を突っ込んで、奥で揺れている二つの袋も布で包んだ。

「ひっ!」

「逃げるな。お前が逃げるから、痛いんだ」

急所を握られている間中、オデッセウスは体中に力を入れ、足を踏ん張って、屈辱にまみれた羞恥に耐えていた。

顔が真っ赤だった。

ふう、ふうと息をつく、唇が、わなわなと震えていた。

「もう少し、頭を下げろ。ここにほくろがあるはずなんだ」

もう、見つけているほくろを、さも、神託だと言わんばかりにヘクトルは、口にした。

オデッセウスは、とうとう床へと手を付いて身体を支えた。

足を大きく開き、その上、その太腿を外側へとヘクトルの手によって開かれて、前のめりになって床に手をついていた。

「やはりあった。お前で間違いない。緑の目をした乞食など、いるとも思えなかったのに、間違いなくほくろまであった」

ヘクトルは、足の付け根のずっと奥の部分にあるほくろを触って、オデッセウスをさらにいたぶった。

 

屈辱に耐える智将は、見ごたえがあった。

ギリシャの風習を理解したヘクトルがそれに似せていたぶるだけで済ませようとしていた気持ちを、ぐらつかせるに十分なだけの魅力があった。

ヘクトルは、客室の机の引出しをさぐった。

賓客を迎えるこの部屋は、泊る客人に、それなりのサービスも提供される。

美しい奴隷女による様々な満足が与えられる。

提供する側であるヘクトルは、そのための備品がここにしつらえられていることを知っていた。

強い匂いのする香油の壜を手に、ヘクトルは怯えた顔のオデッセウスの元に戻った。

裸体を晒したギリシャ軍の智将は、その身を隠すことも許されず、ヘクトルの動きを目で追っていた。

目には怯えの色があった。

ヘクトルは、オデッセウスの腰を抱き込んで、身動きを封じると、指先を穴の中にねじ込んだ。

強引な動作だった。

利かないはずのオデッセウスの足が、ヘクトルを蹴った。

ヘクトルは、腰を締め付けるほど強く抱き、奥まで指を押し込んだ。

中は、ヘクトルを押し戻そうと必死で蠢いた。

強い力が、ヘクトルを阻んだ。

だが、熱い。

しっとりと濡れて、とても滑らかな手触りだ。

表面が滑る。

阻まれているにもかかわらず、指がつるりと飲み込まれているようなそんな感触だ。

「暴れるな!」

「離せ!」

一度指を抜いたヘクトルは、油に濡れた手のままで短剣を握った。

腰を抱いたまま、尻の表面で刃を滑らす。

刃物の感触に白い尻が緊張に固くなった。

「お前のような乞食など、このまま殺してしまうことも、傷付けたまま、広場に放り出すこともできるのだぞ」

こんな声をヘクトルは、戦場でよく出した。

緊張で固くなった大きな尻の上に短剣を置き、ヘクトルは、指で穴の中を弄くった。

くちゅくちゅといやらしい音がした。

香油の強い匂いが部屋の中に充満した。

「そうだ。大人しくしろ」

穴の周りを覆うように生えている短いちぢれ毛が、油でしっとりと濡れた。

中も、スムーズに指が通るようになった。

オデッセウスは、唇を噛み締めていた。

だが、寄せた眉の間に、時々、ぴくりと動きがあった。

白い尻が、小さくだが、ヘクトルの指の動きを追うようになった。

頃合を見計らって、ヘクトルは、ベットの上に、オデッセウスの身体を投げ出した。

大きく張り出した腰を抱きなおした。

 

ヘクトルは、押し返す肉の感触を掻き分けながら、腰を強く前に突き出した。

寝台の上では、オデッセウスが寝具を強く握り締めていた。

後ろから繋がった時、オデッセウスは、酷く悲しそうな声で、呻きを上げた。

ヘクトルは、阻む肉の強さに惚れ惚れとしながら、腰を掴んで、オデッセウスの尻を自分へと引き寄せた。

掻き分けていく肉が、ヘクトルの先端をぎゅうっと包み込むようだった。

美しい背中が、強張っていた。

オデッセウスが力を入れて、ヘクトルを押し返そうとすればすれるほど、ヘクトルは心地よさを味わった。

白い尻は、ヘクトルの指が沈み込むことができないほど硬く強張っていた。

ヘクトルは、オデッセウスの最奥までぐりぐりと暴き立て、そこに深く居座った。

そして、オデッセウスの背中に覆い被さり、栗色の巻き毛を噛んだ。

「オデッセウス。どうだ?俺のものは」

 

