代償

 

アガメムノンの天幕から帰ってきたイタケの王は、どうしてか、兵士たちの目を不自然に反らさせるような、そんな空気を纏っていた。

「オデッセウスはいるか!」

「いらっしゃるが…しばらく休むとおっしゃられてテントの中に入られている」

夕刻の砂浜は、まだ昼の暑さを残していた。

イタケの兵の見下すような目を睨みつけながら、アキレスは、腹の中に溜まった熱い塊をすこしでも吐き出そうとするかのように、荒い息を口から出した。

「邪魔をする気か?」

アキレスは、肩を怒らせて、イタケの兵士の胸を後ろに突いた。

アキレスの腕は縄を幾重にも練ったように強い。

「オデッセウスさまは、休むと仰られている」

兵士は、精一杯胸を張って、アキレスに対抗した。兵士たちは、アキレスのような英雄ではないが、イタケの王から厚い信任を受けていた。その誇りが恐いような英雄の目を前に彼を真っ直ぐに立たせていた。

「アキレスが来たと言え!直ぐに顔を出せと言え!」

アキレスは、イタケの犬を前に、獣のごとく大きく吼え立てた。

小麦色の肌が、海へと落ちていく太陽に艶やかに光っていた。

燃え立つ瞳の色が、海よりも更に青い。

アキレスの大きな声に、オデッセウスのテントの前には、イタケの犬がぞろぞろと集まってきた。

どの顔も、英雄アキレスを心良く思っていない。

自分たちの飼い主を引きずり回そうとするアキレスを憎々しく思っている。

アキレスは、力強く、兵士たちを睨みつけた。

目が暗い光でぎらぎらとしていた。

1対10だろうが、20だろうが、獅子と犬では格が違う。

アキレスは、最初に相対した兵士を押し退け、テントへと近づこうとした。

兵士たちは、アキレスの発する怒りに、もう一歩の足が出ず、アキレスの手がテントの入口にかかるのを許してしまった。

 

「大きな声を出しているな」

アキレスがテントを潜るより前に、軽やかな声が、テントから笑った。

テントから、イタケの王が顔を出した。

僅かに疲れた顔をしていた。

しかし、目は優しげに笑い、怒りのあまり、目の吊り上っているアキレスをからかうような悪戯な表情をした。

「アキレス、うるさいよ。お前は」

オデッセウスは、口元を撫でるような仕草をしながら、口元を緩め、アキレスを笑った。

髪の色と同じの栗色をした口髭が、滑らかな指先で撫でられていた。

「オデッセウス様」

兵士たちは、一斉にオデッセウスを見、一様に申し訳なさそうな顔をした。

アキレスに押し退けられた兵士は、頭まで下げた。

オデッセウスは、鷹揚に笑った。

「いい。このアキレスを本気で止めようとしたら、俺の大事な兵士がいなくなってしまう」

智将は、にこりと、目元を緩め、兵士たちに散会を促した。

それとわからないように、兵士たちとアキレスを引き離した。

オデッセウスの上手いやり方に、兵士たちはすごすごとテントの前から散っていった。

兵士たちは、アキレスと自分たちが比べられたことに気付かなかった。

区別され、アキレスより下部に置かれたことに気付かないまま、智将の言葉に満足していた。

 

