その温度を教えたい

 

オビ=ワンは、疲れた様子で部屋の中に入ってきた。

「あっ、おかえりなさい。マスター。今回の任務は長くかかりましたね」

アナキンは、入力途中のデーターパットから目を上げた。

きつい任務だったのか、師匠の顔色は悪い。だるそうに荷物を放りだすと、師は伸びた前髪の中から面倒くさげに視線を上げた。

「アナキン、少し出かけてくるから」

帰ってきたばかりの師は、腰も下ろさぬうちに、きびすを返そうとする。

アナキンは、ほんの少しのためらいの後、少し痩せたように見えるオビ=ワンの背中に呼びかけた。

「マスター。一件、伝言を預かってます。……。もう、お前とは付き合えない。だ、そうです」

アナキンがかけた声に、オビ=ワンの肩がひくりと動いた。

ためらいがちにアナキンが口にした言葉は、もうこれ以上疲れることなでできない。と思っていたオビ=ワンに更なる疲れを与えた。

メッセージだけで、オビ=ワンに別れを告げてくる男は、もう何人目かわからなかった。

都合のつく時ならば、無理をしてでもオビ=ワンが合わせているというのに、どうしても関係が続かない。

出かけようとしていたオビ=ワンの足は止まるしかすることがなかった。

「くそっ……」

「……マスター」

アナキンは、ぐっと唇を噛んだオビ=ワンを見ていた。

ローブに包まれた肩が、少し震えたように見えた。

アナキンだって、やっと任務を終えて帰ったばかりのオビ=ワンにこんなことが伝えたかったわけではなかった。

しかし、伝えなければ、オビ=ワンは彼を訪ね、そして、そこに新しい恋人と寄り添う自分の男の姿でも見たならば、どれほど辛いだろう。アナキンは自分さえ嫌な役目を引き受ければ、師が辱めを受けることが避けられるのだと、伝言を受け取った。

オビ=ワンの目が暗く、床ばかりを見ていた。

アナキンは、伝え辛いことを口にした気詰まりをため息にして吐き出してしまいたかったが、傷ついている師の姿にため息を胸へと飲み込み、代わりに髪をかき上げた。

「……マスター。ここんとこ、短いのばっか、ですね」

あえて、アナキンは明るくオビ=ワンへと声をかける。

「ああ、そうだな。……くそっ、折角任務が終わったってのに!」

オビ=ワンは、イラついた声を返した。

性欲の手っ取り早い解消が無理になったことを弟子の前で遠慮なく毒づいた師匠は、テーブルを足で蹴飛ばすと、どさりっと、ソファーに腰を下ろした。

アナキンのところまで、スプリングのきしみが伝わる。

オビ=ワンが低く唸る。

「マスター、相変わらずの趣味ですね。 今回のもあんま性格よさそうじゃなかったですよ?」

腕を組んで座り込む師の前髪が乱れ目を隠すので、アナキンは、オビ=ワンの表情がわからないことが少し不安だった。

組まれた腕の指先は必要以上にきつく握られている。

「ねぇ、マスター……」

「……うるさい」

オビ=ワンは、低い声で弟子を拒絶するとソファーの背にどすんともたれかかった。

前髪をかき上げたオビ=ワンの顔は、何かに耐えるようにきつく目を瞑っていた。

師は唇を噛む。

アナキンは、離れて座る師匠の顔を眺めながら、気遣うようにそっと笑った。

「マスター、マスターなら、すぐ次がみつかりますよ」

アナキンは、やっとのことで任務を終え、帰宅したばかりなのに、酷い目にあうことになってしまったオビ=ワンのために、飲み物でも用意しようかとソファーから立ち上がった。

「何が飲みたいですか?」

「……いらない」

オビ=ワンは、ソファーの上に足を引き上げると、アナキンの座っていた場所にまで足を投げ出した。目を伏せた師は、弟子の干渉を拒んだ。

オビ=ワンのジェスチャーは、傷ついている、と、いうよりは、腹が立っているという態度だ。しかし、アナキンは、オビ=ワンが深く傷ついているのを感じていた。

ここ数ヶ月の間に、もう何度もアナキンはオビ=ワンへの別れの言葉を伝えなければならなかった。どうしてこれほど、師が一人と続かないのか、アナキンにはわからない。しかし、少しでも情を持ったからこそ師は相手と繋がったはずで、そんな相手に捨てられれば、どうしたって傷つく。