首が千切れるのではないかという勢いで、オデッセウスが振り返った。

目が、怒りに燃えていた。

怒りのあまり、目に涙が滲んでいた。

急激にヘクトルの腕の中で暴れ出した。

ヘクトルは、まず、オデッセウスの口に指を突っ込み、口が閉じられないようにすると、強く身体を抱きしめ、抵抗を封じた。

それでも、暴れるオデッセウスに、ヘクトルのものは、半分ほどオデッセウスから抜け落ちた。

最後まで、押し出そうとするように、オデッセウスは激しく尻を振った。

猛烈な唸り声を上げて、暴れまわった。

口の中に入れていたヘクトルの指にオデッセウスは歯を立てた。

屈辱のあまり、舌を噛むのではないかと心配したヘクトルは、オデッセウスしぶとさに、感心した。

まるで手負いの獣のようにオデッセウスは暴れた。

腕の中から、逃げ出すために歯を剥き、ヘクトルの腕に爪を立てた。

体中の筋肉が戦士のものに代わった。

その急激な変化の刺激に、ヘクトルは目を細めた。

ヘクトルは、歯を立てられたままの指を引き抜き、オデッセウスの頭を後ろから寝台へと押さえつけた。

ヘクトルの指の皮はめくれ、血が滲んでいた。

ヘクトルは、目を細めたまま、オデッセウスの鼻がめり込むほど、寝台へと頭を押さえた。

「今更だろう?軍師どの。お前の尻には、もうすっかり、俺の槍が突き刺さっている」

「うるさい!」

屈辱に震えるオデッセウスの背中を見下ろしながら、ヘクトルは強く掴んだ腰を離さず、どすんと腰を打ちつけた。

ぺちゃりとかわいらしい音を立ててオデッセウスの尻が潰れた。

オデッセウスは大きな唸り声を上げた。

喉の奥に獣を飼っているようだ。

ヘクトルは、ぐりぐりと奥へと、更に奥へと腰を密着させていった。

寝具に押し付けられ、くぐもった唸り声を上げているオデッセウスは、伸び上がって少しでもヘクトルから逃げようともがいた。

しかし、ヘクトルの力強い腕に引きづられ、栗毛のちぢれ毛は、強い黒毛にごりごりと擦られることになった。

伸びきった尻の穴が、ヘクトルの根元を強く噛んだ。

「軍師殿は、頭が良いだけでなく、身体もいい具合なのだな」

ヘクトルは、目を細め、口元を緩めた。

オデッセウスのそこは、引き抜こうとするヘクトルのものに引きづられるように、充血して薄赤い色の粘膜が裏返った。

オデッセウスの肉は、ぴったりとヘクトルに張り付いていた。

まるで、ヘクトルが抜け出ていくことを嫌がっているようだった。

それほど、きつく、オデッセウスの肉は、ヘクトルを締め付けた。

「馬鹿にするな!」

顔を捩って、ヘクトルを睨みつけたオデッセウスが、唸り声を上げた。

「馬鹿にはしてない。誉めているんだ」

ヘクトルは、にやにやと笑った。

手を伸ばして、オデッセウスの首を掴んだ。

ヘクトルの大きな手が、喉仏を強く押さえると、オデッセウスが口を開いて、声にならない悲鳴をあげた。

ヘクトルは、優しく笑いかけた。

乞食に笑いかけたときと同じだけ優しい顔をして笑った。

「お前こそ、トロイのヘクトルを馬鹿にするにも程があるな」

舌が、唇から押し出されるまで、強く喉仏を押さえ、十分にオデッセウスを苦しませると、ヘクトルは喉から手を離した。

オデッセウスは、急激に入ってきた空気に、ひいっと、生理的な引き攣れた声をもらし、激しく咳き込んだ。

あまりに激しく咳き込みすぎて、嘔吐しそうにまでなった。

首を絞められている間はあんなにも我慢していたというのに、楽になった瞬間に、オデッッセウスは涙を流した。

口の端からは、咳を一緒に唾液が零れ、口髭を濡らしていた。

ヘクトルは、その姿を見下ろしていた。

かわいそうなことに、長く続いた生命の危機に、オデッセウスの性器は力強く勃起していた。

 

