子羊と狼

 

*分け前

 

ジェダイは個人所有の資産を持たない。

それは、割合よく世間に知られていることで、しかし、その星の政権復活の式典において褒章を手に取ったオビ=ワンに司祭は咎めるような視線を送った。

この星の宗教も、ジェダイと同じように禁欲的なのだ。

「ジェネラルケノービ、ジェダイは清いと聞き及んでおりました。勿論そのお金は、全て寄付をなさるので」

褒章を得るためにではないが、命を懸けて任務にあたっていたアナキンは、寄付をしろと圧力をかける司祭に、むっとした顔で話題に割り込んだ。

「この星の司祭さまは、慈善の心に溢れていらっしゃるようだ。でも、一つお尋ねしたいのですが、俺は、この式場に付くまでに、慈善バザーをしている教会の前を通りました。あそこで集められた金は、一体どのように使われるのですか?」

確かに、ジェダイは、欲を持ってはいけないとされる。しかし、食わなければ、ジェダイだとて死ぬ。それは、神への奉仕を求められる司祭とて同じことのはずで、言外にアナキンは、寄付されたものの何割かを懐に納めているはずの司祭を責めたのだ。

しかし、オビ=ワンは鷹揚に笑っただけだった。

「私達ジェダイは、思想の傾きを嫌いますので、特定の神への寄付は出来かねます。しかし、今日は、特別です。こうしましょう」

オビ=ワンは、司祭の目の前で、未練もなく貰った金塊の袋を空高く放り投げた。

オビ=ワンがにこりとまた笑う。

「私は今、全て、あなた方の全能なる神に差し出しました。神がそれを必要とするのであれば、きっとお取りになるでしょう。……しかし、お取りにならなかったようだ」

金貨一枚欠けることのない皮袋をジェダイマスターは床から拾い上げた。

「残念なことです。そして、なんと情けの深い神なのでしょう。あなた方の星にフォースの至福があらんことを」

司祭たちのように何割かではなく、全額を取ることを全くの善人顔でやってのけた師匠に、アナキンは舌を巻いた。

 

 

*ドキドキ

 

「よくわからないよ。アナキン」

オビ=ワンは、熱意を持って話されたアナキンの話を聞いて答えを濁した。

二人は、一緒に食事を取り、そして、気持ちのよいソファーへ移動したのだ。

師匠はしきりに頭を振り、強い視線で見つめてくるアナキンに困惑を表現している。

「原因は、きっと酒のせいだ。……酒が、人を迷わせる」

「ええ、わかってます。マスター」

アナキンは、ほんのりと頬を赤くし、挙句に目まで潤ませているオビ=ワンの腕を掴んだ。

「では、今度相談を持ちかけるときは、酒を出さないことにします。マスター。いい加減に飲みすぎです。さぁ、グラスを離してください」

 

 

*原因

 

その晩のオビ=ワンは、妙に眠りが浅かった。

何度も物音が耳に付き、目が覚めるたびに、隣に眠るアナキンを揺すったのだ。

5度目ともなると、さすがのアナキンも迷惑顔であくびをした。

「ねぇ、マスター。清貧なこのジェダイの家にたとえ泥棒が入ったとしても、何も盗んでいくものはありませんし、……ね、マスター。たとえあなたをレイプしにくるようなとんでもない奴がいたとしても、もう、俺が入ってるんです。無理ですよ」

オビ=ワンは、侵入者を気にするよりも、まず、眠りを浅くする原因を取り除くべきだった。

 

 

*ジェダイのたしなみ

 

いよいよシスとの戦いが激化している街のダイナーに集まっていたジェダイたちは、それぞれの思いに深く沈みこんでいた。

オビ=ワンは、今晩、求めてくるに違いないアナキンをどうかわそうかと深くため息をついていた。アナキンは、やりたいくせに自分を焦らすに決まっている師匠を思うと、悔しそうなうめき声を上げた。そんな二人と一緒の任務を終えたばかりのメイスは、いかにも呆れたような絶望の目付きをしていた。

ヨーダが、3人をたしなめた。

「お前ら、ジェダイが、こんな場所で政治的態度をとるべきではない」

偉大な緑のジェダイマスターは、すっかりわかっているからこそ、全くとぼけてみせた。

 

 

*リビングフォース

 

とある星で、占い師として、潜入を始めたアナキンは、対象の家へと招かれるに至った。

尊大な軍人は、アナキンの能力を疑うように試してきた。

「なんでも私のことが分かるんだろう?」

「ええ、あなたは、二人のお子さんのお父様でいらっしゃいますね」

軍人は年若いアナキンを鼻で笑った。

「残念だったな。私の子供は三人だ。噂の占い師もたいしたことなかったな」

フォースの申し子とも呼ばれるアナキンは、残念そうに呟いた。

「あなたがそう思っているだけです……」