心に飼う天使 1

 

機械の工具が散らかる部屋にぶつぶつと文句を言いながら、オビ=ワン・ケノービは、弟子の背中にもたれ掛かるようにして座っていた。

弟子は、自分の手元に夢中だ。

「なぁ、アナキン」

「うん? マスター」

アナキンは、背中に掛かる重みに多少の動きづらさを感じながらも、師に生返事を返した。

オビ=ワンは、くっつけ合ったお互いの背中越しに、今日、テンプルで盛り上がったスイーツの話題で、店名を並べ立てていた。

半分聞き流しながらも、アナキンは、オビ=ワンが飽きる時を待ちながら作業をしている。

「聞いてるか? アナキン」

「ええ、勿論、マスター」

聞いていないくせに、アナキンは、きちんと返事を返す。

アナキンが作ろうとしているものは、まだまだ完成には遠く、つまり、師匠が望むような動き出すだとかいった劇的な瞬間は遠い先だった。

そのせいで、最初はアナキンの腹に腕を回して背中にしがみつき、のぞき込んでいた師は、すっかり飽きていた。

一つ一つネジを回していく作業は、アナキンにとっては、充実感があるのだが、オビ=ワンには地味な作業に違いない。

師は、アナキンに背中を預け、何も弟子の部屋で読む必要もない雑誌を片手に、あくびをしている。

オビ=ワンが座った分、アナキンが欲しい道具が遠くに押しやられており、アナキンは、背中でオビ=ワンを押し上げ、そっと立ちあがった。

「どうした? アナキン?」

「いえ、ちょっとこれが欲しくて……」

オビ=ワンの目には、アナキンの作業が終わるのではないかという期待感が溢れており、アナキンは苦笑した。

また、腰を下ろして作業の続きに戻った弟子に、師匠は、つまらなそうな顔をする。

オビ=ワンはとうとうアナキンの部屋で、工具を押しのけ、ごろりと横になってしまった。

すやすやと眠り出した師の穏やかな顔に、アナキンは、ローブを羽織らせる。

 

テンプルから帰ったオビ=ワン・ケノービは、手にいくつかの箱を持っていた。

「おかえりなさい。マスター。どうしたんですか? その箱」

「別に……」

しかし、オビ=ワンは、アナキンが声を掛けても、箱を隠すようにして部屋へと急ぎ入ってしまう。

だが、オビ=ワンが通り抜けた後に、ふわりと甘い香りが漂うのにアナキンの鼻は気付いた。

そそくさと部屋に逃げ込んだ師の行動の訳に、察しがついたアナキンは、お茶の用意をする。

オビ=ワンの部屋を尋ねたアナキンは、入り口にティーポットは置いたままそっと中へと入った。

弟子が部屋の中を覗けば、ドアに背中を向けて隠れるよう身体を小さくして座っている師がいる。

師は、ケーキに大きな口を開けていた。

足音を忍ばせたアナキンは、いきなりオビ=ワンを背後から抱きしめた。

「マスター、おいしいですか?」

「うわっ! アナキンっ!」

アナキンは、逃れようとするオビ=ワンを力強く背中から抱きしめ、肩へと顎を乗せた。

弟子は、オビ=ワンの足下に置かれた正確な箱の数を知り、うんざりしたため息を落とす。

「一体いくつあるんですか……」

「アナキンっ! 離せっ!」

少し膨らみ気味の腹を意地悪くくすぐられ、オビ=ワンは、ケーキを落としそうになりながら暴れている。

「アナキンっ!」

「いいでしょ? マスターがいつも俺にしてることです。別段俺は、マスターの分、取ったりしませんから、どうぞ食べて下さい」

オビ=ワンは、弟子の作った力強い輪の中に抱き込まれ、恨みがましい目つきでアナキンを見つめた。

「……食べにくい」

「じゃぁ、このお腹のためにもやめておきますか?」

アナキンは、多少のふくらみを誇示するようにオビ=ワンの腹を丸く撫でた。

オビ=ワンの目がもっと恨みがましく弟子を睨む。

「……せっかく、貰ってきたのに……」

 

背中同士をくっつけて座る師弟は、それぞれに楽しんでいた。

アナキンは、紅茶を飲んでいる。

オビ=ワンは、紅茶のカップを片手に、もう片方の手には、ケーキだ。

「ねぇ、マスター、それ、誰に貰ったんです?」

「あ〜。いろいろだ。昨日ちょっとケーキの話で盛り上がったって言ったろ? そしたら、みんながお勧めのを買ってきてくれたんだ」

「マスター、今度、酒の話で盛り上がってきてください」

全くそんな話を聞いた記憶のないアナキンだったが、オビ=ワンの指についた生クリームをぺろりと舐めた。

 

 

 

END

 

ちょい、挑戦中のことがあり、なかなか上手くいかないので、ラブいので癒されたい模様。

読んだ相棒に、まんま見抜かれているのが、悔しい……。