狼と子羊

 

*有無の存在

 

「アニー! お前がテンプルの食堂にこっそり入るのを見た人だっているんだぞ」

オビ=ワンは、自分用に取り置きしておいてもらったデザートを弟子に掻っ攫われて、ご立腹なのだ。

しかし、アナキンは、傷ついた顔をしてオビ=ワンを見上げた。

「……確かに、僕、食堂に行きました。でも、そんなことしてません。僕がマスターのデザートを盗み食いして、食堂から出てくるとこ見た人がいるんですか?」

「それは……いないが……」

悲しげな目をした弟子にじっと見上げられて、オビ=ワンの口調は、弱まった。

しかし、オビ=ワン・ケノービのデザートを盗むには弟子以上に疑わしい人物が師には思いつけない。

健気にもアナキンは、にっこりと笑ってオビ=ワンを許した。

「じゃぁ、きっと、僕は、まだ、食堂にいるんです。マスターが理由もなく僕のこと疑うはずないですもん。今頃、マスターのアイス食べてるのかな? 不思議ですね。なんで、僕、ここにいるんだろう」

「……アナキン、アイスだって、誰が言った?」

子供は、舌を出して逃げ出した。

 

 

*選手交代

 

「じゃぁ、聞くが、ジェダイは罪を犯さないのかね? 生涯のうちで、一度も罪を犯さないと言い切れるのかね?」

ずっと、わめきとおしている男が、またもやジェダイに吼えた。

男の煩さに、うんざりした顔で、犯罪者の後ろを歩いていたオビ=ワンは、告白した。

「いや、私だって、罪を犯すことはあるよ。私は、一度盗みを犯した」

名高いジェダイの告白に、男は興味を示した。

男がはじめて人の話を聞きたがる。

「ほう。それは、一体どこから?」

「教えてやっても良いが、質問に答えたら、しばらく黙っていてくれるか?」

「ああ、勿論」

「……銀行からさ」

オビ=ワンの言葉に、男は顔つきが代わった。犯罪の中にもランクがある。銀行を襲って成功したとすれば、それは、かなり上等な犯罪だ。

男は、あと一つだけだと断り、実は、どうやらかなり悪いらしいジェダイに尋ねた。

「それは、すごい。一体どこの銀行を襲ったんだ?」

「子供銀行さ。小銭が欲しかったから、弟子の貯金箱から、少々拝借したんだ」

男のあんぐりした顔に、オビ=ワンは、人の悪い笑みを口元に浮かべた。

そんなオビ=ワンの後ろから、背中をつつく者がいた。

「マスター。……俺、忘れてません。……あの時、俺が絶対におかしい。って騒いでたのに、あなたシラをきってましたよね?やっぱり、あなただったんじゃないですか!!」

前の男は、わめかなくなったが、後ろの男がわめきだした。

 

 

*大人の付き合い

 

「ねぇ、マスター、マスターって、よく相談事をされてるけどさ、あんなに延々と話を聞き続けて、嫌になったりしないわけ?」

思春期のパダワンは、自分だって、師に相談を持ち掛けたいのだが、相談どころか師に話をするということも恥ずかしかった。難しい年頃のアナキンは、師が好きなのだが、大嫌いでもあるのだ。アナキンは、オビ=ワンに、他の誰よりもたくさん、自分の心配を欲しい。だが、実際、心配されると、腹がたって口も利きたくなくなった。自分でもどうしようもないのだ。だが、どうしてもアナキンは、オビ=ワンに突っかかってしまう。

礼儀もくそもない弟子からの質問に、オビ=ワンは、にこやかに笑った。

「おや、アニー。私がいちいち人の相談を全部聞いているとでも思っていたのかい?」

オビ=ワンはするりと耳栓を取り出し嵌めると親身な表情で話を聞く体勢に入った。

「で、アニー、お前の相談ってのはなんだい?」

アナキンは、オビ=ワンの笑みが気に入った。

久々に、オビ=ワンのことが大好きだと思った。

 

 

*難しい相談

 

義手にすげ変わった弟子の腕を見つめながら、オビ=ワンが呟いた。

アナキンの手は、まだ、スプーン一本握れない。

「アニー。この手は、きっとお前を助けてくれる。こんなことくらいで、嘆く必要なんてない。フォースの導きを信じれば、お前は必ず、立派なジェダイになれる」

「マスター……」

アナキンは、真剣な面持ちで弟子を力づけようとしているオビ=ワンに照れたように笑った。

「俺、自分を信じてやりぬきます。そして、必ず立派なジェダイになってみせます」

すると、すこし、オビ=ワンが困ったような顔になった。

「……あ〜。それはどうかな……」

いきなり手のひらを返した師匠に、アナキンは吠え付いた。

「今、マスターが、お前は立派なジェダイになれるって言ったんじゃないですか!」

「いや、フォースを信じるのと、お前を信じるのとじゃ、全く話しが違うからな。お前を信じるとなったら、……どうだろうな?」

 

 

*緑の偉人伝説

 

800ウン才になる緑の小さい人が、少し体調を崩した。

気が弱くなったのか、ヨーダは、「もう長くないのかもしれん。オビ=ワン、オヌシにいろいろ話しておきたいことがある」と、オビ=ワンを呼び寄せた。

すると弟子もついてくる。

「マスター、あなただってご存知じゃないですか、その緑の妖怪は、引継ぎだって、大騒ぎした挙句、その引き継いだ相手、3人の葬式に立ち会ってるんですよ。名誉ある4人目になりたくなかったら、マスター、妖怪の言うことなんてまじめに受け止めちゃダメです」

「こらっ! アナキン!」

どなるオビ=ワンより早く、ヨーダの杖が、アナキンを殴っていた。

やっぱり、ヨーダはまだ生き続けるようだ。