明かりの色

 

昼間、太陽に灼かれた砂は、夜になってもまだ、熱を残していた。

足に掛かる砂が熱い。

イタケー王は、この暗闇でばれるはずはないと思いながらも、緩みそうになる口元を隠しながら、声を掛けてくる兵に挨拶を返した。

つい、足早になる自分を戒めるため、わざと遠回りなコースを選んでいた。

おかげて、何度、挨拶を返したか、分からない。

ここに集まっている兵士たちの多くが、オデッセウスを知っていた。

しかし、誰も何のために、オデッセウスがアキレスのテントに向かうかは知らない。

オデッセウスは、間近に近づいたアキレスのテントを前に足を止めた。

テントは静まり返っていた。

「…嫌がる顔が目に浮かぶようだ」

オデッセウスは、苦笑した。

 

トロイとの戦争が始まって以来、3日と開けず、オデッセウスは、アキレスのテントに通った。

最初は、乗り気だったアキレスも、今はもう、オデッセウスに呆れていた。

近頃では、女を抱きこんだまま、オデッセウスを無視しようとすらした。

それなのに、オデッセウスは、懲りる事無くアキレスを誘った。

アキレスは、どうしてこんなにオデッセウスが求めてくるのか分からなくて、怒っていた。

オデッセウスは、一度もアキレスに本心を打ち明けたことがない。

オデッセウスは、決して言わない。

「お前を殺してくれるかもしれない奴がいるから、心が沸き立っているんだ」

なんていうことは。

だが、その考えが、オデッセウスを激しく興奮させていた。

アキレスは、ギリシャ軍にとって、最強の駒だ。

彼がいなければ、トロイの城壁を破ることなど出来ないだろう。

だが、最強の駒を頭のなかで弄んでみると、一番楽しいのは、その最強を潰すことだ。

今まででは、ありえなかったが、今度の戦いでなら、それが可能かもしれない。

トロイにはヘクトルがいる。

どうしたら、ヘクトルにアキレスを殺らせることができるか?

アキレスが憎いのではない。

彼が、強すぎるのがいけないのだ。

策謀に長けたオデッセウスをアキレスの強さが誘惑する。

 

来訪を予見して、早々に眠りについてしまったアキレスのテントへと、オデッセウスは足を進めた。

寝ていようとも、起こす気だった。

どうしようもないほど興奮した身体を鎮めるのに、女では無理だった。

だが、誰でもいいと言えるほど、イタケーの王は、風評を気にせずにいられる立場でもなかった。

「誰だ?」

アキレスのテントに近い場所に、見慣れない影が立っていた。

オデッセウスは、足を止めた。

「誰だ?お前は、アキレスの兵じゃないな」

オデッセウスが、くることがわかっているせいか、アキレスは、テントの周りに兵を置こうとしなかった。

中にいる女一人くらいは、どんなことがあろうとも、アキレスが守り通すだろう。

「誰だ?……あっ」

オデッセウスは、一番ありえない答えを目の前にみつけて、思わず小さく息を飲んだ。

月明かりに映えるすらりとした肢体。

逞しい腕。足。

男らしく整った顔。

表情までは読むことができないが、強く光る目。

トロイのヘクトルだ。

その姿を目の当たりにしたことはなく、口伝に聞いたに過ぎないが、オデッセウスが想像していたとおりの美丈夫が、睨みつけるようにして、砂の上に立っていた。

これだけの威圧感をただの兵士が出せるわけがない。

険しい目の光が違う。

どんなに薄汚れた格好をして誤魔化そうと、気品を捨て去ることができずにいる王子を前に、オデッセウスは思わず、唇を舐めた。

 

