心に飼う天使 9

 

アナキンは、自分のことを嫉妬深いとは、定義していなかった。しいて言うのならば、自分は、自分に与えられたものを大事にするタイプなのだと、思っていた。だがその意見は、あまり他人から肯定されない。特に、アナキンの師匠は、アナキンのことを、強欲である。と言葉にしたこともある。

 

オーダーをこなす振りで、資料を検索中のアナキンの耳には、小さな受信機が嵌められていた。

「ああ、それはいいな。時間があるのか? 本当に?」

受信機は、オビ=ワンの声を拾っている。

「おいおい、時間がないと、断るのはいつもそっちじゃないか。ほんのちょっと、顔を見るだけでもいいから、時間を空けろ。と、言ったところで、いつも忙しい、と」

相手の男の声を、アナキンは知っている。

「そんなことはないぞ。お前が指定してくる時間が悪いだけだ。私は、いつだって、上手い酒が飲めるのを楽しみにしているし、お前の顔が見たいと思っている」

「それこそ、本当に?と、聞き返したくなるようなことを言うな。オビ=ワン。私の顔が見たいだって? これは何をサービスして差し上げればいいのか、悩むな、ジェネラル。田舎者の議員ごときが、オビ=ワン・ケノービを満足させられるか、不安だよ」

穏やかで快活な声は、とても親しみ深くオビ=ワンに話しかけていた。受け取るオビ=ワンも楽しげだ。息が少し弾んでいる。

アナキンの師匠は、テンプルの通信機に映った映像に笑いかけていた。オビ=ワンの周りは、オーダーをこなすために、通信機器を使うジェダイたちが、ひしめいている。それぞれ、忙しげに連絡をつけ、席を立ち、また、戻る。その中で、オビ=ワンだけが、とてもリラックスした顔で、楽しげに笑っている。

 

「ベイル、こっちに着くのは何時だ?」

「オビ=ワン。何時ではなく、何日だ?と、聞いてくれ。こっちは、銀河の遥か彼方から出かけるんだぞ」

「早く会いたいという気持ちの現われじゃないか」

「会いたい? 一体私の何を期待してるんだ。オビ=ワン」

言葉を弄することになれた大人同士は、意味深な笑いを上手く通話に乗せていた。下品に成りすぎず、だからと言って、相手に恥をかかすような真似もせず。

オビ=ワンが楽しげに笑った。

「ほう。……それは、期待しても良いってことなんだな。ベイル」

ジェダイが念押ししてきた裏の意味を知りながら議員も平気で言葉を返した。

「好きなだけ期待しておいてくれ。……ケノービ将軍。相変わらずだな。お前は」

「お前こそな」

誰にも聞かれることのない星間通話だと思い、オビ=ワンの態度は普段の礼節を忘れていた。それは、ジェダイと、議員、ではなく昔なじみの態度だ。それも、ごく親しかった一時期を過ごしたことのあるもの同士の遠慮のなさが二人の間にはある。

自分のオーダーに関する調査をする振りを続けながら、無断で二人の会話を傍受しているアナキンは、苦いカーブを描いてしまいそうな自分の唇に指を当てた。

「なぁ、オビ=ワン。今は、その……お前を誘っても平気なのか?」

「ん? どうだと思う、ベイル? 心配か?」

翻弄するようにジェダイは笑っている。

そう。オビ=ワンがこんな態度を取る相手は、一人ではない。

 

 

性モラルの低いオビ=ワンの態度は、ジェダイとして、正しいとは言い切れなかった。だが、間違っているというわけでもなかった。オビ=ワンは、誰とでも親しい。しかし、執着を禁ずるジェダイコードどおり、誰にも深く立ち入らない。気軽に誰でも受け入れるくせに、そう、体の関係でさえ、とても気軽に受け入れるくせに、誰にも気持ちを残さない。

 

「心配だとも、オビ=ワン。お前は、気が多いからな」

「気は多くないさ。ただ、誰とも長く続かないだけなんだ」

オビ=ワンは、ごく気軽だ。

「それが気が多い。というんだ」

「じゃぁ、そうなんだろう。でも、悪くはないだろう? ん? ベイル」

 

アナキンは、こういうオビ=ワンの態度が理解できなかった。ジェダイは愛を尊ぶ。しかし、アナキンはオビ=ワンと一緒に暮らし、学んでいた。

ちがうのだ。ジェダイは愛を尊ばない。ジェダイは誰も愛さない。誰をも愛するということは、誰も愛さないということと同じなのだ。

 

しかし、アナキンが心に持って生まれた愛は、オビ=ワンのものとはカタチが違った。アナキンは、愛する人を守りたい。どんな傷もつけたくない。大事にしたい。

ジェダイがオビ=ワンをマスターと認めるのであれば、きっとアナキンは、ジェダイとしてふさわしくないのだ。

たぶん、そういうことなのだ。

アナキンはため息をつき、オビ=ワンの背中から目を伏せた。

 

受信機から聞こえる声では、オビ=ワンは、本来の用件に戻って、護衛が必要な他の議員たちのスケジュールを議会から信頼厚い議員であるベイルと打ち合わせしていた。

しかし、通話を続けながら、オビ=ワンが振り返る。

アナキンがこの部屋で仕事をしていることは、オビ=ワンも承知だ。

体を動かしたことによって、吐き出された息の音を聞き、いかにも偶然だという態度でアナキンは、目を上げた。

オビ=ワンは、勘のいい弟子の態度に満足そうなにやりという笑いを浮かべた。

アナキンの師は、ベイルと楽しげに情報交換をしながら、弟子に見えるよう手を額へと当てた。そして、その手を今度は、左の頬へと動かす。

『後で合流』

アナキンは苦く曲がりそうになっている唇に隠していた手を離し、目の端に触れた。

『了解』

二人の間には、言葉にしなくとも通じる言語がある。

オビ=ワンは満足し、アナキンに背中を向けると、また通話に戻った。

しかし、オビ=ワンが思っている以上に、アナキンは、そこから正確な意味を読み取る。

 

