恐怖の時間
アナキンが眠い目を擦った。
部屋の外から、声が聞こえた。
自分を呼ぶ声ではない。
だが、それは聞き慣れた声で、仕方なくアナキンは、ベッドから起き上がった。
部屋のロックを解除すれば、そこに立っていたのは、知り合って間もない師だ。
アナキンが見上げた先にいる師の目は、閉じられていて、身体が揺れていた。
アナキンは、眉を寄せた。
「一体、どうしたんですか? オビワン」
言ってしまってから、慌ててアナキンは、言い直した。
「こんな時間にどうしたんですか? マスター」
昼の修行では、散々に絞られ、眠いばかりのアナキンの声は尖っていた。
しかし、目を擦るアナキンが見た薄い夜着に身を包むオビワンの様子は弟子に眉をひそめさせるほどおかしかった。
まだ違和感ばかりを感じる髭をいきなり揃えだした若いオビワンの口元は、半ば開いたままで、そこから、小さな声が漏れている。
「マスター……」
オビワンの声は、アナキンを呼ばない。
「……? マスター?」
アナキンは、オビワンが寝ぼけているのかと、師を揺さぶろうとした。
オビワンは、アナキンの手をすり抜けて、部屋のドアに額をすり寄せる。
「マスター、ねぇ、マスター入れてください。ねぇ……、ねぇ……」
そのドアの鍵は、開いているのだ。
オビワンは、ただ、扉を引きさえすればいい。だが、オビワンは、開けることのできるドアにむかって、ひとしきり開けてくれと独り言を言い、不意に踵をかえした。
不確かな足取りのアナキンの師は、ふらふらと、廊下を歩いていく。
アナキンは、師の様子を呆然と見送った
「……大丈夫なのか。あの人は……」
アナキンと、オビワンは、まだ、理解しあっているとは言い難かった。
今は亡き、クワイガンジン以外は、自分をなかなか受け入れようとしなかったジェダイという存在をアナキンは、快くは思っていなかったし、代わりとなった若すぎる師の存在も不安だった。
日中のオビワンは、口うるさいがなかなか気持ちのいい人物だ。
しかし、今の姿は。……アレは夢遊病か?
保護者を欠いたアナキンにとって、必要なのは、自分をジェダイへ誘う確かな導き手だった。
あくびの出る口を押さえながら、アナキンは、オビワンの背中を見つめた。
眠い子供はベッドが恋しい。
「……しばらく、様子を見る……か」
オビワンは、まっすぐ自分の部屋へと向かっている。
翌日からのアナキンは、適当に手を抜きながら、オビワンの様子を監視していた。
日中の師は、あいもかわらず、かなり熱心で、迷惑なほど親切なジェダイだ。
隙のない練習プログラムを組み、つかみ所のなかったクワイガンジンよりも、もっと完璧にアナキンをフォローしていってくれていた。
しかし、温かい笑顔とともに、何度でも「もう一度」を、繰り返す完璧な指導者が夜になれば、豹変した。
毎晩か、どうか、なのは、いくらオビワンに呼びかけられようが、眠気に負けてしまって起きられない夜もあるアナキンにはわからない。
たが、アナキンが目覚めた夜、必ずオビワンは、ドアの前に立っていた。
揺れながらそこで、オビワンは、しきりに中に入れてくれと頼んでいる。
アナキンは、ねだる師匠のために、何度もドアを開いてみせたこともある。
しかし、眠ったまま、ここに来ているオビワンは、開いたドアには気付かず、決してそこから入ろうとしない。
そして、それが続くと、師が、部屋のドアの外に立つ時間は次第に長くなっていった。
最初は、ほんの二、三分、そこでかつてのマスターに入出の許可をねだっていただけだったのが、近頃は、ドアに縋り付いて泣くようになった。
弟子は、ついには、師の手を引いて、彼のベッドまで誘導してやらなければならないことになっていた。
手さえ、引いてやれば、嬉しそうにオビワンは笑う。
素直に、アナキンの後をついて歩くオビワンは、弟子が部屋への道をエスコートし、ベッドに横にならせれば、すぐに眠りについてしまう。
アナキンは、師の癖を迷惑だと思いながらも、昼間のオビワンにまるで夜の影響がないせいで、変な安心感を抱いてしまっていた。
「安眠妨害」などとぼやいてみせながらも、アナキンは、オビワンの症状を誰かに相談しなければならないとは思わなかった。
アナキンにとって、親しい者がコルサントに居なかったというせいもある。
しかし、アナキンが、生い立ち厳しく自立した子供であったせいでもあった。
昼間、自分に教えるオビワンに甘え導かれる借りを、夜、そのオビワンを保護することで返せることは、砂漠の土地で、小さいながら母親を守りながら生きてきたつもりのアナキンに自尊心の満足を与えた。
泣くオビワンを慰め、または、叱りながら、自分より大きな師の手を引くのは、アナキンにとって眠いけれども嫌ではない作業だった。
その日が来るまでは。
その日、アナキンは、オビワンに言ったのだ。
「ねぇ、マスター、俺の部屋、入っていんだよ? 誰も、入っていけないなんて言わないよ」
開いてるじゃん。ねぇ、ドア、開いてるよ?
