ハニクマの小箱
*かくれんぼ
アナキンは、デーパートの中で、オビ=ワンを探していた。
「マスターは、小さいから探しににくいんだよな」
きょろきょろと探すアナキンの目を布団売り場の店員が見咎めた。
「お客様、何をお探しで?」
「いえ、あの……」
売り上げナンバー1を誇る店員は、アナキンが何かを言う前に、自分のペースに巻き込もうと強引なセールストークを展開した。
「こちらの、羽布団ですと、とても、軽く、暖かく……」
「え? 柄がお気に召しませんか?でしたら、こちらなどは……」
男は、矢継ぎ早に、何枚も、何枚も、棚にしまってある布団を出して、アナキンに見せた。
しかし、もとよりアナキンには購入しようという気はないので、表情が乗り気ではない。
「こちらなどは……」
「いえ、俺の探しているのは、俺のマスターでして」
殆どの布団を棚から下ろしたというのにはずれの客だったか。と、その店員は、やけになっていた。
ちょうど続けで、冷やかしの客をつかんでしまったのだ。
「そうですか。お探しは、お布団ではございませんでしたか。でも、もう、最後の一枚ですので、これも下ろして見てみましょうね。もしかしたら、お客様がお探しのマスターという方が隠れているかもしれませんからね」
すると、店員が下ろした布団の中からは、布団に丸め込まれ、きゅ〜っと気絶しているクマが転がり出てきた。
それは、先ほどその店員が熾烈なセールストークを仕掛け、商品を見せていたら急に姿を消してしまったクマに間違いなかった。
*誰が弾いているのか。
その日、アナキンは、聖堂にあるオルガンの修理を頼まれていた。
それはとても古いオルガンで、楽器などアナキンにとって全くの専門外だったが、ぬいぐるみもどきのクマが気前よく引き受けてきてしまったので、弟子は、仕方なく立ち向かったのだ。
なんとか直ったオルガンに、アナキンはためし弾きをしてみることにした。
「マスター、申し訳ありませんが、ペダルを踏んでくれませんか?」
アナキが知っている曲を二、三曲弾き終えると、後ろから拍手が沸いた。
「すごい! すごいね! お兄ちゃん」
聖堂のベアグランたちだ。
アナキンの腕前に目をきらきらとさせている。
すると、ぬいぐるみもどきのクマが自慢げな顔で、ベアグランに近づいた。
「そうだろう? 私たちの演奏はすごいだろう?」
しかし、ベアグランたちは、クマに反抗した
「え〜。マスターオビ=ワン。弾いてるのは、マスターオビ=ワンじゃないじゃん!」
「何を言う」
ぷくりと頬を膨らませたクマは、もう一度、アナキンにピアノを弾くように命じた。
しかし、曲の途中から、全く音がしなくなった。
「どうしたんです? マスター、ペダルを踏むの疲れましたか?」
「なぁ、わかったかい? ベアグランたち。この通り、私がいなくちゃ、アナキンは一音だって、まともに弾けやしないんだぞ」
オルガンの後ろから現れたぬいぐるみもどきのクマは、全くもって自信に満ちた顔だった。
*大きいアナキン
「どうです?マスター。やっぱり、すこし太ってたでしょう?」
アナキンは、こっそりと体重計に乗っていたクマの側をちょうど通りかかり、小さく微笑んだ。
「ねっ、だから、今日のデザートはやめにしておきましょう」
「そんなことないぞ。アナキン」
クマは、体重計に乗ったまま、短い指で、壁に張ってある体重と身長の比較表のある欄を指差した。
「ほら、私はここのなんだ。こないだの測定じゃ、身長の図り間違いだったんだな。この表が正しいんだとしたら、私の身長は、もう6センチは高いということになる」
アナキンは、悩んだ。
そんな屁理屈を通そうとするクマをどう説得すべきかもだが、アナキンが目の前で体重計の目盛りを見ているにもかかわらず、クマの指している欄が、重さを少な目見積もっていることについて、コメントしておくべきかどうか、悩んだ。
*中くらいのアナキン
アナキンは、もうクマと口論するのに疲れていた。
「わかりました。マスター」
アナキンは、短い髪をぐしゃぐしゃとかき回し、乱暴に椅子に座り込む。
もう、口論は、ずっと続いているのだ。
「いいです。俺が考えを改めます。マスターの言うとおりにします。それでいいでしょ」
しかし、クマは、まだ納得しなかった。
「何を言っているんだ。アナキン」
クマは、わざわざアナキンの前にある椅子によじ登り、丸みのある顎をそらして弟子を見下ろした。
「私は、もうとっくに考えを変えたんだ。いまさらお前が考えを改めたところでどうにもならない」
アナキンは、公然と胸を張るクマをあんぐりと見上げた。
*小さいアナキン
アナキンは、テンプルの講師陣とは、あまり上手くいっていなかったが、友達だけは多かったのだ。
それがどうしたことか、その友だち達と大喧嘩になったというのだ。
最初、クマは、アナキンを叱りつけていたが、派手に頬を腫らした少年を抱きしめた。
「あの子達の髪をつかんで引きずり回すだなんて、きっと、悪魔がお前にやらせたんだな」
しかし、クマに合わせしゃがんでいるアナキンは髪を撫でられ不服そうに顔を振った。
「でも、マスター」
アナキンの目は、自信にあふれていた。
「あいつらのむこう脛を蹴っ飛ばすことにしたのは、僕のアイデアだからね」