「何をしている?そこは猛獣のテントだぞ?」

オデッセウスは、激しい警戒心を見せているヘクトルを刺激しないよう、つとめて穏やかな声を掛けた。

「こっちに来い。それ以上近づいたら、猛獣が牙をむいて、掛かってくるぞ?」

これは、嘘でもなんでもなかった。

アキレスは、恐ろしく鋭い勘を持っていた。

こんな無防備に自分を晒して、テントに近づいたのでは、ヘクトルがアキレスの寝首を掻く前に、切り殺された。

「猛獣とは誰だ?」

ヘクトルは、オデッセウスに近づいた。

癖のある髪が黒いことがオデッセウスに見て取れた。

瞳も黒い。聞いたとおりだ。間違いない。

「猛獣?そんなのアキレスに決まっているだろう?どうした?お前は、奴を英雄だとでもいうつもりなのか?」

ヘクトルは、英雄として評価されるアキレスしか知らないのかもしれない。

不思議そうな顔をして、オデッセウスを見た。

オデッセウスは、自分のことが相手に悟られないよう、兵士たちと同じように、ぶっきらぼうな口を利いた。

そして、ヘクトルを観察することを怠らず、つぶさに見つめた。

ヘクトルはアキレスよりも背が高かった。

思慮深い顔立ちをしていた。

力強い体をもっていた。

最上級の戦士と言えた。

だが、ヘクトルを検分し終えたオデッセウスは、つまらなくなって、目を眇めた。

この男が、アキレスに敵うか。

砂で足を汚すヘクトルを、じっと観察していたオデッセウスの出した答えは、否だった。

こんな風に何かに縛られた顔をした男が、あの無敵に敵うはずが無い。

アキレスは、強大だ。

もっと冷酷な顔をしたヘクトルが、アキレスを捻り潰す姿を夢見ていたオデッセウスは、心の中に湧き上がっていた楽しさが急速にしぼんでいくのを感じだ。

だが、ヘクトルに利用価値はある。

正しくギリシャ軍の軍師としての顔を取り戻したオデッセウスは、ヘクトルから、トロイ軍の情報を引き出すこと、そして、偽の情報を流すことについて考えた。

こんなところまでやってくるヘクトルの豪胆さには感心したが、オデッセウスの考える理想の敵の姿は違った。

こんなに単純では困る。

あのかわいらしい獅子に止めを刺してくれるならば、もっと巧妙に動ける人間でないといけない。

だが、馬鹿には馬鹿なりの利用方法があった。

 

「どこに行こうとしている?もし、用がないのなら、俺と一緒に来ないか?ちょうど探していたんだ。あんたみたいな奴を」

オデッセウスは、気軽な調子でヘクトルに声をかけた。

ヘクトルには、利用価値があった。

下手に探られる前に、意図的に情報を流してトロイ軍を混乱させる。

そして、彼から、トロイ軍の情報を得る。

ヘクトルは、意味がわからないというように、首を傾げた。

激しい意思をうかがわせる目が、しつこいほどオデッセウスを観察していた。

オデッセウスは、王宮の奥深くに住む、王子を心の中で笑った。

ギリシャの兵士に紛れ込むつもりなら、この程度の悪癖は見に付けて置いてもらいたかった。

上手く女にありつけない兵士たちがどうやって、寝苦しい夜を乗り切るか。

誘われて、首を傾げるなんて真似をしていては、どれ程薄汚い格好をしていようとも、自分の身分を明かすようなものだった。

だが、本当のところ、アキレスとのことがなければ、オデッセウスにも、ヘクトルを笑うことはできなかった。

オデッセウスは、自分がそんな対象として存在できるなどと考えたことはなかった。

しかし、今は、分かる。

こういう誘いを、オデッセウスにかける馬鹿はいないが、誘う方法なら、嫌というほど、アキレス相手に学んだ。

「どうした?あんたは、相手を選べるほど、困っちゃいないってわけなのか?」

オデッセウスは、ヘクトルが身に付けているのが、短刀だけだと見切って、彼に近づいた。

身体に力をいれるヘクトルをいなしながら、その短刀を引き抜かれないよう、利き手でまず、そちらの腰を抱いた。

案の定、ヘクトルが汚れているのは、外見だけで、体からは香油のいい匂いがした。

「どうした?明日の補給はまだ来ないという話だろう?どうせ、明日もただの小競り合いだ。あんただって、相手を探してうろついていたんじゃないのか?」

どこまで、ヘクトルを誘惑することができるのか、オデッセウスは、何かを企む時には必ず感じる楽しさに、頬が自然に笑うのを感じだ。

月が戸惑うヘクトルの顔を映しだしていた。

 

ヘクトルは、オデッセウスについてきた。

補給についての話をしたオデッセウスのことを口の軽い馬鹿だと思ったのだろう。

オデッセウスの要求することが、とても生理的な欲望で、そういう相手からは話を聞きだしやすいと考えたのかもしれない。

砂を踏みながら、オデッセウスは、口元が緩むのを押さえるのが大変だった。

また、よからぬ考えが、頭に浮かんで、彼を楽しくさせていた。

自軍を窮地に陥れることになるが、もし、ヘクトルに、アキレスを倒すための方法を教えたらどうなるのか?