夜中、ドアを開けて欲しがる師に対し、アナキンは、今まで、その言葉を繰り返し、オビワンに現実を教えようとしてきたのだ。考えてみれば、入室を許可する言葉を与えたことはなかった。
その日の朝、頼みごとをしたオビワンに対し、アナキンは当然のように口にした。
「俺の部屋、入って、取って来てくださって構いませんよ?」
クワイガンの部屋だったという部屋をアナキンに明け渡してから、一歩も立ち入ろうとしない師が、その部屋に置きっぱなしになっていたものを取ってきて欲しいと望んだとき、アナキンは、その方が楽だと思った。
だから言ったのだ。
「入っていいのか?」
「ええ、勿論。お好きに入ってください。マスター」
言わなければ良かったと、後になってアナキンは後悔した。
その晩、アナキンの枕元に、影が差した。
このところ夜半に目覚めることが習慣になっていたアナキンの眠りは浅くなっていた。
アナキンは眠りながらも、何かがおかしいと思っていた。
いまだ眠りの中にいるアナキンが目を瞑ったまま、オビワンがやってきたのかと耳を済ますと、ドアの外に声はない。
もう一度眠り直そうと枕を引き寄せたアナキンは、ドアよりももっとずっと近いところに人の立つ気配を感じだ。
アナキンは眠い目を必死にこじ開ける。
「……来るなら、昼間に来てよ……」
自分を見下ろす位置に立っている師にアナキンは、子供ながらにため息をついた。
「早速のご訪問は嬉しいけどさ、マスター。俺、部屋だって片づけてないし、第一、なにも夜中に来なくても……」
アナキンは、オビワンを見あげ、話しかけているが、師からの返事はない。
しかし、いつもはどんなにアナキンが話しかけようと閉じられたままの師の瞼が開いていた。
アナキンは、居住まいを正す。
「寝ぼけてるわけじゃないの? とうとう目が覚めたんですか? マスター?」
日頃は温かいものの全く付け入る隙のない師が醜態を晒す現場に居合わせたことで、アナキンは嫌味なほどの笑顔を浮かべて、師をちくりと攻撃した。
しかし、オビワンの反応はアナキンの予想と違った。
オビワンは、どこかうつろな目をしたまま、ベッドに座るアナキンににじり寄る。
「……マスター……」
オビワンの声が、アナキンをそう呼んだ。
クワイガンが使っていたというベッドを、きっと大きくなるだろうからとそのまま譲り受けたため、アナキンのベッドはオビワンを受け入れる余地があった。
しかし、いくらベッドに余裕があろうとも、アナキンには余裕などなかった。
オビワンにしなだれかかるように膝の上に乗られ、アナキンは動揺した。
「……マスター?」
アナキンが戸惑った声で呼んでいるというのに、オビワンは聞きいれない。
オビワンは、アナキンの顔の近くへと寄せた似合いもせぬ髭が繁る唇を拗ねたような山形にした。
「ねぇ……マスター、俺のどこがそんなにいけないんですか?」
辛そうに眉を寄せたオビワンの腕がアナキンの首を抱く。
オビワンは、アナキンとクワイガンジンを取り違えているようだった。
しかし、アナキンとクワイガンでは、大きさがまるで違う。アナキンは、子供で、クワイガンは大人だ。
だが、オビワンは、完全に寝ぼけているようで、抱きつきながらも、クワイガンとアナキンの大きさの違いにもまるで頓着しなかった。
オビワンは、アナキンの頬に頬をすり寄せる。
「ねぇ、マスター。なんで、ずっと部屋に入れてくれなかったんですか?」
オビワンの態度は、今までアナキンが知る溌剌としたジェダイの態度とはまるで違っていた。
オビワンは小さな子どものように甘え、拗ねていた。
これに、本物の子供であるアナキンは驚き、一生懸命師を揺さぶった。