座る場所のなくなったアナキンは、立ったまま、師を見下ろした。

「結構、本気だった……んですか?」

オビ=ワンは、全く返事をしなかった。

金の髪がまばらに額へと落ちかかり、師の顔に影を作っていた。

アナキンは、自分を拒む師を見下ろしていた。

オビ=ワンの胸が上下している。

いつもより激しい呼吸は、内心の動揺の表れなのかもしれない。

アナキンは、一つ息を吐き出した。

「ねぇ、マスター。やりたいだけだったら、俺としませんか?」

唐突なアナキンからの提案に、オビ=ワンは、思い切り眉を顰め、ゆっくりと顔を上げた。

「……アナキン?」

オビ=ワンの声が低い。

オビ=ワンは、自分をからかおうとする弟子が許せなかった。

「お前、……捨てられまくる男に興味があるのか?」

アナキンを見上げるオビ=ワンの目は酷く冷たい。

アナキンは、あえて唇に笑みを乗せた。

「興味……ですか、まぁ、確かに、興味はあります。どうして、そんなにマスターが振られるのか、知りたい気持ちがあることは認めます」

アナキンは、オビ=ワンに手を伸ばした。オビ=ワンの手を握る。

「でも、マスター。どうせ、マスター、しばらく落ち込んで、それに気が済んだら、寝る相手探すために出て行くつもりでしょう? だったら、手近で手を打ちませんか? 多分、俺でも、それほどマスターのこと落胆させないと思いますよ」

「……自信家だな」

オビ=ワンは、弟子にふざけるな。と、怒鳴ってやりたかった。

しかし、疲労が苛立ちを凌駕した。大きな声を出すことさえ、面倒くさかった。

任務を終えて、帰宅したばかりで、最悪な伝言を受け取ったオビ=ワンは、疲れのあまり物事を深く考えることが面倒だった。今回もオビ=ワンはなんとか、無事任務を果たし五体満足で帰ることができた。だが、次はどうだかわらかない。オビ=ワンは、自分が生きていることを強く実感するためにも、とてもセックスがしたかった。それなのに、当てにしていた男には捨てられた。

 

オビ=ワンはアナキンの体をじっと見上げた。

弟子は、……そういう目で見てみれば、決して悪い相手ではない。

いや、いままで相手にしてきた奴らなどよりよっぽど上等だ。

 

アナキンに握られたオビ=ワンの指に少し力が入った。

オビ=ワンが、アナキンの手を握り返した。

するとアナキンは、オビ=ワンが力を入れたことをなかったことにしようとするかのように、強く手を握った。

アナキンが笑う。

「まぁ、若いんで、回数はいけますよ」

 

アナキンは、師にプライドを捨てさせるつもりなどなかった。

今は、アナキンが師を誘っているのだ。またも男に捨てられ、飢えを持て余す師に救済の手を差し伸べているわけではない。

「マスター、自分の弟子じゃ、食う気になりませんか?」

アナキンは、師の指の先に唇を押し当てた。

オビ=ワンがびくりと震え、手を取り戻そうとする。

しかし、師は、もう弟子の誘いに抵抗する気力がなかった。当てにしていた男がいなくなった以上、どうせ、他を探しに出るつもりだったのだ。近場で間に合うのなら、それが楽でいい。

実質3度のセックスと、任務で会えなかった2週間を含んでの3週間という男との最短記録は、オビ=ワンに肉体関係を持った弟子とこの先付き合っていく気まずさというものを考えさせなかった。オビ=ワンは、どうせまた、弟子にも捨てられるに決まっているのだ。と思っていた。そうなったら精々被害者ぶった顔をしてやる。と、思いながら、オビ=ワンは、アナキンの手を強く握って、立ち上がった。

