マスターのお髭

 

クワイ=ガン・ジン亡き後、運命の子だというアナキンを引き取り、弟子として面倒をみることになったオビ=ワンには、苦労の毎日が続いていた。

マスターになりたてのオビ=ワンに経験がないということはあった。

しかし、オビ=ワンは、敬愛する師を亡くした悲しみを忙殺するほどアナキンの指導に熱心だった。

だが、次々と、オビ=ワンの元へと苦情が届く。

本人は努力しているようだったが、アナキンがテンプルの子供たちと合わないようなのだ。

「少し尋ねたいのだが、マスターケノービ。君たちは何か特別な宗教でも持つようになったのかね?」

「いいえ、全く、そんなことは。我々は、ただ、ジェダイの教えに従うのみ。何か、私の行動にご不審な点でも……」

「いや……」

このくらいならば、まだ、いい方で、中には直接アナキンについて尋ねるマスターもいた。

「ねぇ、オビ=ワン、あなたのあの子は、本当にジェダイになれるのかしら?」

オビ=ワンは、胸の中では、大きく「YES!」と答えながらも、先輩マスターにアナキンが何をやったのかとためらいがちに質問した。

「……アナキンは、人は、平等だということがわかってないみたいだけど?」

「……ああ、あの子は、奴隷として育ちましたので……」

「あの子のなかで、導かれるということと、従うということの違いについての誤解があるみたいなの。そのせいで、うちの子が、動揺してるんだけど……ねぇ、大丈夫?オビ=ワン?」

今まで、独学のみだったアナキンは、人から学ぶという事に対して、なかなかテンプルの子供たちのようにはいかなかった。そのせいで、浮き上がる。

しかし、その割に、遊びの面では、アナキンの努力が実っていた。

「誰だっ! 授業を抜け出したのは!!」

筆頭者は、勿論アナキンで、若輩もののマスターであるオビ=ワンは、テンプルの教師連に説教を受けることになった。

それが連日続く。

オビ=ワンは、ほとほと疲れ果てていた。

実は、クワイ=ガンが存命の間は、それなりになついていたアナキンが、なんとなくよそよそしい態度を取るようになったせいもある。

 

アナキンは、コンサルトでの生活に目を回すばかりの毎日だった。

ジェダイになるために学ぼうというつもりはある。

しかし、あまりにここは、いままでの生活と違い過ぎて、まるで自分の実力が出せない悔しさに、母まで捨ててこの地に渡航したアナキンは歯噛みする毎日だった。

ここには、すでに自由がある。そして、その自由をわざわざ投げ打ち、仲間達は、ジェダイの掟に従おうとしている。

そして、十歳の誇り高い少年アナキンとしては、思うのも恥ずかしいのだったが、笑った口元の親しみやすかったオビ=ワンが師となったのを切っ掛けに、髭を伸ばし始め、近寄りがたく感じるのも嫌だった。

「髭はやめて欲しい」というのが、アナキンの素直な気持ちだったが、いや、実は、夜中にひげ剃りの道具を片手にオビ=ワンの部屋まで忍んだことすらあるのだが、そんなことは、矜持の高い少年には甘えすぎだと決して口にできることではなかった。

しかし、アナキンは、オビ=ワンが急に威厳をと求め伸ばし始めた髭に強い違和感を憶えている。

いや、はっきり言えば、アナキンは寂しい。

 

「ぎゃぁぁぁ!!」

朝、洗面所から、大きな悲鳴が聞こえてきて、朝食の準備をしていたアナキンは慌ててオビ=ワンの元へと走った。

「どうしたんですか? オビ=ワン!」

言ってから、アナキンは、言い直す。

「おはようございます。マスター、どうしたんですか」

オビ=ワンは、髭の手入れのために握っていた挟みを手に震えていた。

アナキンは、背伸びをして、鏡をのぞき込む。

「ぷぷぷぅ!」

弟子は、思わず笑ってしまってから、鏡を見つめたまま凍り付いている師のために口元を押さえた。

「……マスター、大丈夫ですか?」

オビ=ワンは、まだ、震えている。

アナキンは、師匠の手からそっとハサミを取り上げた。

「……あの、危ないですから……」

「ああ、……アナキン……」

力無くオビ=ワンが返事を返し、がっくりと肩をうなだれさせた。

アナキンは、オビ=ワンのその様子に、悄然と身を縮こまらせた。

「すみません。マスター、俺がいろいろ迷惑をかけるから……」

「……いや、私が未熟なせいだから……」

情けなくも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいるオビ=ワンが鏡に見つめる顔は、髭が円形脱毛症になっていた。

心労のあまり、頭髪が禿げるというのは聞いたことがある。

しかし、髭が……髭が……。

オビ=ワンは、受けた衝撃の強さに、最早声もでない。

しかし、顎の部分の髭が円形にごっそりと抜け落ちたそのオビ=ワンの顔は、やはりどうみても面白いものだった。

アナキンは、つい口元が緩んでしまう。

「俺、はじめてみました。髭でも、円形に禿げるモンなんですね」

威厳もクソも、せっかく蓄え、やっと見られるような形になったばかりのオビ=ワンのあごひげは、すっぽり円形に禿げていた。

オビ=ワンの努力もむなしく、その顔は、もう笑いしか誘わない。

アナキンは、日頃の隔たりも忘れ、手を伸ばして、オビ=ワンの顎を撫でた。

「マスター、本当にここ、つるつる」

年少者の目は好奇心にきらきらと輝いていた。

「……アナキン……」

しかし、年長であるオビ=ワンは、精一杯努力はしているようだが、目がうつろだ。

「ねぇ、マスター、こうなったら、一回剃っちゃうしかないんじゃありませんか?」

期せずして自分の願いが叶いそうな状況にアナキンの手はもうハサミを残った髭へと近づけていた。

後年アナキンは、オビ=ワンの髭が大好きになるのだが、今はまだ、その味わいが分かるほどの年に達していなかった。

「……やはり、それしかない……よな……」

オビ=ワンは、力無く頷いた。

円形ハゲの髭では、ジェダイマスターどころか、普通の人間としての威厳もあったものではない。

 

「マスター」

今まで見せなかった笑顔を、惜しみなく振る舞う弟子が、オビ=ワンの顎にカミソリを当てていた。

オビ=ワンは、髭のことは諦め、現在、頭皮に、魔の円形が隠されていないかと、真剣になって鏡をのぞき込んでいる。

「なぁ、アナキン、後ろ、大丈夫か?」

「マスター、こっちのほっぺ、ぶくってしてください」

ストレスのせいで、オビ=ワンの髭がコイン禿げになったことは不幸だったが、とりあえず、弟子との関係は友好になったようだった。

 

END

 

 

10.25の日記。

職場で、髭が円形脱毛症になったことがあると言い張るおじさんに笑い転げさせてもらった。

オビちがなったら、死ぬほどかわいい。と、心に思うのは、誰しも一緒かな?とか。

リブリのハロウィンというものがこれ程楽しいものなのか、と、ごそごそする毎日です。

やってない人には、全然楽しくないだろうと思うのですが、ハロウィン終わったら、リブオビの話をアプさせて頂きます。チームのハロウィンイベントのため、一日一話づつ、某所にてアプしてるのですよ(笑)