頷け。それが最良の選択だ。4
アナキンの言葉は、本当にそのままだった。
アナキンは、自分に出来るだけの間は、ゆっくりペニスを出し入れし、しかし、自分がそのやり方では我慢が出来なくなると、強引にオビ=ワンを揺すり始めた。
オビ=ワンは、アナキンにしがみついた。
ぴったりと身体を寄せ合えば、アナキンの動きが少しは弱まるのではないかと思っているかのような、そんな必死な抱き付き方だった。
アナキンは、機嫌を取るようにオビ=ワンの髪へと口付けた。
「好き。マスター、好き。すっごい気持ちいい。……最高」
その気持ちに、嘘偽りはなかったが、アナキンは、しかし、オビ=ワンには、自分を偽るような言葉を強要した。
「……マスターも、気持ちいいでしょ?」
オビ=ワンは顔をアナキンの肩へと埋めたまま、こくりと頷いた。
こわばる手足で、アナキンを抱き直し、小さく声を出した。
「あっ、あっ」
アナキンの突き上げにあわせて吐き出されるその声は、きっと演技だ。
しかし、オビ=ワンは、アナキンの気持ちを盛り上げてやりたくて出していた声を自分で聞いているうちに、なんだかたまらない気持ちになってきて、次第に声を大きくしていった。
「っ……っは、あ……あ、あっ」
「……あふ、っ、……あっあ!……んっあ!」
アナキンのペニスが、オビ=ワンの腸壁のどこかを擦り上げるとき、オビ=ワンの身体には、今まで知らなかった電流が流れるのだ。
オビ=ワンは、自分のどこにそのスイッチがあるのか掴むこともできずにいたが、アナキンにはわかった。
アナキンは、しがみつくオビ=ワンの腕を外させると、体全体に柔らかく肉をつけているくせに、そこだけは骨ばって張り出している腰骨を掴んだ。
ぐっ、ぐっと、力強くペニスを突きいれ、オビ=ワンのいいところを突いてやる。
「あっ!……アナキン……それは、嫌っ……っ」
「そうですか? ほんとに? オビ=ワンのここ、きゅって締まって、もっと、もっとって言ってますよ」
「そんなっ!……あっ!……嫌だ。嫌。……そこばかりなんて、あっ、っぁ、や、……許して……くっ…れ」
オビ=ワンの口をアナキンは塞いだ。
舌を絡ませ、オビ=ワンの嘘を封じる。
懸命にオビ=ワンは、舌を絡ませてきた。
必死にアナキンのキスへとついてくるそんな姿は、切ないような気持ちにアナキンをさせ、師匠の髪を撫でてやりたくなるのには十分だった。
苦しそうにしているオビ=ワンのために、アナキンはキスの拘束から、唇を開放してやった。
オビ=ワンが、うわごとのように言葉を発する。
「ダメだっ、そこは、やめてくれっ!……何も……っ分からなくなりそうなんだ」
「今、何を分かってなくちゃいけないっていうんです?」
アナキンは執拗にオビ=ワンのそこを擦るようにしてペニスを動かした。
「気持ちがいいんでしょ? オビ=ワン。何も考えずに、楽しめばいい」
「やだっ、やだっ、……っんぁ……、お前のことがわからなくなる!」
しどどにペニスを濡らして、真っ赤な顔のまま叫ぶ師匠にアナキンは驚いた。
「えっ? オビ=ワン?」
「いやだっ、そこを擦られると、体が熱くなって、っ本当に、……っぁ、……何も、考えられなくなるんだっ」
「それで、いいでしょ? だって、そうやって気持ちよくなるために、セックスしてるんだし」
「だめ……なんだ……アナキン、お前に抱き合っているんだって分かっていたい……ん」