「マスター、マスター! マスター!!」
アナキンの力でも簡単に揺さぶられるオビワンは、しかし、目を覚ます代わりに、とても悲しげな表情になった。
「……何か、俺、マスターのこと怒らせるようなことをしたんでしょうか?」
オビワンが、揺さぶっていたアナキンの腕を捕らえ、縋る。
細いアナキンの腕がオビワンに捕まえられる。
「ねぇ、マスター、俺のこと、嫌になったんですか?」
泣き出しそうな顔のオビワンが、いきなりアナキンをつよく抱き締め、その唇を奪っていった。
強く押しつけられた唇は、必死の思いに溢れていて、アナキンは、思わず小さな悲鳴を上げた。
「マスター!!」
首を振って逃れるアナキンをオビワンは追って何度も何度も口づける。
「マスター……マスター……マスター……」
今までも、オビワンは、アナキンの部屋のドアの前に立ち、クワイガンを求め続けてきた。
それを、アナキンは、それほど深刻に捕らえてこなかった。
いうなれば、アナキン自身が母親であるシミが側にいないことを寂しく思うように、きっとオビワンもいままで一緒だった師が突然いなくなったことを悲しく思っているのだろうと理解していたのだ。
アナキンは、オビワンを同類と安心し、そこに安らぎを見つけさえした。
しかし、今は。
オビワンが必死にアナキンの唇を吸う。
師の舌は、アナキンの唇を舐め、きつく口を閉じて開かない弟子の状態に、辛そうに目を伏せた。
オビワンの腕がアナキンを強く抱き締める。
「……マスター、ダメ?……どうしてダメなの?……マスター」
オビワンの声は、アナキンが聞いたこともないような甘えたものだ。
いや、アナキンは、これ程甘えた声を自分自身では出したこともない。
潤んだオビワンの瞳が、アナキンの目の間近にあった。
盛り上がった涙が重く睫を濡らしている。
オビワンは、唇を噛みしめる。
「……マスター……」
切なげに、オビワンは、アナキンをマスターと呼ぶ。アナキンより更に幼い顔をしてアナキンにしがみつく。
しかし、その腕の力は、まだ幼い少年であるアナキンにとっては払いのけられない大人の力だった。
甘えたオビワンは、アナキンの膝の上に乗っている。
アナキンの細い足はその重みに耐えかねてしびれている。
「マスター……」
「マスター!」
アナキンは、自分の師に正気付いて貰おうと必死だった。
しなだれかかる師の身体を揺さぶった。
クワイガンはもういないのだと、何度も、オビワンにマスターと呼びかけた。
キスを求める顔から逃げた。
「……マスター……」
拒絶するアナキンの態度に、オビワンは、とうとうすすり泣き始めた。
「どうして、だめなんですか? ……俺、マスターの気に障ることを何かしましたか?」
オビワンは、決して目の前のアナキンの存在を認めようとはせず、死んだはずのクワイガンとばかり対話を望んでいた。
アナキンは、強制的にクワイガンの代わりを務めさせられている。
しかし、アナキンには、もとよりそんなことはできはしない。
「マスター、しっかりして下さい!」
「……俺の何が気に障ったんですか?……マスター……」
目を開けながらも眠っているオビワンは、ますますきつくすがり付く。
拒否がオビワンに有効でないことを知ったアナキンは、しばし考え、そっと腕をオビワンの背中へと回した。
昔自分が母親にしてもらったように、そっと師の背中を撫でた。
とにかくアナキンは、オビワンに落ちついて欲しかった。
すると。
アナキンの腕に抱かれたオビワンがはっと顔を上げた。
涙に濡れた睫のまま、幸せそうに微笑んだ。
開いた口元がオビワンの無防備さを表していた。
オビワンが、狭い弟子の胸に顔を擦りつける。