いや、全てをオデッセウスが教えなくとも、いい。

オデッセウスが、ヘクトルに、もうすこしだけ、狡賢い知恵を授けたなら、あの獅子はどうなるのだろう。

この誘惑は、オデッセウスには堪らなく甘く感じられた。

ヘクトルは、アキレスと互角に戦える戦士としての体格を有していた。

足りないのは、貪欲さ、峻烈さ。どうしても生き残るという恥のなさ。

ヘクトルに狡猾さをオデッセウスが授けたとしたら、アキレスはどうなるのか。

 

気持ちよい風が吹き、夜の熱さを和らげていた。

ヘクトルが、オデッセウスに手を伸ばした。

オデッセウスの首元を、戦士の指先がくすぐったいような感触で撫でていった。

思わぬ繊細さで撫でられ、オデッセウスのほうが焦った。

「ここで?」

ヘクトルが聞いた。

自分のテントに連れて帰るわけにもいかないオデッセウスは、人気の無い火葬場近くに、ヘクトルを連れ出していた。

そこは、明日、死ぬための兵士のために切り出された木材が無造作に積み重ねられていた。

「場所を選べるとでも?」

動揺を押し隠して笑ったオデッセウスを、思ったよりもずっと慣れた手つきでヘクトルが抱いた。

「どこまで許す?」

ヘクトルは、オデッセウスの髪を撫でた。

「気に入ったら、最後までやらせてやるよ。気に入らなきゃ、出して終わりだ」

「明日は、補給がないんだろう?だったら、いいじゃないか。最後までさせろよ」

オデッセウスは、まんまと騙されているヘクトルの肩に顔を埋めて笑いを隠した。

補給の船は明日来る。

明日の船が着いたら、大きな攻撃を仕掛ける。

トロイは、大きな損害を受ける。

「あんたが、上手かったら考える。トロイの方から、仕掛けてこないとも限らないだろう?」

見上げたオデッセウスの顔に、ヘクトルの顔が重なった。

自分が妻と交わす口付けくらいに優しく、甘いヘクトルのやり方に、オデッセウスは、アキレスとの違いをまざまざと感じた。

「こういう口付けは嫌いなのか?」

応えないオデッセウスに、ヘクトルは唇を離した。

オデッセウスは、とぼけてみせた。

「もしかして、俺はとんでもなく身分の高い方を誘っちまったのか?」

「…こんなことは、しない?」

「いや、する奴もいるけど、しない奴の方が多いな。もしかして、本当にただの兵士じゃない?」

オデッセウスはヘクトルを追い詰めた。

ヘクトルは、うまく誤魔化そうとして、オデッセウスの策略に嵌った。

「兵士だ。今日も、城壁近くで、矢に射殺されそうになっていた」

「どの辺り?今日は俺も、前線に出ていた。俺は東端。あっちは、酷く兵の層が厚かった。お前がいたのところは?」

「正面だ。王族がいるせいか、一番兵士が多い。最悪な場所だった」

オデッセウスは、情報を与えてくれるヘクトルに褒美を与えるように、彼の足を撫でた。

そのままもっと上まで手を突っ込んだ。

「性急だ」

ヘクトルが手を押さえた。

「なんでだ?これが目的だろう?」

オデッセウスは、緑の目で悪戯に彼を見上げた。

 

ヘクトルの手が、オデッセウスの身体を這いまわった。

肩紐を緩め、肌を晒し、オデッセウスの胸に触れようとした。

オデッセウスは身体を捩った。

「色男。まるでパリス王子のようじゃないか。そこまでしてくれなくていい。もっと、簡単にしようぜ?」

オデッセウスは、それを避け、ヘクトルの身体にぴったりと身体をくっつけた。

酷く感じる胸を触られるのが嫌だった。

重なったヘクトルの胸は、激しい鼓動を伝えてきた。

「…パリス王子?」

ヘクトルはオデッセウスの言った弟の名前に反応した。

「そう。ヘレンさまをとろとろに蕩かして連れて逃げた下の馬鹿王子。大層な色男だって話だが、あんた程いい男かな?やっぱりアレがでかいのかな?」

ヘクトルの下帯を解きながら、オデッセウスは、にやにやと笑った。

こういう場に相応しい下品な話題を振った。

「知らないさ。そんなこと。ただ、ネメラオス王よりはパリスはずっと若いからな。多分、それが理由なんじゃないか」

ヘクトルは、顔を顰めた。

突き放したヘクトルの言い方に、トロイへと逃避行したヘレンの置かれた立場がわかる気がした。

オデッセウスは、ヘクトルのものを握った。

固くなり始めているものに、口元が緩んだ。

こんな性質の悪い笑いができるようになったのは、アキレスのおかげだ。

「やっぱり、床上手なんだと思うか?」

「だれが?ヘレンさまが?パリスが?」

オデッセウスが手を動かすと、強くヘクトルがオデッセウスの背を抱いた。

熱い息が、オデッセウスの耳を噛んだ。

「いや、ヘクトルがさ」

笑ったオデッセウスに、ヘクトルが絶句した。

 

