誰のものになるか
陽が高く上がり、アキレスが寝床から這い出した時、テントの脇に立つ、イタケー王の兵は、驚いたように息を飲んだ。
「なんだ」
アキレスは、まじまじと見つめてくる兵を睨んだ。
「もう、帰る。あんたの大事な王はどこへ行った」
突き刺さる太陽の光よりも、煩い視線が嫌で、アキレスは、髪をかき上げ視線を払った。
しかし、最初の驚きをやり過ごすした、イタケー王の兵は、アキレスを睨みけた。
さすが、智将と呼ばれるイタケーの兵だけあった。
威嚇するアキレスのオーラにもなんとか踏み止まっていた。
「あんたの王が俺を呼んだんだ。俺が来たくて来たわけじゃない」
アキレスは、不満をぶちまけるように、兵の胸をついた。
兵は、砂に尻餅をつく寸前で、身体を戻した。
足に砂をつけ、下からアキレスを見上げ、睨みつけた。
「王は、あちらにいらっしゃる。あなたは、勇者かもしれないが、私は、あなたのためにここで立たされていたのが、嫌だ」
アキレスは、兵士の背を蹴り、テントを後にした。
オデッセウスは、兵士たちの剣術比べを笑いながら見ていた。
オデッセウスの周りには、順番を待つのか、それとももう、終ったのか、沢山の兵士がざわめき、野次を飛ばしながら、集まっていた。
同じ丸太に、どう見ても狭く身を寄せ合って座っている。
「よう!起きたのか?」
兵士たちと一緒になって、模擬戦に野次を飛ばしていたオデッセウスが、アキレスに気付いて声を掛けた。
そうと知っていなければ、晴れやかな笑いが顔に浮かんでいた。
しかし、アキレスには、ほんの少しの疲れが見て取れた。
満足そうな疲労を滲ませ、オデッセウスの瞳が笑う。
「今日は、戦にでないのか?」
アキレスは、鎧もつけず、まったく普段着のオデッセウスに眉を顰めた。
兵士たちも同じような格好だ。
アキレスの存在に気付いたイタケー王の兵士たちは、野次をやめ、一瞬で静まり返った。
多くが、アキレスを睨んでいた。
模擬戦で、激しく打ち合っていた戦士も、剣を止めた。
「今日の戦は、どうせただの鍔競り合いだ。俺は無駄なことはしない。出て行ったところで、転んで怪我をするくらいが関の山だ」
イタケー王は、頓着なく、アキレスに笑いかけた。
剣呑な雰囲気の兵士たちに気付いていないわけはないのに、笑顔に曇りは無い。
アキレスは、顎をしゃくって、オデッセウスを呼んだ。
傲慢なアキレスの態度に、兵士たちの目が吊り上る。
しかし、アキレスは、大事な王の周りに群れる狼に似た犬たちが煩わしかった。
「どうした?何か用でもあるのか?」
気安くオデッセウスが立ち上がった。
膝の上に載せていた干し果物を隣の兵に渡し、アキレスへと近づく。
アキレスは、オデッセウスを待たずに背中を向けた。
殆どの王は、部隊をトロイへと向かわせているようだった。
イタケーの兵士を除くと、兵で残っているものなどいない。
「アキレス、お前のところの兵隊は、お前が帰ってこなくて困っているんじゃないのか?」
オデッセウスは、アキレスが、自分のテントへと戻れなかった理由を作った張本人の癖に、平気な顔でアキレスをからかった。
アキレスは、オデッセウスを睨んだ。
オデッセウスの顔からは笑みが消えない。
「お前が、ふらふらしているから、アキレスの兵は、大変だな」
「俺の兵隊は、お前のとこのみたいに頭がついてないわけじゃない。自分で考えて、自分で判断する。俺がいなくても、平気だ」
アキレスは不満を隠しもしなかった。
しかし、オデッセウスは肩を竦める程度の反応しか見せなかった。
「夕べはあれで、満足したのか?」
アキレスは、腹立ち紛れに、オデッセウスの腰を引き寄せた。
朝日が昇る頃には、意識をなくして、敷物の上に倒れこんだオデッセウスの中から、まだ力強く立ち上がっていたものを引き抜いたのはアキレスだ。