「マスター……」
甘えたオビワンの声は、満足に満ちていた。
しかし、オビワンを抱く体はサイズが違うはずなのだ。アナキンと、クワイガンでは、体の大きさが全く違う。それなのに、師はその違いを無視し、背中を抱かれたことを嬉しそうに微笑み、薄いアナキンの胸へと顔をうずめる。仕方なく、アナキンかつてとはまるで違った角度に丸まっているはずの背中をそっと撫で続けた。
オビワンは、体を預けるようにして、アナキンに凭れ掛かっている。実を言えば、アナキンはその重みに耐えるのが辛かった。小さな体は後ろへとひっくり返りそうになっている。
「……マスター。そろそろ、ベッドに戻りましょうよ」
アナキンにとって、オビワンに激しく唇を奪われたとこは、衝撃だった。そして、オビワンと、クワイガンというかつての師弟の間にあった秘密の関係を無理やり教えられたことにも強いショックを覚えた。
それは、もしかしたら、ジェダイという不思議な存在の拒否権があるのかどうかもわからない因習なのかもしれなくて。
そういった関係はこれから先、自分にも求められるのかもしれないと思い、アナキンは、かなり重いため息をついた。
しかし、それよりも今は、目の前で嬉しそうに笑うオビワンの夢遊病のレベルのほうが問題だった。
オビワンは、アナキンをクワイガンと取り違え、すっかりパダワンに戻っている。
苦しそうなほど体を丸め、子どもの胸に顔をうずめているオビワンが、嬉しそうにアナキンを見上げる。
目は甘えきっている。
あまりに幸せそうにオビワンが笑うので、アナキンは、かつてきっと、クワイガンにそう扱われていたに違いないのと同じようにオビワンを丁寧に扱い、もう一度そっと抱き締めると、背中を撫で、それから、やっと身体を押した。
「お部屋に行きましょう?」
少し落ち着いたらしいオビワンは、素直にアナキンの手を取った。
それどころか、今日は先導までする。
まるで子供のようにきゅっと握った手は、アナキンをオビワンの部屋へと導いた。
廊下を覆う夜の空気がひやりとアナキンをなでていく。
昼間は、勉強を教わるために、そして、夜は、徘徊するオビワンを寝かしつけるために訪れていた師の部屋にアナキンは誘われ、ベッドの淵に立った。
いつものように、アナキンは、オビワンの布団をめくる。
オビワンにそこに寝るようにと言いつけ、そして、ほんの数秒アナキンが見つめていれば、師は寝息を立てるはずだった。
だが、今夜のオビワンは違った。
アナキンがベッドに入るように言っても、言うことをきかなかった。
アナキンの言葉に首を振ったオビワンは、床に跪いた。
アナキンの足に抱きつき、どうしてなのか物欲しそうな顔をして見あげる。
「……マスター?」
アナキンは、跪くオビワンのサイズに、あまりものも考えず、その頭を撫でてしまった。
オビワンの表情が決して見慣れぬ、幼さだったせいもある。
すると、嬉しそうに笑ったオビワンの手が、突然、アナキンの夜着に掛かった。
オビワンはアナキンの夜着を引き摺りおろすと、まだ無毛のペニスを口に含もうとした。
「マスター!!」
アナキンは、驚きのあまり、手が出ていた。
子供が力いっぱいオビワンを突き飛ばす。
床に転がったオビワンは、泣きそうに顔を歪め、這いずってアナキンの足元に縋り付いた。
「なんで? なんでだめなの? マスター」
オビワンがアナキンの足を抱き、空気に晒された肌に頬を擦り付けた。下がったままのズボンから見えているアナキンのペニスを含もうと、もう一度口を開ける。
アナキンは、オビワンの髪をきつく掴んだ。
しかし、大人の力に適わなかった。
オビワンが、アナキンのペニスをしゃぶる。
