マスターお願いです。やらせて下さい。
オビ=ワン・ケノービは、弟子の言葉に、思い切り顔を顰めた。
「もう一度、繰り返して言う、勇気があるか? アナキン」
師は、わざとらしく袖の中で腕を組み、少し顔を傾け、アナキンを見上げた。
アナキンは、一年ほど前に、自分より小さくなったジェダイマスターを見下ろし、大きなため息をついた。
「それは、嫌だって、ことですか? マスター」
アナキンは、多少の疲れを感じていた。
このジェダイの代表のような顔をしているオビ=ワンには、激しい裏表があった。
だがそれを知るのは、パダワンくらいだろう。
「今は、私が質問している」
「最初に、お願いしたのは、俺です」
しかし、聖堂から、常々注意されるほど、アナキンは、気が強かった。
だが、聖人だと言われるオビ=ワンも決して負けてはいない。
「お前が先? だから、何だというのだ?」
側に誰もいないと思い、ジェダイマスターは、下から気の強い目で見上げ、アナキンに顎をそらした。
「では、もう一度言おう。その願いというのをはっきりと繰り返しなさい」
オビ=ワンは、アナキンが言えないと決めつけた。
アナキンは、言う内容が恥ずかしいのではなく、口を動かすという労力が無駄になることが分かり切ったことをするのが面倒だった。
「マスター。それで、俺が言ったとして、願いが叶えられる確率は、どの位ですか?」
「さて、それは、言ってみないとわからない」
アナキンは、にやりと笑ったオビ=ワンの青い目が、憎らしかった。
アナキンは両手で師の顔を挟んだ。
オビ=ワンの目が、未だ、弟子に軽蔑を送る。
強く上に引っ張られているせいで、僅かに背伸びをしている状態だというのに、ジェダイマスターは、は態度を改めなかった。
アナキンは、師の唇を奪った。
ここは、聖堂の控え室だった。
しかし、アナキンは、これ見よがしにオビ=ワンの唇を舐めた。
「では、マスター。ご自分の過去を鑑みて、俺が何度お願いしたら、願いが聞き入れられるのか教えてください」
オビ=ワンは、決して唇を開けはしなかった。
「……何が言いたい?」
「多少、年若い者に、温情を与えても、問題はない。と、言いたいんです」
「若い者は、馬鹿だからか?」
「ええ、そうです。あなたが若かった頃と同じように、俺も馬鹿なんで」
自分の弟子を馬鹿だと言い切るオビ=ワンを、アナキンは、呆れた目をして、見下ろした。
だが、師は、アナキンの言葉に頷いた。
「私が馬鹿だと言うのは、余分だが、お前の言葉は認めよう」
「では、マスター、俺に教えてください。あなたは、何度お願いしましたか? マスタークワイ=ガンに」
アナキンは、にやりと笑った。
アナキンの師匠は、自分がマスターを持っていた時代の話に口出しされるのを好まない。
それは、だいたいのところ、アナキンには想像出来た。
ジェダイとして、感情を押さえる事を学んだようだが、オビ=ワンは、もともと情が強い。
今でも、アナキンを腕の中に囲い込んでその束縛に満足するのだ。
年若く、思慮浅かったオビ=ワンは、どれほど、熱い目をしてあのとらえどころのなかったクワイ=ガンを見つめたことだろう。
きっと、作為のある艶めいた目をして、誘いかけたに違いない。
アナキンは、オビ=ワンの眉が、きつく寄るのを満足して眺めた。
「マスター。俺は、何度言ったらいいでしょうね?」
アナキンは、死んだものを、死んだ。と、捕らえることにためらいはなかった。
今、目の前で、鼻の頭に皺を寄せ、アナキンを睨み付けている人を満足させてやれるのは、自分しかいない。
オビ=ワンは、くるりと背中を向けた。
アナキンは、その背中に、もう一度訪ねた。
「俺は、何度言いましょう? 何回で、あなたのマスターは、その願いを聞き入れてくれました? ねぇ、そうやって、言うように求めたのは、マスターでしたよね?」
アナキンは、ベッドの中の睦言として、オビ=ワンが、それを口にしたのを知っていた。
だが、オビ=ワンは、求めたのだ。