アキレス一人が、怒りに燃えた目のままで、オデッセウスの前に立つ。

足は、砂にまみれていた。

アキレスは、低い声を出した。

「…何をした?」

「なんのことだ?俺がお前に何かしたか?」

オデッセウスは、髪をかき上げるように手を上げ、汗の滲んだアキレスの額に、その手を伸ばした。

「止めろ。誤魔化そうとするな!」

アキレスは、オデッセウスの手を払った。

アキレスの金髪の先を、オデッセウスの指先が触っていった。

「何をそんなに怒っているんだ?俺が何か気に触ることでもしたか?」

オデッセウスは、アキレスに向かって眉を顰めた。

夕焼けが、オデッセウスの秀でた顔を照らしていた。

アキレスは、オデッセウスの胸倉を掴むと、そのままテントの中へ引きずり込んだ。

薄暗闇のテントの中で、緑の目がはっきりと見えるほど顔を近づけ、低く唸った。

「俺は、敵が多い。だから、聞きたくないことほど、耳に入ってくるんだ」

アキレスの息が頬にかかると、智将の目は意地悪く笑った。

「…だから?」

「…アガメムノンに何をさせた。どんなことをしてあの女を守るという要求を飲ませたんだ!」

アキレスは、オデッセウスの胸倉を引き寄せ、頭が仰け反るほど大きく揺さぶった。

「俺がそんなことを、いつ頼んだ!お前は何を考えてあの女を助けたんだ!」

オデッセウスは、アキレスの腕に手をかけ、激しく揺さぶるアキレスを止めた。

「ブリセウスは、アガメムノンに汚されるには惜しい女だ。あの女には、価値がある。無駄に消費する必要は無い」

オデッセウスは冷静な目でアキレスを見上げた。

アキレスは、ますます智将の胸倉を掴み上げた。

「では、なにが変わりに汚された!お前が無価値だと思ったものは何だ!」

激しく怒るアキレスは、智将を敷物の上へと突き飛ばし、その上に馬乗りになった。

 