そんなところを舐められるということは、アナキンにとってはじめてのことであり、アナキンは恐怖に取り付かれた。
アナキンは、オビワンの背中を叩く。
「やめて! やめてよ! マスター!!」
オビワンも泣きそうな顔で、アナキンのペニスを舐めていた。
「どうして、嫌なんですか、マスター? 俺、マスターに嫌われたんですか?」
オビワンの舌は巧みだった。幼いアナキンのペニスなど、抵抗することもできなかった。濡れた舌に包まれ、吸い上げられ、アナキンのペニスは勃起する。
アナキンのペニスが勃ち上がると、オビワンはほっとしたように、頬を緩めた。
技巧を凝らしていたやり方を止め、オビワンは嬉しそうな顔でアナキンのペニスをしゃぶる。
「やだっ! マスター!」
アナキンは、初めての快感に、しゃがみ込みそうになっていた。今、自分の身に起こっていることがどういうことなのかわからず、アナキンの目には涙が盛り上がっていた。
熱く濡れたオビワンの口内にペニスを含まれることは、少年にとって知らない快感だった。腰が熱く、とろけそうだ。
だが、怖い。アナキンは、オビワンにペニスをしゃぶられ、勃たせながらも、震えている。
アナキンが必死になって掴んでいるオビワンの肩も、震えているようだった。
開いた口に、弟子の未熟なペニスを咥え、オビワンは、許しを請うていた。
「なんで嫌がるんですか?マスター。……お願いです。マスター。……許してください。お願い、……俺を無視しないで。俺を抱いて。お願い。……お願い」
オビワンは、アナキンをクワイガンに見立て、縋りついている。
表面上はクワイガンの死を冷静に受け入れたような顔をしていたオビワンだったが、実はそのストレスが受け入れられず、眠りの中でじわじわと病を進行させていた。極端に負荷のかかった師の逝去を夢遊病という病の中でなかったことにバランスを取っているオビワンは、現在アナキンの部屋となっている場所に、師が自分を呼ばなくなった理由を、クワイガンが死んだからではなく、何か自分が師匠の気に障ることをしたせいだ。と、いうことで整理をつけていた。
眠るオビワンにとって、クワイガンは死んでいない。
あの部屋の中に変わらずクワイガンがいた。
しかし、そのクワイガンは、パダワンに対し、どうやら気分を損ね、入室を拒んでいる。
だが、そこに部屋の持ち主(アナキン)が、あの部屋への入室の許可をした。やっと、部屋の持ち主に入室を許されたオビワンは、なんとしても部屋の持ち主(クワイガン)にもう一度受け入れて貰おうとしていた。もう、ずいぶんと長い間、オビワンはクワイガンの腕で眠ることもなしに過ごさなければならず、辛かった。自分の態度を師が許すかどうか自信がなかったが、オビワンはなし崩しにでも、師の体を手に入れ、そこから元のポジションを得るつもりだった。
オビワンは、目に映るアナキンを見ず、そこにクワイガンを見ている。
「マスター、お願い。俺を許して。……俺の名前を呼んで」
切羽詰まった顔のオビワンは、アナキンのペニスがしっかりと硬くなると、弟子をベッドへと押し倒した。
毟るようにして、自分の夜着を脱ぎ捨て、アナキンの上にのしかかる。
幼く勃起した少年のモノを跨ぎ、それに自分のペニスを押し付け、一緒に扱く。
アナキンは、ぬるりと濡れたオビワンのペニスと一緒にペニスを扱かれ、喉からあえぎ声を漏らしていた。
自分のペニスがオビワンに負けないほどべとりと濡れている。
ペニスを握るオビワンのもう一方の手が、時折、アナキンの太ももを掠めていた。
激しく胸をあえがせる少年は、オビワンが何をしているのか知りたくて、浮かしたオビワンの腰の辺りを伺い見た。
