*遊びの目的

 

ポールとヴィゴは、絵の具まみれになっていた。

最初にヴィゴが、自分緒手についた絵に具をポールに押し付け、それに応戦したポールの絵筆がヴィゴのジーンズを掠めたからだ。

この遊びに芸術家としての興味を引かれた二人は、まず服を絵の具ですっかり彩色し、その出来栄えに自尊心が満足できなかったのか、一枚、また一枚と脱ぎながら遊びに夢中になっていった。

もう、二人はパンツ一枚の姿だ。

「やめろよ! ヴィゴ! わきの下は卑怯だぞ!」

「ポール、お前こそ、この髪! どうしてくれるんだ。すっかりまだらになっちまった!」

子供の悪戯のように絵筆を振るいあい、お互いに色を押し付けあっていた二人は、小さな双子が帰ってきていたのに気付かなかった。

「……ただまいま」

「トム、トーマスお帰り」

全身が極彩色になっているヴィゴが言った。

いつも絵の具で遊ぶな。と口うるさく言っているポールは取り繕うような声を出した。

「お帰り、学校は楽しかったか?」

ポールの頬は真っ赤だったが、塗りひろげられた絵の具で色が分からないほどだった。

全く言い訳の出来ない状態に、ポールは、おずおず双子に提案した。

「……もしよかったら、お前達もやるか? 楽しいぞ?」

「パパ。パパはその遊びをすっかり楽しんでるみたいだけど、ヴィゴの本当の楽しみは、色を塗ることじゃないんだよ。もうすっかり塗るところがなくなったって、パンツまで脱がされないうちに、その遊びを中止にすることを俺たちは求めるね」

 

 

 

*誰がするか!

 

ヴィゴは出来上がった小さな一枚の絵を持ってポールの家へと遊びに来ていた。

「すごいな。いい出来だ。とっても素敵だよ。ヴィゴ」

「そうかい? ありがとう」

しばらく絵をじっと見つめていたポールが言った。

「なぁ、ヴィゴ。特にこの色、すごくいいな。深くていい色だ。この色を出すには随分時間がかかったろ?この色を出すために絵の具を何で混ぜた?」

珍しいことにヴィゴは偉大な芸術家でもあるように重々しく答えた。

「頭だよ。ポール。絵の具なんて、頭で混ぜるものだろう?」

少しばかりひねくれたことを言う友人にポールは苦笑した。

しかし、ヴィゴの絵はすばらしい。

ポールは、真剣に絵に見入った。

ポールへとちらりと視線を流したヴィゴはにやにやと笑いながら付け足した。

「ポール。俺のミューズ。憧れの俺が頭で絵の具をこね回したって言ったからって、あんたの綺麗な金髪をパレットに突っ込まないでくれよ。俺は、イメージの絵の具を頭ん中でこね回したって言ってるんだ。いくらいい色ができても、あんたの頭が絵の具まみれになったら、俺、泣いちまうからな」

さすがにそんなひねくれたことまでは思いつかなかったポールは、あんぐりと口を開けたまま、十分に才能ある同業者の顔を穴の開くほど眺めた。

 

 

 

*紳士といえば……

 

トーマスは、パーティーに行くため、初めてのスーツに袖を通していた。

「すごいな。いつの間にこんな紳士に成長してたんだ。ぴったりじゃないか。とてもよく似合ってるぞ」

目を細め、息子の晴れ姿を褒め称える父親の背後では、もう一人の息子がソファーに寝そべっていた。

双子の片割れは、ちらりと目を上げ、自分とそっくりのトーマスがポールの言葉に照れくさそうにしているのにあくびをした。

「トーマス。パパがお前のベッドテクに飽きたって言ってるぞ」

 

 

 

*……ありがとよ

 

学校を休んだ小さな息子の枕元にポールは座っていた。

「熱は下がったようだな。じゃぁ、今日、習うはずだったところの問題でも出してやろうか?」

布団から目元だけを覗かせていた息子は、真面目な父親の態度に少しふくれっ面になった。

「トーマス、そんなに元気なら、今からでも学校に行くか?ほら、水と氷の違いについて答えろ」

ポールの俗物息子は答えた。

「水と氷の違いは……値段」

ポールの背後からベッドを覗き込んでいたヴィゴが吹き出した。

「そりゃぁ、確かだ。本当に熱は下がったみたいだな、お前。でも、パパはお前の答えにご機嫌斜めみたいだぜ? ほら、名誉を挽回しな。今度は俺が問題を出してやる」

ヴィゴは、眉を吊り上げているポールの肩を撫でながら、トーマスならばすらすらと答えられるであろう算数の問題を口にした。

「袋の中には、20本のキャンディーがある。子供の数は、6人だ。6人に3本ずつキャンディーを配るとして、何本が残る?」

ヴィゴが父親に触ることばかりに気をとられしまった息子は、心のままに返事をした。

「そんなの一袋全部なくなるに決まってる。ヴィゴは、子供ってものがよくわかってないんだ!」

答えを聞くなり、ポールは病気の息子から布団を剥ぎ取った。

「お前トムだろう! トーマスはどうしたんだ! あいつは本当に熱があったんだぞ!」

「……今日、トーマスのクラス、体育でサッカーチームのレギュラーを決めるんだったんだよ。だから、どうしても行くって言って……」

ヴィゴは大笑いをした。

ポールはしゅんっと顔を下げている孝行息子が叱れなくなってしまった。

 

 

*お気遣いなく

 

小さな双子は、ポールと公園へと遊びに来ていた。

しかし、個展用の作品を徹夜で仕上げていたポールはピクニックシートの上でウトウトし始めた。

最初は息子に寄りかかっていただけだったポールだったが、次第に眠りが深くなり、気が付くと息子の膝へと頭をのせて、本格的に眠り込んでしまっていた。

周りで他の子が遊んでいるというのに、もう一時間も父親の枕になっている小さな子供を見かねた老婦人が優しい声をかけた。

「坊や。パパを起こしてあげましょうか?」

「ありがとうございます。マダム。でも、俺、パパの枕でいるの、少しも嫌じゃないし。ほら、あそこにもう一人の俺がいるでしょ? 彼が俺の分まで遊んでくれてるから、パパが起きた時、気にするようなことは少しも起こらないから、全然平気なんだ」

老婦人は、双子の両方に、ポケットから溢れ出るほどのキャンディーを与えた。

 

 

一番面倒くさいのは、題名をつけることです(笑)

量産するな。ってことかもしれません(笑)