誘惑

 

その日のジェダイマスターは落ち着きがなかった。

アナキンが、声を掛けても、気付かないこともしばしばで、無意味に何度も時計を眺めた。

稽古中だというのに、師匠はまたもや気を逸らした。

アナキンは、手に持っていたライトセーバーを下ろした。

「何かあるんですか?」

このままでは、弟子は、師匠に怪我をさせかねなかった。

「あっ……」

はっとアナキンに意識を戻したジェダイは、まるで何もなかったかのように、ライトセーバーを持ち直した。

僅かに顎を逸らしてアナキンを誘う。

それも、ずいぶんと小憎らしい顔をしてだ。

アナキンは師匠に打ち掛かった。

オビ=ワンは、ひらりとそれをよけた。

避けた地点に、アナキンがまた、振り下ろす。

ここ一年でやたらと背の伸びた弟子は、手足がめきめきと長くなり、オビ=ワンが予想する以上に、広く、早い位置にライトセーバーを振るうことができるようになった。

不格好な程、背ばかり高い弟子の細い腕が、隙なくセーバーてら受け止めたオビ=ワンに、にやりと笑いかけた。

師匠は意地悪く笑い返した。

だが、師匠がセーバーを押し戻す前に、アナキンは、すぐさま、セーバーを引き、オビ=ワンの懐へと突き入れた。

素早い、突きの連続技だった。

右へ、左へと、切っ先を払い、後退する師匠は、だが、アナキンの弱点をお見通しだった。

アナキンは、かなり粋のいい方だが、打ち掛かることに夢中になるあまり、銅ががら空きになることがよくあった。

聖堂で学ぶ子供達の中で、彼の背が抜きん出て高いせいもあるだろう。

自分が優位になったと思うと、この弟子は、セーバーを上段に、大降りに構え、自分より小さくなった師匠を脅しつける。

だが、オビ=ワンは、そんな脅しなど、普段から慣れっこなのだ。

敵は、ヒューマノイド型ばかりとはかぎならない。

師匠は、素早く、弟子へと距離を縮め、彼のセーバーが振り下ろされるまえに、セーバーの光を弟子ののど元に突きつけた。

この時点で、オビ=ワンの勝ちだが、弟子は、笑顔を浮かべようとした師匠の胸を強く突いた。

その反動を使って、後ろへと飛びすさり、足場を確保するために、アナキンから意識を放した師匠の背中へと、もう一度飛んだ。

ブオン。

セーバーの音が空を切った。

アナキンのセーバーがオビ=ワンののど元に突きつけられた。

弟子は、後ろから師匠を抱きしめるようにして拘束し、上がった息のまま勝ち誇った。

「マスター。俺の勝ちです。あなたは、まだ、決めてなかった」

セーバーの刃が、オビ=ワンののど元ぎりぎりで止まっていた。

師匠は、弟子を褒めてやった。

「わかった。アニー。お前の勝ちだ」

ずるだというのは簡単だったが、オビ=ワンは、髪をかき上げ、背後の弟子を見上げると笑った。

「身が軽いと思って、すぐ、飛んで逃げるからな。お前は」

セーバーを納めたアナキンは、憮然とした顔で、オビ=ワンをぎゅっと抱きしめた。

「マスター、実際、俺、身が軽いんです」

アナキンの眉は、あまり取れることのない一本を取った照れ隠しのように寄せたままだ。

「俺も早く、マスター位になれないかな」

だが、実際は、アナキンが飛び上がるほど喜んでいることなど、オビ=ワンにはわかっていた。

寄せられた身体から伝わる胸の音が激しい歓喜を隠さなかった。

しかし、わざと憮然とした顔を作り続ける弟子は、嬉しさを悟られたくないとでも言うように、ぶつぶつと自分に対する不平を言い続けた。

「俺だって、マスターと同じくらい、もっと肉がついたら、振り下ろしたセーバーを払われたりすることもなくなると思うんだ」

「アニー。せっかく腕だけで斬りかかる癖が抜けたばかりなんだから、お前は、しばらくその体型でいいよ」

弟子に気軽な言葉を返しながらも、オビ=ワンは、僅かに困惑の表情を浮かべた。