何がそんなに彼を興奮させたのか、オデッセウスはアキレスを求め、一晩中離そうとはしなかった。
「満足させてもらったさ。おかげで、しっかり歩くこともできない。今日、戦に出ずにすんでほっとしているところさ」
オデッセウスは、太陽の下で、アキレスに抱きとめられても平気な顔をしていた。
恐ろしく機嫌がいい。
「夕べの段階で、あんたはそのくらいのこと、予測していたんだろう。そうでなければ、あんな無茶苦茶なやり方をするはずがない」
アキレスは、乱暴にオデッセウスを突き放した。
珍しく、オデッセウスが砂に躓く。
確かに、足に来ているようだ。
アキレスは、小さな満足が胸に沸き起こるのを感じた。
「で、どうしてそんなにあんたが楽しくなっているのか、話す気になったか?」
アキレスは、昨日、オデッセウスにはぐらかされた答えが知りかった。
いや、昨日ばかりではない。
いつでも、オデッセウスが隠す全てが知りたかった。
だが、どんなに彼を観察しても、敵の弱い部分を一瞬で見抜けるアキレスの目ですら、オデッセウスの弱点はわからなかった。
肉体的な弱点は、わかる。
彼は、頭で考えすぎる。
剣を突き出すまでの時間が、長い。
もし、アキレスと打ち合うことになったら、3度と打ち合わず、オデッセウスは屍と化すだろう。
「言わないと言っただろう?俺はアキレスが好きなんだ。アキレスに嫌われるようなことは言いたくない」
オデッセウスの口元は柔和に微笑んでいた。
好きだという口の端で、どこにもアキレスの付け入る隙を与えない。
アキレスは、オデッセウスの服を掴むと、がら空きの誰のものともしれないテントに彼を連れ込んだ。
力だけでいえば、絶対的にアキレスの方が有利だった。
生まれついての戦士であるアキレスは、オデッセウスの首をねじ折る事だって決して難しいことではない。
このやり方で、アキレスは、オデッセウスを踏みにじった。
オデッセウスが、呆れた目をしてアキレスをみた。
「まだ、盛ってるのか?」
太陽の光を遮るテントの中でも、オデッセウスの白い歯は、笑いの形をした口の中から覗いているのが見えた。
アキレスは、オデッセウスを壁面へと追い詰め、後ろを向かせると、下帯を毟り取った。
「付き合ってもいいが、こんな人のテントでやるのか?」
本当に、何がそんなにもオデッセウスを楽しませているのか、機嫌のいい声が、不機嫌なアキレスを笑った。
アキレスは、言葉も発せずに、自分の指に唾を吐きかけると、オデッセウスの中に指をねじ込んだ。
一晩中アキレスのものをくわえ込んでいたオデッセウスの穴は、普段のきつさを忘れたように、アキレスの指を二本、抵抗もなく飲み込んだ。
「…うっ…酷いことをするな」
だが、さすがに、オデッセウス本人には急激過ぎる刺激のようだった。
息を飲み込み、身体に力を入れ、眉の間に皺を寄せた。
「…酷い?大丈夫だ。あんたの尻はいつもよりずっと緩くなっている」
アキレスは、逃げようとするオデッセウスの身体を抱き寄せ、背中にぴったりと身体を沿わせた。
オデッセウスの体は、何度も息を吐き出し、衝撃をやり過ごそうとしていた。
アキレスは、オデッセウスの耳を噛むようにして呟いた。
「何が、そんなに楽しいんだ?あんた、目が濡れたまんまだぜ?そんな目をして兵士たちと一緒になって遊んでいるなんて、王としての恥を知らないにも程があるだろう?」
振り返ったオデッセウスは、にやりと口元を引き上げた。
目が、アキレスを誉めるように笑っていた。
「仕方がないだろう?俺は、強い相手と戦うことを考えると、心の底から楽しくなるんだよ。トロイのヘクトルは、大した戦士だ。ああいうのがいるのかと思うと、心が弾むんだ」
アキレスは、オデッセウスの中を指で抉った。
