*子供らしいおねだり
家に帰るなり、トムは絵筆を握っていた父親の背中にしがみつき叫んだ。
「なぁ! 新しいマウンテンバイクを買ってくれ。じゃなきゃ、今晩一発、パパのことやらせてくれ」
*生物のレポートが提出できなかったわけ
トムと、トーマスの二人に頼まれ、自分がレポートを書くのに使った資料を持って遊びに来ていたジミーは、わざわざ紅茶を運んできてくれた二人の父親を眺めて、うらやましそうな顔をした。
「いいなぁ。あんな優しそうなパパで。君んちのパパってなんて充実した顔してるんだろう。やっぱり芸術家って心が豊かなのかな?」
トムは、苛々とレポート用紙を埋めながら、目も上げずに答えた。
「充実しててくれなきゃ困る。お陰で俺とトーマスは昨日一睡もしてないんだ。嫌々言うくせに、結局好きなんだ。一体何回付き合わされたことか……」
「えっ?何の話を?」
年頃のジミーは、聞き捨てならい話に顔を赤くしながら、喰らい付いた。
トーマスは真っ赤になりながら、ジミーの持ってきた遺伝学資料のコピーを慌てたようにめくっていた。
「あっ、こっちの話。生物の実地勉強させられてたんだ。あの人、絵描きだからね。俺たちが生半可な絵を描くのを許さなくてね」
「はっ?えんどう豆の絵でも描かされたのか?」
「そう。ヌードの豆を一晩じっくり観察させられた」
*使用中
もう長年やっているというのに不器用な手つきで、ポールは家族の洗濯物をより分けていた。
「なぁ、おい」
就寝前に歯を磨いていたトムは、不機嫌な顔のまま、父親に目をやった。
「なに?パパ?」
「俺のお気に入りのパンツがない」
トムは、歯ブラシを咥えたまま父親に言った。
「ああ、あれ、多分、トーマスの部屋じゃないかな?」
「何でトーマスの部屋なんだ?あれが履きたかったから、締め切り前で忙しいってのに、やっと洗濯する気になっただぞ?」
もう、ポールは洗濯そのものも放り出してしまいそうなめんどくさそうな顔だった。
「だからじゃん。パパ。あんた絵の締め切りだとかなんとか言って何日俺たちのこと放っておいたと思ってるんだ? パパ、あんたがどうしても明日あのパンツが履きたいってのなら、今すぐ、俺がトーマスから取り返してきて洗濯機に突っ込んでやるよ。どうする?その代わり、あんたに俺たちのものが突っ込まれるけどね」
*それが理由か
ポールは、二人いるはずの小さな息子が、片方だけソファーに座っているのに不思議そうな顔をした。
今日はどうしても出かける必要があり、ポールは絵描き仲間のヴィゴに大事な双子の子守を頼んだのだ。
「おい、トム、トーマスはどうした? ヴィゴがお前達が小学校から帰るのを待っててくれただろう?」
トーマスより遅れて養子になった息子は、年よりも大人びた顔をして、アイスクリームを食べていた。
「トーマスなら、風呂場だよ。多分、今頃、ヴィゴに剥かれちゃってるんじゃないかな?」
「え? なんで! あいつ、子供は趣味じゃな……」
はっ、と、口元を押えた父親を見上げたトムは、父親のジーンズにキャラメルコーンのアイスクリームをべっとりと押し付けた。
「これで理由ができた。パパ、心配なら、あんたも風呂場に行っといで。ヴィゴはアイスを持ってたトーマスに、何故か、ぶつかっちゃったせいで二人して風呂場にいるだけだけど。なるほど、これで、ヴィゴがこのうちに入り浸りたがるわけがわかった。でも、今の話しを聞いた以上は、パパには、パンツを絶対に脱がないって約束してから、風呂場に行って欲しいけど」
*これで平等
ポールは、小さな子供のように膝の上から降りようとしない大きな息子に困惑していた。
「なぁ、トム。お前、いい加減重いんだから、降りてくれよ。テレビだって見えやしない」
「いいじゃん。このドラマつまんないって、パパ、言ってたじゃん」
「言ってたが……」
ポールの息子は、十を数えてから、更に、数年がたっており、いい加減親の膝に乗るような年はとうに過ぎていた。
今では、殆ど父親であるポールと背だって変わらない。
「俺さぁ、トーマスよりパパに引き取られるのが遅かっただろう?だから、全然こうやって甘えてないじゃん。それに、こないだ気付いてさ」
トムは、トーマスが友達の家に泊まりにいっているのをいいことに、ポールのトレーナーをめくり、乳首に吸い付こうとした。
「おい! トム!!」
「だって、俺、赤ん坊の頃から施設だろう? トーマスみたいにママのおっぱいだって飲んでない」
しかし、トムが吸い付いているのは、パパのおっぱいだ。
顔を赤くしたポールは、必死に息子を押しのけると立ち上がった。
「いや、トーマスだって、養子だったからミルク育ちだ。待ってろ。確か、哺乳瓶が・・・」
ポールは本当に哺乳瓶を探し出し、ミルクを作ると息子の口に突っ込んだ。
私ひとりだけが楽しいポケットジョーク風、SS。
パパ豆がかわいくて、つい、幾つも考えてしまう・・・(笑)