のらりくらりとアキレスを交わしていたオデッセウスも、首を締め上げられるという事態に至って、とうとう口を割ることになった。

オデッセウスの顔は薄く腫れ上がっていた。

アキレスが打ったのだ。

戯言ばかりで、真実を打ち明けようとしないオデッセウスに、アキレスは、何度か平手を食らわせた。

オデッセウスの目は、こみ上げてきた生理的な涙できらきらと光っていた。

だが、唇がきれたりはしていない。

アキレスは、大分手加減している。

目の前が暗くなるほど怒りながら、アキレスは、オデッセウスを本当に傷付けることのないよう、本能的に自分の力をセーブしていた。

オデッセウスは、アキレスに首を締め上げられながら、まだ、アキレスを睨みつけていた。

「何が言って欲しいんだ。アキレス。お前は、いやらしい注進者から、何もかもを聞いたのだろう?それで、まだ、何が俺から聞いたいと言うんだ」

オデッセウスの声は、冷静だった。

低い怒りを含ませていた。

「何もかもだ。すべてを話せ。お前が払った代償を、俺がすべて取り立てる。残らず話せ。包み隠さずだ。それであの忌々しいアガメムノンをどうするか俺が決める」

アキレスは、首にかけた手を離す事無くオデッセウスを見下ろした。

アキレスの力強い足は、オデッセウスが逃げ出せないよう、がっちりと腰を挟んで毛皮の敷物へと押し付けていた。

アキレスの汗の匂いが、オデッセウスを包んでいた。

多分、オデッセウスが敷いている毛皮にも、この匂いは染み付いていた。

獣のように求めてきたアキレスを抱きしめた夜、この匂いは、オデッセウスを包んでいた。

オデッセウスは、投げやりに言った。

馬鹿にするような目で、アキレスを見上げていた。

「アガメムノンの求めに応じた。俺には望みがあった。叶えてもらうためには、いたしかたの無いことだろう?」

オデッセウスの首に掛かった手の力が強くなった。

オデッセウスは、口を開けて、すこしでも空気を取り込もうとした。

薄い唇が、ぽっかりと口をあけた。

「…どこまで、許した」

アキレスの目は、燃え立つように煌いていた。

話すために開いた口が、オデッセウスを食い殺しそうだった。

「口でしゃぶってやったよ」

苦しいに違いないのに、オデッセウスは、まだ、アキレスを見下げる態度を崩さなかった。

声が掠れていた。

「結構でかくて大変だった。だが、誰かのおかげで上手く舐めることができるんでね。随分喜んでもらった」

オデッセウスが最後まで言い終わらないうちに、アキレスの指が、オデッセウスの口の中に押し込まれた。

口の大きさに比べ、どう考えても大きいそれをアキレスはぐりぐりと押し込んで、オデッセウスの目に涙を滲ませた。

「…や…め…ろ」

顎が外れそうなほど、大きくオデッセウスの口は開けられた。

とうとう喉の奥まで指先で触れられ、オデッセウスは激しくえずきあげた。

馬乗りになるアキレスを押し退け、砂の上で身体を丸めた。

嘔吐した。

アキレスは、しゃくりあげる背中を冷たく見た。

「あのじじいが出したものは、吐き出したか?」

「…アキレス!」

口元を拭いながら振り返ったオデッセウスの髪をアキレスは片手で強く掴んだ。

髪が抜け落ちそうなほど強くオデッセウスは引っ張られた。

「来い!もう一度だ。すっかり腹の中から、吐き出すまで何度でもくり返し吐かせてやる」

アキレスは、近くに置いてあった水差しの口を直接オデッセウスの口の中に押し込んだ。

溢れ出して、髭を伝い、喉を伝っていく水など無視して、どんどんと水差しを傾けていった。

オデッセウスの胸に水が伝った。

「…やめ…ろ!」

顔中を水で濡れして、オデッセウスは激しく抵抗した。

だが、髪を掴むアキレスの力は強大だった。

アキレスは、一旦水差しを置くと、また、オデッセウスの口の中へと指を押し込んだ。

引き結んだ唇をねじ開け、顎を掴んで歯を開かせ、太いアキレスの指が、オデッセウスの口内に入った。

オデッセウスの歯は、アキレスの指を噛んだ。

指が千切れてしまっても構わないというほど強く歯を立てたというのに、アキレスは、顔色ひとつ変えることなく滑らかなイタケ王の口内を蹂躙していった。

耐え切れない吐き気がオデッセウスを襲う。

オデッセウスの喉の奥が震えると、アキレスは、指を引き出だし、オデッセウスを砂の上へと引きずり出した。

もう、水しか、オデッセウスは吐かない。

苦しそうに、身体を震わせて、綺麗な水を吐き出している。

「…何をしたのか、話す気になったか?」

アキレスは、肩で息をするイタケ王の頭の上から、残りの水をぶちまけた。

水は、オデッセウスの丸い肩を濡らし、麻の衣装を肌に張り付かせ、砂の中に吸い込まれていった。

オデッセウスは、ゆるゆると顔を上げて、アキレスを見上げた。

目は涙に潤んでいた。

開いた唇は、疲れたように開いたままだった。

アキレスは、その顔を冷たく見下ろした。

口を利くようになるまで、そうして眺めていてやるつもりだった。

 

「アガメムノンは、巫女にさせるつもりだったことを俺にさせろと要求した。全てするのは嫌だったから、膝を折って、口を開いた」

オデッセウスは、告白を始めた。

「まず、頭を引き寄せられた。何度も服の上から、股間に顔を擦りつけられて、それからやっと、手で触ることが許された。手に持ったときは、もう、両手に余るほどの大きさだった。色も赤黒く、匂いもきつかった。それの先に何度か口付けをして、舌先で、まず舐めたんだ。いきなり口を開けたら、髪を掴んで、文句を言われた。礼儀というものを知らないと」

告白の内容に対して、オデッセウスの顔は、嘘のように穏やかだった。

風のない水面のように、小波ひとつ立っていない。

「白髪混じりのうっそりとした毛にも口付けるよう要求された。でっぱった腹に唇を寄せている間中、固く立ち上がっているもので顔を撫でられた。先端がぬとぬとと濡れていたから気持ち悪かった。それから、やっと、口に含むよう言われて入れた。年のくせに、全く衰えてないんだ。お前と代わらないくらいでかくて、苦しいのに、喉の奥をがんがんと突いてくるんだ」

「吐き出そうとしても、頭を押さえつけられて逃げられなかった。舌で舐めるよう言われて、喉を使われながら、必死で舐めた。唇を使って締め上げろと言われたから、そうした。何度も何度も、吐きそうになるほど喉を使われた」

淡々と語るオデッセウスをアキレスは、打った。

オデッセウスが、吹っ飛んだ。

テントの端まで転がって、背中を柱にぶつけた。

身を起こした、オデッセウスは激しく叫んだ。

「じゃぁ、どうしろと言うんだ!お前の巫女がどうされようと、俺は知らん顔で良かったのか!」

水の表面は、石を投げ入れられれば、波が立つ。

大きな石であればあるほど、大きな波が立つ。

オデッセウスは、我慢していたものが一気に吹き上げるように、端正な顔を歪めて、強くアキレスを睨んだ。

「じじいのものを咥えて、足に腰を擦り付けてやったよ。お前にしてやるように、鼻を鳴らして、舐め回したさ。顔中唾液で汚して、出てきた精液を吸い上げた!最後には、息も出来ないくらい深くまで押し込まれて、全部飲まされた。これで、全部だ!満足したか!」