「今なら、なんでも食えるさ。お前も悪食だ。すぐ飽きられる体に興味があるとは、趣味が悪い」

オビ=ワンは、今日始めて笑った。疲れた笑い方だった。

一瞬、自分に預けられた師の重みに、アナキンは、心があつくざわめくのを感じた。

「人の趣味にけちをつけないで下さい。マスター、とりあえず、体、洗ってきたらどうです? あなた、埃まみれですよ」

オビ=ワンは、もう一切考えることが面倒になっていた。

師は、弟子の言葉に従った。

 

 

オビ=ワンが体を流し終え、アナキンの部屋を訪ねると、弟子は新しいシーツを用意していた。

「申し訳ないですけど、部屋の中はざっと片付けただけなんで」

普段散らかり放題の弟子の部屋が、片付いていた。工具が部屋の隅に纏められただけだが、それでも、いつもと雰囲気が違う。

オビ=ワンは、ためらいがちに部屋の中へと足を踏み入れた。

「アナキン……」

濡れた体をした師は、いつアナキンが飛び掛ってくるのかと、身構えていた。そして、オビ=ワンはそれを望んでもいた。小さい頃から育てた弟子と寝ても良いほど酷い気分なのだ。いっそレイプまがいに犯されて、何も考えられないほうがいい。

しかし、シーツを替え、振り返ったアナキンは、オビ=ワンに笑いかけると、師の脇を通り抜けてしまった。

「マスター。俺もシャワー浴びてきます。眠かったら寝ちゃっててもいいですからね」

アナキンは、美しいはずの青い瞳を、厭世感で暗くしているオビ=ワンが辛かった。

どうして、自分を大事にしないのか。と、思う。

オビ=ワンは、アナキンになど興味がないに決まっているのだ。少なくとも、アナキンが誘うまで、オビ=ワンにとって弟子はセックスの対象ではなかった。それなのに、師は弟子と寝ようとしている。

 

「アナキン、別にいいぞ?」

オビ=ワンは、シャワーを浴びに行こうとするアナキンを引き止めた。セックスをするに当って、オビ=ワンは、酷く汚れていた自分はきれいにする必要があると思ったが、弟子が体を洗ってこなければならないとは思わなかった。直前にきれいにしれもらわなくても、別にアレだって舐められる。いや、いままでは、そうやって舐めてきた。

「マスター……」

アナキンが、立ち止まった。オビ=ワンは、ベッドへと押し付けられる瞬間を待った。

だが、そこにあったのは照れくさそうな笑みだ。

「俺が嫌なんです。俺、夕べ、体洗いもせずに、寝ましたから。そんな汗臭い体で、やるのいやなんです」

オビ=ワンは、思わぬ弟子のナイトぶりに、力の抜ける思いで、ベッドに腰掛けた。

アナキンは、くるりと背中を向けてシャワーを浴びにいってしまった。

オビ=ワンは、洗い立てのシーツの上で、一人腰掛けている。

自分のために、新しいシーツを用意する男と、オビ=ワンは付き合ったことがなかった。いつも適当にひっかけ、ひっかかり、そうやって、付き合った相手ばかりだったのだ。

セックスを始めれば、大抵が、オビ=ワンに対し、「お前はつまらない」と、文句を言った。暴力を振るう男もいた。

しかし、次を見つけるのが面倒で、オビ=ワンは、どんな相手だろうが合わせてきた。

「……はぁ……」

オビ=ワンは、思わずため息をつく。

 

 

「……マスター。……マスター」

揺さぶられ、オビ=ワンは、自分が眠ってしまっていたことに気付いた。

「眠いですか? やっぱ、やめときますか? マスター」

石鹸のいい匂いをさせたアナキンが、オビ=ワンを見下ろしていた。

オビ=ワンは、慌ててアナキンに向かって手を伸ばし、引き寄せた。

「やるんだろ?」

くたくたに疲れた体が、それでもセックスを求めるから、オビ=ワンは任務後、すぐに男たちのところに出向いた。疲労はピークにあり、どんな薄汚れたベッドだろうが、横になれたというだけで眠気が襲ってくる。しかし、セックスの最中に眠りに落ちそうになるオビ=ワンに対し、男たちは舌打ちした。眠りは相手の機嫌を損ねる。出すだけは出し、それから別れを切り出した男もいる。

