ハニー・ハニー・ハニー(未来の箱)

 

廊下から指導室の中を覗いたアナキンは、箱を片付けようとしていた師に声をかけた。

「マスター、特別講義、終わったんですか?」

クマは、アナキンの姿を見るなり、持ち上げようとしていた箱を床に戻した。

「アナキン、いいところに来た。これをしまってくれ」

クマは、手に持っていた小さな箱のほかに、大きな箱をも指差し、弟子を使う。

あまりにも、らしいクマの姿に、アナキンは、部屋の中に一歩足を踏み入れながら、師に笑いかけた。

クマは、早々に椅子に腰を下ろしている。

「この箱、久しぶりに見ました。どうでした?みんな上手く出来ましたか?」

オビ=ワンが、運ぼうとしていたものは、ベアグランたちの指導に使う教材で、「未来の箱」という呼び名がついた正四面体だ。

これは、次元の狭間に住んでいる(正確に言えば、いくつかの次元にまたがって生きている)ウディビンドロン人がが、ヨーダにプレゼントしたもので、小さいものと、大きいものの二つセットになっている。

実は、この箱、何も考えずに蓋を開ければ、空っぽの底なのだ。

だが、もし、箱の中に何かを意識したならば、それを箱の中に出現させることが出来た。

多次元にわたり生きているウディビンドロン人は、オビ=ワンたち3次元の人間と違い、空間どころか、時間すら超越しているため、この箱は、「いつか」の時間の、「どこか」のモノを、箱の中に、を留めておくことができた。

しかし、姿を持たないといわれているウディビンドロン人から、物質化したプレゼントを受け取るヨーダは、只者ではない。ウディビンドロン人は、ジェダイ以上に、希少な存在として、銀河でも幻の存在と呼ばれている。こんな箱がテンプルにあること事態、奇跡のようなものなのだ。

「なぁ、アナキン、箱しまうの、少し待て」

クマが、弟子に命じた。

弟子は、重ねて持とうとした箱を一旦床に戻す。

「どうしたんですか? ……あっ、マスター、もしかして……」

折角弟子が積み重ねたというのに、クマはフォースで小さな箱をふわりと浮き上がらせた。

「別々になってないと、やりにくいからな」

クマが小さな箱に向かって、瞑想のポーズを取り、思念を集める。

アナキンはやれやれと、師匠を見守っていた。

しばらく後、くいっと自信ありげに顔を上げたクマが、アナキンに命ずる。

「アナキン、箱をあけてみろ」

箱の中から、ざくざくとクッキーがあふれ出す。

「マスター……」

椅子から降りて、とことこと歩いてきた師にむかって、アナキンは、たしなめるような声を出した。

クマは、クッキーをぽりぽり食べている。

たしかにこれも、箱の活用法としては、正しい。しかし、テンプルでは、箱の大小といった外見にとらわれず、同じものを意識し続けることができるようになるための教材として、この箱は使われているのだ。

いや、そもそも、高次元のウディビンドロン人からのギフトは、オビ=ワン達3次元の住人には扱いが極めて難しく、箱のなかのモノを、オビ=ワンのように物質化し、取り出すなどということができるものは、ほとんどいなかった。「いつか」の時間のきれはしを、ほんの一瞬、かすみのように箱の中に存在させるだけで、普通は精一杯なのだ。そのかすみを大小同じく出現させることができるよう、この箱は、ベアグランたちに提供されている。

オビ=ワンのように、クッキーを出現させるためでは、決してない。

「マスター、そうやって、どっかの時間から、クッキーを盗ってくると、いつか、自分の目の前からなくなってびっくりする日がくるんですよ?」

クマは、むしゃむしゃと口を動かしながら、アナキンににんまりと笑った。

「平気だ。私は、必ず、お前の分のクッキーを意識するようにしてるんだ」

いくら、能力の高い、ジェダイといえども、「自分」以外の時間を、箱の中に留めておくのは難しかった。それをクマはやってのける。まぁ、確かに、オビ=ワンと、アナキンの時間が分かちがたく絡み合っているからこそ、できる技だといえたが、それでも、クマの能力が高いことは間違いがなかった。