大きく育った弟子の息が、オビ=ワンの首筋に掛かっていた。

だが、突き放さなければならないほど、無礼なことを弟子は、していない。

オビ=ワンは、胸の間でクロスされた弟子の腕を撫でた。

「大丈夫。お前はよく食べるし、すぐ、身体が追いつくさ」

オビ=ワンは、少しでも身体を離そうと、一歩踏み出そうとした。

しかし、弟子は、オビ=ワンを抱く力を強める。

「でも、俺、がりっ、がりですよ」

自分の体つきを師匠に意識させているだけだ。

弟子には、まるで意図はない。

だが、オビ=ワンは、そこに意図を読みとろうとした。

いま、オビ=ワンの頭を占めているのは、ジェダイマスターとしは、大変好ましくない事柄ばかりなのだ。

そのため、このジェダイマスターは、遅々として進まぬ時間に、身のうちに苛立ちを募らせている。

気も逸れがちだ。

オビ=ワンは、首筋に顔をうずめて拗ねる弟子の頭へと手を伸ばし、ぽんぽんと撫でた。

「そういう時期もあるさ。アニー。上にばかり伸びてしまったから、仕方がないんだよ」

オビ=ワンは、少しばかり強引に弟子の腕の中から抜け出した。

師匠に勝ったことが嬉しく、寄せられた眉に比べ、口角が上向きな弟子に向き直り、にこりと笑った。

「切り上げようか? アニー。少し早いが、家に帰って、飯にしよう」

聖堂を後にしたオビ=ワンは、宣言通り、家に着くなり、弟子に食事の準備を命じた。

 

弟子に用意を任せ、自室に引き取ったオビ=ワンは、机の上に置かれた箱に視線を落とした。

今朝、これが届いた。

朝早くから、こんなものが届いたせいで、オビ=ワンの心は、乱れたままだった。

「……ふうっ」

オビ=ワンは、何気なく机の上に置かれた箱を眺め、知らず唇を触っていた。

箱は、細長い長方形をしている。

ごく簡素な包装だ。

だが、箱の中身は、いやらしくもごつごつと張り上がった男根のバイブなのだ。

オビ=ワン自身が、注文した。

「……」

オビ=ワンの指が、箱の上をなぞった。

包装を開け、中身を確かめかった。

だが、今は、まだ、その時間ではない。

オビ=ワンは、早く、これで楽しめる時間が待ち遠しくて仕方がなかった。

弟子に稽古を付けながらも、ちりちりとうなじが焦りを感じていた。

今朝、荷物を受け取ったアナキンは、いつも通り、ごく当たり前にオビ=ワンにこれを手渡した。

アナキンは、荷物の中身をまるで知らない。

オビ=ワンは、まだ包み紙も解いていない箱を何度も指先でなぞった。

「……恥知らずにも程があるな」

オビ=ワンは、弟子がこの箱の中身も知らず、自分へと手渡す時、微かな快感を覚えた。

飽きたり、壊れたりするたび、ジェダイマスターは、これを新しく買い換える。

一番最初、どうしてもという必要に駆られ、注文した時には、オビ=ワンは、自分の浅ましさに涙が出た。

そして、荷物が届いた時、パダワンの仕事だとばかりに駆けていき、受け取ったアナキンの笑顔に対する後ろめたさ。

オビ=ワンは、もう、二度と頼まないと決めたはずなのに、細く、小さかったそれに満足できず、三月もしないうちに欲望に負けた。

今では、荷物を手渡す弟子に秘密を持っていることに後ろ暗い快感すら覚える。

机に置かれたコンリンクがオビ=ワンを呼んだ。

「マスター。飯の用意ができましたよ」

アナキンの声が面倒くさそうに、オビ=ワンを呼んだ。

ぶっきらぼうな声は、湯気を立てる皿を前に、早く来いと、焦れているのがよく分かる。

そんな健全な姿の弟子を余所に、師匠は、ディルドーを前に、今晩を思い、身体を熱くしていた。

今は、食欲よりも、ずっと優先したいものがあった。

しかし、オビ=ワンは、子供の保護者なのだ。

「今、行くよ」

オビ=ワンにこんなものを必要とさせた人は、もういないのだ。

 