「マスター」

だが、アナキンはオビ=ワンの髪を撫でた。

「少し眠ってからでも、構いませんよ?」

「こんなにしてか?」

オビ=ワンの手が、ためらうことなくアナキンのバスローブを割り、ペニスを掴んだ。

アナキンは顔を顰めた。

「マスター」

「格好つけてないで、やろう。アナキン」

オビ=ワンは、まだ眠気を顔に貼り付けたまま、アナキンのものを扱きはじめた。

無理やり開いた師の目は潤んでいる。

アナキンは、あくびをかみ殺そうとしているオビ=ワンを見つめ、キスをしようとした。

オビ=ワンは、キスを許した。

だが、決して自分から求めようとはしなかった。

オビ=ワンの唇は柔らかだ。

アナキンは、薄く開いているオビ=ワンの口の中へと舌を潜り込ませた。

熱い舌がそこにある。絡ませ、唾液が混ざり合うと、オビ=ワンの鼻から甘い声が上がった。

「……っぅく……ん……」

アナキンは、更に、オビ=ワンの舌を求める。

しかし、アナキンが愛撫を深めようとすると、オビ=ワンが顔を振ってそれを拒んだ。

目じりを赤く染めたオビ=ワンが濡れた唇を手で隠すようにする。

「……アナキン。お前、キスが好きなのか?」

「……ええ、……嫌いじゃないですけど……」

怪訝そうなアナキンを、オビ=ワンは、押しのけた。

「お前が好きってわけじゃないなら、わざわざそんなことする必要はない」

オビ=ワンは、甘くセックスを進めようとするアナキンに居心地の悪さを感じていた。その行為は、今までと違いすぎだった。体の欲求を優先に相手を選んできたオビ=ワンは、こんなに大事にされたことがない。

オビ=ワンは、アナキンにベッドへと腰掛けさせると、自分の立場を優位にするため、じっと弟子の目の中を見つめた。

「アナキン。お前の、もう出来るよな。どうする? もうやるか? それとも舐めて欲しいか?」

オビ=ワンの目は、空の青に近いブルーだ。それが、今は暗い。

「そんな、無理でしょう。マスター」

足を開こうとしたオビ=ワンを押しとどめたアナキンに、オビ=ワンは、奉仕を要求されているのだと理解した。

ベッドの上に膝をそろえたオビ=ワンが、アナキンのバスローブをめくる。立ち上がっているペニスにそっと手を沿え、伸ばした舌を寄せる。

「えっ、あっ」

アナキンが止めるより早くオビ=ワンはペニスを口へと含んだ。唾液を絡ませ、力強く立ち上がったペニスを吸い上げる。

弟子のペニスは、オビ=ワンが予想していた以上に大きかった。口を大きく開かなければ含みきれない。特にカリの張り出しが大きい。舌を、上あごを、張り出したカリが刺激する。閉じきれない唇から、唾液が零れ顔を汚す。

 

じゅぶじゅぶと、いきなりハードな口腔奉仕を始めた師に、アナキンは驚きの目を見張った。

その上、師は自分の着ていたバスローブのポケットからクリームを取り出し、指に塗ると、自分の尻へと手を伸ばす。

「マスター、それは、急ぎすぎじゃ……」

アナキンのペニスを咥えたまま、オビ=ワンは、不思議そうに顔を上げた。

「何が?」

その表情に作為めいたものは何もなかった。アナキンのペニスを握ったまま、空いた手で、クリームのキャップをはずすオビ=ワンは、本当にアナキンが戸惑う理由が何もわからずいるようだった。

