子羊とオオカミ
*本人か?
とある任務がらみで、クワイ=ガンとオビ=ワンのジェダイ師弟は、葬式にでる必要があった。
「故人は、高潔で、公正、慈愛にみちたすばらしい父であり……」
クワイ=ガンは、オビ=ワンのブレイドをひょいっと引っ張った。
「なぁ、パダワン。我々は出るべき葬式を間違えているのかもしれない。ちょっと行って、死人の顔を見てきてくれ」
*お体ご自愛下さい。
オビ=ワンは風邪気味だった。
「……アナキン……」
「……アナキン……」
かすれる声のオビ=ワンは、コムリンク越しに何度も弟子を呼んだ。
オビ=ワンは、弟子にメディカルセンターに寄り、薬を貰って帰ってきて欲しかったのだ。
「……ア、……ナキン……」
「マスター、あなた、何やってるんですか。 俺、今、任務中なんですよ。そういうのは、俺が、家に帰ってから。いいですか? それ以上、一人でしちゃだめですよ」
たしなめるようなアナキンの声が応えた。
*誘ってます……ね?
「マスター、寒いですね……」
雨に濡れたからだのまま、洞窟の中でしのいでいるジェダイ師弟は、寒さに震えていた。
「もう少し側に寄ってもいいですか?」
アナキンは、遠慮がちに、唇の色をなくしているオビ=ワンに触れる距離まで近づいた。
しかし、弟子は、その場で震えるだけだ。
「……誰がそれを拒否できるんだ?」
師は、しずくを髪から落とす弟子を見上げながら、震える唇を開いた。
「私たちは、この洞窟に二人きりだ。どこにもこの寒さから、私を助けるものなどいない。救援がくるのは、標準時間の17時。たとえお前が、寒さをしのぐため、私を抱きしめようと、いや、もっと暖かさを求め、私に素肌で抱き合おうとしたとしても、私にはもうそれを拒否するだけの気力などない。あと、3時間もあるんだぞ? それまで、私が抵抗し続けられるとでもお前は思っているのか?」
*もう、結構
よく回る口で、3つの書面にサインをさせ、2つの根回しに確約の言葉を貰い、幻だと噂されることも多い、フォースの力まで相手に認めさせたオビ=ワンは、交渉のテーブルを立とうとしていた。
「ああ、しまった。この場を失礼させていただく前に、もう一つなにか申し上げることがあったと思うのに、思い出せない」
困ったようにオビ=ワンは笑った。
闊達なオビ=ワンと対照的に、ぐったりと疲れた様子の交渉相手が、口を開いた。
「きっと、それは、「さようなら」です。ジェネラル・ケノービ……」
*過分な幸福
「きっと、マスターは、ほかのジェダイマスターよりもずっと幸福だよ」
帰ってきたばかりのオビ=ワンに向かって、小さいアナキンが言った。
「だって、ほかのマスターたちは、この先もいろんな弟子を育ててみたいって思うけど、マスターは、もう、満ち足りてるでしょ?」
アナキンがしたいたずらが発覚し、今日もオビ=ワンは、テンプルに呼び出されたのだ。