この合流は、帰宅の命令だった。

テンプルに居残ることになるかもしれない。と、言っていた弟子に師は、帰宅を命じていた。

師は、昔の男と逢瀬の約束をし、疼きを感じた体を、弟子にどうにかさせる気なのだ。

 

アナキンは、オビ=ワンのその態度が悔しい。

許せないと思う。

自分という存在をぞんざいに扱う師を、一度くらい、殺してやりたい。と、すら思う。

 

「そうか、あいかわらず、ファング・ザーは、気難しいな」

「あれほど気に入られておきながらよく言う」

 

アナキンは、耳の奥に仕込んでいた受信機をはずした。

強欲だと、いうのなら、言えばいい。ジェダイは愛を尊ぶのだ。……愛するのだ。愛しているのだからこそ、命がけで事をなすのだ。

 

 

「あっ!…ぅ……ん。んっ、あっ!」

遅くに帰宅した弟子を、口元には笑いを浮かべ、そして、目だけは睨むようにして待ち受けていた師は、するりとアナキンの肩を抱いた。

ためらいもなく寄せられた唇に唇を合わせ、アナキンは、オビ=ワンを寝室まで誘導した。

師の手が、シーツをきつく握り締めている。

アナキンは、滑らかな波を作りながら動くオビ=ワンの背中を見つめている。

背中は汗で光っている。

丸みのある滑らかな尻に弟子のペニスを一杯に頬張り、オビ=ワン・ケノービは、声を上げる。

「んんっ!……いいっ!いいっ!んっあっああ!」

アナキンは、オビ=ワンを背中から抱きしめ、いくつものキスをうなじに落とす。

師の首が振られた。いやいやと、何度も首を振り、自分を抱きしめキスを繰り返すアナキンが突き上げをやめたことに抗議をした。

「マスター……」

「んっ、アナキン……アナキン、もっと」

「何をもっと? マスター」

アナキンは、焦らすようにわずかな動きだけで、オビ=ワンの奥を穿つ。師は、アナキンの動きに思わず尻を振った。だが、機嫌を損ね、額に皺を寄せた顔をした。

「……つまらんよ。アナキン。そんな……のはっ」

オビ=ワンは、アナキンの愛撫に胸をあえがせている。大きく何度も膨れる胸では、アナキンに弄られた乳首が赤くなっている。

それでも、オビ=ワン・ケノービは、アナキンのやり方にけちをつける。

アナキンは、大きくオビ=ワンを揺すり上げた。

肌をぴったりと重ね、抱きしめていた背中に一つ跡の残るキスをし、オビ=ワンの腰骨を掴んだ。

力を込めて、引き寄せ、突き放す。アナキンのペニスにみっちり絡み付いている肉を押し分け、ずんっと、腰を突き入れる。

尻と腹が当り、大きな音を立てた。

「っぉおぅ……あっ!っん!」

アナキンのつけた跡の残る背中がのけぞった。アナキンはそのまま、何度も突き上げた。

オビ=ワンが肛口を絞りあげるようにしてアナキンのペニスを締め付けた。それは、動きが取りづらいほどだ。

しかし、アナキンは、濡れた粘膜からずるりペニスを引き抜いた。

充血し、真っ赤に染まっている肛口が口をあけた。

「ひっ……んんっ!ああっ! あっ!」

尻の淫肉をアナキンのペニスが擦り上げる。

激しく揺すられるオビ=ワンのペニスは、自分の腹を打っていた。

あふれ出している液体が、シーツを濡らしている。

「気持ちがいい? マスター。ねぇ、教えてください。俺にされるの気持ちいいですか? マスター」

「んんっ……アナキン……黙ってろ……いいん……だ。お前は……んんっ、……うるさいっ」

アナキンは、ただ、オビ=ワンに求められているのだと確かめたかっただけだ。オビ=ワンがしてきた数々のセックスと、アナキンがしようとしている行為は違う。

これは、遊びではない。

オビ=ワンが、首を捩ってキスを求めた。

アナキンは、それに応えるために、オビ=ワンへ圧し掛かった。

オビ=ワンの手首を押さえつけ、そこだけ高く上がった尻の最奥にまでペニスをねじりこませると、アナキンは、オビ=ワンの唇をふさいだ。

口の中には、絶頂を訴える師の声が溢れる。

 

 

疲れきった体を投げ出し、オビ=ワンは、ふわぁと、ひとつあくびをした。

アナキンの影がオビ=ワンの上に落ちていた。

アナキンは、師を汗に濡れた金の髪を優しく指で梳いている。

オビ=ワンは、満足で怠惰になった腕を上げ、若い弟子の胸を叩いた。

「アナキン。私は、今更恥ずかしいことを言わされたところで気分が盛り上がるほど初心じゃないぞ」

場に沿う技巧を選ぶことのできない若者を許すかのようにオビ=ワンは笑った。

オビ=ワンは、アナキンを受け入れている。ほかの誰とも同じように。

「……そうですね。すみません」

強欲だと切り捨てられるアナキンは、髪を撫でる手を止めることもせず、穏やかに師に笑いかけた。

 

アナキンは、オビ=ワンを愛している。彼を傷つけたくない。大事にしたい。誰にも渡したくない。

 

そして一度殺してやりたい。

 

 

END