口から零れ出た唾液で髭を汚しているオビ=ワンは、アナキンのペニスに舌を這わせ、舐め上げながら、自分の穴をほぐそうと尻穴へとクリームを擦りつけている。

丸く白い尻の盛り上がりの間から、オビ=ワンの指が穴の中へと押し込まれようとしているのがアナキンには見えた。爪の先が体内へと隠れている。

「あの! マスター、そういうことは俺がやりますんで」

アナキンは、ペニスの先へと口付けているオビ=ワンを抱き止めると、その肩へと顔をうずめた。

「お願いです。マスター。俺にやらせて……」

オビ=ワンは、驚いた顔で、アナキンを見つめた。

弟子は、バスローブから覗くオビ=ワンの首筋へといくつものキスを降らす。

「えっ? アナキン?」

「お願い、マスター。俺のいいようにさせて下さい」

オビ=ワンは力強く抱きしめられ、驚きのあまり、思わず疑問を口にした。

「……なんでだ? 面倒だろ?」

「あなたが?」

「いや、アナキン、お前がだよ」

「……もう。そういうことを……」

アナキンは、当たり前の顔をして自分の準備を機械的に済まそうとするオビ=ワンが悲しかった。

アナキンの腕がオビ=ワンの背中を抱く。

アナキンは、困惑を隠さないオビ=ワンの胸へと口付けの幅を広げた。

弟子に優しくベッドへと押し倒されたオビ=ワンは落ち着かない。

「……ア、アナキン。私は、どうやら、不感症らしいんだ。……だから、そんなことして貰わなくても」

「誰があなたを不感症だって言ったんですか?」

アナキンは、首から胸へと繰り返したキスだけで、きゅっと立ち上がっているオビ=ワンの乳首を口に含んだ。

舌に包んで吸い上げ、また、押しつぶせば、オビ=ワンは胸をあえがせる。

「アナキン……それ……んっ……やめっ」

オビ=ワンの頬が赤い。

「こっちにも触って欲しいですか?」

アナキンは、固く立ち上がり、触れられぬことを寂しそうにしているもう片方の乳首を指先で摘まんだ。

「ん……んっ!!」

オビ=ワンが胸を突き出すように、背中を反らせる。

自分で出した声に驚いたのか、師は自分の手で口をふさいだ。

アナキンは、師の乳首をしゃぶる。

舌先で舐り、指では、乳輪ごと乳首を揉んでやる。

「あっ……んっ!」

自分の感じることに違和感を感じているのか、おどおどと目をさ迷わせるオビ=ワンの腰が、だが、落ち着きなく浮き上がっていた。

アナキンはオビ=ワンの乳首を吸ったまま、師の下肢へと手を伸ばす。

「どの辺が、不感症ですか? 乳首弄られただけで、ここ、こんなに濡らしてしまう人のことを不感症とは言わないと思いますけど」

 

オビ=ワンは、自分の体に起こることが信じられなかった。

いつもは、相手が顔を顰めるほど、オビ=ワンは感じないのだ。いや、そもそも、オビ=ワンを良くしてやろうとセックスをする相手がいない。誰もオビ=ワンの乳首など弄らない。

「あっ……あ」

オビ=ワンは体を震わせていた。

アナキンの唇が乳首を挟み、ペニスは大きな手で扱かれている。

下腹には、熱いものがこみ上げており、それは、ひたすら出口を求めていた。

自分から腰を突き上げてしまう。

アナキンは、オビ=ワンのペニスを熱心に扱く。

「んんっ……ん」

オビ=ワンは、今までセックスで相手から与えられる愛撫を拒んできた。礼儀のように差し出される愛撫を最初の一度拒んでしまえば、肉体のみの付き合いである男たちは、もうそれ以上オビ=ワンに手を伸ばそうとはしなかった。

入れられ、引き抜かれ、繰り返し、ペニスを出し入れされれば、その刺激にオビ=ワンのペニスからは精液があふれ出す。お互いの生活には踏み入らず、ただ抱き合うだけの相手に、奉仕を求めることを、オビ=ワンは過分なことだと信じていた。尻を犯されれば、オビ=ワンは射精することができる。相手はペニスを勃たせ、オビ=ワンの尻をそれで擦り上げてくれる。それだけでいいはずだった。