オビワンの指は、尻の間の暗がりで動いていた。
そこで何かをしているらしく、動かすたびに、アナキンの太ももにも手の甲が当る。
オビワンは、眉を顰めている。
苦しそうにしているのに、師は決してやめようとしない。
オビワンがアナキンのペニスと自分のものを一緒に扱きながら、アナキンを見下ろした。
開いた口から漏れ出、アナキンへと振ってくる師の息は熱く湿っていた。
「……マスター」
自分の名ではないけれど、尻を弄っているらしい濡れた瞳に熱っぽく呼びかけられ、アナキンは、ぞくりと感じた。
ぎゅっと、下腹が痛くなったような気がして、アナキンは大きく顔を顰めた。
痛むアナキンの腹にオビワンは、しきりに腰を擦り付ける。間に挟まれたペニスが擦れ合う。
「ねっ、マスター。下さい。……俺に、入れて下さい」
オビワンが求める。
だが、アナキンにはオビワンが何をくれ。と、言っているのか、全くわからなかった。ただ、よくわからないままにもアナキンは、焦りを感じていた。オビワンの瞳に、アナキンは腹が更に痛くなったようだ。
「……入れて。ねぇ、マスター……入れて」
オビワンは切ないほど何か求めていた。それを叶えてやらなければやらないことは、男の矜持に関わることだと、その時少年は思った。
だが、アナキンにはその方法がわからない。
アナキンは、とにかく自分に焦りを募らせるオビワンの動きを止めたくて、師の太ももへと爪を立てた。
「あっ……ん」
オビワンが、甘い声をあげ、身もだえした。
「あっ、……やっ、マスター」
オビワンはしばらく甘えた声をだし、身動きの取れなくなった尻をアナキンの腰へと擦り付けていた。だが、どれだけ待っても自分の望みが叶えられないとわかると、ぐしゃりと顔をゆがめ、泣き出した。
「意地悪……。マスターの意地悪」
アナキンは、驚いた。
泣くオビワンは、アナキンの手の甲に爪を立てると、自分から尻をアナキンのペニスへと押し付け始めた。
「……こんなのは、恥ずかしいから嫌だって、……何回も言ったのに」
頬を赤く染めてぐすりとすすり上げるオビワンは、アナキンのペニスに手を添えると、自分で尻の穴を開き、ずぶずぶと飲み込んでいく。
「んんっ!」
「あっ、あっ……ん。……マスター」
アナキンは、人の肉でペニスを包まれる熱さと、キツさを知った。それは、目が眩むような快感だった。
「んっ、マスター……ん」
目を瞑ったまま、体内のペニスを味わうように、オビワンが腰を揺する。
気持ちよく濡れた感触をして、締め付ける淫肉の動きに、アナキンは、もうこれ以上耐えられなかった。
「あっ!……あっ!あっ!」
大きくのけぞったアナキンは、自分の倍の体重があるかもしれないオビワンを腰の上に乗せたまま、大きく反り返って射精した。
「んっ! マスター!」
オビワンは、思いもかけぬ、アナキンからの突き上げに、喉をそらしてのけぞった。
そして、自分の中を濡らす精液の感触に、驚いたようにアナキンを見下ろした。
「えっ?」
胸をあえがせるアナキンは、オビワンの驚いた顔に酷く傷ついた。
「……だって、マスターが、……そんな、わかんない。……」
オビワンは、何かが足らないという顔をしていた。多分、アナキンは、オビワンの望みを叶えることに失敗したのだ。
アナキンは泣きたくなった。
しかし、オビワンは、アナキンの顔を見ながら、嬉しそうに笑った。
「そんなに良かったですか? ねぇ、……そろそろ、俺のこと許してください。……。もっと。って言っても……」
アナキンのペニスを尻に咥えたまま、オビワンが腰を上下させる。
セックスで初めての射精を迎えたアナキンのペニスはすぐに回復する。