しかし、フォースによって選ばれし者であるアナキンは、それの上を行く。

オビ=ワンですら、小さな箱の方にしか、物質を固定できないというのに、実は、大きな箱に、同じことをしてみせる弟子は、クマの言い分に苦笑した。

「マスター、俺の分のクッキーは、どうせ、マスターのものなんですから、結局、どこかのマスターが、少ししかクッキーを食べられなくなってるってことなんですよ?」

「あっ、そうか! しまった!」

弟子の言葉に、手に持っているクッキーを取り落とすほど、クマは衝撃を受けた。

どこかの時間の自分が、たくさん食べられたはずのクッキーを食べ損ねているのかと思うと、オビ=ワンのショックは大きい。しかし、今、オビ=ワンは、たくさんのクッキーを手に入れている。決して、損をしている、と、いうわけではない。

「……いつ、考えても、この箱は、思考が迷路のはまり込む……」

「まぁ、俺たちが進む未来じゃない、別のマスターが、損したのかもしれませんしね」

ウディビンドロン人によると、未来は一つではない。そして、過去も一つではない。信じられない位いくつもの自分というものが、銀河に存在しているということらしく、そのうちのどれかから、クマは、クッキーを掠め取ってきているのだ。クッキーを盗ってくることは出来ても、クマにはウディビンドロン人の世界観を説明はすることは難しい。とにかく、クマは、自分のもだ。と、直感的にわかる時を、この箱の中に留めるよう意識しているだけなのだ。

いつ取り出しても、クッキーは、うまい。

クマは、思考を諦め、クッキーをもしゃもしゃと食べる。

アナキンは、そんな師を苦笑しながら見つめている。

 

「なぁ、アナキン」

オビ=ワンは、箱の中のクッキーが少なくなってきたことに、気付き、弟子を見上げた。

クマの目は高級なぬいぐるみがそうであるように艶々の釦で作られたような印象がある。

アナキンは、おねだりだ。と、すぐわかる師の首の角度に、即座に断った。

「いやです。マスター。俺、どこかのマスターとは言え、食い物の恨みを買うのは御免こうむります」

「……意気地のない……」

クマは、遠慮なく弟子を評価した。

「お前ずるいぞ。自分だけ、大きい方にだって、何でも出せるくせに」

「何でも、じゃ、ありませんよ? まだ、生き物は出したことが無いんです。さすがに、それは失敗すると怖いですし、クッキーを取り出したってのに、それがなんの味もしなかった。なんていう笑い話じゃすみませんから」

箱の中に、時間を留める際、上手くその時間を掴み取ってこなければ、形だけクッキーだが、クッキーという概念を有さない物質がそこに出現することがあった。クッキーは、そこにあるが存在しない。味がないどころか、食べても腹も膨れない。世界にとって、クッキーは、有だが、無なのだ。存在が定着していないから、クッキーは、正しい姿を保てない。

だからこそ、この箱は、能力が低いベアグラン達の教材として使われていた。かすみのような幻しか留めておけないうちはいいのだが、中途半端なフォースを用いて箱に接すると、とんでもないことが起こる可能性もあるのだ。

「……そういえば、今日、面白いことがあってな」

クマが急に話題を変えた。

「結局上手くはいかなかったが、箱の中に、母親を留めようとしたベアグランがいて……」

子供にとって、肉親はイメージしやすい。

アナキンは微笑ましくうなずいた。

「マスター、マスターも、大きい箱の方に、マスタークワイ=ガンのいた時間を切り取ってみたらどうです? マスターの能力だったら、もしかしたら、話くらいはできるかもしれませんよ」

オビ=ワンの能力では、大きな箱の中に切り取った時間を物質化し、この世界に定着させることは、難しかった。できないからこそ、クワイ=ガンをこの箱に出現させることは、危険なことではなかった。霊体のような、不確かなクワイ=ガンをほんの短い時間、この世界とクロスさせる。オビ=ワンは、その考えを一度も思いついたことはなかったが、たしかにそれはそそられるものだった。