いくら、正午に近い、聖堂の控え室といえども、そこでの待ち時間を利用して今晩のお伺いをたてるのに、パダワンはためらわなかった。
「アナキン、お前は、馬鹿だ!」
「ええ、お陰様で、あなたの弟子なんで」
アナキンは、師の背中に鋭く言い放った。
オビ=ワンが、くるりと振り返った。
(アナキン。お前ときたら、がっつくばかりで能がない)
「えっ? マスター」
(どうしてそんな自信をつけた? 私が満足しているだとは、どこで、そんな勘違いができたものか)
アナキンをオビ=ワンの顔は、突然、今までの不機嫌さを払拭していた。
いつもの、そう、誰にでも見せる、オビ=ワンの顔は、穏やかで底をみせないジェダイマスターの顔だ。
(若いということは、本当に馬鹿なことだ)
アナキンは、あんぐりと師の顔を見つめた。
「マスター……」
アナキンは自分を落ち着かせようと髪をかき上げた。
「……マスター。なるほど、昨日教えて頂いたフォースの使い方はそれですか」
昨日、ジェダイマスターは、顰めつらしい顔をして、感情を言語化することについて講義した。
つまり、それは、声を出さなくても、相手へと自分の思いを伝える方法だ。
「何のことだ? アナキン」
アナキンのマスターは、にこりと綺麗な顔で笑った。
(だいたい、お前は、自分がいきたいばかりじゃないか。こっちは、全く楽しくない)
アナキンは、師匠からぶつけられる手厳しい評価に目を見開いた。
「……マスター……」
「どうした? アナキン、大丈夫か?」
(突っ込んで、腰を振るだけじゃ、能なしって言うんだ。付き合わされてるこっちの身にもなれ!)
「マスター!!!」
アナキンは、目をつり上げた。
オビ=ワンは、大げさに驚いた顔をした。
「一体どうしたんだ。アナキン」
「一体どうしたじゃない! マスター、あなた、分かってやってるでしょ! 俺に心を読ませてますね。言うにことかいて、それですか!」
真っ向から自分のやり方を否定され、アナキンは、震えるほどに怒っていた。
恥辱に、目の前が赤くなる。
オビ=ワンが、不思議そうに首を傾げた。
「心を読む? 昨日説明したはずだ。そういうことは、よほど、お互いの間に親和性がないと難しい。フォースで出来るのは、大きなイメージをぶつけることだけだ。それをどうにか上手く利用して、危険の警告など、簡単なものを言語化するよう努力し……」
アナキンは、平然とまくし立てる師匠を遮った。
「嘘だ!」
アナキンは、大声で怒鳴った。
セックスのやり方を否定されるなど、若いパダワンにとっては、許し難い侮辱だった。
「俺のことを、腰を振ってるだけの能なしだと!」
「……お前、それが、こんな場所で、大きな声で叫ぶことか?」
オビ=ワンは、困ったように眉をひそめた。
アナキンに向かい、手を伸ばすと、髪を撫でた。
「どうした? アナキン。お前少しおかしいぞ?」
(……ほう、認めたか。若造め)
オビ=ワンの顔は、弟子の様子を心配するジェダイマスターのものだった。
「マスター!!!」
「そんなに大きな声を出さずとも、ちゃんと聞こえる」
オビ=ワンは、弟子を癒そうとでもいうように、優しく髪をなで続けた。
アナキンはオビ=ワンの手を、激しく振り払った。
「楽しいですか? そういうことして……」
アナキンは、ぎりぎりと歯を噛みしめた。
オビ=ワンの目は、平然としている。
「なんの事だ? アナキン」
「そうですか。……マスター」
苛立ったアナキンは、昨日学んだ理論を実践した。
勿論、オビ=ワンのように、上手く出来るはずもないのだから、言語というよりは、もっと原始的なイメージの固まりをオビ=ワンに向かって投げつけるだけだ。
だが、それは、原始的であるが故に、オビ=ワンに酷いダメージを与えた。
アナキンは、憎々しげに、セックスにおけるオビ=ワンの姿を師匠に押しつけた。