 

食事の後かたづけは、二人で行い、アナキンと、オビ=ワンは、ソファーに腰を下ろしていた。

スクリーンでは、ごく当たり前のファミリードラマ。

経つ時間が遅いことにじりじりとするオビ=ワンの隣で、アナキンは、好き勝手に番組を切り替えていった。

「なんか、面白いのやってないかなぁ」

朝早くから続く、修行のせいで、アナキンの口からは、あくびが漏れた。

「アナキン。寝てくれて構わないぞ?」

「だって、マスター、あなたは、まだ起きてるんでしょ?」

「今日は早く寝るよ」

オビ=ワンは、弟子を真似て、あくびをした。

だが、自由時間の少ない弟子は、眠ってしまうことを惜しがり、ソファーから立ちあがろうとしなかった。

切り替わるスクリーンの中では、コレリアン星の特色の強い少女がいた。

だが、あの星の生粋というには、不思議な目の色をしていた。

少女の目は、かわいらしピンク色だ。

少女の前には、同じ年頃の一目で、セリア星人と分かる少年がいた。

二人はさよならの代わりにキスをする。

アナキンが口を開いた。

「……ねぇ、マスター。キスってしたことあります?」

アナキンの声は、さりげなさを装っていた。

だが、緊張する背中に、師匠は、どれほどの悩みをもってこの質問を弟子がしたのか、すぐ気が付いた。

オビ=ワンは、答えを返した。

「あるよ」

「いいんですか?」

アナキンは、画面から目を離さなかった。

師匠は、思春期らしい悩みに囚われている弟子に答えを返した。

「アナキン、お前だって、タトゥイーンでしたことあるだろ?」

「そういうんじゃなくって、ですね」

軽い苛立ちを背中に浮かべた弟子の質問を、オビ=ワンは退けるつもりはなかった。

「いけないと、いうことはない。アニー」

「でも、いいんですか? ジェダイは、執着をもってはいけないのですよね?」

アナキンは、指を口元へと持っていった。

苛々と爪を噛む。

「執着のない愛ならいい?」

「そうだな。アナキン。……執着はいけない」

オビ=ワンも同じような質問を自分の師匠にぶつけたことがあった。

年頃になれば、一度はこの悩みに囚われる。

若いパダワンたちに、ジェダイを目指す気持ちは十分にある。だが、所詮生身の人間なのだ。

あの時の師は、するりするりとパダワンだったオビ=ワンの質問をかわしてしまった。

かわりに師は、オビ=ワンに、一つのキスをくれた。

多分、からかわれていた。

オビ=ワンの師は性質が悪かった。

そして、オビ=ワンも、弟子の肩に手を掛けた。

振り返ったアナキンの唇に唇を重ねた。

人の唇の感触は久し振りで、オビ=ワンは、夢中で弟子の柔らかな唇をついばんだ。

アナキンの唇の上には、本当に柔らかい産毛のような髭が生えかけている。

それが、唇に触れるのが気持ちがいい。

弟子の目が見開かれていた。

「……マスター」

弟子の震える唇が、オビ=ワンにやり過ぎだと教えた。

だが、飢えを自覚する師匠は、まだ、唇を離さなかった。

弟子の唇に無意識に力が入り、キスを深めようとした。

それに気付いた師匠は、弟子の身体を押し返した。

「こういうキスがしてみたくなった? アニー」

チュウっと、最後に弟子の唇を吸い上げ、にやりと、師匠は笑って見せた。

アナキンは、無意識に唇を押さえた。

「それは、ジェダイの規律上、どうかな?」

オビ=ワンは、唇を守ろうとするかのような弟子の甲にもう一度口づけてやった。

弟子が、更に目を大きく見開く。

普段は、不機嫌に睨み付けるような表情の多い子だけに、無防備な顔はかわいらしかった。

「アナキン」

口を押さえ、呆然と目を見開いた弟子の頬を軽く叩き、オビ=ワンは、ソファーから腰を上げた。