ヘクトルは咳き込むオデッセウスの性器を握り、擦り上げ、そのまま腰を揺らした。

オデッセウスは、強く寝台を叩き、ヘクトルに抗議を示した。

「握り潰して欲しいか?」

ヘクトルは、巻き毛に口付けを落としながら、低い声で尋ねた。

睨みつけてくる緑の目の強さに、下腹がちりちりと痺れるような満足感を覚えていた。

ちらりとそれもいい考えだと、ぶっそうな思いがヘクトルに浮かんだ。

相手は、ギリシャの軍師だ。

そして、イタケーの王だ。

こんな無様な死に様を晒すことが許されるはずも無い。

ヘクトルは、にやりと笑った。

「握り潰した挙句、ここを短剣で抉ってやろうか?そんなことをされたら、困るよな。そのくらいなら、首を掻っ切って欲しいだろう?」

剣の代わりに、ヘクトルは、固い性器で、穴の中を抉り広げた。

「このヘクトルに道案内をさせた分、そして、ヘクトルを低く見積もった分、十分、身体で奉仕して返してもらおう。何、命までは取らない。そこまで、トロイは強欲ではないからな」

ヘクトルは、オデッセウスのつり上がった目尻を撫でた。

 

オデッセウスの尻からは、白濁した液体がとろとろと零れていた。

塗り込められた香油とヘクトルの精液が混ざり合ったものだ。

オデッセウスの端麗な顔も、ぬっとりと白い液体で濡れていた。

途中、噛まぬようにと、指まで口の中に突っ込んだヘクトルがオデッセウスの口を使った時に、飲み切れず吐き出したものだ。

まだ、音を立てて、ヘクトルのものがオデッセウスの大きな尻に出入りを繰り返していた。

固く大きなヘクトルのものが引き出されるたび、体液がオデッセウスの太腿を伝っていった。

オデッセウスは、声をあげるようになっていた。

尻を使われる感覚に声を押さえることが出来なくなっていた。

オデッセウスにはもともと経験がある。

いや、もっと言えば、使い込まれているといってもいい。

ヘクトルは、ねだるように腰を動かすようになったオデッセウスを満足させるため、強く腰を打ち付けていた。

ぴしゃんと音がするほど、腰を叩き付けると、オデッセウスが背を反らして、叫ぶ。

剥き出しの白い尻を、さらに高く掲げる。

ヘクトルは、オデッセウスのしたたかさに、羨望に近いような思いを抱いた。

ヘクトルへと向かって突き出された尻は、貪欲にヘクトルを飲み込んでいく。

赤い舌をひらめかせて、端麗な顔が快感に歪む。

これでは、どちらが奉仕をしているのかわらかない。

「オデッセウス殿。俺の名前を呼んでくれないか?」

屈辱を思い出させるために、ヘクトルは、オデッセウスに要求した。

汗と体液に汚れた顔で、オデッセウスはヘクトルを見上げた。

思い出したようにオデッセウスの顔が歪んだ。

ヘクトルはオデッセウスに笑いかけた。

「そうだ。誰を思っていたのか知らないが、今、お前の相手をしているのは、トロイのヘクトルだ。それを忘れないようにしてもらいたいものだ」

ヘクトルは、今更のように、緑の目で睨む智将の足を両腕に抱き、毛が擦れ合うほど奥ばかりを刺激した。

オデッセウスの眉の間に深い皺が浮かんだ。

睨みつけていた緑の目が閉じられ、反対に唇が薄く開いた。

「名を呼べ、オデッセウス。それで、ヘクトルを軽んじた罪を許してやる」

激しく音を立てる肛姦に、オデッセウスは、大きな声を上げた。

白い尻は激しく揺すり上げられた。

しかし、ヘクトルの名を呼びはしない。

ヘクトルは、無駄な声ばかりを上げる唇を塞いだ。

とうとう、その唇がヘクトルの名を呼ぶことはなかった。

 

 

ヘクトルは、自分の正しさを嫌いながらも、オデッセウスをトロイから逃がした。

戦場ではなく、王を捕らえ、自軍の有利とすることを、ヘクトルの正義が許しはしなかった。

いや、本当は、緑の目が、見られなくなることをおそれたのかもしれない。

野に放てば、あの目は、またしたたかな光を見せてトロイを、そしてヘクトルを落といれようとするに違いないのだ。

 

ヘクトルは、乞食の去っていった方角を見つめる自分を戒めた。

一度だけでも、名を呼ばせたかったと考える自分の気持ちなど最初から気付かなかった振りをした。

 

 

END

 

 

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