後ろからつながりながら、オデッセウスは、身体を揺すられていた。

思っていた以上に、ヘクトルは巧みだった。

そして、思っていた以上に、ヘクトルは口も開いてくれた。

オデッセウスは、言葉巧みに、トロイが激しく宗教に支配されていることを聞き出した。

ヘクトルだってただの男だ。

固く勃っているものを締め付けられているのに、そうそう用心深くはいられない。

自分の知らないことを知る楽しさに、オデッセウスは、つい、引いていた線を越えてヘクトルに与えていた。

ヘクトルの触れ方が優しく、気を許していたせいもある。

そこまで許すつもりはなかったのに、アキレス以外の男を始めて、後ろで迎え入れた。

相手のものによって、擦り上げてくる場所が違うと言う事に、オデッセウスははじめて気付いた。

「…いいか?」

ヘクトルは、掠れた声で、オデッセウスに聞いた。

オデッセウスは、火葬のために組み上げる丸太に掴まって、背後から揺さぶられていた。

「…いいよ。かなり…いい。…あんたを選んで正解だった」

オデッセウスは、結局のところ、誰とだって楽しめる自分の身体に驚きながら、あとどのくらい、ヘクトルから、情報が引き出せるかを途切れ途切れに、考えていた。

ヘクトルのものは、オデッセウスの中を奥まで抉った。

固さも、大きさも、アキレスに負けていなかった。

そして、普段どんな壊れ物のような女を抱いているのか、決して乱暴にはしなかった。

オデッセウスにとって、それは、物足りないような、満ち足りたような不思議な感覚だった。

何ひとつ強く打って出なくとも、オデッセウスの快感が優先された。

アキレスとは、まるで違う。

 

