心に飼う天使 5

 

目が覚めたオビ=ワン・ケノービは、まず最初に時計を見た。

オビ=ワンの予定より太陽の位置が高すぎた。

師匠は、今日、午前中にテンプルに立ち寄らなければならない用事があったのだ。

「おいっ! なんで起きないんだ!!」

起きなかったのは、自分も同じはずなのに、オビ=ワンは、いまだ惰眠をむさぼる弟子を怒鳴りつける。

自分の失態に動転しているオビ=ワンは、遠慮無しに弟子の背中を叩いた。

アナキンが目を瞑ったまま顔を顰める。

若い弟子は、昨夜のお務めが過ぎて、なかなか目が開けられない。

寝ぼけている弟子の腕は、オビ=ワンの腰を抱き、唇は師匠の肌を求めてキスの形になった。

「ふざけるな! アナキンっ! さっさと起きろ。こらっ!」

オビ=ワンは、弟子を突き飛ばし、裸のままでベッドから降りたつと、脱ぎ散らかされた自分の衣装をかき集めた。

オビ=ワンの胸には、いくつもの赤い跡が残っている。

それを朝日というには遅すぎる太陽の光に晒しながら、師は、慌てふためいている。

アナキンはあくびをした。

髪をかき上げながら目を開くと、アナキンに尻を見せたまま、オビ=ワンが床に落ちている自分の下着を拾っている。

「ベストショット」

それは、まさしく悩殺ベストショットで、アナキンは、夢の続きかと思ったほどだ。

しかし、振り返った師の目は、つり上がっており、その無駄に色っぽい格好とはまるで無縁だった。

「この色ボケがっ!」

遠慮なしにアナキンを睨み付けた師匠は、前だけを手に持った服で隠したごく実用的な姿で、弟子の頭を叩いた。

「いつまで寝ぼけてる気だ。アナキンっ!」

「えっ? 俺、今日は、午後から……」

「お前は、午後でも、私は、午前中から仕事がある!」

師が隠しているのは前だけだから、駆け出した背中は、全くのヌードだった。

オビ=ワンは、その姿で走っていく。

「アナキンっ! 今すぐベッドから出ろ! 周りをかたづけて、スピーダーがすぐに発進できるよう用意しておくんだ。わかったな! アナキンっ!」

アナキンは、あまりにも慌てているオビ=ワンにスピーダーでの行く先を聞いた。

「どこ行くんですか? マスター?」

弟子の声はのんびりしている。

意味を取り違えたオビ=ワンは、大きな声で怒鳴り返した。

「シャワーだっ! 昨日お前が出した精液がぱりぱりに乾いて最悪なんだ!!」

昨夜、オビ=ワンの腹に出した精液は、きちんとぬぐっておいたつもりだったが、どうやら師の多すぎる体毛にでも付着していたようだ。

時間がないというのに、かゆくてオビ=ワンは我慢ができないのだろう。

寝坊だけでも腹立たしいというのに、濃厚だった昨夜の名残りのせいで、師の不機嫌は絶好調だと分かり、アナキンは、思わず笑ってしまった。

師の不機嫌には慣れっこのアナキンは、服に袖を通しながら浴室に向かって大きな声を上げる。

「マスター、朝飯は?」

「いらんっ! 全くそんな時間はない!! くそっ、全部お前のせいだ。アナキンっ!」

昨夜、アナキンを誘ったのは、オビ=ワンだった。

だが、師は、まるで全てがアナキンのせいだと言わんばかりに八つ当たりしっぱなしだ。

アナキンは、それほど、時間がないのなら、精液付きの身体のままでのお出かけはどうですか?などと、一人腹の中でつぶやいて、スピーダーのキィを手に取った。

言いつけられた部屋の片付けはしていない。

オビ=ワンのベッドの上には、体液をぬぐったティッシュがいくつも転がったままだ。

最初に使ったゴムだけは、かろうじて、ゴミ箱に捨ててある。

 

