*マスターのお気に入り
マスターウインドゥのお気に入りがアナキンだという噂が聖堂に広まっていた。
マスターウインドゥは、よく修練中のアナキンを呼び出す。
今日も練習場に顔を出したウインドゥが、アナキンを呼ぶのに、少年は顔を顰めた。
「困ります。マスター。俺、みんなから仲間はずれにされる」
うそぶくアナキンに、マスターウインドゥは、いつもの顰めつらしい顔を崩そうとはしなかった。
「アナキン、君が弄ったという、図書館の受信機が、全く余計な電波を拾ってくると、文句がきているのだがね」
アナキンがそのメンバーに加わった今、面倒この上ないのだが、ウインドゥは、ここのパダワンたちへの管理も任されていた。
「ああ、あれ。だって、うちのマスターを見てると、不安になるんだもん。聖堂育ちって馬鹿にされないように、みんなもいろんなことを知っておいた方がいいと思って」
「有害な電波は、わざと切ってあるのだ」
「へぇ。でも、知っておいて損はないと思うんだけどな」
図書館のコンピュータに猥雑な情報を受信できるよう、システムを弄ったアナキンには、まるで反省の色はなかった。
マスターウインドゥは、アナキンの良心に訴えかけようとした。
「アナキン。君は、マスターケノービに、あれほどよくして貰っているのに、どう、その礼を返そうというのだ」
屑鉄屋の看板息子だったアナキンはサービスたっぷりに笑った。
「う〜んと。そうだな。領収書でも切ろうか? あっ、あのシステム。メンテナンスの代金は貰ってないけど、修理なら引き受けるよ」
「アナキン!!」
この繰り返しが、マスターウインドゥのお気に入りをアナキンと言わせた。
*最早、その態度がね。
長い、ジェダイコードに関する論文をしたためさせられたアナキンは、返されたレポートの評価に眉をしかめた。
そのまま哲学を受け持つマスターに詰め寄る。
「マスターヨーダ。どうして、俺のレポートの評価がDなんですか。俺、頑張って書いたのに!」
「ほう。アナキン、お前、自分のレポートは、Aの価値があると言うのかい?」
ヨーダは、アナキンの悋気を受け流し、穏やかな顔で笑っている。
アナキンは、ヨーダの前に、レポートを突きつけた。
「俺、レポートに糊付けしておいたんです! ほら、ここ!ここの糊が取れてない! マスターは、俺のレポートを読まずに、採点したんだ! それで、Dなんて、酷すぎる!!」
アナキンは、感情のままに怒鳴り立てた。
ヨーダの穏やかな顔は変わらなかった。
「アナキン。お前は、最初から、腐っていると分かっている卵を食べるのかい? やはり、若い者は、勇気があるのぉ。わしは、腹が壊れると困るから、食べないことに決めているんじゃよ」
ほくほくと笑いながら、ヨーダは歩いていった。
*安全策
ジェダイ聖堂の中を、オビワンが大きな包みを持って歩いていた。
リボンの掛かったそれに、他のマスター達は、首をひねった。
「どうされたんですか? マスターケノービ。今日は、何か特別な日で?」
オビワンは、照れくさそうに頭を掻いた。
「いえ、ちょっと転ばぬ先の杖でして」
困った顔をしたオビワンケノービというのは、つい、見ている者に手を差し出したい気持ちにさせる。
マスター達は、口々に質問した。
「一体何が?」
「いえ、今朝、うちのパダワンが、いやに機嫌良く起きて来たんで、今日は、あの子の誕生日か、それとも、何かの記念日か、きっとそういう日だと思うんです」
この時ばかりは、大勢のマスターも、アナキンに同情を覚えた。