ハニー・ハニー・ハニー4
前を歩いていたオビ=ワンをやり過ごし、その国の要人は、アナキンの手を握った。
「ようこそ、お待ちしておりました。マスター・ケノービ?」
男は、若いアナキンに、不審そうな顔をしていた。
それでも、男は、相手はジェダイマスターだと、笑顔でアナキンを迎える。
アナキンは、苦笑を堪えて壮年の男の手を握り返しながら、緩く首を振った。
「こちらこそ、お出迎えを感謝致します。しかしながら、マスター・ケノービは、私ではなく、あなたの足下におりまして」
握手のために、手を差しだそうとしていたクマは、要人の足下で頬を膨らませている。
アナキンは、師が、ジェダイマスターとしてふさわしくないその膨れた頬を平常に戻すまでの時間、男の意識を引きつけた。
男は、びっくりしたように目を見開いた。
慌てたように振り返る。
ツンとすましているぬいぐるみもどきのクマに、男は膝を折った。
「これは、失礼致しました。……マスター・ケノービ?」
しかし、男は、まだ、半信半疑のようだった。
これは、よくある事態だった。
ぬいぐるみもどきのクマを見て、それを直ちにジェダイマスターだと見抜ける人間など滅多にいない。
だが、不審を顔に浮かべたままだとはいえ、即座に膝を折ったこの男の態度は、まだマシだと言えた。
ぬいぐるみもどきのクマがジェダイマスターだと聞いて怒り出す要人もいたし、あくまで、アナキンに話と話を付けようとする役人もいた。
大抵は、クマを、アナキンが連れてきたペットだと思うようだった。
身分の高い女性を護衛する時など、女性達は、ためらいなく、オビ=ワンを抱き締める。
「素敵な生き物ね。こんなかわいらしいクマは見たことがないわ」
そして、アナキンに向かって微笑むのだ。
クマは、女性に優しいので、大抵遠慮がちに声をかける。
「……あー、ごほん。申し訳有りませんが、私も、ジェダイでして……」
しかし、ずっとオビ=ワンが、ぬいぐるみの振りを続けたことがあった。
「……一体どうしたんですか? マスター」
女性の隣で、大人しく座り続け、幾らでも撫でられ続けるオビ=ワンを奇妙に思ったアナキンが、彼女が席を外した隙に声をかけた。
クマは、言うのだ。
「アナキン、彼女は、お前の母親と同い年くらいじゃないか。おまけに、息子は、小さいうちから、人質と代わらぬ身分で、別の星に遊学していると言うんだ。このくらいの任務、お前一人でこなせるだろう?私が一時、彼女の気持ちを慰められるというのなら、そうする」
その後、クマは、彼女の娘達が産んだという大勢の孫達に揉みくしゃにされるのだが、クマは、優しい。
その星の男は、ぬいぐるみもどきのオビ=ワンをジェダイマスターと扱うことに決めたようだった。
屋敷に着いたクマは、3枚重ねのクッションの上に座りワインを勧められていた。
だが、男は、ある提案をした。
「マスター・ケノービ、我々の星は、危機に瀕しており、ジェダイにご足労を頂いたわけですが」
男の言葉に、クマの眉が、ひくひくと動いていた。
小さくも愛らしい外見のオビ=ワンは、何度目かも分からないほど、こういった体験をしてきたのだ。
こういった前置きが、オビ=ワンの実力を示して見ろということだと言うことは自明の理だった。
やはり、男は言った。
さすがそれなりの立場に立つ人物だけあって、物言いが上手かった。
「我々にもそれなりの戦士達を抱えております。しかし、これが、弱い。良い機会ですので、是非、一度、ジェダイの力というものをあいつらに教えて頂きたいのです」
男は、そつなく、アナキンにも目配せする。
クマだけの実力を確かめたいのではなく、ジェダイというものの実力が知りたいのだと、言外に伝える。
オビ=ワンは、小さく肩を竦め頷いた。
師は、ここで身の証を立てなければ、オーダーそのものがキャンセルされることがあるのを知っていた。
クマは、腹立ちを押さえ込んで、にっこりと笑う。
「わかりました。では、お庭で?」
「ええ、マスター・ケノービ、さすが、話が早い。是非、うちの者達を指導してやってください」
おそらく、この屋敷に着くまでの間に、手配されていたに違いないのに、男は、鷹揚に立ちあがり、クマを庭に案内した。
オビ=ワンと、アナキンは、ライトセーバーを構えて、周りを二十人はいるだろう男達に取り囲まれていた。
アナキンは、五打、六打と打ち合った後だった。
しかし、オビ=ワンには、誰も手を出さない。
きっと、ぬいぐるみもどきの外見を持つクマ相手では、弱い者いじめをするような気持ちになり、しのびないからだろう。
しかし、このクマは、ジェダイなのだ。
この模擬戦を始める前に、オビ=ワンは、そうはっきりと紹介された。
馬鹿にするにも程があった。
「アナキン」
オビ=ワンは、アナキンに背中を預けた状態で、弟子に呼びかけた。
