*そつがない

 

「そつがないかぁ。……。んー。そうだな。いい話を思い出したぞ」

双子に言葉の意味を尋ねられていたポールは、膝を叩いた。

「あれは、俺が今のお前達よりもうちょっと小さかった頃の話だよ」

ポールは照れくさそうに苦笑いをした。

「ヴィゴの家族と一緒に俺と、俺の母親でピクニックに行ったんだ。母親が止めるのも聞かず、俺は、勇気試しに崖の淵で下をのぞき込んでた。そしたら案の定、そこから落ちそうになったんだ」

「えっ!大丈夫だったの?」

「お前達のばあちゃんが手を伸ばして、助けてくれようとした。だけど、女の細腕だからな。彼女も落ちそうになって、そしたら、ヴィゴの奴が、駆けつけてきて、まず、俺の母親を助けた」

「うん。それで?」

「勿論、ヴィゴだって、学校に上がったばっかりだった。六歳児だからな。俺の母親を助けるだけで精一杯だ。奴は、お前達のばあちゃんを安全な所まで引きずって行ったら、もう、力つきて、俺を助けるなんて出来なかった。そこで、ヴィゴがどうしたかというと、わざと俺と一緒に崖から落ちやがった。仲良く足をくじいて、救援隊待ちだ」

「ヴィゴ、何してんの!?」

「格好悪い!」

「何、言ってるんだ。それ以来、ヴィゴはお前達のばぁちゃんのヒーローだぞ」

「なるほど、その上、パパの心も射止めたってわけだ」

「もしかして、パパを崖に誘導したのもヴィゴなんじゃない?」

 

 

*一言余計

 

「お前達、どうしてそう心配を掛けるんだ! パパの頭が白髪になっちまうだろう!!」

これは、飛行機の中から救出された双子を抱きしめた時、思わずポールが叫んだ言葉だ。

「ごめん。パパ。……でも、おばあちゃんも白髪……」

 

 

*愛してる

 

サマーキャンプに参加した双子の荷物を、ボランティアの女の子が改めていた。

「こら、二人とも、ちゃんとお知らせの紙通りに用意しなくちゃだめでしょ?」

双子の荷物には、ポールが入れたレインコートと、折り傘の両方がしっかり入っていた。

「傘を入れないでくださいって、しっかり書いてあったはずよ」

双子は肩をすくめて彼女を見上げた。

「お姉さん、知らないの?」

「こういうのを、愛って言うんだよ」

 

 

*年齢

 

「ねぇ、パパ、おやすみのキスをして」

「何、言ってるんだ。小さな子供じゃあるまいし」

そう言いながらも二人の頬へと唇を寄せたポールを双子はぎゅっと抱きしめた。

「じゃぁ、セックスしよ」

「それなら、文句ないでしょ?」

 

 

*ばれちゃった。

 

道ばたでスリにあったポールは乱闘の末、その男を取り押さえた。

警察に突きだしたポールに警官は尋ねた。

「被害総額は、五ドルでよろしかったですか?」

ポールの眉がぴくりと動いた。

「ボーイズ」

低い声で呼ばれた双子は、勇気を振り絞って、警官の前に足を踏み出し、両手を挙げた。

「ごめんなさい」

「パパの財布から二十ドル取ったのは俺たちです」