オデッセウスは冷たく目を煌かせて吼えた。

全身が、烈しくアキレスを拒絶していた。

アキレスは、オデッセウスの間近に迫った。

オデッセウスの胴を掴むと、ひょいっと腕の中に抱き上げた。

「下ろせ!」

オデッセウスは腕の中で暴れた。

長い足を振り回して、アキレスを蹴り上げた。

だが、アキレスの身体は、そんな抵抗になど、びくりともしなかった。

太い腕が、万力のような力で、暴れるオデッセウスを拘束した。

「この身体は豚にくれてやるほど価値のないものだ。どうされようと、構わないだろう?」

アキレスは、オデッセウスの濡れた身体を敷物の上に乱暴に下ろすと、まず唇に食らいついた。

息もつけないほど、激しくオデッセウスの唇を貪り、薄い唇が、空気を求めて、顔を離すたび、追いかけ塞いだ。

赤い舌が、逃げ惑うのを強引に絡めとり、自分のものとした。

その間にも、アキレスの手は、オデッセウスの身体を這いまわった。

薄い体毛が生えた太腿を撫で回し、足がきつく閉じようとするのを、強引に割り裂いて、股の間に手を差し込んだ。

きつく閉じた太腿が、拒むつもりで反対にアキレスの手を股間へと張り付かせた。

「なんだ?期待しているのか?」

アキレスの方が、僅かにタイミングが早かった。

オデッセウスは切れ上がった目でアキレスを睨んだ。

アキレスの触れたオデッセウスの足の付け根は、汗をかいて、しっとりと濡れていた。

滑らかな肌の感触が、手の平に吸い付いた。

「誰が!」

興奮に頬を赤くしたイタケ王は、愚弄するアキレスの言葉に、すぐさま足の力を抜いた。

その隙を逃さず、アキレスは、オデッセウスの足を大きく開かせた。

アキレスの身体を挟み込んで元の位置に戻れなくなるまで開かせると、アキレスは、悠々とオデッセウスの下帯を解いた。

面白いことに、イタケ王のものは立ち上がっていた。

ぴたんと腹を叩かんばかりにすっかり興奮した様子だった。

アキレスは、驚いて目を見開いた。

「…どうしてだ?」

それを晒してしまうと、イタケ王は、人が代わったようにアキレスの腰に足を絡め、自分から、アキレスの首に腕を回した。

その豹変はアキレスの予想をはるかに越えていた。

「したい…してくれ、アキレス」

自分から、腰を擦り付けてくるオデッセウスにアキレスの方が、動揺した。

次の動作に移れずに、オデッセウスの身体を首からぶら下げたような形で覆い被さっているアキレスの首に、オデッセウスが唇を寄せた。

耳へ、頬へと、幾つもの口付けが、落とされた。

その間も、オデッセウスの気持ちがわからず、アキレスは、ただじっとされるがままになっていた。

口付けをするイタケ王は、今の今まで、抵抗ばかりしていたのだ。

「…お前のことばかり考えていたんだ…そうしないと我慢できなかった」

熱い声が鼓膜を打ち、オデッセウスの手が、慌ただしくアキレスの身体を探った。

目がしっとりと濡れていた。

唇は、アキレスの口付けを望んだ。

物悲しいくらい性急な手つきは、切実にアキレスを求めていた。

「…お前がいい。お前に抱かれたいんだ、アキレス」

掠れた声が、アキレスの情動を突き動かした。

アキレスは、オデッセウスの髪を掴んで、頭を敷物へと押し付けると、齧りつくようにオデッセウスに口付けた。

額を晒したオデッセウスの目が柔らかく笑った。

指に唾を吐きかけたアキレスが、慌ただしくオデッセウスの後ろを探ると、オデッセウスが眉を寄せて痛みに耐えた。

痛がっているのが分かっていながら、アキレスは強引にそこをならした。

自分の下帯を取り去り、滑る先端を襞へと押し付け、汁気を増やしては、広げる作業を続ける。

オデッセウスは、足を広げたまま、乱暴な愛撫を甘受していた。

優しい視線が、アキレスを包んでいた。

「…もう、いいから…」

なにがもういいのか、ただ、2人とも待ちきれないだけではないのか、十分な準備が出来ているとは言い難いオデッセウスの腰をアキレスは高々と持ち上げた。

ぬるりとした先端が、オデッセウスの穴を穿つ。

