子羊と狼
*くそぅ!汚い手を!
オビ=ワンがうきうきと楽しげにドアを潜った。
「アニー、今日、クラス中が答えられなかった質問に、お前だけが答えたって?」
部屋の隅で、機械を組み立てていたオビ=ワンのパダワンは、びくりと振り返った。
「ええ、……えっと、まぁ、そうなんですが……」
照れくさいのか、嫌に歯切れの悪い弟子の様子に、オビ=ワンは、ぴかぴかの笑顔を振りまく。
「どうしたんだ。もっと自慢していいんだぞ。アニー。わざわざ、マスター・ウィンドゥが連絡くださったんだ。是非、お前からその話を聞いてやってくれとのことだった。一体、どんな質問に答えたんだ?マイ・アプレンシャス」
おどおどとしていたはずのアナキンが、メイスの名を聞くと、俯いたまま小さな舌打ちの音をさせた。
いかにも悔しげなその態度に、オビ=ワンは、首を捻る。だが、まだ、師匠の顔は幸せ一杯だ。
「一体、どうした? さぁ、そんなに勿体ぶらずに、私の弟子がしたすばらしいことを、是非、この私に教えてくれ」
アナキンは立ち上がると、オビ=ワンをクッションへと誘導し、座らせた。今だって十分にハンサムな少年がじっと師匠の目を見つめる。弟子の手は、すがりつくように師匠の手を握っている。
「……マスター。俺のこと嫌いにならないでください。……俺にされた質問は、誰が教室の窓を割ったか。でした。確かにそれは、俺にしか答えられない質問でした。だから、俺だと、答えたんです……ごめんなさい!」
*プラチナチケット
劇場に現れた小さなアナキンに、人待ち顔で立っていたベイル・オーガナ議員は驚いた顔をした。
「おや、君、これを観に来たのかい?」
オーガナ議員は、小さなジェダイの後に続く人影がないかを確かめるように視線をめぐらせながら、話かけた。
「君の連れは……?」
「一人なんです」
礼儀正しく答えた小さなアナキンが、たった一人で観に来たのだということに議員は違和感を覚えた。議員は、てっきりアナキンがパルパティーン議長に招待されたものだとばかり思ったのだ。これは、なかなかチケットが手に入らないと、評判の演目だ。しかも、小さな少年が興味を持つような種類のチケットではない。
「へぇ。そうなのか。よくチケットが手にはいったね」
「うん」
笑ったアナキンは、席に進もうとした。
その後姿を、開幕時間までは、あとわずかになってしまった議員は、呼び止めた。
「失礼なことを聞くがアナキン。……もしかして、オビ=ワンのことを知らないかい?」
オーガナが秘密裏に待っていた相手は、オビ=ワンだったのだ。この演目であれば観たいと言ったオビ=ワンため、議員は、あらゆるツテを使い、このチケットを手に入れたのだ。
「我が家はめちゃくちゃなことになってるから、マスターなら、今、すっごく大変だと思う」
何故だか、アナキンの顔には、勝ち誇ったような笑顔が張り付いていた。
「えっ? 大丈夫なのかい?」
「うん。マスター、今、このチケット探して、家中ひっかきまわしてるの」
*空を飛んでみたい
とある星で任務中のジェダイは、日々、部屋の中に増えていくプレゼントにうんざりした思いをしていた。
最初は大きな宝石だった。次には、一体どこに着ていったらいいのか分からない豪華な毛皮のコート。絵画も、珍しい細工ものも、どれもが、この星の要人から個人的にオビ=ワンに贈られたものだ。
オビ=ワンは、同じ部屋で寝起きする自分の弟子をなだめるだけでも大変だった。
だが、お堅いジェダイを毎日必死で口説いている要人も相当焦れていた。
今日も、彼は、眺めのいい高層階にある自分のオフィスに豪華な食事を用意している。
「ジェネラルケノービ。今日こそは、私が空をも飛べるような返事を聞かせてくれてもいいと思わないか!」
オビ=ワンの隣には嫉妬で眦を吊り上げ睨みつけている弟子が立っていた。
いきり立つ彼を毎晩なだめるためオビ=ワンは、疲れ果てていた。
「……では、その窓から飛び降りられるといいかと」
*判断力
潜入調査のため、アナキンは、一兵卒としてその軍に紛れ込んでいた。
しかし、アナキンをアクシデントが襲った。暗闇の中、情報収集に駆け回っていたアナキンは、男にぶつかったのだ。
「貴様! 誰にぶつかったのか、わかっているのか!」
アナキンに突き飛ばされすっ転んだ男は、憤り怒鳴った。
その肩には、星が五つも並んでいる。
「はっ! 元帥閣下であります!」
一兵に化けているアナキンは、直立不動の体勢で、返事を返した。
「わかっているだろうな! これは、軍法会議ものだ!」
任務の関係からも目立つわけにはいかないアナキンは、狼狽して聞いた。
「失礼ですが、閣下。私が誰だが知っておられますか?」
初老の男は、憤然と叫んだ。
「何故、私が貴様ごときを知らねばならぬのだ!」
そこで、アナキンは、安心して、一目散に逃げ出した。
*命だけは!
アナキンは、オビ=ワンを付けねらう男を捕らえた。
ジェダイナイトは、オビ=ワンと、その男を前に、深いため息をつく。
「生きる価値について、悩んでいるのです。……俺のじゃありませんよ。その男のです」