*アナキンの交渉術

 

ジェダイ師弟は、とある辺境の星にきていた。

この星の交通手段は、未だ、主に鉄道である。

目立つことを避けねばならない師弟は、列車のコバーメント押し込められていた。

しかも、二人の老婆と一緒にだ。

この老婆、二人ともくわせものだった。

一人の老婆は、室内が寒すぎると言って、決して窓を開けようとはしなかった。

だが、もう一人の老婆は、この室内は、息苦しいと窓を開けろと頑として主張を曲げなかった。

もう、二駅も、老婆は唾を飛ばしあい、おたがいにののしり合っている。

オビ=ワン・ケノービは、二人の老婆に詰め寄られ、一生懸命に間を取ろうとしていた。

師匠の顔に浮かんだ笑顔は最早こわばっている。

そこで、アナキンはこう言った。

「マスター。まず、窓を開けましょ。そうしたら、一人が凍え死んでくれます。それから、窓を締めましょう。そしたら、もう片方が窒息死です。でも、両方の言い分が通る上、我々の小さな、そう、ほんの小さな願いも叶います。ねぇ、マスター、我々も、そろそろ主張しましょうよ。静かに旅がしたいって。ねぇ、そうしましょう。三方両得。すばらしいじゃありませんか」

 

 

*アナキンの交渉術2

 

ジェダイ達は、人の悩みに乗ることがある。

その日は、たまたま、オビ=ワン・ケノービが不在だったため、相談に訪れたご婦人の前にアナキンが現れた。

アナキンは、際限なく悩みを語るご婦人の話を根気よく聞き続けた。

「で、ですね。ヒック。わたくしが思いますのはヒック……」

ご婦人は、来訪時からずっとしゃっくりをしていた。

それが気になっていたジェダイナイトは、親切心からこう言った。

「もしかして、妊娠してらっしゃいませんか?私のリビングフォースがそう告げるのですが」

ご婦人は、激しく泣きながら飛び出していった。

飛び出したご婦人に突き飛ばされたオビ=ワン・ケノービは、アナキンを怒鳴った。

「こら! 何を言ったんだ。アナキン!!」

「いえ、だって、あの方、もう二時間もしゃっくりをされてたんで、びっくりさせて差し上げようと、妊娠してらっしゃるんじゃないかと……」

「尼僧に向かって、なんてことを!!」

 

 

*嘘じゃない。

 

テンプルの通りを葬列がゆっくりと過ぎていこうとしてた。

それを見た任地帰りのジェダイが、列の最後につく、パダワンを捕まえ聞いた。

「あれは、誰の葬儀なんだ?」

泣きはらした目のパダワンは、小さく返事を返した。

「誰って、マスタークワイ=ガン・ジンです」

「ええ!? クワイ=ガンのだって?」

何も知らなかったジェダイは叫んだ。

「まさか、あの、クワイ=ガンの葬式なのか? あの男が? 信じられない。そんなこと信じられない!」

「たしかに、俺だって、信じられませんけど……」

目を伏せ、また涙をこぼしたパダワンの手をぎゅっと握る小さなパダワン見習いがいた。

「でも、おじさん。いくらクワイ=ガン・ジンでも、葬式の練習なんかしないよ。なに?おじさんは、クワイ=ガンなら、葬式の練習くらいはするって思ってるの?」

小さなパダワン見習いは、まだブレイドも落としていないジェダイマスターを守ろうと必死だった。

 

 

*言い過ぎました。ごめんなさい。

 

思春期になり、アナキンは、必要以上に師匠に対して、意識をするようになった。

幼い頃から、たった一人の師について学び、その人が世界の全てになってしまうジェダイ師弟にとって、これは、よくある事態だった。

アナキンは、テンプルから呼び出しを受けた。

「なぁ、アナキンよ。オビ=ワン・ケノービは、確かにすばらしい人物だ。だが、ジェダイは、たった一人を愛したりはしない。アナキン、そうもマスターを困らすものではない。わかるな」

マスターヨーダは、穏やかな声で若いパダワンを聡そうとした。

賢いこの子は、傷つきやすい。

だが、若く、性欲を抑えることなど難しいアナキンは言い返した。

「マスターヨーダ。あなた、ゲームに参加することも出来ないくせに、ゲームのルールをとやかく言わないで下さい!」

 

 

*勿論、正解

 

あるパーティの終わりである。

部屋の中の照明がいっせいに落とされた。

一回分のキスだけならば、どんな淑女にも許されるという紳士たちにとって至福の時が訪れた。

「アナキン! アナキン! アナキン!」

オビ=ワン・ケノービは、大声で弟子を呼んだ。

「お前、相手を間違ってる! この馬鹿が。せっかくの時間をなんてことしてるんだ!」

アナキンは、びっくりしたような顔で、師を抱きしめていた手を放した。

師の唇は、アナキンに舐められ、しっとりと濡れている。

申し訳なさそうな顔をするアナキンに、オビ=ワンは、見上げる角度の弟子の顔を撫でた。

「かわいそうだったな。アニー。こんな位置にいた私も悪かった」

違うのだ。勿論、アナキンは、オビ=ワンがここにいるのを知っていたのだ。