「やめっ……アナキン……私のことはいいからっ!」

 

アナキンの手は、ぬっとりと濡れたオビ=ワンのペニスを撫でていた。

「マスター。ここ、ぴくぴく動いてますよ。そんなに気持ちいいですか? ずいぶん溜めてたんですね」

あふれ出してくる先走りをアナキンは、勃ち上がったオビ=ワンのペニスへと塗り広げる。下に垂れ下がる玉にも、下腹部を覆う陰毛にもアナキンはいやらしい液体を広げていく。

それほどオビ=ワンが零しているのだ。

ペニスを嵌められ、揺さぶられてもほとんど声すら上げず、感じないはずのオビ=ワンが、目じりを赤く染め、つんと立った乳首もそのままに震えていた。目が泣き出しそうに潤んでいる。

「んっ、……ん、アナキ……ン。やめ」

アナキンは、もっとオビ=ワンを感じさせてやりたかった。だが、真っ赤になって震えている師の姿に我慢が利かなくなってしまった。

アナキンは、オビ=ワンの足首を掴んで、自分の膝の上へと引っ張り上げる。

完全に師の尻が自分の膝の上に乗ると、弟子はせっかちにその谷間に顔をうずめた。

「やめっ! そんなこと、しなくて、いいっ! やめてくれっ! アナキンっ!!」

きゅっと窄まった尻穴にアナキンの舌が触れると、オビ=ワンは激しく抵抗した。

「やめろ、アナキンっ! そんなことしてくれなくても!」

オビ=ワンの尻がアナキンの膝の上から落ちそうになっていた。

アナキンは、柔らかな尻の肉に指の跡が残るほど、強く捕まえ離さなかった。

舌先で、尻穴による皺を舐めていく。

「嫌がらないで。俺がしたいようにさせて下さいって、さっき、お願いしたでしょう?」

話すアナキンの声が穴の表面を撫でていき、オビ=ワンはぶるりと震えた。

その後を追うように、アナキンの舌が、オビ=ワンの尻穴にきゅっと寄った皺を舐めていく。

「入れたいんだったら、私がやるから。すぐ、広げるから!」

足がアナキンの肩を打つ。

しかし、弟子はやめようとしない。

ちゅくちゅくと、アナキンの舌がオビ=ワンの体内にまで差し込まれ、とうとうオビ=ワンの声には涙が混じり始めた。

ペニスからは、とろとろとカウパー液が漏れている。アナキンから診れば、オビ=ワンは尻穴を弄られることが嫌だとは思えない。

弟子の体があるせいで、足を閉じることもできない師は、顔を覆って泣き始めた。

「やめ……て。や……めてくれ」

「どうして? どうして、そんなに嫌なんですか? マスター」

あまりに、オビ=ワンが泣くので、アナキンは、舌を使うことだけはやめた。

代わりにオビ=ワンの使おうとしていたクリームを指につけ、指を使ってオビ=ワンに快感を与えようとする。

唐突に指がずぶり、と突き立てられ、オビ=ワンは、大きく息を吐き出した。

「ア・アナキン……もう、いいから」

アナキンの指を飲み込んだオビ=ワンの声が震えていた。

「もういいから……入れていい。入れてくれ」

「……どの辺が、もういいのか、俺にはさっぱりわかりませんよ? マスター」

一本の指をぎゅっと噛んで離さないほど、肉道は狭かった。こんなところに無理やりペニスを捻り込むほどアナキンは極悪ではない。

理由はわからないが、アナキン伺うオビ=ワンの目はとても怖がっていた。

「お前の、尻に当ってる。……入れたいだろう?」

「そりゃぁ、入れたいですけど……ね」

アナキンは、締め付けてくる淫肉の中で、指を動かした。

「んっ、あっ!」