ヘクトルが、オデッセウスの腰を掴んで、激しく尻に打ちつけ始めた。

オデッセウスの腰が痺れる。

アキレスに十分仕込まれた身体は、快楽に貪欲だった。

ヘクトルの大きな手に腰を預けて、身体を揺する。

「いい顔をする。こうされるのが、好きなのか?…あんたは、すごくいいな」

ヘクトルの唇が、オデッセウスの背に吸い付いた。

息が弾んで、焦ったような声を出した。

「…好きだよ。あんたが、すごくよくしてくれるからな」

オデッセウスも甘く返した。

汗を滲ませた男の顔が、嫌いではなかった。

打ち付ける腰の激しさとは別に、優しく背中を啄ばむ唇の感触に、オデッセウスは首を捻って、ふわりと笑った。

それが間違いだった。

ヘクトルは、目を見開いた。

いきなり、オデッセウスを持ち上げた。

地に足がつかなくなり、焦ったオデッセウスが暴れるのを抱きとめ、繋がったまま、オデッセウスに砂を掴ませた。

オデッセウスが、獣のように砂の上で4つ足でいたのは、僅かの間だ。

そのまま、身体を回されて、抱き合う形に変えられた。

腰をヘクトルに抱き上げられ、オデッセウスは、背中を砂につけた。

ヘクトルの唇が、オデッセウスの身体に這った。

何をされるのか予測がついて、オデッセウスは激しく暴れた。

「…嫌だ!」

声を荒げた。

首筋を辿り、肩に落ちてきたヘクトルの熱い息に、オデッセウスは、今までにない抵抗をした。

「嫌だ!嫌だ!」

ヘクトルは、大きな手で、オデッセウスを押さえ込み、肩から胸へと舌を這わせた。

舌先が、オデッセウスの肌を舐め上げた。

「嫌だ!止めろと言っている!」

こうなってしまうと、ヘクトルは、オデッセウスの敵う相手ではなかった。

大きな身体は、オデッセウスの抵抗などものともしない。

どんなに拳を振り上げても、ヘクトルは怯みもしなかった。

決して歯を立てない優しい口付けが、オデッセウスの弱点に近づく。

「止めろ!嫌だ。嫌だと言っている!……・あああっ!!!」

ヘクトルが、オデッセウスの乳首を吸い上げた。

オデッセウスは、激しく身体を痙攣させた。

悲鳴のような鋭い声を上げて、大きく後ろへ仰け反った。

激しく身体を緊張させて、ものすごい勢いで、後ろを絞り込んだ。

足の先まで、真っ直ぐに張り詰めた。

痛いほどの締め付けに、思わずヘクトルは顔を顰めた。

ただの愛撫のつもりで、オデッセウスの乳首を口に含んだヘクトルには何が起きたのかわからなかった。

ヘクトルの腹が、べっとりと濡れた。

僅かの刺激にオデッセウスがいったのだ。

放心したように、オデッセウスの体から、ぐったりと力を抜けた。

ときおり、痙攣だけが走っていった。

オデッセウスは犬のようなせわしない息を繰り返して喘いだ。

「…大丈夫か?」

あまりに激しい上り詰め方に、恐々と、ヘクトルが声を掛けると、涙に滲んだ目が、ヘクトルを睨んだ。

緑の目に、ぞくりとくるような色気が溢れていた。

薄く開いた唇が、口付けを誘うように早い息を繰り返していた。

ヘクトルは、そろそろと腰を動かしそうになる自分を戒めた。

オデッセウスは、ヘクトルの肩を打った。

「…嫌だ…と…言った!」

「…悪かった」

ヘクトルは、まさかこんなことになるとは思っていなかった。

今まで相手にしてきた誰とも同じ反応ではなかった。

ヘクトルは、驚きのあまり、まじまじと涙に濡れた、吊り上がった目を眺めた。

息の収まったオデッセウスは、ぐっと太腿に力を入れて、ヘクトルを締め付けた。

「…動けよ。そして、さっさといけ!このぐず!」

ヘクトルは、小さくうめいた。

言葉は悪かったが、オデッセウスの身体は最高だった。

オデッセウスの腰を掴んで、遠慮せずに内部を荒らした。

涙に滲んだ目が、ヘクトルを睨んでいた。

笑っている顔も綺麗だったが、この顔もヘクトルを強くそそった。

ヘクトルは、大きく中を抉った。

そして、いく時に初めて、彼の名を呼んだ。

 

「…最悪だ」

智将と呼ばれるイタケー王は、機嫌悪く服装を整えていた。

ヘクトルは、そんな彼を苦笑するしかなかった。

「あまり俺を馬鹿だと思うな」

「馬鹿だと思って当然だろう?ここはギリシャ軍の真中だ。こんな場所に突然やってくる奴は、そうとう頭が悪い」

ヘクトルは、オデッセウスの髪についた砂を払った。

オデッセウスは、ヘクトルの手を打った。

「さっさと帰れ。あと僅かでもここにいたら、誰かを呼ぶ。くそっ、嘘ばかりだから、あんなにべらべらとしゃべっていたのか」

オデッセウスは、しりきと髭を触り、唇を指で挟んだ。

「…嘘ばかりだと?」

「ん?俺の体が最高だとういう話は本当だとでも言う気か?」

鼻の頭に皺を寄せて嫌味を言うギリシャ軍きっての軍師に、ヘクトルは苦笑した。

「あいこだろう。オデッセウス。あんただって、本当のことは言わなかったはずだ。それに、決してアキレスについて、教えてくれなかった。あんたは、本当にアキレスを大切にしているんだな。あれだけ聞き出そうとしたのに、分かったのは、彼が猛獣と呼ばれているということだけだ」

ヘクトルは、途中で彼がオデッセウスだと気付いたとき、まず、一番にギリシャ軍の切り札であるアキレスのことを知りたかった。

なのに、オデッセウスは、まるで口をわらなかった。

あんなにも気持ちの良さそうな顔で、揺さぶられていたというのに。

耳元で囁いた淫らな言葉をどんなにも上手く繰り返したというのに。

「本当に奴は、猛獣なのさ。ああ、もう、帰れ!二度と来るな!」

オデッセウスは、機嫌悪く声を荒げた。

だが、実は、腹の中で笑っていた。

ヘクトルが、思った以上に、悪い男なのだと分かって、オデッセウスは楽しくなっていた。

オデッセウスは強い男が好きだ。

特に、アキレスを倒すことが出来るほど強く、卑怯な男。

もし、この男が、俺の獅子に剣を突き差すようなことになったら。

この考え以上に、オデッセウスを楽しませてくれる想像はなかった。

最強の戦士を殺す方法。

最強の軍を滅ぼす方法。

生まれ持った策略を愛する本性は、どんなに温和な性格をしていても、しまっておけるものではなかった。

 

獅子は、苦しむだろうか。

本当に俺は、獅子を殺してしまうだろうか?

 

トロイ軍の勝利を考えるのは、ギリシャ軍の勝利を考えるのと同じくらい、オデッセウスを楽しませた。

 

END

 

                     

 

 

豆ッセウスはこんなこと考えて一人で幸せだったわけですね。(笑)

ヘクオデでやってる間、アキレスは、おねんね。

豆ッセウスに嫌になるほど乗っ掛かられて、くたびれてたんですかね?(笑)

しかし、頭がよく見えないのは、書いてる私が馬鹿なせい?(笑)