弟子の目が、オビ=ワンを必死に追っていた。

一生懸命何が起こったのかを探ろうとしていた。

オビ=ワンは、平然といつもの顔を作り、アナキンへおやすみの挨拶をした。

「おやすみ。アナキン。私は、先に部屋に引き上げさせて貰う」

「はい。マスター」

アナキンは、習慣だけで返事を返していた。

「それから、アナキン」

オビ=ワンは、二歩ほど進んで、弟子を振り返った。

わざとらしい程の顰めつらしい顔をして、アナキンに視線を当てた。

「今のことは、他の誰にも内緒だ。オビ=ワン・ケノービは、とてもまじめな師匠なんだ」

オビ=ワンの真面目ぶった顔に、アナキンの顔がほころんだ。

「俺、びっくりしました。マスター」

 アナキンは詰めていた息を吐き出した。

「だろう? お前が近頃生意気だから、凝らしめてやろうと思ったんだ」

オビ=ワンも笑ってみせる。

だが、嘘ばかりだった。

懲らしめるなんて意味合いではなかった。

目の前のごちそうに、飢えたオビ=ワンは、我慢が出来なかったのだ。

アナキンは、オビ=ワンを甘えた目で睨んだ。

「酷いな。マスター。俺、本当にびっくりしましたよ?」

オビ=ワンは、自分の気持ちには蓋をして、背ばかり伸びた弟子の頭を撫でた。

弟子は、子供扱いを嫌がって、首を振る。

それを強引になで回し、オビ=ワンはアナキンの目をのぞき込んだ。

「内緒だぞ。アニー。分かってるな」

オビ=ワンは、アナキンの額に、小さな頃よくした優しいキスをした。

汗ばんだアナキンの額に触れる唇の感触が気持ちいい。

アナキンは、笑って師匠に頷いた。

「イエス。マスター」

 

 

自室に引き上げたオビ=ワンは、済まさなければならない連絡をあちこちに何件か入れ、その返事を待ち、何件かの調べものをし、そして、ベッドへと引き上げた。

時間は、いつもよりも、早い。

オビ=ワンは、ベッドの上で、箱の包みを破いた。

オビ=ワンの頬は高揚している。

後ろめたさのつきまとう快感が、オビ=ワンを包み込んでいた。

この箱で送られてくる性具で快感を味わい、その後、むなしさのあまり泣いた日々には、もう慣れた。

もう、誰もオビ=ワンを構ってはくれないのだ。

激しい肉体の飢えは、オビ=ワンから恥を奪った。

オビ=ワンは、箱からだしたバイブをうっとりと眺めた。

醜悪なだけの存在が、どれほど自分に快感を与えてくれるか、この若いジェダイマスターは知っている。

そして、今のオビ=ワンには、これしか、快感を与えてくれるものなどなかった。

オビ=ワンは、醜悪なそれに、小さなキスをし、ごそごそと自分の衣装を緩めはじめた。

急く指が、留め紐を外し損ね、苛々とジェダイは、舌打ちまでした。

 

一人で観ていたスクリーンをダウンさせたアナキンは、大きなあくびを一つして、口元を押さえた。

その感触に、衝撃的だった先ほどのキスを思い出す。

確かに、余所の師弟関係に比べ、オビ=ワンと、アナキンのペアは、接触が多かった。

柔らかく繰り返される額へのキスならば、小さい頃なら毎晩だ。

訓練を受けるため、ジェダイ聖堂に赴いたアナキンは、オビ=ワンほど年若いマスターはいないことを知った。

オビ=ワンの若さは、頼りないほどだった。

楽に生きてきたわけではないタトゥイーン出の少年としては、他のマスター達の貫禄に、不安になったことすらある。

二人は、寄り添いあうように、育ってきた。

いや、そんなことを言ったら、オビ=ワンは顔を顰めるだろうが、アナキンは、オビ=ワンを支えてきたつもりだった。

「だって、俺がいたから、マスター、頑張って評議会での地位固めだって、やったんだしな」

変わらぬ柔らかだった師の唇を思って、アナキンは照れくさそうに、唇を擦った。

 