言葉にすれば、(あんなによがっていたくせに、何を言っているんですか!)と、いうところだが、そこまで、きれいにイメージを取捨できないアナキンは、アナキンのペニスをくわえ込んで伸びきっている尻の穴、一度出されたにもかかわらず、もっとと振り立てた精液で汚れた尻の淫猥な赤さ。伸ばす手。舌の絡む息苦しさ。オビ=ワンが放った射精の軌跡など。その気でもないときには、決して思い出したくもないようなものをごちゃまぜにして、師匠の脳にたたき込んだ。
オビ=ワンが、目をつり上げた。
「アナキン!」
決して自分では見えるはずがない部分まで、しかも、そこばかりを誇張したイメージを押しつけられて、師匠の目尻は真っ赤になった。
尻の皺がなくなって伸びきり、その周りを覆う毛が、アナキンの陰毛を擦っていた。
アナキンは、自分が行ったことが、師匠にダメージを与えたことに満足した。
「なんですか? マスター」
「お前……」
オビ=ワンが、唇を噛んだ。
「俺、やっぱり、才能ありますね。昨日、人の心に入り込むのは、大変難しいとおっしゃっていらっしゃいましたよね?」
アナキンは、出来るだけ努力して、オビ=ワンの身体がどんな状態だったかを、克明に思い出し、師匠に向けた。
アナキンに両足の足首を掴まれ、尻がシーツから浮き上がっていた。
よく締まった尻は、アナキンのものを根本までくわえ込んでいた。
勃ちあがったペニスが、アナキンの腹を擦っていた。
師匠は、陰毛まみれの自分の睾丸を、アナキンにしきりに押しつけていた。
開いていた口は赤かった。
アナキンがのしかかった身体からは、汗と精液の匂いが入り交じっていた。
人の心で作り出したイメージは、誇張される分だけ、現実よりも猥雑だ。
オビ=ワンは、自分の胸毛が、アナキンの肌をする感触の心地よさを味わい、ぞくりと背中が泡立つのを感じた。
弟子の手が、自分を掴む力強さは知っていた。
しかし、自分もあれほど強い力で、弟子を掴んでいたとは。
それどころか、弟子は、ペニスを噛む、尻肉の感触までも、そのイメージに織り交ぜて来た。
締め上げる力は強い。
擦り上げられ、濡れ出した中は、貪欲にペニスに絡みつく。
その感触は、かなりな快感をペニスの持ち主に与えた。
オビ=ワンは、弟子のイメージをシャットアウトした。
しかし、イメージは、原始的な力をもって、オビ=ワンを圧迫した。
もともと、アナキンは自分の中に強い核を持ち、それは、いつでもオビ=ワン脅かしていた。
オビ=ワンは、自分が、小器用にフォースを操ることができるのを知っている。
だが、弟子には、操る必要がないほど、圧倒的な力があるのだ。
「マスター?」
アナキンの視線の先で、オビ=ワンが自分の身体を抱き、前のめりにかがんだ。
「……アナキン、……お前……」
かすれた声の師匠を、アナキンは、抱きかかえた。
師匠は、小さく震えていた。
「大丈夫ですか? 俺、酷いことをしましたか?」
イメージで相手にダメージを与えるなど、アナキンにとっても初めてのことであり、弟子は怯えた。
「……くそっ、お前……」
オビ=ワンほど、確かに言語化したイメージを伝えることが出来る者などありはしない。
だが、弟子は、膨大な力によって、イメージを操り、物理的な圧迫感までもって師を追いつめた。
初心者にしては、上手すぎるくらいだ。
「……下手くそ!」
オビ=ワンは怒鳴った。
アナキンが、(あなただってセックスが好きじゃないですか)と伝えたがっているのはわかった。
だが、それを聞かされたオビ=ワンは、セックスが進行している中に、いきなり放り込まれたようなものだった。
今、オビ=ワンを抱く手が、裸の時、どれほど師の身体を心地よく触ったか、師匠は知った。
しつこく絡むオビ=ワンの足に急かされて、射精にはやる気持ちも味わった。
弟子が、クライマックスにキスを求める師匠を鬱陶しく不平を持っていることまで知った。
師匠は、弟子を睨み付けた。
「……悪かったな。アナキン。私は、ああいうのが、好みなんだ……」
オビ=ワンは、意地悪く自分の心に刻まれている記憶の一部を意識してアナキンに見せた。
クワイ=ガン・ジンが、オビ=ワンの髪を撫でた。
