ちょこっとジェダイ
アナキンがナイトになる昇格の儀式が終わり、オビ=ワンは、長いテンプルの廊下を歩いていた。
「マスター!!」
嬉しそうに息を弾ませた元弟子がオビ=ワンの元へと駆け寄ってくる。
オビ=ワンは、苦笑しながら、振り返った。
ジェネラルケノービは自分より背の高いナイトを見上げる。
「アナキン。お前もナイトなんだ。もう「マスター」はやめなさい。私のことは、友として、仲間として、オビ=ワンを呼べばいい」
弟子がナイトとして認められた瞬間に立ち会ったオビ=ワンの顔は、深い満足に包まれていた。
「えっ、そんな」
アナキンが面映そうに笑う。
「でも、そんな、本当に名前で呼んでいいんですか? オビ=ワン……」
訳もなく、アナキンは、元師の名を繰り返す。
「オビ=ワン」
「ああ、なんだい?アナキン?」
あまりに嬉しそうに元弟子が名を呼ぶので、オビ=ワンも照れて笑ってしまった。
すると、アナキンが恥ずかしそうに自分の耳を弄る。耳たぶが赤い。
「俺、初めて、友だちの名前を呼びます。なんか、友だちの名前を呼ぶのって、ドキドキして、嬉しいものですね」
「はっ!?」
オビ=ワンは、一瞬自分の耳を疑った。
しかし、弟子は、本当に幸せそうにオビ=ワンを見つめているのだ。
「俺、あんまり人付き合いのいい方じゃないから、マスターがマスターじゃなくなったら、誰も知り合いがいなくなると思ってたんですけど、でも、オビ=ワン、あなたが、友だちになってくれるなんて。……えっと、オビ=ワン。友だち同士って、どうやって付き合うんですか?」
「えっ!?」
オビ=ワンは、自分の顔から血の気が引くのを感じた。
アナキンのナイトへの昇格儀式のとき、今までの年月を思い出し、じーんと胸を熱くしていたオビ=ワンだったが、よく思い出してみれば、その映像にアナキンの友だちといった人物は登場しない。
「あの、俺、実は、親友って奴にも、ずっと憧れてきたんですけど、……もしかしたら、俺と、オビ=ワンは、そういう関係にもなれたりしますか?」
いきなり突きつけられた弟子の厳しい実情に、師匠が胸を苦しいほどドキドキさせているというのに、アナキンは、初めての友だちに心底幸せそうだった。
オビ=ワンは、アナキンに関する過去データーを洗いざらいひっくり返していた。元師は重箱の隅をつつくように、本当に必死になって、アナキン纏わる全てのことを思い返した。しかし、元弟子にかかる人物といえば、自分ばかりで、あとはドロイドしかいない。
師匠は、号泣した。
「悪かった!アナキン。私が悪かった!いくらお前が、傲慢知己で、嫌な奴だったとしても、お前に一人も友だちが居ないなんて、お前を教え導く立場に居ながら、私は、なんておろかな師だったんだろう!」
「……えっ? オビ=ワン?」
「私は、自分が人と上手くやるのに困ったことがないものだから、お前の苦労が全くわからなかったんだ。すまない。嫌われやすいお前の気質に目を向けてやれなくて!」
「はっ!?」
さめざめと泣いているくせにとんでもなく失礼なことを言う元師を前にして、アナキンは、口元をぎゅっと引き締め、苦い顔で、問いただした。
「……あの……オビ=ワン。それ、元師として、仰っていらっしゃるんなら、許します。でも、それが、友だちとしての発言だったとしたら、ライトセーバー抜きますが、いいですか?」
「……やっぱり、お前は、最低だ!」
オビ=ワンは髭まで濡らして、鼻をぐすぐす言わせている。
「マスター……」
ナイトは、屈辱に震えている。
「私は、お前のお母さんに、どう謝罪したらいいんだ〜!」
真っ赤に目を腫らして泣くくオビ=ワンと、それを憮然と見つめるアナキンを見つけたジェダイたちは、微笑ましくその光景を見つめていた。
旅立ちのときを迎えたパダワンに感激するジェネラルと、素直に感謝を表すことのできない若いナイトだと思われていたのだ。
だが、実情は違う。
「マスター。俺、ナイトとして認められたその日に、マスターのこと切りつけてジェダイを追放されるわけにもいきませんから、いいです。やっぱ、俺、友だちはいらないです」
「アナキン。私をオビ=ワンと、呼べ。せめて、元師として、お前のたった一人の友だちになってやる!」
オビ=ワンが、嫌がるアナキンをぎゅっと抱きしめた。
ジェダイたちは、過保護なジェネラルに苦笑している。
アナキンの手は、セイバーに伸びかけている。
……まぁ、人生知らずにいた方が幸せなことといいうのは、いくつかある。
エンド