オビ=ワンは、上着の前を開き、自分の乳首を摘んだ。

指の先で、摘んだままに、掌で、胸全体を揉みしだく。

手に触れる肌の感触は、柔らかい。

その柔らかさが、オビ=ワンを少し、さみしい気持ちにさせた。

オビ=ワンの胸を柔らかく揉んでくれた人は、彼のパダワンの胸の肉が薄く硬かった若い頃しか知らない。

変わってしまった自分の身体を、あの人が愛してくれるのかと、不安になる。

しかし、オビ=ワンは、あの人の大きな手が、自分にしてくれたままに、全ての肉を寄せるように、胸を揉み潰した。

立ちあがった乳首をくちゅくちゅと弄り、開いた唇から、小さな声を出す。

「……っん、マスター」

甘えた声だと、自分でも自覚がある。

 

アナキンは、共有スペースであるリビングの照明を落とした。

口からはひっきりなしにあくびが出る。

指が、無意識にブレイドを絡めた。

会ったばかりの頃、パダワンだったオビ=ワンがよくしていた癖だ。

知らず、アナキンもするようになった。

アナキンは、くるくるとブレイドを指に巻き付け、絡めすぎ、引っ張り過ぎて、舌打ちした。

「ああ、邪魔くさい」

ぽいっとブレイドの先を投げ捨て、アナキンはリビングを出た。

自室に向かう。

 

オビ=ワンは、胸を揉んでいた手を下腹へと伸ばした。

勃ち上がりかけているペニスを掴み、快感のごくりと喉を鳴らした。

恥知らずにも大きく開いた足の形といい、摘むことをやめられない乳首といい、こんな自分を観たら、かつての師はどう思うかと思う。

だが、きっとあの人は、楽しげに笑うだけだろう。

乗せられた腰の上で、夢中になって尻を振っていた弟子を優しい目つきで見上げていた。

「見ないで。見ないでください。……マスター」

オビ=ワンは、師の目に隠すところなく見つめられるのが、とても恥ずかしかった。

だが、濡れた粘膜を擦られる快感に、どうしても腰が動いた。

張り出した師のペニスの先に、肛口をいっぱいまで引きの伸ばされるのも苦しいのに、気持ちがいい。

「いいじゃないか。私のかわいい子が、気持ちよさそうな顔をしているのを見るのは大好きだよ」

オビ=ワンの師は、細い弟子の腰を掴んで強く突き上げた。

「……んんんっっ!!」

あの重量感。

身体の中を重く、一杯に広げられるせつない快感。

逃げたくなる腰を引き戻す腕は、力強かった。

濡れたペニスを扱いていたオビ=ワンの手が止まり、後ろの袋と一緒にぎゅっと掴んだ。

「……んっ……」

出してしまいたいのを我慢するせいで、オビ=ワンの下腹は重苦しい。

シーツを何度もつま先が蹴った。

「まだ、だよ。まだ、我慢しなさい」

かつての師の声が、オビ=ワンの中で命令を下す。

 

アナキンは、自室に向かう途中で、ふと方向を変えた。

まだ、仕事をしているに違いない師匠の元へ顔を出したい気分になった。

「マスターに、邪魔だって、追い出されるかな?」

お休みの挨拶は、もうした。

だが、師匠の顔を無性に見たかった。

意味を持って人の肌に触れることの快感をアナキンは学んだ。

柔らかく湿った粘膜が、何度も何度もアナキンの唇を挟んだ。

気のせいでなければ、師匠の目は、うっとりと伏せられていた。

あんなキスが師匠にできることを、アナキンは知らなかった。

アナキンは、先ほどの口付けで浮かれていた。

弟子の足は、ためらいがちにではあったが、師匠の部屋へと進む。

 