クッキーも食べ終わってしまった今、オビ=ワンは、少し考えるそぶりで、弟子に対して威厳を示した。

だが、すぐさま、クマは瞑想のポーズを取った。

クマの短い足が組まれている。

弟子は、クマの思念を読むためにフォースを凝らす。

 

 

箱にクワイ=ガンを出現させようとしているクマは、クワイ=ガンのいる時間を目の前にしながら、手が出せないでいた。

本当は、箱の大小に関わらず、同じ方法で、とある一点の時間へと自分のフォースを導いていけばよいのだが、オビ=ワンですら、箱の大きさに惑わされ、切り取ろうする時間の幅を大きく想定してしまっていたのだ。そのため、力の足りないオビ=ワンは、時間を定着させるどころか、選び取ることすら出来ずにいた。しかし、誰に教えられたわけでもなく、正確に時間を箱への定着させることのできる弟子は、クマのフォースへと、自分のフォースを介入させた。

アナキンは、オビ=ワンの時間を覗き込む。

「マスター、どこにしますか?」

弟子のフォースが重なったその時、オビ=ワンは、箱の本来の力を見た。箱は、本当に、どの時間、どの過去、そして、未来へも繋がっていたのだ。クマが見ていた二つか、もしくは三つしかなかった道筋とはまるで違う。幾千もの自分たちが、笑い、励ましあい、そして、揉めていた。戦う自分たちがいた。年をとったクマに笑っているアナキンもいた。クマは、めまぐるしく変わる目の前の光景に、声もなく息を飲んだ。

「人と一緒に箱を使ったことはないですけど、でも、マスターと俺なら、きっとうまくいくと思いませんか?」

高速で移り変わっていた時間が、コマ送りになり、オビ=ワンにも覚えのある砂漠の星が何度もクマの目の前に現れた。そこは、自分たちが歩んだ過去だった。アナキンは、もっとも上手く時間に降り立つため、オビ=ワンの時間の中でも、自分が一緒に存在していたところに師匠を導いた。

クワイ=ガンが笑っていた。

物質化し、自分たちのいる世界に定着させることも無理ではない。と、思わせるだけ、リアルなクワイ=ガンをオビ=ワンは捕らえることができた。

クマの心に欲望が湧く。もしかしたら、クワイ=ガンを生きたまま、自分たちの時間へと連れ去ることも可能かもしれない。

クマの心をみすかしたように、「やってみますか?」と、アナキンが、誘惑した。

一人では、アナキンも生きている人間を箱へと定着させることに不安があった。だが、オビ=ワンとフォースを重ねている今ならば、できるような気がした。

やってみたい。という欲望がアナキンにはある。アナキンは、多くの未来をこの箱の中に見てきたのだ。多くは、大事な師であるオビ=ワンと決別する自分。

しかし、未来は過去と繋がっている。いや、過去と未来は絡み合っている。

今、動いている過去の時間に、もう終わっている未来の時間は影響される。ポットレースを観戦するクワイ=ガンを自分たちのいる時間へと定着させたなら、多くの時間が決めているらしい自分の未来は、どう動くのか。時間は、クワイ=ガンの移送をアナキンに許すのか。

年をとったオビ=ワンにひざ掛けをかける自分を選び取りたいアナキンは、フォースの力を強めようとした。

 

「やめろ、アナキン!」

オビ=ワンは、恐かった。

クマは、人間どころか、ただの物体だって、大きな箱に物質を定着させたことがなかった。

全く、失敗したならいい。しかし、中途半端に成功したとしたら、クワイ=ガンが次元の狭間でぐしゃりとつぶれることになった。

オビ=ワンのフォースが乱れた。

時間がまた、矢のように流れていく。

 

 

 