どんなことを考えてオビ=ワンがそんなことを言っているのかは、アナキンには分からなかったが、その言葉は、アナキンを煽るのには十分な威力を発揮した。
「……かわいい。……オビ=ワン。本当に好きになっちゃいそうだ」
アナキンは、オビ=ワンを抱き直すと、狙ってオビ=ワンを突き上げた。
勿論、オビ=ワンが感じるあのポイントをだ。
「オビ=ワン。好き。……オビ=ワン。好き。……、ねぇ、マスター、あなたも俺のこと好きだって言ってください」
「好きっ!アナキン、好きだっ…………あっあ!……っぁあっぁ!」
「気持ちいいですよね。ずっとこのままくっついていたいですね。……ほんと、オビ=ワン、かわいい」
「っぁ、アナキンっ、……アナキン!」
ぎゅっとしがみついてくるオビ=ワンを抱きしめてやりながら、アナキンはオビ=ワンの耳元でささやいた。
「……最高……、一生あなたから離れられなくなりそうだ」
オビ=ワンの体に強い力が込められ、アナキンは、ペニスを噛んだオビ=ワンの腔口が、ぎゅううぅっと締め付けてくるのを感じた。
ビクリ、ビクリと、のけぞるように身体を震わせアナキンの腹を濡らし射精するオビ=ワンは、まだ、アナキンのペニスを強く締め付け、離そうとしない。
返事が欲しかったわけではなかったが、少し息を乱したアナキンはオビ=ワンの耳を噛むようにして聞いた。
「……俺も……いってもいい?」
オビ=ワンがまた、アナキンをきゅっと締め付け、身体を震わせる。
「そんな風にされちゃ、我慢できません」
アナキンは、速い速度で、オビ=ワンを突き上げ、ぎゅっとオビ=ワンの太腿を掴んだ指に力を入れると、最奥までペニスを突き入れた。
「……んっ、本当に、あなた、最高」
びちゃびちゃにオビ=ワンの中を濡らしたペニスをずるりと引き抜いたアナキンは、早い息を隠しもせずに、オビ=ワンの上へと覆いかぶさった。
「とうとうやっちゃいましたね。オビ=ワン」
「……」
「すごく気持ちがよかった」
狭いソファーに二人一緒に眠るわけにもいかず、それぞれ別々のものへと横になったが、二人は簡単に身づくろいを終えると、そのまま眠ってしまった。
眠る前、アナキンは、オビ=ワンに手を伸ばし、指を絡めてきた。
「すっごい幸せだった」
「……私もだよ。アナキン……」
「本当? よかった……」
沢山の酒を飲んでいたアナキンは、すぐさま眠りに落ちていく。
翌朝、ぎこちない顔で起き出した二人は、それでも、今までよりも近い位置に心を寄せ合っていたのだ。
オビ=ワンは、そっけなく朝の挨拶をしたアナキンの態度に、何度か、弟子が全てを忘れていることも疑ったが、それを確かめるような言葉を口にする勇気はわかなかった。
違和感の残る体は、夕べのアナキンをリアルに思い起こさせた。
夕べのままに、まだ散らかったままテーブルへと、簡単に作った遅い朝食を運びながら、オビ=ワンは自分をこんなにも動きづらくさせている原因を思い出していた。
アナキンは、オビ=ワンを好きだと言った。
離れられなくなりそうだと、言っていた。
そんなのは、その場だけの言葉に過ぎないとオビ=ワンも分かっていたが、例えそうであっても、そんな言葉を貰えたことが嬉しかった。
アナキンの指を真似て、自分を慰める夜に、その声が、耳によみがえれば、どれほど感じるだろうと、一人オビ=ワンは、体の奥にせつなく疼く熱を感じた。
自分の太腿を伝い落ちたアナキンの精液をオビ=ワンは惜しんでいた。