「マスター……」

スピーダーに乗り込んできた氏の髪からぽたぽたと水滴を垂らしたままで、アナキンはオビ=ワンに注意を促そうとした。

オビ=ワンはむっつりと口をつぐんでいる。

「マスター、ちょっと待って……」

師に気を遣い、タオルを取りに部屋へと引き返そうとしたアナキンの袖をオビ=ワンが掴んだ。

「時間がない。このままでいい」

オビ=ワンは、顰め面で、髭すらまだ濡れている。

オビ=ワンの中では、シャワーを浴びている間に、ますますアナキンは悪者になったらしかった。
 むすっとした口は引き結ばれたまなまだ。
「でも、マスター……」

「飛んでるうちに乾くからいい」

髪から滴り落ちる水滴で襟も肩も濡らしているというのにオビ=ワンは、頑なだった。
 早く辿りつくために、安全速度はまるで無視の弟子のスピーダーで行かなければならないことも、師には業腹なのだろう。

「本当にいいんですか?……」

「口を利いている時間も惜しい。早く行け、アナキンっ!

「……でも……」

「うるさいっ! もう、口を開くな、アナキンっ! 今、お前に許されるのは、私を時間までにテンプルまで送ることだけだっ!」

「ラジャ。マスター。行く先は、テンプルと。どうなっても知りませんからね」

急発進のスピーダーは激しい向かい風に突っ込んでいく。

 

 

無事、命だけは失わずテンプルに滑り込んだオビ=ワンは、廊下を駆けていた。

時間は、なんとかぎりぎりだ。

しかし、今になってみると、礼も言わず飛び降りたスピーダーの中の弟子の目が何かを言いたげだったのが気になった。

「ごめんなさいくらいは、聞いてやれば良かったか?」

あくまでオビ=ワンは、自分が被害者のつもりだった。

……まぁ、だが、この場合あながち嘘ではない。

「ぷっ!」

評議会のメンバーが集まる場所では、オビ=ワン・ケノービが駆け込むと同時に笑いが起こった。

「ぷっ……おはよう……」

「おはよう。……っぷっ……マスターケノービ」

笑いを堪えながらの皆の挨拶に、オビ=ワンは自分の背後を振り返る。

オビ=ワンは、全く自分に心当たりがなかったので、何か面白いことでも後ろで起きているのかと思ったのだ。

しかし、何もない。

オビ=ワンは、自分の席へと足を進めながら、首をひねった。

「どうした? 何がそんなにおかしいんだ?」

マスターヨーダは、遠慮なく笑っている。

「そんなに楽しいことがあるのか?」

オビ=ワンは、一応笑いを堪えているメイスに声を掛けた。

メイスは、ひくひくする鼻の穴で笑いに耐えながら、少しオビ=ワンから視線を逸らし気味だ。

「いや、今日の君は、いかにもワイルドだ」

メイスに、よく磨かれたガラスを指さされ、オビ=ワンはそこに映る自分を見た。

メイスの言葉は、ソフトで、上品すぎだった。

髭が爆発している。

髪は、寝癖の方が100倍もマシな状態だ。

オビ=ワンの髭も髪も、命知らずなスピーダーの風で煽られ、すざまじい状態なのだ。

寝起きのライオンだって、もっとクールだ。

「……アナキン……」

オビ=ワンは、また、アナキンに八つ当たりした。

いや、この場合、オビ=ワンが八つ当たりできる相手と言えば、アナキンしかいなかった。

「……アナキン……」

スピーダーから降りるオビ=ワンに、アナキンが言いたげにしていたのは、このことだったのだ。

 

言え!!

言え!!

無駄口ばっかり叩いてないで、こういうことこそ、ちゃんと言え!!

 

……師は、よく命に従う弟子を恨み、ぎりぎりと歯を噛みしめた。

 

End

 

お薬のせいか、夕方にもう眠いです。昼間も眠いです。白昼夢にオビの肌色が見えます。……。