オビ=ワンは、ジェルの蓋を開け、指に絞りだした。

大きく開いた足の間に手を回し、窄まりに触れる。

つぷりと指先を穴のなかに沈み込ませ、その感覚に身震いした。

「……んんっ、……っう……ん」

オビ=ワンは、自分でも自分が、飢えていると思う。

だが、指が身体の中へと沈んでいく感覚に、声が抑えられない。

指先をぐるりと回し、強引に肛口を広げる。

無理に開かされる感覚に、唇を噛んだ。

「んっ……」

はぁはぁと浅ましい息が唇から漏れた。

オビ=ワンは唇を舐めた。

じんわりと広がる後ろの快感に、身体が熱くなった。

つい、指が急ぎ勝ちになる。

自分で、ずぶりと差し込んだ指に、声を上げた。

「……あっっ!」

広げるための指の感触ですら、ぞくぞくとこみ上げるものがあり、ぎゅっと尻に力を入れてしまう。

それを、無視して、指を抜き差しした。

腸壁が擦れ、オビ=ワンの太腿に、きゅっと力が入る。

 

師匠の指は、いつも、しつこい程に時間を掛けてオビ=ワンの肛口を広げてくれた。

それだけで、昇りつめてしまうこともよくあった。

ずぼずぼと早く指を動かされ、オビ=ワンは、必死になって師の腕に足を絡みつかせた。

「……だめっ! ……ダメです。マスターっ。いっちゃう。いっちゃう!」

軽々とパダワンの身体を扱った師匠は、上り詰めてしまいそうな快感を止めようともがくオビ=ワンを楽しげに見ていた。

身をよじる弟子の汗の浮いた胸に口付けをし、尖った乳首を吸い上げた。

「ああっ!!」

オビ=ワンの師は、弟子の足が絡みつく腕のまま、直腸に入れた指を小刻みに動かす。

内から感じるポイントばかりを集中して攻められ、オビ=ワンの目には涙が浮かんだ。

「いやっ!……マスターっ! ダメっ!……だめっ!」

 

 

アナキンは、オビ=ワンの部屋の前まで来て、足を止めた。

夜が更けてから、アナキンが師匠の私室を尋ねる習慣はない。

急に不安なったアナキンは、ドアを開けることが出来なかった。

ここに来て間もない頃、足の腫れが引かない不安で、師匠の部屋に飛び込んだことはある。

あの時、もう深夜だったというのに、師匠はまだ、仕事をしていた。

驚いたように振りかえったオビ=ワンは、優しくアナキンを迎え入れ、足の具合を見、解熱剤を用意し、ベッドを弟子に分け与えてくれた。

アナキンは、口元に手を持っていき、爪を噛んだ。

いまでも、師は、弟子にベッドを分け与えてくれるだろうか?

何の用事もなく、ふらりと尋ねた弟子を変に思わないだろうか?

 

オビ=ワンは、濡れた手で掴んだ疑似男根を口に迎え入れた。

大きく口を開かないと受け入れられないものに、口内を支配され、うっとりと目を瞑る。

尻へと伸ばした指は、ジェルがあふれ出るほどの腸内を犯していた。

オビ=ワンはくるりと身体をうつぶせにした。

「っううん……んんっうん……ああふっ……」

オビ=ワンの鼻から、甘い声が漏れた。

胸をついたシーツに小さく立ちあがっている乳首を擦りつける。

「……あっんっ! マスターっ!!」

自分で口内に押し込んでいる疑似男根は、かつての師のもののつもりだ。

丁寧に舐め、何度も喉を鳴らす。

突き上げた尻を犯す指で、深く直腸を擦った。

「……っう……んんっ」

オビ=ワンは、シーツに顔を擦りつける。

「マスターっ、マスターっ!………」

白い尻は、指を飲み込んだまま大きく振られた。

オビ=ワンは、一人、オナニーに耽る時、いつも脳裏で師を思い浮かべ、その人とのセックスを楽しんでいた。

かの人が、愛しげにオビ=ワンの身体を撫で回す。

幸せな瞬間だ。

だが、同時に、いつだって、オビ=ワンには、彼に見限られるのではないかという不安に襲われた。

尻は、かつてのマスターが愛してくれていた時に比べれば、ずっとはしたなく、物欲しげだった。

内を埋めて欲しくて、穴がひくひくと動いている。

尻は、身体を鍛えて行く過程で、大きくなった。

そして、その大きくなった肉の感触は、あの頃に比べればずっと柔らかくなった。

欲しくて開いてしまう穴を、好きだと言ってくれるだろうか?

