*門限が厳しい。

 

双子は、リビングで父親に叱られていた。

「一体、今何時だと思ってるんだ! 時計を見てみろ、お前達が約束していた時間なんてとっくに過ぎてるんだぞ。女の子も一緒だったんだろう? こんな時間になるまで一緒だなんて、どれだけ心配したと思ってる!」

だかだか、8時をまわっただけだというのに、もう30分も続いている説教を聞いていたヴィゴは、そろそろ自分が割り込むべきだと思った。

「もう、二人とも十分に反省したよな。ポールの奴ときたら、ずっとドアの前で待ってたんだぜ? もう、しないよな。二人とも」

遊び盛りの双子は、人の良さそうな外見とは裏腹に、これで意外と気の短い父親の怒りに油を注がないよう口を閉ざしていたが、ごめんなさい以外の言葉を始めて口にするため、やっと顔を上げた。

「反省しました。パパ」

「心配をかけてごめんなさい」

「罰として、門限を一時間はやめる。それから、しばらく女の子連れの遊びは禁止だ。守れるか?」

「……うん」

「……本当にごめんなさい」

しぶしぶという様子ではあったが、息子達が約束をしたのに、ポールは、気分を切り替えた。

「よし! じゃぁ、俺はシャワーを浴びてくる」

後を引かない性格なのは、ポールの愛される資質だ。

ポールは歩きながら洋服を脱ぎ始め、はっとしたようにズボンの前を留め直した。

「パパ! それ、ヴィゴのパンツじゃん!」

目ざとくトーマスが叫んだ。

「パパこそ、門限が必要だ! 門限は、俺たちが学校から帰ってくる5時。それから、日中のヴィゴの出入は認めない!」

双子は、父親とその絵描き仲間に詰め寄った。

「俺たちは、未遂だ。あんた達は、現行犯!」

ポールと、ヴィゴ、十分大人である二人は、門限の5時。そして、息子立会いの下での交友という誓約書にサインをさせられた

 

 

 

*秘密は守れよ

 

トーマスは、追試を受けることになってしまった地理の勉強をジミーとしていた。

「なぁ、トーマス、俺、お前の友人として、絶対に秘密は守るから、このテスト、トムと入れ替わって受けろよ。で、俺にも答えを教えてくれって奴に言っといてくれ」

トーマスは、少し長めの自分の髪を触りながら、ため息を付いた。

「パパがさぁ、俺たちの見分けつかないからって、髪型を変えさせてるだろ? だからその手は無理なんだよ」

二人は仕方なく真面目に勉強を続けた。

すると、いくつかの物音と、小さな声が聞こえてきた。

「なんの音?」

ジミーは、強盗の心配をして聞き耳を立てた。

トーマスは、浮かない顔だ。

「え? なぁ、これって……」

ジミーは顔を赤くした。

「君んちのママ、フライトから帰ってきてるんだったっけ?」

「……いや、そういうわけじゃないんだけど……」

「でも、これって! ……じゃぁ、トムがガールフレンドでも連れ込んでるのか?」

興奮したジミーは、トーマスの肩をばんばんと叩いた。

「あ……、それも違うんだけど……」

言いよどんだトーマスは、じっとジミーの顔を見据えると、切羽詰った顔をして口を開いた。

「なぁ、ジミー。俺たち親友だよな。お前、さっき、秘密は絶対に守るって言ったよな」

「ああ、……言ったけど」

トーマスは、ジミーの戸惑いを置いて、急に部屋から出て行った。

「パパ! トム!試験勉強が終わったら、一緒にしようって約束したじゃん! 俺抜きにして先に始めるなんて、酷いよ!」

必死になってドアを叩くトーマスの声は、ジミーにもよく聞こえた。

 

 

 

*必要がある限りいつまでも

 