まだ、オビワンの行為に恐怖があるというのに、少年の体は正直に快感を求める。
体内で大きくなり始めたアナキンのペニスに、オビワンがぶるりと腰を震わせた。
「マスター」
オビワンは、嬉しそうに、自分が逆レイプしている少年のことをそう呼んで微笑む。
「今、ですか?」
アナキンは、長い付き合いになっているオビワンの主治医と話をしていた。
「ええ、まぁ、今は、ごくたまにです。酷く責任の重い任務を果たさなければならない時や、どちらかが、長く家を空けた後になんか、たまに、ふらふらしながら俺の部屋のドアにすがり付いて泣いてることなんかもありますけど、もう、そんなことも殆どありません」
口元に穏やかな笑いを浮かべているアナキンは、たくましい青年へと成長していた。
ジェダイナイトは顔の片方に傷を負っているが、それは、冷たく整った青年の美貌を損ねはしなかった。
それどころか、傷は、美貌にすごみを与えている。
あの後、アナキンは、自分に抱かれに来る夜の師との肉体関係を続けながらも、昼間の師に愛情深いアプローチをし続けた。アナキンは、オビワンの口に自分の名を呼ばせたかった。我の強い少年はクワイガンの代わりになど甘んじるつもりはなかった。
「まだ、催眠治療を続けますか? もう、あなたの年齢も彼を脅かすほど幼くはないですし、真実を打ち明け、患者に自覚が出来ることによって、症状が完治する。と、いうこともありますが」
医者は、カルテデーターを昔へとさかのぼった。
オビワンのデーターは十年以上前から記録されている。
つまりそれだけ、アナキンも年を重ねた。
「いいえ、いいです。ドクター。俺、無駄にマスターのこと、傷付つけたくありませんし、今まで通り、ただのリラクゼーションだと、オビワンには、それで通してください。それにね、ドクター、一年に、一度や、二度の名前の間違いは、ちょっとした刺激という程度ですよ。そのたびに、俺が、オビワンのことを強く独占したいと思って、翌朝のオビワンがいつもより少し余分に疲れるだけ。しょうがないですよね。俺をクワイガンと間違えている時のオビワンは、とてもかわいらしいんです。びっくりするほど、初心な顔をして、甘えてくるんですから」
カルテデーターから目を上げた主治医は、アナキンの言葉に苦笑した。
医者は最新のデーターにもう一度目を通す。
「症状は、落ち着きつつあるようですから、あなたがそれでいい、というのなら、構いませんが」
医者への用事などない、と、不思議そうな顔をした若者の手を引いて現れた少年は、真剣な顔で、医者に願いを口にした。
「あの人が泣かない方法で、治して欲しいんです」
医者にこっそりと師の病気を打ち明けた子供は強情だった。
「時間はどれだけかかってもいいから」
その言葉通り、それから、もう長く医者は、アナキンと付き合っている。
医者は、この青年が嫌いではなかった。
「相変わらず忍耐強いですね」
「ええ、大事な恋人のことですから」
青年は、いつもてらいなくこう答えるのだ。
待合室で待たされているオビワンが、ドアをノックした。
「すみません。ドクター。この後、ちょっと約束の時間があって……」
アナキンは、席を立った。
開かれたドアの隙間からすっかり似合うようになった髭を蓄えたジェダイの顔が見える。
その顔はアナキンに向かって笑いかけていた。
顔に浮かぶのは、このメディカルセンターを訪れた最初のときの表面的な笑顔ではなく、深く、穏やかなものだった。
「ずいぶん時間がかかったな。アナキン」
弟子からのしつこいアプローチに絆された形で恋人関係に至ったオビワンは、もういつだって、アナキンの名を呼んだ。
END