心に飼う天使 2
真夜中過ぎ、アナキンは、帰らない師のことを心配しながらも、もうベッドに入ろうとしていた。
すると、コムリンクでの呼び出し音。
なんとなく嫌な予感に囚われながらアナキンは、応対した。
アナキンの予感は、大当たりだった。
コムリンクから聞こえてくるのは、ものすごく機嫌の悪いメイスの声だ。
「アナキン、すぐにドアを開けろ」
「アナキン?! アナキン!! おおい、アナキンっ!!」
絶対に眉の間に皺を刻んでいるに違いないメイスの渋い声だった。
だが、その気分を更に、下降させたいのか、コムリンクからは、恐ろしく陽気な師匠の声がBGMに聞こえてくる。
オビ=ワンは、いい気分になっているようだった。
「アナキ〜ン、帰ったぞぉ〜〜!」
「ちっ!」
これから起こるだろうことを予想すれば、アナキンの口からは自然と舌打ちが漏れた。
せめて、アナキンは、二度、メイスに口を利かれる前に、ドアへと急いだ。
ドアを開ければ、アナキンが脳裏に描いたものと寸分違いないメイスとオビ=ワンがいた。
メイスは、これ以上眉間に皺が寄せられないというほど、酷いしかめっ面をしている。
そのメイスに肩で担がれるようにしながら、オビ=ワンは、嬉しそうに笑っていた。
師匠の足には、完全に力が入っていないようで、すっかりメイスに寄りかかっている。
その状態で、オビ=ワンは、顔をくしゃくしゃにして笑い、ひらひらとアナキンに手を振った。
「たらいま〜。アナキン。今、帰ったぞぉ。寂しかったか? もう、帰ったからな〜」
酔っぱらいは、その場の空気を読むこともせず、ただ、一人幸せそうだった。
メイスは、アナキンにぐいっと、オビ=ワンを突き出す。
「これ」
「ああ、すみません」
アナキンは、絶対に小言を言うに違いないメイスの目を見ず、オビ=ワンを受け取った。
オビ=ワンは、アナキンの腕の中に抱きかかえられ、すりすりと酔いに火照った顔を弟子の胸に擦り付けている。
背中に回った手は、ごく自然に弟子の夜着を掴んだ。
「アナキン〜。アナキン〜。オビ=ワンケノービ、無事帰還だぞ。ただいまのチュウだっ!」
酔っぱらいの戯言だと、メイスが明るく受け取ってくれればいいが、酒臭いオビ=ワンは、弟子の顔中にキスの雨を降らせた。
陽気な酒を飲むオビ=ワンを知り尽くしているアナキンは、師の行為を受け入れていたが、決してメイスの目を見なかった。
しかし、アナキンの努力にもかかわらず、やはりメイスからの指導は避けがたいことだった。
一人、幸福そうなオビ=ワンを余所に、白々とした空気で、十分にアナキンに重圧を掛けた後、メイスは口を開く。
「……アナキン、オビ=ワンに酒を勧めたのはお前か?」
「……確かに、昨日、ちょっと口にしましたが……」
「人の迷惑について考えてから、物事は口にすることを勧めるな」
「そうだっ! アニャキン、お前はなぁ!」
幸福な酔っぱらいが、その場の緊迫感など完全無視で、話題に割り込んだ。
「お前は、お前は、小さいころから、口が達者で、人の言うことを聞きもせず……」
くどくどと説教を始めたオビ=ワンに、アナキンは、やっとメイスの目を見た。
「……ずっとこの調子なんでしょうか?」
「そうだ。……どれほど迷惑だったか、わかるな。アナキン」
「……ええ……」
涙まで浮かべて、大弁舌のオビ=ワンは、ぶんぶんと腕を振り回しながら、アナキンの過去の汚点をあげつらっている。
曰く、オビ=ワンを置いて、宇宙船を発進させようとした。
曰く、家財を売っ払い、自分の工具を買い込んだ。
曰く、それを叱る、一週間も部屋から出てこなかった。
しかし、オビ=ワンは、満足げなため息をつく。
「ああ、小さかったお前は、本当に可愛かったなぁ。いや、今だって、可愛いぞ。すっかり逞しくなって、思っていたより、ずっと格好よくなった」
オビ=ワンは、ひげ面を弟子に擦りつけ、チュウの攻撃だ。
それも、酔っぱらったオビ=ワンは、恥じらいという箍が外れるのか、唇を狙ったキスが多い。
舌まで伸ばし始めたオビ=ワンに、とうとうメイスが、アナキンの肩を叩いた。
「お前ら、二人とも、床に座れ……」
ただ、酒癖の悪い師を持ったばかりに、アナキンは、道連れとなった。
メイスの小言が続く。
オビ=ワンは、ぐらぐらと揺れながら座っている。
「……マスター。飲みに行くなら、誘ってくれれば……」
小声で、囁いたアナキンに、急激に顔色の変わった師匠が、苦しげに言った。
「ア……ナキン。……吐……く……」
とっさに、弟子は、師匠の口元へと両手を寄せた。
アナキンは、オビ=ワンの急場を両手で受け止め、救う気だ。
だが、さすがに、オビ=ワンが、それを避け、床を這いずり出した。
ローブにくるまれたオビ=ワンは蓑虫のように床を移動している。
「マスター……」
後を追おうとしながら、アナキンは、一瞬だけメイスに振り向いた。
メイスが横に首を振る。
「……お前ら、二人とも、自分が相手に対し、どういう態度を取っているのか、よく考えろ!」
メイスは、不機嫌に踵を返した。
END
題名が恥ずかしいっすね(苦笑)