「まずは、マスターのいいところをみつけないと」

アナキンは、丹念に赤い粘膜を指で辿った。狭隘な肉の中に、緩く盛り上がった部分を見つける。

アナキンは、そっとそこに触れた。

「あああっ!」

オビ=ワンの体が痙攣する。身を揉むようにして体を捩らせたオビ=ワンは、大きく口を開けてのけぞっていた。

尻は痛いほどアナキンの指を締め付けている。

「ここ、ですか。じゃぁ、ここを中心に」

アナキンが、どこを触っても、オビ=ワンはただひたすら感じた。

あまりに感じて、怖いほどだった。

こんなセックスをオビ=ワンは知らない。

指がくちゅりと、動くだけで、腰がしびれるような気がした。それなのに、アナキンは、二本に増やした指を回転させるようにして、オビ=ワンの穴を抉り、引き上げるときには、指の先で、口腔をひっかけていった。

「んっ!んんっ!」

大きく尻を開いたままのオビ=ワンのペニスからは、どろどろと精液があふれ出していた。

腰が熱かった。

あまりに感じすぎで、オビ=ワンのペニスは、途切れなく射精を続けている。

「どこが、不感症なんしょうね。マスター」

 

 

ぴっちりと尻にペニスを嵌められ、揺さぶられているオビ=ワンは、かつてないほどに高ぶっていた。

もう、声がでなかった。

ペニスを入れられ擦り上げられていても、痛みと分離しがたい快感しか味わったことのなかったオビ=ワンにとって、それは、信じられないような感じだった。

力が入らず、ふらふらとするオビ=ワンの尻を叩く手はどこにもない。

締めろと、アナキンは怒鳴らない。

ただ、ひたすらに、いい。のだ。弟子が自分を抱く手が優しい。

体のどこにも力がはいらない。

「ねぇ、マスター。マスター、本当に今までの男とセックスしてきた?」

「んっ、あっ、……んんっ」

オビ=ワンは、アナキンに揺さぶられながら、一生懸命、うなずいた。目からあふれ出ている涙のせいで、よくアナキンの顔が見えなかった。

「本当に?」

本当に、オビ=ワンは、回数だけなら、セックスをたくさんしてきたのだ。誘われれば、すぐ寝たし、相手も特に選ばなかった。

 

アナキンは、オビ=ワンの尻に強く腰を押し付け、そこで円を描くように動かした。

奥まで広げられ、アナキンにしがみついているオビ=ワンが赤い口の中を晒し叫ぶ。

太いものに、奥を擦られ、一杯にされるのが、たまらなかった。

にゅぷりと引き抜かれるペニスが、腸壁を擦っていくと、オビ=ワンは、自分から足を絡ませ、それを引き留めようとした。肛口が未練がましくきゅっと閉まる。

弟子のペニスに、尻をされるのが本当に気持ちいいのだ。

「なんか、マスター、すごくかわいいですよ」

アナキンがオビ=ワンの口をふさいだ。

ぽっかりと開いてしまっている口を唇がふさぐ。

激しく吐き出される息に、唇をすぼめてキスに応えることもできずにいるオビ=ワンの口の中をアナキンの舌が舐めていった。

口蓋を舌で刺激され、それすら感じて、オビ=ワンは、しゃくりあげる。

「んっ、んっ、……んんんっ」

アナキンを深く咥え込んだオビ=ワンも舌を伸ばし、なんとかアナキンの愛撫に応える。

くすりと笑ったアナキンは、苦しそうなオビ=ワンに遠慮してか、キスをやめた。

「どうして、こんなマスターが、すぐ振られてしまうんでしょうね?」

アナキンは、師の体を抱き直し、早いピッチで突き上げる。

オビ=ワンのペニスが、もう何度目かの射精をした。

 

 