一回りは太くなったに違いない腰を抱きしめて、指が沈み込むことに、師が残念そうな顔をするところを想像すると、身が竦んだ。

時を止めてしまった人に比べ、自分は、どんどんと歳を重ねる。

決して無意味に過ごしているつもりはないが、あの人が撫でてくれた頬も、箔をつけるために伸ばした髭が定着して長い。

「あんっ……マスター。……マスター」

しかし、脳裏に浮かんだ師は、そんなオビ=ワンにかわいいと言ってくれた。

彼の手が、足首を掴んだ。

「さぁ、オビ=ワン、いい子だから、足をもっと大きく広げて」

こみ上げる幸せと、身体の中でざわつく快感の固まりにそそのかされ、オビ=ワンは、大きく広げた足の間のペニスをシーツに擦りつけた。

「っあっ……んんっあ」

くわえていられず、口からこぼれ落ちてしまった疑似男根へと舌を伸ばし、ぺろぺろと舐めた。

 

 

アナキンは、一人、暗い廊下でごちた。

「キス……、したいんだよ。俺は」

アナキンは、ここまでの道のりで、自分の気持ちに気づいてしまった。

それが、師のドアを開けさせなかった。

あなきんは、噛んでいた爪で、唇を軽く押した。

「そう。だって、俺、じゃなけりゃ、何しにマスターの部屋に行くんだよ。……最悪。なんだよ。俺、マスターと、キスしたかったんだ」

アナキンのブーツが、苛立たしげに、床を打った。

オビ=ワンの部屋のドアは目の前にある。

 

 

オビ=ワンは、すっかり濡れそぼった疑似男根を尻へと近づけた。

尻の穴は、慎ましく閉じてはいた。

だが、自分の指で十分に馴らした箇所は、押しつけられる疑似男根を、平気で飲み込んでいく。

「……んんっ!! あああっ!!!」

尻の穴は、黒い色をした大きなものに押し広げられた。

ぐっ、ぐっ、と、疑似男根は、オビ=ワンの内部に深く押し入る。

硬いバイブに中をこじ開けられるのがたまらなかった。

大きく、太いものに身体の中を埋められる充足感に、オビ=ワンの目に涙が浮かんだ。

「んんっ、いい!……マスター……んっっぁ……ん」

ぐうっと押し入る太いペニスの先が、オビ=ワンの身体を大きく開く。

ずずっ、ずずっと、中に埋まっていくたびに、せつないような快感が生まれ、オビ=ワンは息を詰めた。

オビ=ワンは、腸内を占めるものを締め上げた。

「……んんっあぁ……」

ごつごつとした表面が、オビ=ワンのいい部分を圧し、オビ=ワンの口からは、甘い声が漏れ出る。

オビ=ワンは、ベッドに上体を伏せ、後ろに回した手で、疑似男根を抜き差しした。

それだけでも十分のはずだったが、オビ=ワンの手が、スイッチを押した。

バイブの振動が、オビ=ワンの身体を振るわす。

「……ひっっ!……んんぁぁぁんんっ!」

自分でしたことだったが、うねるバイブが、身体の内側から、振動を広げるのに、オビ=ワンは、高い声を上げた。

体内でうごめく大きなものを締め付け、その動きをセーブしようとするが、容赦のない道具は、オビ=ワンを高みへと押し上げる。

オビ=ワンは、内壁を押し広げ、うねるバイブの動きに支配され、せつないような甘い痺れで身体を振るわせた。

「あんっ!!あっ、あん!……マスターっ!……マスター!」

尻の中から、強制的に高められる機械の仕業は、オビ=ワンを暴力的に追いつめた。

それは、あの人が、予想もしなかった方法で、オビ=ワンを快感に陥れたのに似ていた。

オビ=ワンが、新しい疑似男根の動きに慣れないうちに、機械は、動きを変える。

奥の方を、ぐりぐりと押し広げられたかと思ったら、入り口付近で、激しく震動した。

オビ=ワンの手が、抜け落ちそうになるバイブを押さえ、尻を揺すり立てる。

「あっ! あっ! マスター!!」

ペニスは、射精を求めて、だらだらと液を零していた。

 