滑るもののない内部は、アキレスの指に引き攣れた。
「…痛い。手加減しろ。馬鹿が」
テントの梁を握っているオデッセウスの手に力が入った。
「嘘つきめ!」
アキレスは、決して本心を明かさぬ、オデッセウスに腹が立って、指を勢い良く引き抜くと、彼の首を掴んで、床へと頭をつけさせた。
身体を捩って逃げようとするオデッセウスを強く敷物へと押し付ける。
「もう、いい。聞かない。あんたの利口な頭の中で、一体何を考えているのかどうせ聞いたところで俺には分からない。それよりも、昨日はあんたを満足させてやった。今日は、俺を満足させろ」
アキレスは、オデッセウスを見下ろし、低い声で脅した。
2人の力関係を、多くのものが、同等だと見ているだろう。
いや、もしかしたら、オデッセウスのことを、制御の利かないアキレスの手綱をわずかばかりに掴むことが出来る人間だという程度にしか、見ていない者もあるかもしれない。
しかし、オデッセウスは、完全にアキレスの手綱を握っていた。
いくらでも遠くまで走ることができるよう、オデッセウスは賢く手綱を緩めているが、絶対にアキレスを自由にはさせなかった。
今も、敷物に膝をつき、まるでアキレスの足元に跪いているようなオデッセウスだが、真実は、違った。
オデッセウスが否と言った以上、アキレスにはもう、これで満足するしかない。
「不満そうだな。アキレス」
オデッセウスが、口に含んでいたアキレスのものを舌先で舐めながら、にやりと笑った。
さっきから、ずっとこの調子で、オデッセウスは、アキレスを焦らしつづけていた。
深く喉を使わせて、自分がその刺激に満足すると、今度は、唇でしかアキレスを吸い上げなかった。
こんなことを他の女がやったならば、アキレスはその場で、犯して殺した。
満足はアキレスがすればいいことなのだ。
「イタケーの王は、おしゃぶりが好きだな」
アキレスは、見下ろすオデッセウスの髪を掴むこともできず、自分の拳を強く握り締め、仁王立ちになっていた。
足の間で、オデッセウスが笑う。
アキレスの言葉に、全く、傷つく様子もなく笑う。
「どこかの馬鹿のおかげでな。俺は人生の楽しみを、もう、一つ二つ増やすことが出来たんだよ。アキレスには感謝している」
鼻先で笑い飛ばす陽気さで、オデッセウスは返事を返すと、目を瞑って、アキレスに深く吸い付き始めた。
口内の刺激を満喫するように、ゆっくりと頭を動かす。
舌で、形を辿って、唇をその形に窄める。
上顎の自分の好きな部分に張り出した先端が当たるように、顔の向きを変える。
「…んんっ」
吸い付く合間に、オデッセウスは甘い鼻声を漏らした。
アキレスは、温かかく湿った口内に、夕べのきつい締め付けを思い出さずにはいられなかった。
「…させろ」
無理だとわかっていながら低くうめいた。
「いやだね。こんな誰のものともわからないテントでなんて、御免こうむる」
やはり、オデッセウスは自分の言ったこと曲げなかった。
「じゃぁ、せめて、服を脱げ」
「なんでだ?いいじゃないか。ちゃんと舐めてやってるだろう?」
焦った息を吐き出しているアキレスを無視して、オデッセウスは、繁みを舐める。
アキレスが掴みかからんばかりに顔を歪めて手を伸ばしているというのに、全く動じたところがない。
アキレスは、一度強く拳を握り締め、それから、オデッセウスの緩く結ばれた肩紐に指をかけた。
「…せめて、服を脱いでくれ」
アキレスの声が掠れた。
「…しかたがない。触るなよ」
オデッセウスは、恩着せがましく頷いて許した。
肩紐をとれば、オデッセウスの上半身は、すっかりアキレスに晒された。
アキレスは、手を伸ばして、オデッセウスの肩に触れた。
首をなで、髪に触り、丸められた背に手を伸ばす。
オデッセウスの肌は、滑らかな手触りだった。