「…くうっ…」

さすがに、痛むのか、オデッセウスが唇を噛み締めた。

そして、香油などで濡らしていない内部の軋む感触は、アキレスの顔をも顰めさせた。

けれども、どちらもやめるとは言わない。

「…もっと…奥へ」

唇の色をなくすほどのくせに、オデッセウスは、アキレスの背を抱きしめた。

アキレスは、強引に腰を進め、萎えてしまったオデッセウスのものを扱いた。

巧みなアキレスの手淫に、オデッセウスのものが力を取り戻す。

オデッセウスは、自分から、アキレスの腰に足を絡めて、動いてくれるようねだった。

緑の目が、縋るようにアキレスを見つめた。

「…アキレス」

「オデッセウス…オデッセウス」

アキレスは、熱に浮かされたように、オデッセウスの名を呼び、腰を突き上げた。

柔らかな皮膚をした膝裏を掬い上げ、思い切り恥かしい格好にイタケの王をさせてやると、好きなだけオデッセウスに叫ばせた。

アキレスの汗と、精液の匂いが、またオデッセウスの敷物に染み付いた。

 

満足そうな顔で敷物に転がるオデッセウスをアキレスは背中から抱きしめていた。

胸の中には、オデッセウスに掛けてやりたい言葉が、形をとれないまま、もやもやと渦巻いていた。

だが、何も言えず、ただ、抱きしめていた。

その腕のなかにいるオデッセウスは、口元を緩ませていた。

笑い方は、穏やかだというには、もうすこし物騒な笑い方だった。

「…アキレス」

オデッセウスは、アキレスに背を向けたまま、アキレスの名を呼んだ。

声だけ聞いていれば優しげだと言えなくも無かった。

アキレスは、答える代わりに、オデッセウスの項に唇を落とした。

優しい口付けだった。

「アキレス、俺の作った話は気にいったか?」

アキレスは、眉を寄せた。

オデッセウスの言う事がわからなかった。

「お前が、どうしても俺のことを侮辱したいようだったから、話をあわせてやったんだ。どうだ?気にいったか?」

アキレスは、力づくでオデッセウスの身体をひっくり返した。

腕の中のオデッセウスの目は、きらきらときらめいていた。

成功した悪戯に喜ぶ子供のように、意地の悪い顔をして笑っていた。

「お前は、俺のことをなんだと思っている?俺は、ギリシャ軍の知恵袋と言われるイタケの王なんだぞ。口が上手くなくてどうするというんだ。アガメムノンくらい、口先で丸め込んで当然だろう?」

オデッセウスは、つり上がった目で流し目をくれながら、俺を見下げるなと結んだ。

アキレスは、歯を食いしばった。

端正に整った顔を殴り飛ばさないためには、そうする必要があった。

「…アガメムノンにはなにもされていないと?」

「当たり前だろう?何故そんなことをしなければならない?」

「じゃぁ、俺にお前がアガメムノンの天幕へと一人残ったと告げに来たあいつは…」

「それは、本当に残ったんだ。だが、説得しただけだ。交渉は俺の得意分野だからな」

言い終わるなり、にやりと笑ったオデッセウスは、アキレスの肩に歯を立てた。

後に、歯形が残るほど強い噛み方だった。

アキレスは、唖然とした目で智将のやることを見ていた。

「何を信じるかは、お前の決めることだが、敵だとわかっている相手の言葉より、まず俺の言葉を信じろ」

オデッセウスは、アキレスを責めた。

アキレスは、顔を顰めて、自分の方に残った歯形を見つめた。

もう、返す言葉もみつからなかった。

「返事をしろ、アキレス」

オデッセウスは、アキレスの髪をひっぱった。

しっかりと自分の顔を見させた。

「………畜生」

目を反らしたアキレスに、オデッセウスは、弾けるような柔らかな笑いを浮かべた。

 

END

 

 

        

 

アキちゃんの負け。(笑)

絶対にネタが被ってるんですけど、書いてみたかったブリちゃんの貞操を守るために…という題材でラブラブした話を書こうと思った結果、こうなりました。

途中のオデ告白シーンでは、実録ものみたいなのを目指したんですが、撃沈。(笑)

精々精進したいと思います。