*アナキン成長中、クマ増長中

ジェダイはとりあえず一通りの教育を受けさせられる。アナキンはヴァイオリンの稽古中だ。
「はじめに比べたら、ずいぶんいい音が出せるようになりましたね」
教師は、オビ=ワンに笑いかけた。
クッキーを頬張る小さいクマ師匠はびっくり顔だ。
「私の耳が慣れたのかと思ってた」


*まだ、途中だから、返さん!

オビ=ワンは、漫画本を読んでいた。
それは、講義室にベアグランたちが持ち込んでいたものを没収したものだ。しかし、これが読んでみると面白い。
にやにやしながらページを捲っていると、部屋のドアがノックされた。
小さなクマは慌てて漫画をしまう。
しかし、取り上げた本は、一冊ではきかないので、まだ机の上に残っている。
慌てたオビ=ワンは、机の上に資料をぶちまけ、それからおもむろにコムリンクを取り上げた。
「はいれ」
入ってきたのは、アナキンだった。ヌイグルミに似た師匠は、慌てた自分が勿体ない気がした。だが、ポーズを取った以上仕方がない。
「ああ、その件については……」
アナキンは無礼にも、通話中のクマに向かって話しかけてきた。
「マスター。ベアグランたちが、マスターに漫画を取り上げられたって、俺に泣きついてきてるんですけど。そろそろ返してあげません?」
むっとしたクマは、精一杯の威厳を示し、むっつりと顔を顰めた。知らないと顔を振る。
「だから、私の意見を言わせてもらえば……」
「マスター。もうお忘れなのかもしれませんが、コムリンク、壊れてるから今すぐ直せって俺に言ったの、マスターですよ」


*クマ的判断

「ねぇ、マスター。あなたあれほど頼られていたっていうのに、どうして彼の味方してあげなかったんですか?」
クマの手には揚げたてのドーナッツが握られていた。一山もあるそれは、アナキンの腹には一つとして収まることはなく消え続けている。
「ん?」
胸の悪くなるような光景だというのに、もしゃもしゃと幸せそうなクマにアナキンは肩をすくめた。アナキンはミルクをグラスへと注ぎ足す。
「リックの離婚の話です。悪い奴じゃなかったですよ。作戦への取り組み方も熱心だし、母親を愛していることだって悪いことじゃない」
「私もそう思ってるよ。だから、それなりに考えてやったじゃないか」
また、一つドーナツがなくなった。シュガーパウダーのたっぷりかかったそれの粉が、床に落ちる。アナキンの目は無意識に拭くものを探している。
まず、あのぬいぐるみのようなクマの手を拭いてやることが先決だ。
「でも、離婚で、リックには帰る家もなくなったじゃないですか」
ジェダイは何も平和のためだけに頼られるのではない。馬鹿馬鹿しいほど色々な場面で活用される。
ただし、すべての場面でジェダイが有能であるということではない。
ドーナッツを持ってきたのは、リックの元妻だ。クマはここのところ、一週間、こればかりを食べている。よほどうまいらしい。お腹は普段以上にぽこんと膨らんでいる。
「リックには、味おんちだという決定的な欠点があった。こんなにうまいものを作る妻を貰っておきながら大事にしないとは、勿体ない話だろう? だが、それでもあいつはいい奴だったから、リックには家の外を与えたんだ。そして奥さんには家の中をだ。考えてみろ。外の方が広いぞ。おまけに、奥さんから台所を取り上げて、ドーナツを作らせないなんて、最悪だと思わないか?」


*前時代的修理法

機械弄りはアナキンの得意分野だ。
その腕前は皆に十分知れ渡り、時々アナキンは修理を頼まれた。
「悪いけど、多分この位かかると思うよ。それでもいい?」
アナキンは、交換用の部品の値段を算出し、結構高額になってしまったそのメモを見せていた。
単に暇だったという理由でアナキンに動向していたクマ師匠は、椅子の上に乗り上げその値段を見ると、ひょいっと椅子から飛び降り、大型の精密機械と向き合った。
かわいらしい顔をして、工具箱から出ていたハンマーを持ち上げたクマが無造作に機械を一発ぶったたく。
「アナキン。こんなものな、こうすりゃいいんだよ」
「マスターーー!!」
アナキンが止める暇もなかった。
しかし、それで機械が動き出す。
得意満面のふかふかのクマは、また椅子の上によじ登るとのっぽ相手に請求書を切った。請求金額は、アナキンの出したものと同じだ。

アナキンは、後日またあの機械の修理に向かうことを覚悟しながら、クマの後ろを歩いていた。
「ねぇ、マスター。あの値段、あまりに不当じゃありませんか?」
「なんでだ? 全く正当な値段だ」
「でも、あなたハンマーで一発殴っただけですよ?」

機械の叩き料 2%。
叩く場所の捜索料 98%

これが、オビ=ワン基準の内訳だそうだ。


*クマは勤勉?

確かにその場の誰も、ジェネラルケノービに肉体労働など望んでいなかった。と、いうか、いくら偉大なジェダイだと説明されても、抱きしめるのにジャストサイズのふかふかクマを目にしてしまえば、誰もそれなりの重量である野営用テントのポールを運んで欲しいなどと思わない。
「マスター。いいですよ。俺たちでやりますんで」
アナキンは、クマが運んでいた一本のポールを取り上げた。
「いっぺんに3本運んでくださるんなら、手伝っていただきたいですけど」
断りにくい言葉をにこりと告げたアナキンは、オビ=ワンから取り上げたポールを含めこれで4本持ち上げている。
「なんだと! お前たちは怠けてるだけだろ!」
「は?」
「3回往復するのが嫌だからいっぺんに3本運んでるだけのくせに!」