「ここはどこだね?」

箱の中から、現れたドゥークーに、クマは腰を抜かした。

ドゥークーは、冷たい目をして、情けなく腰を抜かしているクマを見下ろしていた。

クワイ=ガンの出現を嫌ったオビ=ワンは、大きな箱にクワイ=ガンと同じだけ、過不足無く収まる大きな人物を思い浮かべようと必死に自分の時間を辿ったのだ。

よりにもよってその中の、一番会いたくない人物をクマは、思いついたらしい。

そして、それをアナキンは定着させた。

「あ……あの……」

クマは蒼白となりながら、口をもごもごとさせていた。

クマの毛皮にいつもの艶がない。目は泳いでいるし、ふかふかのはずの毛は、一回りも縮こまってしまっている。クマは、大の苦手のドゥークー出現に驚く暇も無く、おどおどと震えていのだ。その様子は、とてもかわいらしいのだが、ドゥークーには、通用しない。

じろりとドゥークーは、泣き出しそうに目を潤ませたクマを見下ろした。

クマは、この場をなんとかしようと、普段はアレほど雄弁だというのに、今はまったく回らない口でもごもご言っている。

「その口は、何だね? また、何か食べているのかね? オビ=ワン」

ドゥークーには、いつでも、もしゃもしゃと菓子を頬張っていたパワダン時代のクマがイメージにある。

「いえ……あの……その……」

「お前は、私の弟子であるクワイ=ガンの弟子だというのに、その口の周りの食べかす。恥ずかしくないのかね。ジェダイとしてそのだらしの無さは許されるものではないと、私は思うのだがね」

ドゥークーは、別段、不条理なことは言わない。確かに、口ひげにクッキーのカスをつけたジェダイなど恥ずかしい限りだ。ただし、その言い方が恐い。決して言い返せない上段に立った物言いをして、ドゥークーはオビ=ワンを責め立てる。

見下ろすドゥークーの視線に、オビ=ワンは、額に汗が伝うのを感じた。

クマの体が自然とこわばっていく。

オビ=ワンは、ドゥークーが恐いのだ。それもものすごく恐い。魔人めいたこの年寄りのジェダイが、いつか、自分を本物のぬいぐるみにするような気がしてならない。

ああ、そうだ。そういえば、クワイ=ガンが、そうやってオビ=ワンを脅したのだ。まじめにやらないと、ドゥークーは、両手を縛って、宙づりにするんだぞ。お前なんか、きっと、ぬいぐるみにされて、宙づりグマとして飾られるに違いない。とか、なんとか。

箱のせいで、自分の時間を引き寄せやすくなっているオビ=ワンは、忘れていた記憶まで思い出した。

自分をからかい、楽しそうに笑っていたクワイ=ガンの顔を思い出せたのは嬉しい。しかし、クマにとって目の前の魔人が恐いこと似はかわりがなかった。マスタードゥークーには、なんとしてもお引取り願いたい。

クワイ=ガンに恐怖の対象として植えつけられたこともあり、クマにとって、ドゥークーは、トラウマなのだ。オビ=ワンにとって、ドゥークーは、苦手な人、ナンバー1に燦然と輝いている。そうだからこそ、オビ=ワンの心にドゥークーという人物がくっきり刻まれ、間違いなくドゥークーその人をこの世界に定着させることに成功したのだが。

「……アナキン……」

蛇に睨まれた蛙よろしく、全く動けなくなった師は、目だけで、弟子の存在を確かめた。

弟子もクマと同じように固まっていた。

しかし、弟子が固まっているのは、ドゥークーその人に対してではない。

アナキンの視線は、小さい箱へとひたりと当てられていた。

実は、箱が開いたのは、大きい方だけではなかった。

小さい箱から、ヨーダが首をこきこきといわせながら現れた。

アナキンは、そのことに心底驚いたのだ。

弟子は、師の発想力と、危機回避能力の高さに唖然としていた。

大事なものを守ろうとするオビ=ワンの力はすばらしかった。オビ=ワンは、万が一にもアナキンがクワイ=ガンを連れ去ったとして、それが、上手くいかなかった場合、その事態を無かった状態に戻すため、箱を正しく用いることのできるヨーダを時間の中から選び取ってきたのだ。箱の大きさがヨーダが入ってちょうどいいほど、小さかったこともあるかもしれない。いつの、どこの、ヨーダかもアナキンにはわからなかったが、ヨーダは確かにそこにいた。