アナキンは、オビ=ワンの部屋のドアに額を付け、まだ、ためらっていた。

「マスター、俺のこと変だって思うかな。……思うよな」

思い余る弟子は、師のドアがなかなか開けられなかった。

おやすみのキスよりも、もっと、と望んで師匠にキスをしたならば、どうなるのか、予想するのが、若いアナキンには怖かった。

ドアに手を押しつけ、ロックの解除をする用意をしながら、まだ、悩んでいる。

「でも、マスターにもう一度おやすみの挨拶をするくらいなら」

 

「ああっ!!! マスター!……いくっ!……マスター!!」

オビ=ワンは、堪えきれない射精感に、身もだえした。

自分を許すために、脳裏にあるあの人にキスをして貰うところを想像しようとして、だが、唇によみがえったのは、さっき、弟子としたキスだった。

少しかさついた師匠の唇とは違って、柔らかく瑞々しかったアナキンの唇。

産毛のようだった髭の感触まで思い出し、オビ=ワンは、首を振った。

違う。

オビ=ワンの師匠の唇は、あれではなかった。

だが、今日味わったばかりの肌の感触は、オビ=ワンを捕らえて離さなかった。

身体は、押しとどめることが出来ないほど、高ぶってしまっている。

焦るオビ=ワンは、必死に師匠のキスを思い出そうとした。

唇を噛んだ。

だが、思い出すのは、稽古場で、オビ=ワンを後ろから抱きしめた細く、だが、力強い弟子の腕。

キスをしたとき、見開かれた目。

荒々しさを感じさせる弟子の若い体臭。

もう、どうしようもなかった。

若い身体が、汗の匂いをさせて、オビ=ワンを強く抱きしめた。

高鳴る胸の音と、首筋に掛かった息が、オビ=ワンを押し上げた。

「あっ! あっ! あっ!」

どくどくと、ペニスからは、快楽の証が、あふれ出す。

それは、信じられない程の気持ちの良さだった。

思わず、オビ=ワンは、後ろを占めているバイブをきつく締め上げた。

「……ああっ! マスター……」

口から飛び出す名前の人は、オビ=ワンの脳裏になかった。

 

 

意を決したアナキンは、オビ=ワンの部屋のドアを開けた。

部屋の中は、暗い。

嗅いだことのない甘い匂いが、部屋の中に篭もっていた。

あまりにも甘ったるいその匂いに、顔を顰めたアナキンは、手探りに、師匠のベッドを目指した。

珍しく、師匠は、早々の早寝を決め込んでいた。

アナキンは、ベッドの脇にたち、身体を丸め、眠る師匠の顔を見下ろした。

これほど、アナキンが側まで寄っても、オビ=ワンは、瞼一つ動かさない。

ずいぶんと深い眠りだ。

「マスター、いいのかよ? こんな側まで近寄られてもぐっすり寝てるなんて、ジェダイとして最低なんじゃねぇの?」

照れくささのあまり、憎まれ口を利く弟子は、オビ=ワンの唇が、いつもよりも、ぽってりと赤いのに気付いた。

師匠は、少し唇を開き、寝息を漏らしていた。

自分の意識のしすぎかと思ったが、その唇が、やはり、赤い。

アナキンは、そっと師匠の唇に触れた。

驚いたことに、師匠は、指に唇を押しつけ、幸せそうに笑った。

閉じられた瞼のままの顔が、そうと分かるほどほころんだ。

「……マスター、あなた、俺にやらしい夢でも見ろっての?」

アナキンは、つぶやくと、オビ=ワンの唇に自分のものをそっと重ねた。

息苦しいのか、オビ=ワンが、顔を背けた。

「お休みなさい。マスター」

年若いアナキンは、それ以上どうしていいのか分からず、オビ=ワンの部屋に漂うジェルの甘い匂いに顔を顰めたまま、部屋を後にした。

 

END

 

 

オビの一人エッチv