子羊とオオカミ
WORLD STRIKEs HONEY あおせさんから頂いたちみオビv
* 休戦協定
「ねぇ、マスター。マスターが乗っている船が難破して、絶海の孤島にたった一人で打ち上げられる孤独を味わうことになったとして、その時、もし、一冊だけ、本を持っていけることになったとしたら、マスターは、どんな本を持っていきますか?」
昼下がり、アナキンは、オビ=ワンに物憂げに聞いた。
二人は、さっき、喧嘩したばかりだった。
部屋の中には、オビ=ワンが投げたクッションや、アナキンが、怒る師匠の後ろをついて歩いたあげく踏んだ書類が散乱していた。
オビ=ワンは、弟子がどんな答えを望んでいるのか、察しがついた気がして、隙なく、堅実な答えを返した。
未だ怒っているオビ=ワンには、本などよりも、お前と行きたいなどとは、決して言ってやる気はない。
「そうだな。造船の手引き書でも持って行こうか」
「へぇ。マスター。すごいですね。船を造るための、材料は、どうするんです?」
また、喧嘩開始のゴングが鳴った。
* 意外と自信家?
オビ=ワンは、聖堂で、特別講習を受け持ち、そのレポートをパダワンたちに提出させた。
目を通していると、どこかで見た内容のものがある。
それは、アナキンの出したレポートだった。
アナキンは、昔、オビ=ワンがパダワン時代に書いたレポートをまる写ししていた。
つまり、オビ=ワンも、昔自分が受けた講義を、そのまま行ったということなのだが。
オビ=ワンは、アナキンのレポートに優を付けた。
「マスター? 昔のマスターのレポートの評価は、可でしたよ?」
叱られるとばかり思っていたアナキンは返却を受け、どこか機嫌良さそうにソファーに座る師匠に不思議そうに聞いた。
「いいんですか?」
「いいんだよ。アナキン。私は、慧眼の士が見れば、そのレポートは、優だと常々思ってたんだ。やっと積年の思いが果たせた。ありがとう。アナキン」
アナキンのマスターは、本当に満足そうだった。
* 構って欲しい。
「水泳を教えてやりたいのですが」
オビ=ワンは、クワイ=ガンに聞いた。
「一番いい方法は、どういう風でしょう?全く泳げないらしいんです」
「そうだな。まず、左の腕を腰に回し、右手で、左手をそっと掴んで、仰向けにするんだ……」
クワイ=ガンは、実際に、オビ=ワンにそうして、仰向けになった弟子にそっとキスをした。
ほら、こんな感じだよ。と、クワイ=ガンは、間近の弟子にウインクをする。
オビ=ワンは、呆れた顔で、クワイ=ガンを見上げた。
「マスター。教えるのは、アナキンになんです。あの子、砂漠育ちで泳いだことがないっていうから」
「なんだ」
クワイ=ガンは、ふいに興味をなくした顔をした。
この師匠、近頃、オビ=ワンが、小さいのばかりに構うことに拗ねているのだ。
「じゃぁ、海に放り込んでやれ。それが一番だ」
偉大なるマスター、クワイ=ガンは、面倒くさそうにソファーに座り込んだ。
* 経験済み
勇気の試される試験の最中だった。
「アナキン、君は、君に対する非難攻撃、理不尽な罵倒、容赦のない酷評など、それらのものに直面しても、しっかりと自分を律して、義務を果たすことができる自信があるかね?」
受け持ちの面接官が、試験の前に、アナキンに聞いた。
「まかせてください」
アナキンは、自信をもって言い切った。
「俺は、ずっとマスターの料理を作ってきたんです。全く、あの人の舌ときたら」
ゲテ物食いのアナキンと、超甘党のオビ=ワンのペアは、時に不幸だ。
* 愛の証
アナキンは、オビ=ワンに指輪をプレゼントした。
とある喧嘩の最中、あれほど頼んで置いたというのに、オビ=ワンの指に、その指輪がないことにアナキンは、気付いた。
「酷い! マスター!! 家でなら、してくれるって言ったのに!」
アナキンは、怒鳴った。
「……アナキン」
オビ=ワンは、低い声を出した。
「マイ・パダワン、そもそもの喧嘩の原因を思い出してみろ」
アナキンは、自分が怒っているはずなのに、その上を行くほど不機嫌になったオビ=ワンの様子に、少し恐ろしいものを感じて、小さく声を返した。
「……部屋を片づけろ?」
「そう、お前の部屋とっ散らかる工具やら、材料やら、あれは一体どうやって買ってきたんだ」
「店にツケにして……」
アナキンは、ああっと、額を抑えた。
「店から使いが来た。お前のもので、金目のものといえば、アレくらいだった」
「……しまった」
オビ=ワンは、きつく、きつく、アナキンを睨み付けた。
しかし、かりかりとしていたオビ=ワンの原因がわかって、すこしアナキンは幸せになった。