アナキンは、小さな箱には、まったく意識を向けていなかった。つまり、ヨーダは、オビ=ワンだけで呼び寄せたのだ。

クマは見かけより、ずっとすごい。

しかし、今のクマは、弟子の尊敬をありがたく受け止めている余裕は無かった。

「……おい、アナキン」

歯をかちかち鳴らしているクマが、もう一度アナキンを呼ぶ。

「あっ、えっ、マスター」

クマが二度名を呼んだことでドゥークーの視線がアナキンに移った。

アナキンも迫力ある老年のジェダイに気圧された。

ドゥークーが、癇症によった眉で圧力をかけながら、クマに事態の説明を求めた。

「なんだね。オビ=ワン、お前は、少しも大きくなったようには見えないが、弟子を取る年になったのか? これは一体どういうことだ?」

クワイ=ガンのいた頃と、縦へのサイズは変わっていないクマだったが、ここぞとばかりにマスターの威厳を発揮した。

「……アナキン、もとあった場所に置いて来なさい!」

正しい時間の配列の中へ、切り取ったものを戻すことは、アナキンほどの能力者にとって簡単なことだ。

もともと時間は、流れていた道筋を通って流れたがっている。

パダワン時代にも聞いたことがなかった迫力のクマ声に、アナキンは即座にドゥークーを元いた時間へと返した。

小さな箱のほうを見れば、「用はなくなったようじゃな」と、クマに話かけたヨーダが、勝手に自分で戻っていく。

 

 

 

ぬいぐるみに良く似たクマは、疲れたようにぺたりと床に座り込んでいた。

「なぁ、アナキン。私は、古い昔話を思い出したよ……。ああ、そうだ。あの話は、たしか、マスタードゥークーから、聞いたんだった。大きな箱には、いやな虫が、小さな箱には幸いが詰まっているという話だった」

もっと、と、菓子をクワイ=ガンにねだっていたパダワングマに、ドゥークーが小言をくれたのだ。

余計な恐怖を思い出し、オビ=ワンは、一人で震え上がる。

「ああ、やっぱり、欲張るのはよくない。……アナキン、お前は、虫も食うから、大きい箱に食料が詰まっているなんて、ラッキーだ。と思うかもしれないが、違うんだ。この話は、謙虚であれ。というたとえ話で」

ドゥークーに会ってしまったという衝撃で、話にすらまとまりのないクマの側で、アナキンも、ぺたりと椅子に腰を下ろした。

アナキンは、どうやら、自分の介入を許す時間という存在に、とまどいを感じていた。

しかし、命あるものをここに運んだのは、本当に自分なのかどうか、アナキンには自信がない。時間を選び取り、掴み取る一瞬、アナキンは、自分の手の上から、重なる柔らかな師の手を感じた。師は、強引なアナキンの手を包み込むようにして、時間を抱きしめた。

あの時、アナキンは、自分のいる全ての時間をオビ=ワンに大事に抱きしめられるのを感じた。

アナキンは、一つ、ため息を吐き出し、気持ちを落ち着けると、やっとふかふかに戻ったクマに笑いかけた。

「……マスターが、最初に、大きい箱から、クッキーを出せって言い出したんじゃないですか。たしか、そこから、はじまったんです」

「だから! アナキン、世の中、欲張ってはいけないのだよ。欲張ると、ドゥークーが出てくるのだ」

「マスタードゥークーは、いやな虫と同列ですか?」

師匠の師匠をして、いやな虫と同じだとは言えず、答えに困ったクマは、一番最初のところに戻ることにしたようだ。

「……アナキン、とにかく箱を片付けなさい。……またとんでもないものが出てくるといけないから、かならず蓋をしてしまっておくように……」

寄り道をしていたオビ=ワンと、アナキンの時間が、元通りに流れ出す。

クマと流れる時間は優しい。

心底疲れたといったといったクマの様子に、くすりと笑った弟子は、大きな箱の上に、小さな箱を載せ、蓋が開かないようにすると、もとあった場所に運んでいった。

 

 

END