いっそ、性交で粘膜が傷ついていれば、それが治るまでのあいだ、ずっとアナキンのことを思い出していられるのにと、埒もないことを思いながら、オビ=ワンはだるそうにスプーンを口に運んでいた。
オビ=ワンの正面に腰掛けたアナキンは、ぼんやりとした師匠が、必要最低限のことしか、自分に話しかけないことを居心地悪く思っていた。
師匠とセックスをしたことをアナキンは覚えている。
それが、思いもかけず気持ちよかったことだって、アナキンは覚えている。
まさか、オビ=ワンから恋人同士のような甘い言葉をかけてもらおうとまでは、アナキンも思っていなかったが、いや、その話題を持ち出されては、実際のところ、師匠との間に性的な関係を持つことなど考えたこともなかったアナキンは困るのだが、何も口にされないのも癪に障った。
オビ=ワンは、しゃくりと、スプーンの中のシリアルを噛んだ。
師匠は、弟子との間に起こった突発的な事柄に過ぎなかったことを、朝の空気の中へと引っ張り出しテーブルに載せることを未練がましいと、思っていた。
思ってもみなかった幸せな一夜をオビ=ワンは手に入れたのだ。
それでいい。……それだけでいい。
だが、自分にそういいきかせているオビ=ワンは、熱情を込めた目をしてアナキンを見つめずにいられる自信がなくて、できるだけ弟子を見ないようにしていた。
アナキンは、自分を無視し、夕べのことの出来事をなかったこととしてやり過ごそうとするオビ=ワンに腹が立っていた。
アナキンは、もう少し、何かが、欲しかったのだ。
いや、夕べ、アナキンとオビ=ワンの間には、何かがあったはずなのだ。
それでも、アナキンは、食事が終わるまで、きちんとテーブルに付き、ぼそり、ぼそりと、ある惑星の近状についてしゃべり始めたオビ=ワンの話を聞いていた。
そして、話題の途中で、ぎこちなく席を立ったオビ=ワンが手に取ろうとしている書籍に、アナキンは見当がついた。
身体を庇いながら辛そうに歩くオビ=ワンが手を伸ばすのに気を遣い、アナキンは、その本を取ってやろうと手を伸ばした。
オビ=ワンは、びくりっと、アナキンを警戒した。
アナキンは、不当なことをされたと感じた。
「そんなに警戒するのはやめてください。そんなことされちゃ、こっちだってやりにくいです……」
アナキンは、湧き上がる怒りをなんとか押し留めながらオビ=ワンに本を手渡した。
「すみませんでした。マスター。声もかけずに近づいた俺が悪いんです」
やはり機嫌の悪さは隠せず声は低く掠れたが、弟子は、オビ=ワンを怯えさせないため、一歩後ろに下がった。
あなただって、感じていたじゃないか。
あれは、決して無理やりな行為ではなかった。
オビ=ワンも同意したのだ。
あんなに幸せな気持ちで過ごせたのに。
「いや、そんな、違う。お前は悪くない。……お前、よくこの本だとわかったな。アナキン」
笑った師匠の顔はこわばっていた。
弟子は苦く首を振った。
「いいえ。別に俺は、あなたが今、どんな任務についているのかわざわざ知ろうとしているわけじゃない。ただ、あなたの付く任務は、いつだってとても重要なものだから、オーダーの中では話題になっていて」
もしかしたら、また、オビ=ワンとああいった関係を持つことだってできるかもしれないと思っていた弟子は、自分の存在が過度の脅威を師匠に与えているのに腹がたった。いや、自分に対してではない。そんな風に自分を警戒する師匠に対してだ。
あれは、俺の無理強いだったか?