クマは、ライトセーバーを片手に、弟子を見あげる。
「なぁ、アナキン、私をお前のフードに入れろ」
オビ=ワンは、これまでの打ち合いから、ここにいる男達が、さほど大した腕ではないことを見抜いていた。
つまり、あの男は、謙遜をしたつもりだろうが、それは真実に他ならなかった。
愛らしいぬいぐるみもどきの外見だが、オビ=ワン・ケノービは、戦士なのだ。
オビ=ワンは、敵の陣の組み方、打ち込んでくるタイミング、仲間同士の連携振りなどを見て、男達の腕前とともに、クマどころか、クマを連れたジェダイすら、やる気のないことを見抜いていた。
自分ばかりが、敵に打ち込まれるアナキンは、クマに向かって顔を顰めた。
「……いやです。マスター」
「いいや、入れろ。入れるんだ」
クマは、臍を曲げていた。
オビ=ワンは、こんなだから、お前らの星は、にっちもさっちも行かなくなって、ジェダイに助けを求めるようなことになるんだ。と、思っていた。
クマは、アナキンのローブを引く。
「おい、アナキン、抱っこだ」
愛らしくも両手を差し出し、ぬいぐるみもどきのクマが、アナキンに抱っこをねだった。
その光景は、まるっきり、メルヘンだ。
アナキンは、視線で、周りに威圧をかけてから、オビ=ワンを抱き上げ、ローブのフードに入れた。
ぬいぐるみもどきのクマを背中に背負ったアナキンに男達が笑う。
「ジェダイってもんも大したもんじゃないな!」
男は、アナキンを指さし、嘲った。
すると、クマは、アナキンの背中で囁いた。
「アナキン、まず、あの男をたたきのめせ。あいつが一応この中のリーダーだ。右の3人を続けざまに襲ったら、わかるだろう? 背後から掛かってくるに違いない奴らだ、振り向きざまに斬りつけてやれ」
オビ=ワンの声は、冷静だ。
しかし、クマは、その後すぐに、愛らしくライトセーバーを振った。
「いけー。アナキン!」
クマは、わざとらしい位明るい声で、掛け声をかけた。
男達が気の抜けた笑いを浮かべる。
しかし、それは、間違いだった。
アナキンは、オビ=ワンの指示通り、まず、自分を指さし大口を開けて笑った男に斬りかかった。
男が倒れるのに任せ、そのまま右へとセイバーを振り抜く。
アナキンのセイバーは、師の言っていた3人には届かなかったが、二人が、強い痺れを感じ、戦闘意欲をなくした。
しかも、残った3人目だけでなく、その周りの奴らも、後退していた。
背中にクマを背負っている分、アナキンの動きの切れは悪かったが、それでも、その動きは、敵が打ち返す暇などなかった。
「う・し・ろ・う・し・ろ」
弾んだ声で、卑怯にも背後から襲いかかる敵の動きを伝える師に、アナキンは、振り向きざまに、セイバーを振り下ろした。
激しい動きに、背中のクマが不安定に揺れる。
「マスター……とりあえず降りてください」
「いや、それは、だめだ」
オビ=ワンは、愛らしくアナキンの背中に納まったまま、ライトセーバーを振り回し、男達を笑った。
「なんて弱いんだ! こんなへなちょこ、倒してしまえ。アナキン!」
どう見たって、へなちょこにしか見えないクマに笑われ、さすがに怒った男達が、一斉にアナキンとクマに襲いかかった。
オビ=ワンの狙い通りだ。
一気に周りを囲まれ、アナキンは、ちっ、と、舌打ちし、広い陣地を求め、セイバーで人並みを切り開く。
倒れていく仲間達に、男達の間に焦りが広まった。
「……アナキン、少し手加減を」
クマは、アナキンの耳元で囁いた。
やりすぎが交渉にいい結果をもたらさないことをオビ=ワンは知っていた。
しかし、この扱いにオビ=ワンは腹も立てていた。
弟子が、師の言葉に従い、自ら隙を作ったところに斬りかかってきた男に向かって、オビ=ワンは、斬りかかる。
それも、弟子の肩によじ登り、そこをジャンプ台にすると、空中で一回転したのち、男の喉元にセイバーを当てる。
「降伏するか?」
クマは、とても静かな声で、また立っている男達に聞いた。
男の首元まで、セイバーをじりじりと近づけ、周りを見回す。
オビ=ワンは、誰が、この場で一番強いのかを見せつけていた。
しかし、どこまでいっても、外見は、ぬいぐるみもどきのクマだから、迫力はない。
「私は、役にたつだろう?」
すっかり、態度を変えた要人を前に、オビ=ワンはアナキンに胸を張って見せた。
アナキンは、苦笑した。
クマを背負ったまま、背後のクマに不快なく闘うのはかなり高度な技術を必要とする。
「……ええ、とても役に立ちますとも」
今回も、オビ=ワンと、アナキンは、やっと任務についての詳細を聞くことができた。
END
今回は、たくさんがBBSに描かれたクマ〜なオビを持っていっていいよ。と、言ってくださったので、こんな話を用意しました。
Kさんも、かわいらしいネタを考えてくださってありがとうv
こんな話になりました。いかがでしょう?