ヴィゴのささやきが途切れなくポールの耳を噛んでいた。

ポールは、ヴィゴに背中から抱かれるようにして座っていたが、とうとう飽きたのか、ヴィゴを押しのけようとした。

「いい加減にしろよ。ヴィゴ。そんなに口説いてもらわなくても、結構だ」

「なんでだ? 全然足りないくらいだぞ」

ヴィゴは腕の中にポールの体を取り戻した。

うるさいガキどもがいない今でなければ、ヴィゴはポールを独り占めになんかできない。

「もう、十分聞いたから満足してるよ」

ポールは子供のようなヴィゴを笑いながら中断していた絵の続きを描こうと、スケッチブックへ手を伸ばそうとした。

ちょうどそこに教会の鐘がなった。

「なぁ、ポール、あの教会は、いつから建ってるんだ?」

ポールは、窓の遠くに見える教会を眺めながら、首をひねった。

「よくは、知らないが、100年くらいは経ってるんじゃないか?」

「でも、まだ、鐘を鳴らしてるな」

ヴィゴの言葉に、ポールは更に首をひねった。

「だから?」

「100年経とうとも教会は、愛の伝道のため鐘を鳴らす。俺なんか、まだ、その半分にも満たない。もっと切れ目なくあんたに愛してるって囁かなきゃ、あんた、俺の愛なんて忘れちまうだろ?」

 

 

 

*悪魔に会いに来た。

 

ヴィゴは、ポールが描いた絵の報酬を貰えずにいることを訴えるため、弁護士のところを訪れた。

「まぁ、確かに口約束だったらしい、パブで一緒になって、同じチームのファンだという話から盛り上がり、ポールの方から、一枚描いてやる、任せとけとか何とか言ったらしいんだが」

ポールは、困った顔をしてヴィゴの手を引いた。

その場を辞そうとしていた。

弁護士に相談するという案については、ポールも賛成だったが、この弁護士に相談するのは嫌だった。

辣腕で知られるこの弁護士は、金に汚いことでも有名であり、そして、ポールがこの場から立ち去りたいと思った最大のポイントは、彼が今回の訴訟相手の大親友だったからだ。

類は、友を呼ぶのか、現在弁護士は、恥知らずにもその親友から貰ったというポールの絵の前で眉一つ動かさない。

弁護士はつまらなそうな顔をしながら、二人に聞いた。

「請求書はちゃんと出したのかね?」

「出したとも、そしたら、あいつ、ポールからのプレゼントだと言い張ったんだ」

「パブで、描く約束をした時は、ビジネスだと言ってたんだが……」

「おまけに捨てゼリフときたら、悪魔のところにでも行きやがれだせ?」

「……ヴィゴ!」

「だから、あんたのところに相談に来たってわけだけどな」

 

 

 

*経験者は語る

 

思春期に差し掛かったトーマスは、性嗜好の悩みで、もじもじしながら、双子のトムに相談していた。

「ねぇ、トム。俺さぁ、なんか、パパのことがどうしても気になって……」

トムは、トーマスの肩を叩きながら気安い顔で頷いた。

「平気だよ。トーマス。俺もだもん。俺も、パパのこと大好きだし」

「でも、トム、俺の好きってのは……」

「知ってるってば。トーマスは、パパにキスしたり、それ以上のことだってしたいって言いたんだろう?」

「えっ! あ……うん。そうなんだけど、でも、まだ、……キスだけで……」

もじもじとするトーマスに、にやりとトムは笑った。

「へぇ。トーマスは、まだ、キスだけでいいんだ」

それに気付かなかったトーマスは、縋るような思いで、双子に思いを打ち明けた。

「……、うん。パパ、俺がキスしたら、どう言うかなぁ?」

「平気だよ。状況を考えてみな、トーマス。その時のパパに何が言えるってんだ? 実行あるのみ!」

 

 

楽しいなぁ。と、思うと、つい量産する私です(笑)

クスリ。と、笑ってもらえたら嬉しい。