師匠の大きな体に合わせ、若い足は大きく開かれていた。
突き上げるペースは、ゆっくりで、若いパダワンを楽しませてやろうという余裕が伺えた。
「……っんっ、あっ!………あっっ!!」
恥知らずに上がる声の持ち主は、床に足が着いていなかった。
オビ=ワンの背中は、壁に付き、両足は、師の太い腰に絡みついていた。
クワイ=ガンに抱き上げられたオビ=ワンは、師匠の首に縋りついていた。
自分から、乳首を師匠に押しつけ、ふれあう感触に、甘い声を上げた。
パダワンを抱き上げ、その尻を犯しながら、クワイ=ガンの足は、揺るぎなかった。
激しく仰け反る若木のような身体を抱き直し、舌が求めるキスを何度も与える。
「マスター! あなた、酷い!!」
言語化されていないイメージというものが、どれほどのリアルさを伴うのか、勿論、それは、力の強いオビ=ワンと、アナキンというペアであったせいで、余計にそういうことになっているのだが。アナキンは、激しく傷ついた。
アナキンは、リアルに息づく、過去の恋人の存在が、どれほど現在の恋人の心を苛立たせるのか、現実に学んだ。
それは、相手が死んでいるなどという程度では、到底腹に収めることなど出来ない。
オビ=ワンは、アナキンに手を伸ばし、無理矢理唇を奪った。
熱っぽい、唇がアナキンを激しく求めた。
アナキンは、涙がにじむほどきつく、オビ=ワンを睨んだ。
「……マスター、あなた、俺と、クワイ=ガン・ジンを比べて……、馬鹿にしましたね」
「私は、アナキン、お前が好きだ」
オビ=ワンは、開かないパダワンの唇を舐めた。
「誘ってご覧。私は、お前に頷く」
オビ=ワンは、弟子の首へと腕を絡めた。
師は、与えられた激しいセックスのイメージに高ぶった熱い体を弟子に押しつける。
師匠の身体に、どれほど弟子が欲情するのか、オビ=ワンは、今、十分に知った。
「さぁ、言うんだ、アナキン」
オビ=ワンは、何度も何度も、この傲慢ちきな弟子の鼻っ柱を折った。
荒々しい心を目の粗いヤスリで研ぐ。
釣る餌が旨ければ、若い馬鹿がなんでもするということは、クワイ=ガンが、オビ=ワンに教えた。
睨み付けたままの弟子が口を開いた。
「……マスター。お願いです。……やらせて下さい」
開いた聖堂の控え室のドアから、マスターウインドゥが、顔を覗かせた。
「マスター・オビ=ワン。待たせて悪かった」
揺るぎなく正義に足を付く、マスターウインドゥは、部屋に残った荒々しいフォースの残滓に、男らしい眉をひそめた。
「何か問題が?」
「いいえ、マスターウインドゥ」
オビ=ワンは、ごく穏やかな顔で、返答を返した。
隣に立つ、彼のパダワンは、何時も通り、憮然とした顔だ。
「では、一緒にきてくれ」
新しい任務が、師弟に与えられる。
「マスター。愛してます。ねぇ、ダメですか?」
「……いいぞ」
オビ=ワンは、うっとりと目を閉じ、キスを求めた。
(ああ、面倒くさい。せっかくこの本を読んでしまおうと思ったのに。しかし、やらせてやらないと、こいつ、すぐ機嫌を損ねるしな)
アナキンは、オビ=ワンの唇に噛み付いた。
「マスター。したくないのなら、口で断ってください」
だが、アナキンはすぐににやりと笑った。
「まぁ、面倒くさいと思いつつ、でも、してもいいかな。と、思ってることは、わかってますが」
独善的な目をしながらも、アナキンは、甘く柔らかな感情で師を抱きしめた。
アナキンは、学んだのだ。
この目の前の酷い人が、自分に何を望むかを。
自分に何が足りなくて、この人を苛立たせているのかを。
師は、アナキンの成長に、目を見張った。
どうせ、あと一突つきもすれば、前と変わらず苛立ちに身を任かせるだろうが、アナキンは、恋人を甘やかな感情で抱きしめて許すことを身に付けた。
オビ=ワンは、弟子の尖ったところを強引に削って丸くするではなく、足りない隙間に優しい感情を詰め込んで、大きな球にすることもできるのかもしれない。と、気付いた。
END
仲悪いなぁ。この師弟(苦笑)