アキレスの手が肌を滑る。
オデッセウスが、ちっ、ちっと、舌を鳴らして、約束を守らないアキレスを注意した。
アキレスは止めず、反対にオデッセウスの胸に触れた。
盛り上がる大胸筋をなで、その上に膨らむ乳首を指先で摘む。
「…やめろ!」
オデッセウスが、身体を捩って逃げた。
アキレスは、膝をつき、抱きしめ離さない。
「止めろと、言っているだろう!」
オデッセウスの体の中で、乳首は不思議なほどの弱点だった。
性交時に吸い上げようものなら、全くダメだ。
彼を楽しませてやる間もなく、オデッセウスは激しく上り詰めた。
「すこしだけだ。それより、休むな。ちゃんと俺のを握っていろ」
アキレスは、強く刺激しすぎないよう、舌先でほんのすこし触れる程度にオデッセウスの乳首を舐め、彼の手に自分のものを握らせた。
アキレス自身も、急激に固くなったオデッセウスのものを握る。
もう、先に雫が零れ出していた。
オデッセウスは、刺激を嫌がり、身体を捩るが、アキレスのものをちゃんと握っていた。
「こんなことをされても、俺が許せるなんて、よほど、機嫌がいいんだな。オデッセウス」
アキレスは笑った。
吐きかけられる息にすら、オデッセウスは身体を震わせた。
耐えられない刺激に、懸命に逃げようと身体を捩る。
アキレスは、片腕で、オデッセウスを抱きこんだ。
これだから、アキレスは、オデッセウスの乳首を責めてやることができずにいた。
「大人しくしろ。俺も、もう、いくから、あんたも安心していけばいい」
乳首を唇で挟んで、ほんの少し吸い上げただけで、オデッセウスは、アキレスの手を汚した。
快感というよりは、酷い目にでもあったように、大きく何度も息を付いた。
「早すぎる」
アキレスは、力の抜けたオデッセウスの手の上に、掌を重ね、仕方なく自分で動かした。
緑の目が、涙に潤んで、アキレスを睨んだ。
「アキレス。お前は明日死ね」
アキレスは、オデッセウスの首を掴んで引き寄せ、唇を重ねた。
イタケー王は、いつまでも、歯を食いしばったまま、口を開かなかった。
アキレスは、自分のテントに戻りながら、オデッセウスの言った言葉を考えた。
テントまでの間にいる兵士たちは、どれも頼りになりそうにない奴ばかりだった。
役に立ちそうなものは、すべてトロイとの戦闘に借り出されている。
「お前はしばらく、戦闘にでなくてもいい。この戦いは、まだ、序盤戦だ。ゆっくり昼寝でもして、女に可愛がってもらっておけ」
悔しそうな目をしたオデッセウスは、さっさと身づくろいしながら、アキレスに言った。
アキレスは、誰のだかわからない大切な水で、手を洗っていた。
その前には、オデッセウスが手を洗った。
オデッセウスは、水をテントの外へと捨てると、新しく一杯に水を張った。
「わかったな。お前が出て行くのは、もう少し後でいい。お前に相応しい死に場所を俺が選んでおいてやる。それまで大人しくしていろ」
睨みつけた緑の目は、あながち嘘を言っているとも思えなかった。
智将の名に相応しく、今の戦闘を評価していないということでもあった。
自分の足元に蹲る獣に、正しい情報を与えようとしていた。
「機嫌が悪くなったな。オデッセウス」
アキレスは、悪びれず言った。
「お前といる時は、大抵機嫌が悪いんだ。アキレス。さっさと服を着ろ。俺は、先に帰らせてもらう」
アキレスは、肩を怒らせた主人の背中を思い出した。
口元に笑いが浮かんだ。
一人だけで楽しんでいたオデッセウスを邪魔してやった。
やはり、何を考えているのか、理解はできなかったが、獅子は、主人に爪あとを残した。
END
続きというほど、続きじゃないんですが、獅子の続き。(笑)
豆ッセウスが、かわいくて、木馬から降りられません。
ほんと、どうにかしてくれってくらいに、可愛かったですよね?彼。