心に飼う天使 6

 

少し朝浴びるシャワーが寒くなってきたこの季節、しかし、まだ、オビワンは無精をして朝にシャワーを回していた。

髪を洗うため、シャワーの中に頭を突っ込んでいると、ふわりと冷たい風が背中を撫でていく。

「おいっ!」

師匠は、シャワーの湯に頭を突っ込んだまま弟子を叱った。

「俺も、出かけるんです。ちょっとだけ。いいでしょう? マスター」

もやは服を脱いでしまって浴室に入り込んだ弟子は、叱る師を軽く流すと、壁に掛けてあったシャワーヘッドを取り、手早く師匠の頭を濡らしていった。

弟子は、シャンプーを取り、師の頭にべっとりとかける。

そうして、弟子は、オビワンから温かなシャワーの湯を取り上げた。

「すみません。すこし借りますよ」

シャボンで髪を洗っている今、確かに、師匠にシャワーの湯はいらない。

オビワンは、顔を顰めたままながら、大人しく髪を泡立てた。

弟子は、忙しく身体を洗っている。

「なぁ」

オビワンは、弟子のために少し移動し場所をわけてやりながら、声を掛けた。

弟子が、師の顔を見る。

そして、師の視線の行く先を知る。

「ああ、いいですね。ちょうど俺もしたかったんです。じゃぁ、今晩」

明確な言葉はないが、アナキンは、的確にオビワンの意図を掴み返事を返した。

弟子の返事は、言葉だけではなかった。

オビワンの視線の先で、アナキンのペニスが、ぴくりと持ち上がる。

オビワンの眉が、顰められた。

「今は、嫌だぞ」

「わかってます。しょうがないでしょ。マスターが素敵なお誘いを下さるから、つい張り切るんです」

アナキンは、平然と言って、そのペニスをシャボンまみれにした。

オビワンにむかって猛々しい様子をみせていたペニスが白い泡にまみれる。

「綺麗にしときますね」

笑うアナキンに、オビワンは、もっと眉を寄せた。

「アニー……」

「いいじゃないですか。まるでやる気をみせないより、この方がいいでしょ」

アナキンは、金色の毛のなかで眠ったままのオビワンのペニスを当てこするようにちろりと視線を流した。

オビワンは、怒って身をよじった。

「私のことは放っておいて貰おう」

「ええ、今は」

弟子は、にやりと笑う。

「今は、あいにくと時間もありませんし、なんのお構いもできませんから。でも、今晩ゆっくりと楽しみましょうね」

慌ただしく弟子はシャワーの湯を被り、出ていくかと思ったら、しかし、弟子は、師の泡まみれの頭を流し始めた。

本当に急いでいるらしく、手早くというよりも、随分乱暴だ。

「おいっ」

「目を瞑っていてくださいよ」

下を向く格好になったオビワンの目が、吸い寄せられるように弟子のペニスを見ていたのに気付いていたのか、いないのか、弟子は、その行動を規制するようなことを口にした。

オビワンは、意地になって目を開け続けた。

師は、欲望をみせて、柔らかく立ち上がっている弟子のペニスに気を惹かれている。

若く張りつめた硬い弟子の足も好きだ。

特に、今日は、その身体を欲しいと思いつつ眺めているせいで、余計にその若さが目に飛び込んでくるような気がした。

さっきは、嫌だと言ったが、いっそ、ここで跪いてしまいたいほど、師は、弟子の身体に誘惑されている。

オビワンは、自分に許された残り時間を思案した。

「なぁ……」

オビワンの顔を伝うシャワーの湯は、もう泡を含んではいなかった。

弟子が、湯を遠ざける。

「おしまい。マスターは、まだ、身体を洗いますか?」

水に濡れた髪をかき上げ、顔を上げたオビワンを弟子はにこりと笑って見下ろしていた。

「……いや……」

「すみません。じゃぁ、ちょっと代わってください」

弟子は、師に背中を向ける。

まるで犬のように頭から水を被って頭を振ったアナキンは、そのままでオビワンを振り返った。

「泡が飛びますから、先に出た方がいいですよ?」

そして、弟子は、オビワンを見て、口元に甘い笑いを浮かべた。

「夜、楽しみにしてます。マスター。そのまま維持してて下さると、とても嬉しいんですけど」

ちゅっと、音だけで弟子は師にキスを送る。

本当に慌てているらしい弟子の手がシャンプーを取った。

泡が掛かると牽制されている以上、オビワンは出て行かざるを得ない。

「……ああ、夜な」

まるで、自分ばかりがお預けを食らったような気分になり、釈然としないながらもオビワンは、髪をぬぐいながらリビングを歩いた。

オビワンが、まだ、タオル一枚のままだというのに、もう服を着込んだ弟子がその横をすり抜けていく。

通り抜けるその一瞬、弟子の手が、オビワンの尻を掴んだ。

「ぎゃっ!」

「なんで? 触って欲しがってるのかと思って、この忙しい中、サービスしたのに……」

アナキンが、眉を寄せて、オビワンを覗き込んだ。

「行ってきます」

眉間に皺の寄ったオビワンの唇にちょこんと弟子がキスをする。

そして、アナキンは、もう一度、先ほどよりもう少し深いキスをした。

「マスターも、行ってらっしゃい」

髪が濡れたままだというのに、アナキンは飛び出す。

オビワンは、見送りの言葉も間に合わなかった。

 

 

End