ハニー・ハニー・ハニー 5

 

秋になると、オビ=ワンがとても楽しみにする行事が執り行われていた。

いや、それは、別段堅苦しい行事などではない。

寒いのが嫌いなクマが、それでも、寒くなるのをウキウキと待ちわびてしまうというおいしい行事だ。

「アナキン、まだかな?」

「いま、入れたばかりですよ? マスター」

ジェダイ師弟は、たき火を囲んで向かい合っていた。

これを飛び越えて修行するなどと言った高尚なことをしているわけではない。

ただ単に、たき火。

クマは、フォースを使って木を揺すってまで、自分の前が見えなくなるほどの枯れ葉を集め、弟子は、師のために、今年も公園で火を焚く許可を取った。

クマは、枯れ葉の下で、ほこほこに焼ける焼き芋を今か、今かと待っている。

「アナキン、もういいか?」

クマは、つやつやの目をして、アナキンを見あげる。

「だから……マスター。今、入れたばかりでしょ」

焼き芋が焼けるための時間は、ホットケーキが焼けるよりも、ずっと沢山かかり、アナキンは、クマが、たき火に近づき過ぎて、やけどしないように注意する必要があった。

オビ=ワンは、枯れ葉をぐちゃぐちゃとかき回している。

「なぁ、……アナキン」

「早く、焼けるといいですね。マスター」

クマの周りには、公園で遊ぶ、子供達も集まってきている。

「何、焼いてるの?」

小さい子供が、クマに聞く。

クマの外見は、警戒心を抱かせにくいらしく、彼らのママたちも、子供がクマに話しかけるのを邪魔したりはしない。

いや、本当のところママ達が、クマの連れである見目のいい青年に、ぽうっとなっているせいかもしれないが。

「ねぇ。ねぇ、無視しないでよ。何、焼いてるの?」

「……枯れ葉」

ぬいぐるみもどきのクマは、子供に背中を向けながら答えた。

「マスター。意地悪言わないで、焼き芋だって教えてあげればいいでしょ。沢山、焼いてるんだから」

「だって、アナキン。そんなことしたら、私の食べる分が!」

「そうなったら、マスターには、俺の分をあげますから」

今年も、焼き芋はいい具合に焼き上がった。

ほくほくに焼き上がった焼き芋を手に、あちあちっ!と、両手でぽんぽんと焼き芋を投げ上げている幸せそうなクマは、秋の風物詩だ。

そして、子供達と、芋の大小で争うクマも、毎年見られる風景なのだが。

 

 

その、数時間後。

テンプルでは、ぬいぐるみもどきのクマが、熱弁を振るっていた。

忘れがちになるが、クマは、これでも立派なジェダイだった。

今、ジェダイ達は、ある星の戦争に介入するかどうかについて意見を交わしていた。

稀少民族の保護のため、介入するという意見が大多数。

しかし、これに、オビ=ワンは反対していた。

オビ=ワンのセルフイメージは、冷静沈着らしいが、クマは、夢中になり出すと、我を忘れるところがあった。

小さい体を椅子の上にちょこんと乗せて、穏やかに議論を交わしていたはずのオビ=ワンが、熱中するあまり、とうとう椅子の上に立ちあがった。

いつもより、クマの腹が膨れている。

「しかしですね!」

これでも、クマは、抗弁相手のジェダイとは、未だ見あげる目線なのだった。

先ほどの焼き芋のせいか、ぷっくらと腹の膨れているクマが、一生懸命口を開く。

「よく、考えてみてください」

「だが、マスター・ケノービ。それでは、間違いなく、あの民族は宇宙からいなくなるんだぞ」

「いなくなったとしてもです。民族を残すためだけに、我々が介入するとすれば、それは、奢りというものです。我々は、ただのジェダイだ。そういった、選別を許される立場にはいない」

クマは、自分の意見に熱中するあまり、腕を振り上げた。

すると、その動きと同時に、

プゥゥゥ。

かわいらしい音が、部屋の中に響いた。

オビ=ワンは、公園で焼き芋を腹一杯食べてから、この会議に出席したのだ。

出物腫れ物は場所を選ばない。

クマは、真っ赤になる。

集まったジェダイ達は、小さな目配せを交わし会った。

立派な騎士たちばかりなので、大声で笑ったりはしない。ただ、皆口元にあいまいな微笑みをたたえている。

振り上げた腕のままに、真っ赤になったクマが、恥ずかしさのあまり、小さな身体を更に縮こめた。

すると、ナイトとして、その会議に席を得ていたアナキンが立ちあがった。

「皆様、申し訳有りません。失礼を致しました」

アナキンは、オビ=ワンの失態を自分の責として引き受けた。

礼儀正しく立ちあがったアナキンは、皆に向かって頭を下げる。

クマが漏らしたおならの責任が、とりあえずの決着を得て、会議室には、穏やかな笑いが溢れた。

苦笑を口元に浮かべながらも、メイスが、オビ=ワンに話の続きを促す。

オビ=ワンは、恥を引き受けてくれた弟子に、申し訳ないような恥ずかしそうな笑みを浮かべると、また胸を張って、話の続きに戻った。

続く議論に、またクマのテンションが上がっていく。

「だから、それがですね!」

とうとうクマは、椅子から飛び降りた。

それが、まずかった。

普段より膨れあがっているクマのお腹のなかには、ガスが充満していたのだ。

着地の衝撃とともに、また、プゥゥゥ。

会議室の中では、さすがに笑いが起こった。

着地のポーズで、オビ=ワンは、俯いたまま顔も上げられなくなってしまった。

師を助けるために、アナキンがまた席を立とうとした。

ヨーダが、アナキンを止めた。

「アナキンよ。今度は、私にその役目を持つからいい。ただし、マスター・ケノービ。お前のその腹を膨らませているもの。それは、提出してもらうぞ。どれほど良い意見を言おうとのぉ。どこの誰が、腹に焼き芋を隠したままで会議に出席するんじゃ!」

そう。普段より膨れているクマの腹は、ガスのせいだけでなく、そのガスを製造するための元を隠しているせいでもあった。

クマの目が泣き出しそうに潤んだ。

今までの抗弁よりもまだ、熱心に声を上げる。

「マスター・ヨーダ。この芋はアナキンのなんです! 子供に芋を取られた私のために、彼が自分の分を焼いてくれたんです。だから、これを取られたら、私はアナキンに申し訳が立たない!」

しかし、興奮したクマは、またもや、おならをした。

ぷぅぅ。

「……オビ=ワンよ。もう、腹一杯食べた後なんじゃろ?……」

さすがに、クマも真っ赤になって焼き芋を差し出した。

 

END