心に飼う天使 4

 

夜半過ぎ、師の部屋のドアがノックされた。

「どうぞ」

こんな時間に部屋を訪ねる相手は、一人しかおらず、オビ=ワンは、早すぎないタイミングで声を返す。

入ってきた弟子は、つかつかと、ベッドに腰掛けるオビ=ワンの側へと足を進めた。

弟子の腕が、オビ=ワンを抱き締める。

「さっきは、すみませんでした。マスター」

怒りに沸騰した頭が冷めるのに十分な時間が経ち、弟子は、オビ=ワンの行為を許す気になったようだった。

アナキンは、オビ=ワンの肩に顔を埋めたまま、師の言葉を待っている。

「アナキン……」

それはまた、オビ=ワンの目が涙のはれぼったさを隠しさるのに十分な時間でもあった。

オビ=ワンは、怪我のない腕を上げた。

「私の方が悪かったんだ。アナキン……」

師の腕が弟子の背中を抱く。

弟子の謝罪を受け入れる柔らかさで、オビ=ワンが唇に声を乗せると、弟子の腕が、オビ=ワンをきつく抱き締めた。

「マスター、マスター」

アナキンは、オビ=ワンに頬をすり寄せる。

そのまま、接触は口付けへと移行し、何度か唇をあわせた後、アナキンは、オビ=ワンの顔を両手で挟むと、青い目をじっと見つめた。

「……マスター、あなたは、俺の大事な人の価値を踏みにじろうとする。お願いだから、それはやめてください」

アナキンは、先ほどのオビ=ワンの行為をそっとなじりながら、請うような口付けをした。

オビ=ワンは、弟子のキスを受け止めながら、その唇を自分の唇で挟みながらも、弟子の願いを優しい声で拒絶した。

「アナキン……、お前が思うほど、あのジェダイには価値はない」

緩やかに首を振り、アナキンの手から逃れようとしたオビ=ワンを、弟子はキスで引き留めた。

「マスター、あなたがどう言おうが、俺にとって、彼は、世界でたった一人の人です」

オビ=ワンは、キスに応える。

いや、自分から、弟子の唇を吸いさえする。

「……それは、アナキン、お前の世界が狭いんだ」

「いいえ、違う。彼ほどすばらしい人はいない」

「そうかな? ……アナキン、お前は優しいな」

キスの合間に続けられる押し問答は、どれも確信をぼかしていて、傷つくことを拒否した言葉遊びにも似たものだった。

どちらも、あわせた唇の柔らかさばかりに夢中で、相手を納得させようという程の熱意はない。

そもそも、アナキンは、必要のない謝罪をしにこの部屋を訪れていたし、一人泣いた後のオビ=ワンは、もう、弟子に許しさえ求めなかった。

オビ=ワンは、弟子の言葉を拒絶しながら、自分を抱き締めるためにベッドの脇で身をかがめている弟子の背中を抱いている。

アナキンは、もっとするどい言葉など幾らでも用意出来るのに、弁舌ではオビ=ワンをねじ伏せようともせず、師の髪を撫で、師のキスに応え続けた。

ここにいる二人は、問題を棚上げにすることに決めていたし、なし崩しにうやむやなること希望していた。

オビ=ワンは、自分のプライドを守らなければならなかったし、アナキンは、師を守らなければならなかった。

そのためには、キスが必要だ。

もっとそれ以上のことも。

だから、二人は、キスを続ける。

優しいキスを繰り返しする。

 

オビ=ワンを横たわらせようと、唇を離したアナキンの目が、ベッドの脇に置かれた薬を見た。

アナキンは、小さく肩を竦め苦笑した。

「マスター、俺が来ると確信してましたね?」

ベッドの脇に置かれた薬は、一錠たりとも飲まれていなかった。

コップに入った水だけが用意されていたが、オビ=ワンは、怪我の快復を放棄していた。

だが、弟子が謝罪に訪れたならば、きっと師の口へ薬を運ぶことは間違いなく、この水と、薬のあり方が、オビ=ワンの傲慢さだと、弟子は思った。

しかし、アナキンは、手を伸ばし、カプセルを押し出す。

「化膿して、熱がでても知りませんよ?」

弟子は、薬を師の口に押し込む。

キスで水を飲み込ませ、そのまま舌を絡ませると、師の舌がアナキンを求めた。

アナキンは、それからするりと抜けだし、オビ=ワンの身体を、下へと伝う。

弟子は、オビ=ワンの足下に膝を着くと、師の前をくつろげた。

ずらされたズボンの中では、柔らかな金髪で覆われた下オビ=ワンのペニスが僅かに大きくなりアナキンを待っていた。

アナキンは、それを口に含む。

弟子は、傲慢な師に似合いの奉仕を、提供する。

ベッドの上に置かれていたオビ=ワンの手が、アナキンの頭を抱いた。

ペニスを弟子に強く吸い上げられ、オビ=ワンが小さな声を上げる。

「……あっ、アナキン……」

弟子は、その声に応えるように喉を大きく開いて、師のペニスを吸い上げた。

ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音が、濡れたペニスを中心に部屋へと広がっていった。

アナキンに唇を使って扱き上げられながら、下で亀頭を舐められ、オビ=ワンは、弟子の背中に覆い被さってしまう。

「……あっ、アナキンっ……あっ……」

せっぱ詰まった熱い息をアナキンのうなじへと吐きかける師の手が、弟子の夜着を握りしめる。

アナキンは、顔を上げ、口元をぬぐった。

「マスター、お尻上げてください。このままだと、汚れる」

オビ=ワンは、興奮からアナキンにペニスを押しつけようとし、そのくせ、快感に押し流されそうになってしまえば、逃げようとするから、アナキンの口から伝った唾液が、師の股間を汚していた。

それは、太腿を伝い、師の夜着を汚そうとしている。

素直に、腰を上げたオビ=ワンから夜着のズボンを脱がしてしまったアナキンは、しかし、フェラチオには戻らなかった。

アナキンは、オビ=ワンの片足を掴み、そのまま、師を後ろのベッドへと転がした。

オビ=ワンは、股間に濡れたペニスを立たせたまま、大きく股を開いてベッドに転がる。

無様な格好だ。

だが、こんな風に扱ったとしても、アナキンは、オビ=ワンを心の底から、尊敬しているのだ。

「マスター……」

アナキンは、汗に前髪を額へと張り付かせた師を見下ろした。

師は、下肢だけをむき出しにし、頬を火照らせ、アナキンを待っている。

「……アナキン」

オビ=ワンが両腕を上げて、アナキンを求めた。

足も開いたままだ。

 

この夜に、師弟の間で感情的な問題は何一つ解決されなかった。

オビ=ワンの歯形のついた腕は、やっと、朝、弟子に発見されるのだ。

 

 

END

 

風邪ひきまちた〜。