「……私が好きになった人は、私のことを好きにはなってくれなかった」

アナキンの腕の中で、眠ってしまっているものだと思っていたオビ=ワンがぼそりと口を開いた。

セックスの後の、火照った体を投げ出し、ずっと横になったままだったから、アナキンは師が起きていたことに驚いた。

そして、師の口にした言葉が、どうしてオビ=ワンが振られつづけるのか、知りたがっていた質問に対する答えだと気付くのには、さらに、時間がかかってしまった。

アナキンは、満ち足りた気持ちでオビ=ワンを背中から抱きしめ、その髪の中に鼻をうずめるようにして目を瞑っていたのだ。

それなのに、師は、ずっと考えていた。

「マスターが好きになった相手って、誰です?」

アナキンは、きっと、こういうところが、オビ=ワンが振られ続ける原因の一つだと思った。ジェダイとしてのオビ=ワンは、とてもバランス良く、成熟していた。しかし、個人となると、オビ=ワンは時に、驚くほど、欠けているところがあった。そうでなければ、満足いくセックスをし、同じベッドで抱き合って眠る相手に、好きな人の話などできない。

 

オビ=ワンは、しばらくためらったが、二人の名を口にした。

どちらも、ジェダイだった。

アナキンは、うなずく。

確かに、ジェダイは、誰かを特別に愛さない。

オビ=ワンから愛を傾けられた賢人は、優しい笑顔で線を引き、それ以上オビ=ワンに立ち入らせはしなかったのだろう。

アナキンは、ジェダイの規律を守ろうとした賢人たちを褒め称えはした。

だがしかし、それを踏襲する気はなかった。アナキン・スカイウォーカーは、ジェダイを変える選ばれし者だ。どんなことであろうと、アナキンは、自分で決める。

アナキンは、オビ=ワンを抱きしめる力を強くする。

「で、若い頃に躓いたから、それ以来、振られ癖がついたとでもいう気ですか?」

抱きしめてくる腕の温かさに、オビ=ワンは、口にするつもりがなかったことをしゃべっていた。

背中に抱く体温が気持ちよかった。

「多分、私を好きなってくれる相手なんて、一人もいない……」

師は、口にしてから、悔やんだ。まるで甘え、慰めてくれと言っているようだった。

師は、唇を噛んだ。しかし、それは、オビ=ワンがずっと思っていたことだった。

優しい慰撫が降りかかることを心のどこかで期待しつつも、師がきつく目を瞑っていると、弟子は、オビ=ワンの髪を撫でもせず、思いもかけないことを問うた。

「マスターは、今まで抱き合った相手のこと好きだったんですか?」

聞かれて、オビ=ワンは、戸惑った。

「……わからない」

やはり。と、アナキンは思った。

アナキンは、気軽にセックスに応じるくせに、抱き合うオビ=ワンから拒絶を感じていた。

セックスの最中、良くしてやりたいと伸ばす手を、拒み続けるオビ=ワンに、自分自身が拒絶されているような気がしたのだ。ただ、出すためだけの行為を求める相手が、自分を特別に受け入れてくれていると感じるのは、難しい。

師は、遠慮を装ってアナキンからの好意を拒んでいた。アナキンに体を、いや、心を明け渡すことを拒んでいた。

アナキンは、今までのオビ=ワンとの関係があったから、拒まれても、過剰な愛情を注ぐことができたが、これが、オビ=ワンという人間のことを何もしらない男だったら、間違いなく、そんなに嫌なら、するものか、と思うだろう。

多分、これが、師の恋愛を短くする二つ目の理由。

アナキンは、うなだれた師のうなじに唇を寄せた。

「出したいだけなら、一人でやるって手もあるでしょう?」

アナキンが耳元でささやくと、思いかけずも情けなく潤んだ目をしたオビ=ワンが振り返った。

オビ=ワンは、自分のために敷かれた新しいシーツでセックスする幸福を知ってしまったのだ。

「それは、嫌なんだ。……やっと生きて帰ったんだ。せめて、人の体温が感じたいじゃないか」

アナキンは、不器用な師がかなしくて、愛しかった。

アナキンは、丸みのある背中を抱きしめた。

「ねぇ、マスター、本当に誰かに好きになって欲しいと思ってますか?」

オビ=ワンは、何と答えていいのか、わらかなかった。

これ以上、弟子の前で醜態を晒すのがいやだった。

だが、もし、そうだ。と、いうのなら。

アナキンは、オビ=ワンに言うべき言葉を持っていた。

 

 

 

                                                     END

 

 

上手く纏まりませんでしたが、ずっと書いてみたかったオビです。