そんなことはなかったはずだ。
やりたくないんだったら、断れたはずだ。
いや、オビ=ワンの方が乗り気だった。
本当に、アナキンは、昨日までは、オビ=ワンに性行為を迫ろうと思ったことなど一度もなくて。
でも、アナキンの中には、新しい事実が刻まれていた。
……オビ=ワンとのセックスはとてもよかった。
疚しい気持ちを抱くアナキンは、全てオビ=ワンのせいにしたかった。
「そんな! アナキン。そんなことを疑っているわけじゃないんだ」
オビ=ワンの強い否定は、弟子をさらに頑なにしただけだった。
弟子の表情は硬い、まるで師匠によって不当に傷つけられたといわんばかりに、アナキンは強く自分をガードした。
アナキンは、こんな時間の部屋の中で警戒し、自分を見くびる師匠が許せなかった。
「俺だって、こんな昼間から盛ったりしない……」
アナキンの瞳は、オビ=ワンを拒絶している。
「……アナキン」
「気にしないで下さい。オビ=ワン。俺も、十分夕べのことが間違いだったということは分かってます。ですから、俺をそんなに意識しないで。……打ち合わせの場で、あなたが不自然に目を反らせば、みんながまた俺が何かをしでかし、あなたを困らせていると疑います。そんなのは俺も気分が悪い」
「アナキン……」
弟子は、気分を変えたいとばかりに、乱暴に髪をかき上げた。
「俺、ちょっとこの家に居すぎましたね。分を弁えてさっさと帰るべきでした。……ああ、ほんとできれば、夕べのうちにそうすべきだった」
踵を返したアナキンは、ソファーの背に掛かっていたローブを取り上げた。
「夕べのことは、なかったことにしましょう。それでいいですよね。オビ=ワン。……それがいいんですよね? オビ=ワン?」
問われたオビ=ワンは、ここで頷くのが、最良の選択なのだと分かっていた。
弟子は、身体を半分だけオビ=ワンに向け、立ち止まっている。
足先は、ドアの方向へと向けられている。
オビ=ワンは、ここで頷き、輝かしい未来が待つはずのアナキンを手放してやるべきだと思った。
自分の思いは、アナキンの邪魔をするだけだ。
……第一、アナキンは、自分のことを愛してなどいない。
オビ=ワンは、アナキンをじっと見つめた。
肯定の言葉を吐き出そうとする唇が震える。
しかし、オビ=ワンはたまらなくアナキンが好きなのだ。
どんな可能性にでもしがみつきたいほど、オビ=ワンはアナキンに執着している。
アナキンに拒絶されるのは嫌なのだ。
「……悪い。アナキン。あれは、良かった。……ただ、長く一緒に暮らしてきたお前と、そんな風になったのが照れくさくて……」
オビ=ワンは、アナキンが負担なく関係を続けるための言葉すら選んでいた。
言いにくそうに口ひげを撫でるオビ=ワンは、困ったような笑みを浮かべた。
アナキンが特定の相手にしかしない愛情ある行為をその身で知ってしまったオビ=ワンは、一度だけで十分だなどとは思えない欲張りになってしまっていたのだ。
「お前が秘密にしておけるというのなら、また、ああいうのもいいな」
怒りで顔を強張らせていたアナキンが、はぁっと、息を吐き出した。
「俺だけのせいにされるのかと思いました」
弟子は師匠を睨む。
「悪かった」
「いいえ、でも、確かに、ちょっと照れくさいですね」
アナキンは、まだ、心のどこかでオビ=ワンを疑って、オビ=ワンを試した。
「……じゃぁ、オビ=ワン。今度はあなたの任務が無事に終わったら、この部屋でまた一緒に過ごすってのは、……どうですか?」
オビ=ワンは、頷いた。
自分は間違えていると知りながら、頷かずにはいれなかった。
やっと弟子の顔に僅かな笑みが浮かぶ。
「よかった。俺、あなたのこと好きみたいなんですけど、オビ=ワンは?」
好きだという言葉は、夕べの自分へのサービスのようなものだということが、オビ=ワンには分かっていた。
しかし、冷たくされたというだけであれほど腹の立ったアナキンは、オビ=ワンに対する気持ちに確信が持てなくもなっていたのだ。
どうしても、アナキンは、オビ=ワンからの肯定が欲しかった。
「好きだともアナキン」
間違いだと分かっていて、そちらの選択肢を選んでしまったジェダイたちは、お互いに距離をとったまま、しばらくそこに立っていて、そんな自分達に気付くと肩をすくめた。
「じゃ、俺、帰ります」
「ああ、気をつけて。…………楽しみにしてる。アナキン」
若い弟子は、余計な一言を付け足した師匠に、そっけなくではあったが、頷いた。
END